会社法改正! 条文を理解するためには、その背景を知る必要がある!~その3~
長かったので再度分割です。。。
・第八回法制審議会
○坂本関係官 それでは,8ページの「第2 株主提案権」について御説明いたします。 「1 提案することができる議案の数」につきましては,当部会において,株主が提案することができる議案の数を幾つまでとするかという論点と,役員等の選任又は解任に関する議案の数をどのように数えるかという論点は,相互に関連する問題であり,別々に議論すべきでないという御指摘があったことから,本中間試案のたたき台においては,両論点に関して考えられる組合せとして,A案からC案までの3案を掲げております。A案は,提案することができる議案の数を5とした上で,役員等の選任又は解任に関する議案については,議案の数の制限の例外とするというものです。B案は,提案することができる議案の数を10とした上で,役員等の選任又は解任に関する議案については,選任又は解任される役員等の人数にかかわらず,選任議案をまとめて1議案,解任議案をまとめて1議案として数えるというものです。C案は,提案することができる議案の数を10とした上で,役員等の選任又は解任に関する議案については,提案することができる議案の数の制限の例外とするというものです。
また,1の(注)では,定款変更議案の数え方について言及しております。当部会においては,株主が一つの議案として提出しようとする定款変更議案であっても,その内容において関連する事項ごとに区分して数えるという方向性については,おおむね御賛同いただいているものと理解しております。もっとも,これを明文の規定として定めるべきかどうかについては,その関連性の判断基準を具体的にどのように考えるかを整理した上で検討すべきであるという御指摘もあったことから,この点については,なお検討するものとしております。
「2内容による提案の制限」につきましては,当部会における議論等を踏まえ,会社が株主提案を拒絶することができる事由を列挙したものでございます。こちらは,第6回会議で御提案した内容から変更はございません。
続きまして,9ページの第2の補足説明「2株主提案権の行使要件及び行使期限」についてですが,当部会においては,株主提案権の行使要件について,300個以上の議決権という要件の廃止又は引上げを行うべきであるとの御意見があり,また,この点については,昭和56年当時と現在との投資単位の異同や実際の提案株主が有していた議決権の状況等を確認した上で検討すべきであるという御指摘を頂きました。
そこで,投資単位について比較をしてみたところ,昭和56年当時の東京証券取引所市場第一部に置ける投資単位は,当時の物価で約41万円であり,これは,現在の貨幣価値に引き直した場合,計算に用いる物価指数によって計算結果に一定の幅は生じるものの,約36万円から52万円となります。これに対して,平成28年の平均的な投資単位は約26万円であるとされております。したがって,現在の貨幣価値に引き直して考えた場合,投資単位は昭和56年当時と比べると減少はしているものの,それほど大幅な減少とまでは言えず,また,平成28年時点においても,300個要件によって株主提案権を行使するためには,約7800万円の投資が必要ということになるため,各個人株主にとってはなお高額であり,現在において株主提案権を行使することができる株主の範囲が広くなり過ぎているという評価をすることは難しいものと考えます。
また,平成24年7月から平成28年6月までに開催された株主総会における株主提案に係る提案株主の議決権割合について見てみると,1%未満,つまり,議決権300個以上の要件のみを満たす株主による株主提案の件数は,株主提案全体の約4割を占めているという調査結果がございます。このように,仮に議決権300個以上という要件の廃止又は引上げを行う場合には,最大で約4割以上の株主提案が認められないこととなる可能性がございます。したがって,300個以上の議決権という要件の廃止又は引上げを行うこととした場合には,個人株主による株主提案権の行使を過度に制限してしまうことになるおそれがあるものと考えております。
また,当部会においては,株主提案権の行使期限についても,8週間前という現行の行使期限を前倒しすべきであるとの御指摘がございました。もっとも,株主は,株主提案権の行使時に株主総会の日を正確に知らないのが通常ですので,現行の行使期限を更に前倒しした場合には,株主提案権を行使する株主にとっては,株主総会における会社提案の内容や行使期限の具体的な時点を予測すること,会社の状況を見極めた上で,その状況に応じて株主提案権を行使することが一層困難になるおそれがあるものと考えられます。
当部会においては,仮に提案することができる議案の数や内容による提案の制限について規律を設けるものとする場合には,それらに加えて,行使要件及び行使期限を見直すまでの必要はないという御指摘もされております。さらに,平成28年7月から平成29年6月までの間の株主総会で,株主提案が提出された上場会社は51社程度にとどまっており,依然としてその数は少ないことからしても,株主提案権の行使要件及び行使期限の見直しについては,慎重な検討が必要であると考えております。
御説明は以上となります。
○古本委員 ありがとうございます。
まず1点目の「提案することができる議案の数」については,以前から申し上げておりますように,提案個数の上限を考えるに当たっては,濫用か否かというところについてなかなか判断が難しいところもありますので,株主総会で株主提案にどれぐらい時間を要することになっているのかといったことも考慮して検討するべきだと考えます。その意味で,経団連としては,1個ないし3個を上限とすべきだということを申し上げてきたところであり,部会資料の選択肢において,5,10,10となっているところを,例えば,3,5,10というような3案としていただければと思います。
それから,役員選解任議案をゼロとするか,1とするかということは,株主提案の上限数をここで御提示されているような10とすると余り差が出ないので,上限の個数とこの役員の選解任議案をゼロとするか1とするかという選択肢を組み合わせるか,若しくは,上限を10個とする場合に役員の選解任議案を1とするかゼロとするかという選択肢ではなくて,例えば,上限を5個とする選択肢についても役員の選解任議案を1とするかゼロとするかという選択肢を入れることを検討していただければと思います。
次に,2番の「内容による提案の制限」については,これも前回の会合で議論になりましたが,部会資料では「専ら」何々の目的という文言となっております。しかし,目的という提案株主の主観的なものにつきまして,この①から③のそれぞれの要件に該当すると会社側が判断するのは難しいのではないかと思います。現実的には,本当は不当な目的の提案であっても,正当な目的であるかのような外形を装って提案がなされるというのが実態ですので,「専ら」という要件が入ると,当該株主提案が100%不適切な目的で提案されていると会社サイドで判断して拒絶するということは,現実的には難しくなってくると思います。したがいまして,中間試案には,「主として何々の目的で」とする文言も選択肢に加えた上で,国民の意見を聞いていただきたいと思います。
