令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その2~
あなたが知らない視点や考え方がここにある。
新たな「気付き」があったら嬉しく思います。
(赤字は、筆者)
3 採点実感等
各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,以下のとおりである。
⑴ 全体について
本問は,前述2のとおり,論じるべき点が多岐にわたるため,厚く論じるべきものと簡潔に論じるべきものとを選別し,手際よく論じる必要があったが,論じる必要のない論点を論じる答案や必ずしも重要とは思われない論点を長々と論じる答案が相当数見られた。
→論じるべきポイントがズレてしまうのは、各論点の理解度の問題もあるが、それ以上に「感覚のズレ」が大きいと思う。暗黙知や常識と言ってもいいと思う。いわゆる論点主義的な答案は、圧倒的にこの部分への意識が希薄なように思う。形式をなぞるだけでなく、場面場面で「その結論をどう思うか」「その理由付けに対してどう感じるか」という点を意識して学習を進めるといいと思う。法が目指す「正義」は、言ってしまえば価値観である。あまりそのような観念的な話をされることはないかもしれないが、法の世界にあるそういったものを学んでいくことも、法律を理解するためには大事なことだと思う。
規範定立部分については,論証パターンの書き写しに終始しているのではないかと思われるものが多く,中には,①本問を論じる上で必要のない点についてまで論証パターンの一環として記述を行うものもあったほか,②論述として,表面的にはそれらしい言葉を用いているものの,論点の正確な理解ができていないのではないかと不安を覚える答案が目に付いた。また,③規範定立と当てはめを明確に区別することなく,問題文に現れた事実を抜き出しただけで,その事実が持つ法的意味を特段論じずに結論を記載する答案も少なからず見られた。これは,論点の正確な理解とも関係するところであり,一定の事実がいかなる法的意味を有するかを意識しつつ,結論に至るまでの法的思考過程を論理的に的確に示すことが求められる。(丸数字と下線は筆者)
→他の科目でも言及したが「論証パターン」は必ずしも悪ではない。問題は使い方と使い手の能力のである。①は、検討すべき対象を正確に認識できているとは言えないから、法的思考力が乏しい。②は、規範等の理解が乏しい。論証を正確に書き写しても、あてはめで理解の浅さはすぐばれる。③は、時間がなかったからかもしれないが、法的三段論法としてふさわしいものとは言えない。部分的に簡略化することはやむを得ないかもしれないが、答案の全体を通して「法的三段論法くらい当然できます」というアピールは必要である。そうすれば、問題ない。
⑵ 各設問について
ア 設問1について
本設問では,Bの交付行為によってAに対する債務が消滅することを構成要件上,どのように評価するべきかという問題意識の下,出題の趣旨に記載した見解の対立構造を示しつつ,恐喝罪の構成要件該当性について正確な法的理解を示すことが求められるが,違法性阻却の問題とした上で,専ら事実関係の評価を変えることで損害額を論じる答案が目立ち,上記の点を的確に検討できている答案は比較的少数であった。
→論点を知らなかったことが直ちに「不良」との評価を招くわけではない。問題は、犯罪の成否を検討するにあたり、構成要件該当性の検討も求められることをどの程度意識できていたかである。問題文を読んだ瞬間「違法性阻却の問題だ!」と決めつけてしまっていなかったか。犯罪成立を認定するためには、全ての要件該当性を漏れなく検討する必要がある。その基本を忘れてはいけない。
甲に成立する財産犯について,1項恐喝罪を認める答案が多かったが,客体が財物に該当するか否かを意識して論じるものは少数であったほか,恐喝罪の構成要件要素を正確に摘示しないなど,同罪の構成要件要素全般に関する理解が十分示されていない答案が散見された。
→ここも「犯罪成立要件を漏れなく検討せよ」と言われているだけである。法学の基本である。
また,甲に詐欺既遂罪の成立を認める答案も散見されたが,Bは債権額については誤信しておらず,また,甲を暴力団組員と誤信した点は,畏怖の念を生じさせる一材料にとどまっているため,詐欺未遂罪はともかく,詐欺既遂罪の成立は認め難いところ,これを認める答案については構成要件要素の検討が不十分であるとの印象を受けた。
→詐欺既遂罪を検討したこと自体は悪くない。確かに甲は、債権額を偽っているからである。しかし、既遂を認めるためには、全ての構成要件の充足を認定する必要があるところ、その検討過程で要件不充足に気付けなかったことが問題である。要件を一つ一つ精緻に解釈しているのは、間違った法的結論に至らないためである(=正義の実現)。とするならば、要件充足性を検討した結果、通常認め難い結論に至ってしまうのは、法の趣旨を没却する重大なヒューマンエラーが原因である。法律家の卵たる司法試験合格者にふさわしいか否かは、言うまでもない。
なお,少数ながら,甲に強盗罪の成立を認める答案もあったが,行為態様からすれば,反抗抑圧に足りる程度の脅迫は認め難く,同罪の成立は一層困難といえ,具体的な事実の構成要件への当てはめができていないとの印象を受けた。
→当てはめについては、相場観がある。上記でも言及したが、「感覚」のようなものである。行為態様に照らして強盗罪で定める重い刑を科することが妥当と言えるか(比例原則的思考)?、判例に照らして妥当か(法の公平性等)?など、様々な角度から「結論の妥当性」を間違わずに判断できるように分析できる必要がある。
(続きは明日)
※他にはない気付きがここに。