また,株主提案は,現実的には大半が定款変更議案の形でなされています。かつ,そのほとんどが業務執行に関する提案となっています。また,こうした議案は,ほぼ例外なく否決されておりまして,賛成比率はほとんどの場合で1桁%となっております。株主総会は,当たり前ですけれども,臨時株主総会を除くと年に1回しか開催されませんので,業務執行に関する決定を行うには適さない機関であるということは明らかです。仮に日常的な業務執行に関する事項が定款に定められるようなことになると,当然ながら機動的で柔軟な経営判断,企業経営に支障が出てくることにもなりかねません。したがいまして,専ら業務執行の範囲に属する事項については,定款に定めることを提案できないとすべきであり,少なくとも中間試案には,このことを記載した上で,広く意見を聞くことにしていただきたいと思います。
それから,資料の補足説明に記載されている株主提案権の行使要件については,これも何度も申し上げて恐縮ですけれども,資料の10ページの下の方に,要は,議決権300個の要件を引き上げる,又は廃止しますと,株主数の多い大規模な会社においては,個人株主による株主提案権の行使が過度に制限されてしまう,したがって,この要件を維持すべきであると,こういう趣旨のことが書かれております。しかしながら,1%又は300個という今の行使要件が,300個というものがあるために極端に緩和されているということであれば,300個の要件は見直してしかるべきではないかと思います。現状は,会社の規模に照らして,議決権保有比率が極端に小さい株主にも提案権の行使が認められており,このことが会社,ひいては株主全体の利益に合致しなくなっている実態もあるということを,是非御理解いただきたいと思います。
前々回の部会で,藤田委員から,300個要件と1%要件というのはどういう関係にあるのか,どのぐらい乖離しているのかという御発言がありましたので,これに関連して,今日,机上配布の形で資料をお配りさせていただいています。
資料1と書いてあるA4横の表になっている資料は,1枚目の1ページ目,2ページ目に経団連の主要企業のうち,近年株主提案がなされた会社について,ヒアリングをした結果をまとめたものです。2枚目は,資料版の商事法務からピックアップして作ったものです。これを御覧いただくと,一番左から3番目に提案株主の議決権比率が書いてあり,その隣に提案個数等が書いてあります。その隣は提案内容を記載しております。御覧いただくと,ほとんどの提案株主の議決権保有比率は1%どころか0.0何%といったレベルがほとんどであり,100分の1%にも満たないケースもかなりあります。それから,もう一つの棒グラフの資料は,2017年6月総会において,株主提案を受け
た企業にとって,議決権の1%が株式何個に相当しているかというものを示したものであり,1%と300個との間には,著しい乖離が見られるということは明らかだと思います。
それから,近年,実際に可決された株主提案について見てみますと,大株主が提案したケースがほとんどといいますか全てのようです。昨年の実績を見ますと,可決されたのは,大株主からの提案2件のみと認識しております。それ以外の株主提案についての賛成率は,先ほどの表にも書いておりますが,一部の例外を除きますと,みんな1桁%,多くても10%台となっています。また,先ほどの資料1の一番右端に,株主総会全体に占める株主提案に係る時間の割合というので,実績がざっと書いていますけれども,中には50%,半分ぐらいの時間が株主提案に費やされたと,割かざるを得なかったという会社も見受けられました。このように,およそ実現困難な提案のために,会社のマンパワーと時間的リソースが割かれているということは,提案を受けた会社にとって多大な負担となっておりまして,他の株主との対話の機会を損なうことにもなりかねない状況にあります。
したがいまして,300個以上の議決権という要件をやはり廃止するか,又は引き上げることを更に検討いただきたいと思っておりまして,少なくとも中間試案におきましては,これを一つの選択肢として提示して,広く意見を聞くべきであろうと思います。
それから,最後に,提案権の行使期限についてですけれども,これも,先ほどの補足説明の10ページ目の下の二つのパラグラフにありますけれども,行使期限を早めると,総会の日を正確に知ることができないために,株主は提案権を行使することが一層困難になると指摘されております。しかし,2週間ほど前倒しにしたとしても現行制度の下における状況と大きく変わるものではないのではないかと思っております。仮にこれが非常に大きな懸念となって前倒しができないということであれば,行使期限を例えば「基準日から2週間後まで」といったような決め方とすることも考えられるのではないかと思います。
この提案権の行使期限は,先ほどの議論にもありましたが,総会資料の早期提供を可能にするために,これがネックになってくるということもありますので,少なくとも中間試案におきましては,一つの選択肢として提示されるべきであると思います。
○小林委員 ありがとうございます。
今,古本委員からの御発言と内容がほぼ重なりますが,まず,株主提案権の提案することができる議案の数は,実際の株主提案制度の場合,実質的な検討をするためのリソース,あるいは株主そのものとコミュニケーションということを考えますと,今提示されている内容では多いと感じております。元々3個から5個ぐらいが限界ではないかという意見もさせていただきましたので,私どもとしては,A案の数え方で3個という選択肢をもう一つ増やしていただきたいというのが,一つのお願いでございます。
それから,内容の提案の制限につきましては,「専ら」,「著しく」というような文言が入っておりますが,権利内容として捉える射程がかなり狭くなっており,現実にこれを会社側で立証せよと言われても,非常に厳しく,極めて制限的だということがございますので,本来であれば,「専ら」とか「著しく」という言葉は削除した選択肢を示していただきたいと考えています。ただ,そこまではということであれば,「専ら」については「主として」,「著しく」については「特に」というように置換した選択肢を示していただけるといいのではないかと考えております。
もう一つ,株主提案権の行使要件,行使期限についてですけれども,株主総会の適正な運営について,実証的なところは今御説明もありましたが,提案の制度とか,実際の議事との関係,あるいは実際の可決可能性ということを十分に考えていただきたいということもございますので,300個要件については廃止,又は引上げということを,中間試案の選択肢として考えていただきたいと思っております。
行使期限については,元々やはり現在の株主総会実務でも,提案が現実に出てきたときは,非常にタイトな日程でございますので,今の制度の中であっても,行使期限の前倒しをしていただきたいと思っておりますが,今回言われている電子提供措置の開始日とか,招集通知の送付期限が現行の,例えば総会2週間前より早くすることについて,そのような提案をする場合には,株主提案の行使期限も前倒しすることも,併せて検討するぐらいのことは,少なくとも中間試案では示していただきたいと考えております。
○田中幹事 これまでの御意見と共通するところが多いのですけれども,まず,提案個数に関しましては,議案の数と役員の選解任議案の取扱いは論理的に分けて考えるべきだというのは,前回申し上げたとおりなのですが,そのように考えるのであれば,10個のところで,役員選解任議案は除くのと,1個の議案として数えるという選択肢があるのであれば,A案に関しても,その二つの選択肢を示すという方が,論理的にも筋が通っているのではないかと思います。A案についてだけ,除くという選択肢しかないと,何かやはりその個数とこの問題がリンクしているかのように思われてしまうように思います。そしてまた,実際的に考えても,役員選任議案を1個と数えた上で,5個ということが過度に制限的であると,私は思っておりません。そういう選択肢は十分考えられると思いますし,十分パブリックコメントに付す価値があるのではないかと思います。
この問題に関しては,やはり一提案株主の提案によって,総会の検討時間が割かれるという観点から,それほどのコストをかけて決定を要求できる権利と考えるわけですので,ある程度そこは制限的にしてもいいのではないかと。そしてまた,制限した結果として,例えば,会社支配権が交代するような事態で,提案権が制限されているために交代が起こらないということがどの程度あるかと考えると,それほどないのではないか。少なくとも5個あれば,基本的には十分であるような気がしますし,また,どうしても制限される場合は,臨時総会を招集するという権利,一定の大株主に対しては常に開かれていることから考えても,もう少し積極的に制限を考えてもいいのではないかと,私は考えております。
それから,株主提案権の行使要件及び行使期限のことなのですけれども,私も,部会の検討を踏まえて,やはりパブリックコメントに付す,少なくとも期限とか行使要件についてどう考えるかという形での提案はあっていいのではないかと,部会でもそういった議論は有力になされていたわけですし,それから,私個人としても,少なくとも行使期限に関しては,招集通知の早期発送などのボトルネックになっているという点もありますので,ちょっと濫用の防止とは別に,少しこの期限をもう少し長くするということにメリットがあると考えています。株主が期限が分からなくなるという点については,先ほど古本委員からも御提案がありましたけれども,決算期,あるいは決算期の何日か後と,総会日の10週,あるいは12週前のいずれか遅いときを期限とするとか,そういう形で考えると。現在の実務を前提にすれば,決算日と総会日の12週前ぐらいが,どちらが遅いか微妙なぐらいの期限だと思うのですけれども,それを一つの方向感にするとか,これは一案にすぎないですけれども,ちょっとその点に関しても考えていただいてはどうかと。
それから,行使要件,個数に関しても,現在の株主の提案権を一種の既得権のように考えれば,今ある提案の4割ぐらいが提案できなくなるのは問題だということになるかもしれませんけれども,総会の審議の充実ということを考えたときに,確かに両刃の剣的な部分はあるかもしれませんけれども,審議事項をある程度絞った上で,充実した検討ができるようにするという観点から,現在の,今ある株主の権利を既得とするのではなく,もう少し白紙の状態で考えるということもあり得るかと思いますので,この点に関しても,パブリックコメントに付すという方向で,是非検討していただければと思います。
○梅野幹事 発言の機会を頂戴して,ありがとうございます。
今,田中先生初め,いろいろ御発言いただいたこと,十分に理解しつつ,この場において様々な意見を出すこと自体も意義があると思いますので,一言申し上げさせていただきますが,私の方で,第2回部会において,株主提案権の提案することができる議案の数については,株主提案権の行使という重要な権利について数を制限しなければいけないかどうか,慎重に検討すべきであるということを申し上げました。その点については,引き続き同じような問題意識を持っておりまして,当部会においては,必ずしもそういった意見は非常に少数だったというように理解はしておりますけれども,このような問題,制限すべきかどうかについては,パブリックコメントで広く一般の意見を募ることにも意義があるのかなというように考えております。
そういった意味で,このD案として現行法の規律を見直さないものとするといったような選択肢を掲げていただくことができないのかということについて,お願いしたいということを考えています。御検討いただければ幸いです。
○藤田委員 飽くまで,どの案を支持するかという観点ではなく,パブリックコメントの付し方という観点から少しお話しさせていただきます。実は,この資料を受け取って,今日来るまでは提示された案でいいと思っていたのですけれども,改めて本日配布された古本委員の資料を拝読しますと,この補足説明でパブリックコメントに付していいのだろうかという疑問が少し出てきました。補足説明の書き方だと,例えば,300株の持株要件の要件を廃止したり,引き上げたりすると,非常に多くの株主の権利を制約すると聞こえてしまうのですけれども,そういう要件に基づいてどのような提案がなされているかという資料を拝見すると,ちょっと考えた方がいいような気もしてきます。また,300個と1%の乖離が,一番少ないところで3分の1ぐらいで,両者が逆転することはまずないとすると,こういう要件の立て方に合理性があるかという疑問があると言えばある,これらのデータも踏まえますと,今の補足説明の書き方は,ちょっと幾ら何でも一方的な気がします。古本委員提出のデータも,どういうふうなサンプルをとられているかがよく分からないものですから,精査する必要があるかもしれませんが,ちょっと書き方を,やや中立的にした上で,パブコメに付していただければと思います。
提案としてあえて入れる必要までとは思いませんが,行使期限と提案の要件についても,見直すべき必要があるかどうかについて検討する余地があるといった補注などでも付けるということぐらいはした方がいいかなと,改めて今日の資料を拝読してから思いました。
○竹林幹事 梅野幹事に御質問なのですが,先ほど現状を見直さないという御意見を,数という点に着目して頂いていたと思うのですけれども,現状を見直さないという御意見の背景にあるものは,行使要件ですとか行使期限の見直しということについても,基本的には見直すべきではないという御主張と理解してよろしいのでしょうか。
○梅野幹事 私が先ほど申し上げたのは,飽くまでも議決権の数に関するものにとどまります。
○松井(智)幹事 頂いた資料を拝見いたしますと,議決権,議決,決議の趨勢に影響を及ぼすような提案がなされているとは,確かに言い難いと思いまして,そうすると,300個要件は分が悪いなという感じはいたしますけれども,他方において,ちょっとこの資料を見ますと,提案の個数が多ければ,株主提案に係る時間の割合が増えているかでありますとか,提案株主の人数が多ければ提案個数が増えているかとか,そういうことを見ますと,必ずしもそういうわけではどうもないようで,実態としては,議事進行権の裁量をうまく使われて,それほど問題がない範囲に収まっているものというのも,かなりあるかのように見受けられます。
あと,例えば,C社のように,確かに経営マターについて提案するのはいかがなものかという部分はありますけれども,一つの案件について否決をされまして,その次の年にまた同じ案件を更に多くの株主が出してきているというようなことがある場合に,その審議にかける時間をより多く割くといったような,コミュニケーションの場として実際経営陣も使っているのではないかというふうな印象も抱きまして,時間と資源を使って決定を要求できる権利と考えますと,数という点では,確かに300個というのは少ないと思いますけれども,株主の属性というか,どういう人がどういう連携を取ってこういった提案をしてくるのかといったことを考えて,コミュニケーションを活性化するという点で使っているという実態がもしあるのであれば,そこまでもう絶対排斥と言わなくてもいいのかなと,ちょっと別の視点から意見を述べてみました。
○沖委員 ありがとうございます。
梅野幹事の御指摘と全く問題意識は同じでありますけれども,重要な問題についてはなるべく選択肢を示して,パブリックコメントに付すことが望ましいと思います。それにつきましては,2の「内容による提案の制限」の2「株主提案権の行使要件及び行使期限」,この二つの論点につきましては,やはり濫用的な株主提案の論点と関連はしておりますけれども,この二つの問題はそれとは分けて,そもそも株主提案権に会社がどのようにすれば適切に対応できるかという基本的な重要な問題ですので,これについては見直しをするかしないかは選択肢を明記して,パブリックコメントをすることが適切ではないかと思います。
ここに二つ問題がありまして,行使要件の方ですと,部会で藤田委員から,この300個という要件を持った株主が,濫用的なものをどれだけ提案しているかということを精査する必要があるという御指摘がありまして,今日も古本委員の方から,それに関する資料の提示がございました。こういった点は,やはり今後も検討すべきだろうと思います。また,電子提供制度の採用に伴いまして,招集通知の発送期限が前倒しになるということですと,やはりその意味からも,会社が株主提案権について判断をする,その時間的制約はタイトになってきますので,やはり見直しの検討の必要性はあるかと思います。
こういった点も踏まえまして,パブリックコメントの中間試案では,選択肢を示していただくことを検討していただきたいと思います。
○齊藤幹事 ありがとうございます。
古本委員から御提案がございました業務執行に関わる定款変更議案を排除するという御提案ですが,確かに,取締役会設置会社の株主総会権限あるいは定款自治の限界は真剣に議論しなければならないテーマですが,改正提案に挙げるということは,それは,一応実現可能で,実際に賛成が多かったらそのとおりに改正されていくことが前提であると思います。先ほどの点につきましては,現在の会社法の体系に大きく関わることでありますが,学界でも意見が分かれるところだと思いますし,この場でもその点に関する議論は十分なされていなかったように思いますので,中間試案に上げるほど議論は熟していないのではないかと思いました。
○三瓶委員 すみません,簡単に。
いろいろ皆さんの御意見を伺っているうちに,私の考えが余りまとまらない部分もあったのでちゅうちょしたのですが,この選択肢A,B,Cの中で,5,10,10というところは,先ほどからいろいろな意見がありますが,やはり明確にどういうふうに考えるのかという選択肢を示すという意味では,3,5,10のようなはっきりと差があるというか,そういったものを示すのが,一ついいのかなと思いました。
あと,議論が出てきた可決可能性のところなのですけれども,二つちょっと見方がありまして,今のところ出てきている株主提案のほとんどが,内容に問題があるというようなことが多いです。ですから,最終的に可決されていない,かなり賛成比率が低いという状況ですが,あまり可決可能性のところを今の段階で見てしまうと,例えば,今の株主保有構造を考えたときに,持ち合い比率がそれなりにまだあるということからすると,非常にいい内容のものが出てきたとしても,可決されにくいということが現実に起こってくる可能性があります。なので,可決可能性が一つの判断基準になるというのは,ちょっと注意しなければいけないなと思います。
300個と1%というところの話ですけれども,なかなかここは難しくて,300個ということを,例えば撤廃してしまうということになると,非常に,1%のハードルが高い会社にとってみれば,なかなか株主提案ができないことになるので,これは,今のところは明確に300個というのを見直すというのが合理的かどうかは分からないというか,慎重な方がいいだろうと思います。
ただ,先ほど3,5,10という話をしたとおり,一つ一つの提案の内容がもう少ししっかりしたものになって,十分な検討に値するようなものに誘導していくためには,上限は絞るけれども,本当に通したければ,内容をよくよく考えて提出するようにというような意味合いからも,むしろ上限を,提案できる議案の数として絞ることというのは,十分に選択肢としてあるのではないかと思います。
○竹林幹事 今,300個要件の見直しと行使期限の前倒しについて,いろいろ御意見を頂いたところでございます。 そして,今回提案することができる議案の数を制限するかどうかにつきましては,いろいろ御意見いただいているところ,こちらは確かに濫用的なものについては制限していくべきだろうという御意見を広く頂いている,多く賛同いただいているところかと存じます。また,内容の制限につきましても,要件自体についてはいろいろ御意見がまだ残っているかと思いますが,制限していくというような御意見が多いのかなと伺っているところでございます。もちろん行使要件の引上げですとか行使期限の見直しの趣旨が違うというのは十分承知はしているのですけれども,数の制限と内容の制限に加えて,更に株主権が行使しにくくなるというのは,国民の皆様に理解を得るという点でかなり難しい面が残るのではないかと考えておりまして,まさしく中長期的にといいますか,300個要件それ自体がいいのか,あるいは8週間という期限そのものがいいのかということについては,問題意識は持ってはいるのですけれども,今回併せてやるということについては,全体として,難しい点があろうかと考えております。
本日頂いた御意見も踏まえまして,どのように記載するのが適当かということについては,引き続き検討させていただきたいとは思いますけれども,特にこれらの要件につきましては,私どもとしては慎重に考えた方がよいと考えていることを御理解いただければと思っております。
・法制審議会第14回
株主提案権につきましては,定款変更議案の数の数え方について,改めて御議論いただきたいと考えております。
先日の部会においては,定款変更議案の数の数え方についての具体的な判断基準として,例えば,いずれか一方の提案が他方の提案を論理的に前提とする関係にあり,分けて審議すべきでないと考えられる場合にのみ,関連性が認められるものとして,一つの議案として数えるものとする考え方や,そのような場合のみならず,株主が通知した提案の理由の内容も踏まえ,いずれか一方の提案が他方の提案と密接に関連すると合理的に認められる場合についても,関連性があるものとして,一の議案として数えるものとする考え方等について,どのように考えるかを御議論いただきました。
一つ目の考え方については,二つ目の考え方に比べて,解釈の余地が小さいため,明確性という観点から,一定の評価を示す意見もありましたが,一方の提案が他方の提案を論理的な前提としている場合のみならず,一方の提案が可決され,かつ,他方の提案が否決された場合において,整合性を欠くこととなるようなときについても,両提案の間に関連性を認めるべきであるという御指摘も頂きました。 他方で,二つ目の考え方につきましては,判断基準として不明確であり,会社が関連性の有無を判断することが難しいことなどを指摘する御意見もございましたが,一つ目のような考え方では関連性が認められる範囲が狭過ぎるとすると,二つ目の考え方のように考えるほかないのではないかというような御意見もあったところでございます。
そこで,以上のような具体的な判断基準についての御指摘等を踏まえ,考えられる定款変更議案の数の数え方について,A案及びB案として,二つの考え方を掲げております。A案は,複数の事項をその内容とする定款変更議案については,当該複数の事項ごとに別個に可決又は否決されたとすれば,整合性を欠くこととなるおそれがあるときは,まとめて一の議案として,その数を数えるものとするという数え方でございます。いずれか一方の提案が可決され,かつ,他方の提案が否決された場合において,整合性を欠くこととなるおそれがあるときは,両提案の間に関連性を認め,両提案をまとめて一の議案として数えることを想定しております。 なお,A案の数え方には,更に提案の内容のみに着目して,整合性を欠くこととなるおそれがあるかどうかを判断するものとする考え方であるA-1案と,提案の内容のみならず,提案の理由の内容も踏まえて,整合性を欠くこととなるおそれがあるかどうかを判断するものとする考え方であるA-2案とがあり得ると考えております。
B案は,定款変更議案については,その内容において密接に関連する事項ごとに区分して,その数を数えるものとするという数え方でございます。株主が通知した提案の理由の内容も踏まえ,いずれか一方の提案が他方の提案とその内容において密接に関連すると合理的に認められる場合には,両提案の間に関連性を認め,両提案をまとめて一の議案として数えることを想定しております。
これらの考え方について御議論いただくに当たっては,具体的な定款変更の事例を前提として,それぞれの数え方による場合に,各事例における帰結にどのような差異を生ずることになるのかという点を踏まえて御議論いただくことが有益であると考えられますので,部会資料8ページの補足説明2では,具体的な定款変更の事例を三つ掲げた上で,各事例について,これらの考え方によった場合のあり得る結論について記載しております。
こちらも御参考にしていただきつつ,どのような数え方が適切であるかについて御議論いただければと考えております。
○古本委員 ありがとうございます。
「定款変更議案の数の数え方」につきましては,これまでの部会のときにも申し上げておりますが,A案,B案ということでいいますと,B案では,文言の解釈余地が広くなり過ぎて,判断基準として適切に機能するかどうか疑問があると思います。
また,A案の中に,今回はA-1案,A-2案と2案を提示していただいておりますが,実際の株主提案におきましては,提案理由が相当に不明確であったりして,提案の趣旨を理解するのがなかなか難しいという場合も少なくないと会員企業から聞いております。そうなりますと,A-2案であっても,ここに書いてあるようなクリアカットな例では分かりやすいかもしれませんが,実際に株主からの提案があった場合には,必ずしもうまく機能しない懸念があります。
そういうことからいたしますと,やや消去法的な結論になりますが,私どもとしては,部会資料にある三つの案の中では,A-1案が一番クリアで,望ましいと考えます。
ただ,現実的には,仮に,A-1案を採用したとしましても,総会前の多忙な時期に,提案された株主と議案の数について議論になるのではないかという懸念も残ります。濫用的な株主提案権の行使を十分に抑止するという目的からは,こういった議案の数え方ももちろん大事だというのは認識しておりますけれども,むしろ,業務執行事項に関する定款変更は提案できないとすることの方がはるかに有効であると思います。
経団連といたしましては,業務執行事項に関する定款変更議案の制限,これに加えまして,株主提案権の行使要件である,300個以上の議決権の撤廃ないし引上げ,これを強く要望しているということを改めて申し上げたいと思います。
○小林委員 どうもありがとうございます。
株主提案権の数え方につきまして,商工会議所内部でも検討いたしました。実務的な立場からは,できるだけ裁量の余地が小さい,解釈の幅が小さい内容であることが望ましいと考えています。
結果的に,株主との間での争いが起こりにくい基準にしていただきたいと思います。A-2案については,濫用的な提案の懸念のほか,今回の法務省提案の事例のように,理路整然とした株主提案が行われるとは,なかなか言えません。理由は非常に曖昧となる場合がございますので,そのような理由で分けると争いの原因になりかねない懸念がございます。したがって,A-2案を除いて,B案とA-1案で比較すれば,裁量の余地が少ないA-1案の方が望ましいと考えます。
数え方の議論の前提として,数が幾つかという議論も当然あります。元々,事務当局からの10個という御提案に対しては,商工会議所としては3個,せいぜい多くても5個という意見を申し上げております。そもそも,株主提案の数が多過ぎれば,数え方の基準があっても,余りワークしないのではないかと考えております。数そのものについても制限的に考えていただきたいと改めて申し上げます。
○沖委員 ありがとうございます。
A案とB案ですが,これはそれぞれ理由はあると思います。ただ,解釈基準として考えた場合に,B案におきましては,やはり,密接に関連するという密接性の判断のところで,提案株主と会社の間で価値観の対立に発展するおそれがあると思います。また,裁判で適用する解釈基準ということから見ましても,密接関連性というところがどうしても,やはり基準として,ちょっと難しいのではないかと思いますので,ここはA案ということにならざるを得ないのではないかと考えております。
そこで,A-1案とA-2案,つまり提案の理由を踏まえるかどうかということですけれども,これは,複数の事項が整合性,複数の事項について,一方だけで可決又は否決された場合に,整合性を欠くかという要件を判断するに当たって,やはり理由を踏まえないと,判断できない場合があると思われますので,そういう場合には,提案の理由を踏まえる必要があるということでは,A-2案になるということではないかと思います。
ただ,その場合の整合性というのは,提案で,株主が主観的な位置付けをしたことによる整合性でなくて,飽くまで論理としての整合性で判断するという意味で,提案の理由を踏まえるということになると思います。
そこで,A案についてですが,整合性を欠くおそれがあるという場合の,このおそれが必要かどうかというところが非常に問題だと思います。実際の株主提案の行使事例を見ておりますと,業務執行に様々な規制をする株主提案が出されています。その中には,役員の報酬であるとか,人事であるとか,実に様々なものが含まれております。そこでもし,整合性を欠くおそれがあるという,この基準を採用しますと,一旦業務執行への提案について,何か一つのものを提案すれば,その整合性からいって,ほかのものも提案しないといけないということになることが十分考えられます。そこで,おそれという基準を適用しますと,1個の議案として見る範囲が広範になり過ぎるおそれがあるのだと思います。もう一つ,A案とB案の違いが,広い狭い,あるいは解釈の明確性以外に,もう一つ違いがありますのは,A案では整合性を要求するわけですけれども,整合性がある場合は,実は提案としては,複数ではなくて,1個として出さないといけない。議案としては,一方だけでは整合性がないということであれば,必ず両方出さなければならないというふうにも考えられるわけでありますけれども,そうすると,整合性を欠くおそれがあるという要件を適用しますと,提案する株主の側としても,整合性を欠くおそれがあるものは必ず提案として出さないといけないし,1個として出さないといけないということにもなってくるかと思います。
そうしますと,やはりおそれという要件は,過度に広過ぎるおそれがあるということになるかと思いますので,このおそれの部分は削除する方が適切ではないかと考えております。
○竹林幹事 沖委員から御指摘いただきました「おそれ」という文言について,何と申し上げたらいいか,なかなか難しいのですが,ここでは程度を問題としているわけではございませんで,可能性といたしまして,可決,否決のパターンが,可決・可決,否決・否決,可決・否決,否決・可決になるときに,どれか一つのパターンで整合性を欠くことになる,ほかのパターンだと整合性を欠かない,可決・可決,否決・否決だと欠かないのですけれども,そういう可能性がありますので,そういう組合せの中で,欠くこととなるおそれがあるという使い方をしておりまして,程度を問題としている趣旨ではございません。
○北村委員 ありがとうございます。
提案の数の制限との関連で,複数の提案を一くくりにするという問題が出てきたのは,1人で多くの提案をするということが提案権の濫用である,あるいは,濫用といわなくても,不適切であるということが元々の発想だったと理解しております。そういう提案をする人たちが,仮に,B案が採用されたときに,どういう行動を採るかといいますと,恐らく,できるだけ複数の提案に関連性を持たせた提案理由を会社に通知してくるということになりそうです。
提案理由を株主総会参考書類に記載するのは,株主提案に説得力を持たせるためなのですけれども,提案議案数制限がある中で実質的に多くの提案をすることができるように提案理由を工夫するということが起こりますと,規制の本来の趣旨とは違う使われ方がされることになります。
部会資料23の8ページにあります③の例で,これはB案によりますと,一つの議案と数えるということです。こういうことであれば,③以外にも幾らでもこのような例ができそうで,法学部の学生に,どういう提案であれば一つにくくれるかを考えさせても面白いかなと思いましたけれども,やはりB案では広過ぎるという問題がありますし,当然,会社としては,複数の議案に関連があるかどうか,実質的に判断できないという問題が出てまいります。
そうすると,A案が適切だと思いますけれども,先ほど沖委員が指摘されたことと,私も認識は共通するわけでございますけれども,A-1案でありますと,例えば,8ページの②のような,提案理由を考慮すれば,明らかに2つの提案を両立させなければいけないような事案に対応しにくいということになります。一方で,先ほどから御指摘がありますように,提案理由まで考慮して複数の提案の整合性を判断することにしますと,B案を採用するのと同じような問題が出てくると思います。
したがって,私は,最終的にA-2案に賛成ではございますけれども,A-2案にある「提案の理由の内容も踏まえて」というところは,提案理由から見れば,客観的に明確に,整合性を欠く場合に限るべきだと思います。主観ではなくて,客観的に明確に,提案理由から見れば,二つを両立させないといけないという場合を一つと考える,こういう謙抑的なA-2案というのが私の考えでございます。
○田中幹事 今回の御提案で,それぞれの案がどのような関係にあるかが具体例によって明らかになったことで,大変有り難く思っております。その点に関し,その上で申し上げれば,今回の株主提案権の制限が,余りに多くの株主提案,あるいは名誉を毀損するような形の提案がなされることで,真剣な議案の検討も妨げられると。そういう事例が散発的ながら起きているという中で,株主総会の意思決定を適切に行えるようにするために,提案権を制限するということであって,株主提案権自体を,少なくとも真剣な株主提案権自体を制限するものではないというふうに考えてきました。
そういう点からすると,複数の定款条項であっても,変更提案であっても,それが密接に関係していて,ある目的を達成するために複数の定款条項の変更が必要になるという場合には,当然一緒に提案するということになるのではないかと。このような観点からしますと,B案でいいのではないかと考えております。
B案にしますと,今まで50個ぐらい定款変更議案を出してきたものを,全部1個にまとめるという形で提案してくるだろうということは,もちろんあるわけですけれども,やってくるということと,最終的にそれが受け入れられるかどうかは別でありまして,密接に関連しているがために,一緒に提案することが合理的であるという制約によって,おのずから制限が課されるであろうと考えております。
それから,B案ですと,どうしても不明確なケースが出てくるのではないかということも,そのとおりかと思いますが,しかし,今回の提案自体が,濫用的な株主権行使を制限するということであって,株主提案自体を使いにくくすることではないと理解しておりますので,不明確な部分がある場合は,裁判で争われるか,あるいは会社としては,法的な確実性の観点から,不明確な場合はそのまま提案を認めるという対応にならざるを得ないことも,またやむを得ないのではないかと考えております。
最近の株主提案の事例を見ますと,濫用的な提案があるということもさりながら,近年,株主提案について,かなりの賛成が集まるという事例が出てきていると,そういう現象があります。そして,そのような提案の相当数は,例えば,役員の個別報酬開示のような定款変更議案であります。このような状況にあって,会社法が株主提案権を制限するような改正を提案するということが,株主,株式市場に対して,どのように受け止められるかということも考える必要があると思っております。このタイミングは,もしかすると,最悪のタイミングになるおそれもあると考えております。
ここで,今回の改正は,一度に50個も100個も提案して,ほかの株主にとって迷惑を掛けるような提案を制約するのであって,機関投資家その他の株主の相当数の賛成がなされて,会社の経営に影響を与え得ると,そういうような株主提案を制限する意図は全くないのであるということを明確にする必要があると考えております。このようなことも含めて,私としてはB案に賛成したいと思います。
○三瓶委員 ありがとうございます。
結論から申し上げると,私は,A案かなというふうに思っています。
まず,多くの方もおっしゃっていましたけれども,B案については,「密接に関連」というところについて,本当に決議における必要かつ十分な条件ということを備えているかどうか。これを判断するのが難しいであろうということから,まず落としています。A-1案とA-2案なんですけれども,例えば,株主として提案権を行使するときに,しかも,今議論されている上限を設けたときに,どういうことをしたいのかというと,手元にある提案のうち,できるだけ多くの提案を上げたいというふうに思うわけですね。同時に,せっかく提案するからには,その決議は可決するように持って行きたいというふうに考えるのが通常だと思います。そこで,両方を達成しようとしたときに,提案の数が多ければ,一つの議案に複数盛り込むようなことが起こり得るということだと思います。
ここで,複数の提案内容がイコール的な理由でつながっているということが,A-2案であると思います。けれども,それは提案する側からすると,理由がつながっているのかもしれないんですけれども,提案株主ではない株主が議決権行使をする場面で考えたときには,必ずしも提案の理由の内容が整合的になっていないかもしれない。
例えば,今回,事例で①から③を挙げていただきましたけれども,その中の②というのが,A-1案とA-2案の判断が異なるケースだと思いますけれども,ここで,内容だけでいうと,事業目的に貸金業と不動産管理業を追加するというのが一つ,内容ですね。ただ,そこに理由として,D社というのが出てきます。このD社というのが,正にそういうことをなりわいとしているんでしょうけれども,提案する側からすると,この二つの業を加えることとD社というのが密接に関わっているんだけれども,議決権行使する側からすると,この貸金業と不動産管理業を追加するときに,D社にさせなくてもいい,又は,D社に何らかの固有の問題がある場合には,ここについては違うんだということで,ここは切り離して考えた方がいいかもしれません。なので,この株主提案議案について議決権行使をする側にとっては,それは必ずしも必要かつ十分ということにならない可能性があるということです。
それからすると,A-1案では,議案を二つ提出しなければいけないわけですけれども,そのときに,その二つの議案について,どれだけ関連性があって,両方とも可決してもらいたいかというのは,議案説明で明確に記載してもらうということが,多くの株主に諮って検討してもらうときの最も公平な手段ではないかと思います。
このような例が2018年にも1件ありました。それは会社提案の定款変更でしたけれども,全く異なることが二つ,同じ定款変更議案に入っていました。一方は賛成したくて,一方は反対であるときに,反対の部分の理由が非常に強かったので,我々は反対しました。
しかし,これは正直言って,ある種のコンプロマイズをしたわけで,本当はそれぞれについて,賛否を明確に表明したいわけです。ですから,そういったことが起こり得るような議案の提出で,多くの株主に議決権行使の際に妥協させるというような要素を多く含むものは好ましくないというふうに考えます。
それと,ちょっとこれは脱線かもしれませんが,そもそもそういう意味では,今ここで議論しているのは,相互に関連するものは一つにまとめるか,まとめないかというような感じで議論されていますけれども,むしろ提案する側の方に,よくよく考えてもらうという意味では,独立して矛盾なく成立し得る事項というのは一つにまとめるべきではないという,そういった,議決権行使をする側からして,それぞれについて明確な賛否を表明しやすいようにという一つの目的というか,意義をどこかで伝えられるといいなと思っています。
○野村委員 まず,結論的に申し上げますと,B案のくくり方も,田中幹事がおっしゃられたような形で,一定の合理性はあるとは思うんですけれども,やはりちょっと漠然とし過ぎている感もあるように思いますので,A案をベースにしながら,前回の会議,前々回だったでしょうか,藤田委員の方から示された提案の可能性というものを考えますと,やはり何らかの形で,A-2案のような形のくくり方が合理的なのではないかなというふうに感じている次第であります。
ただ,そのようになりますと,提案理由というのは確かに,先ほど来から出ていますように,漠然としていて,不明確であり,どういうことなのかよく分からないという場合がありますので,この場合については,そのリスクを提案者の方の側に負っていただかなければいけないと思います。そこで,A-2案のくくり方を採用する場合には,明確な理由が示されていない場合には,複数の議案として扱われるような形にすることが必要なのではないかなとは思っております。
ただ,それとの関係で,少し疑問に思うというか,ちょっと,私自身だけが分からないのかもしれないんですけれども,恐らく,このくくり方の問題というので,会社側の方が提案のくくり方が,最初,株主の側から示されたものが大き過ぎて,数の中に収まらないのではないかと思って,対応するときには一応,株主,提案者との間にコミュニケーションを取るんだとは思います。その結果,会社がやはり多いというふうに考えて,そのくくりを小さくし,上限を超えていますという扱いをするという選択肢をした場合は,当該提案者と会社との間のトラブルというものが生じてはいますけれども,提案が扱われませんでしたので,株主総会での決議はなされませんので,株主総会の決議の効力には跳ねてこないという可能性があるのではないかなとは思います。
それに対して,会社側の方が,その交渉の過程の中で,このくくりでしようがないという形で,ある程度理解を示した上で,提案を採用し,株主提案を数の中に収まっているという形で示し,それが株主総会で審議された結果,極めて例外かもしれませんけれども,可決されたということになった場合には,他の株主の方の側から,それを不満とする株主が,数え方がおかしいのではないかということで,上限を超えているということから,株主総会の決議を争ってくる可能性があるのではないかと思います。
この点で,会社側が同意をした上で,株主提案として招集通知に記載しているという行為がどう評価されるのかが,ちょっとよく分からないということと,それから,そのような形の紛争を惹起することが合理的なのかどうかということもちょっと,やや分かりにくいところがあるものですから,その辺りのところを御教示いただければ有り難いなと思います。
○竹林幹事 野村委員から御指摘いただいた点ですけれども,私どもは,数を超えた場合に無効にするのは難しくて,拒否事由にしていますと申し上げていますが,今御指摘いただいたような点も考慮しまして,超えていても,それは拒否することができるものを拒否しなかったという扱いにするので,総会の決議の無効等にはならないというような考え方を採っております。
ただ,拒否することはできるけれども,この人についてはたくさん採り,この人についてはぎりぎりしか採らないというような場合には,株主間の平等をどう考えるかという別の問題はあり得ると考えております。
○前田委員 どうもありがとうございます。
既に議論がありますように,A案の基準が,確かに明確性の点では優れているとは思うのですけれども,A案の基準には当たらないけれども,提案内容を合理的に解釈すれば,まとめて一つと見るべき場合が,やはり残るのだと思います。
具体的には,事例③のようなケースで,先ほど北村委員の御指摘されたような,単なる作文としてではなくて,真剣に株主が,この提案理由を示して,こういう提案をしてきたときに,これを議案2個と数えてしまうのは,個数上限を最終的に幾つに設定するのかにも関わるとは思いますけれども,提案権行使を抑え過ぎることにならないかという懸念があります。
他方,B案は,基準として不明確だという御指摘はそのとおりであり,明文規定を置く意味も乏しくなってしまうと思います。そこで例えば,折衷案として,もし明文規定を置くのであれば,B案をベースに,A案の場合をその例示として定めておくということも考えられるのではないかと思います。
一方だけ可決されると整合性を欠くこととなる場合,その他の密接に関連する場合というような,文言はまた詰めて考える必要がありますけれども,A案よりは柔軟に,一つと解釈することができる場合を認める余地は残すような基準にしておいた方がいいのではないかというように思います。
○梅野幹事 ありがとうございます。
この点,以前御発言があったかと思いますが,この提案権に関する議案の数のくくり方の論点というのは,実際上は,提案権の個数をどう考えるかという点と,やはり密接に関連していると考えています。
日弁連としては,役員選任議案を除いて,10を超えることはできないという中間試案のB-2案に賛成しております。そういった観点からすると,また,濫用的行使を制限するという今回の目的に鑑みると,A-1案というのは少し狭過ぎるかと思う一方,B案かA-2案かというのは,なかなか悩ましい選択だといった議論をしてまいりました。確かにB案というのは,判断基準として曖昧ではございますけれども,密接関連性といった要件を使われている場面というのは他でもあると思いますし,裁判例の集積等を待つという考え方もあり得ると思います。
逆に,A-2案であっても,整合性という規範的概念が入りますので,提案理由をどのような形で提示するかによって,やはり幅があり得るものだろうと思います。そういった意味では,B案と比較すれば,より明確性があるように見えるものの,実際には,なかなか難しい問題が,生じるのではないかと考えております。
結局のところ,提案権の個数をどうするかということも念頭に入れた上,決めていくというアプローチを採らざるを得ないのかと考えている次第でございます。
○中東幹事 私は三瓶委員がおっしゃったことに賛成でして,その点から若干補足させていただければと思います。
最終的には,梅野幹事がおっしゃいましたように,数の問題といってしまえば数の問題なので,そう強い意見ではございませんが,やはり議決権を行使する株主として意思決定をするのが株主総会ですので,そこではどう扱われるかという観点から考えるべきかと思います。
その点で,②の事例は,よく考えていただいたとは思うのですが,吸収合併そのものは,株主提案という形ではなされませんので,会社提案として扱い方を考えますと,全部で1つのもの,つまり吸収合併と,(a)の貸金業追加と(b)の不動産管理業の追加,これらは1つのものということが,はっきり分かると思います。もしも吸収合併が将来あることを予定して,株主がこういう事業目的を追加しておきたいということになると,合併そのものにイニシアチブを持てない株主が,目的の二つの追加を提案するという話になります。そうなりますと,議決権を行使する株主としては,合併があるかどうか分からないけれども,その合併に備えて目的を二つ追加しようという話になりますので,提案者の気持ちと議決権を行使する人の気持ちがずれてしまう可能性があると思います。
そういう意味で,三瓶委員がおっしゃったように,提案者が幾ら理由を言っても,複数の受け取り方があって,その提案者と総会で議決権行使する株主との間で違うということになると,やはりA-1案の方が明確であろうと考えています。
○藤田委員 ありがとうございます。
今回の提案のA案というのは,前回私が申し上げたことをかなり大幅に取り入れていただいておりますので,基本的にA案に賛成という立場での発言になります。まずB案は,さすがに余りにも曖昧で,基準にならないというのが最大の問題点だと思います。コーポレート・ガバナンスの強化に関する提案だと称して,いろいろな定款変更議案を出してきたときに,常にこれを一つとしてカウントしなければいけないかと言われると,ちょっと行き過ぎで,趣旨の違う提案を濫用的に一つの定款変更議案だと出してくることを防ぐための基準になっていないと思います。
次に,A案の中だと,沖委員あるいは小林委員の言われたように,理由を勘案しないと論理整合性を判断できないケースというのはあり得るから,およそ理由はカウントしてはいけないというふうなルールにはしにくいと思います。そして,理由をカウントすると,曖昧だという批判が少なからずあったことについては,どのくらい,どういう形でカウントするかということ次第だと思います。まず株主側が議案ごとに区分して提案をしなければいけないというルールの下で,株主があえて一つの提案だと言ってきた場合に,理由を勘案すれば,ばらばらに決議すれば明らかに論理的,客観的に整合性を欠くといえない限り一つとはカウントしてもらえないという基準だと考えると,そこまで曖昧にならないような気もします。株主の主観的な希望として,是非とも複数のものを一体として賛成してほしい,つまみ食い的に取り入れてもらっては困ると幾ら思っていても,それだけだと一つではないという基準であれば,それほど曖昧にならないように思います。
提案理由が曖昧で分かりません,そんな提案が多いのですというふうな御意見がありましたが,提案理由が曖昧で分からなければ,一体として扱う必要ないだけだと思います。提案理由が論理的に独立に可決,否決することができるのであれば別提案という発想なので,曖昧な提案理由を幾ら書かれたって,一つとして扱う必要はないというだけだと思います。
A案が厳し過ぎるかということは,結局,最終的に,どのぐらいの制限,数の制限になるかに依存することだと思います。A案,B案の対立が利いてくるのは,飽くまで定款変更議案として出されるものの範囲で,それで,しかもそれが,3とか5とかいう制限の中ですと,相当深刻ですけれども,今,比較的有力と思われている10という提案上限数で議論するのであれば,A案を採ることが,B案を採った場合に比べて証券市場に悪いインパクトを与える提案になっているとまでは思わないと思います。
最後ちょっと,提案の数え方との関係で,やや違った点で御質問させていただきたいと思います。株主提案をする株主の側として,幾つかの内容を含んだ提案を一つのものとして出す際に,それがばらばらに決議しても論理不整合とまではいえない,したがって複数としてカウントしてくれていいけれども,一体として審議してほしい,一括してイエスかノーを決めてほしいという議案の提出の仕方というのは許されるのでしょうか。つまり今議論しているのは,飽くまで提案上限数との関係での議案のカウントの仕方に関するルールなので,今言ったような議案の提出を妨げるルールではないと理解しているのですけれども,この点はいかがでしょうか。
○竹林幹事 今御質問いただいた点につきましては,条件付けをするような形にしていただければ,より明確だとは思いますけれども,否定されるものではないのではないかと考えております。
第2 株主提案権
1 株主が提案することができる議案の数の制限
(1) 定款の変更に関する議案の数の数え方
次のような規律を設けるものとすることについて,どのように考えるか。
① 定款の変更に関する議案の数については,[内容において関連する事項ごとに]区分して数えるものとする。
(2) 株主が提案することができる議案の数
上記(1)における提案を踏まえ,試案第1部第2の1本文について,どのように考えるか。
(補足説明)
1 定款の変更に関する議案の数の数え方
(1) 本文1(1)①について
試案第1部第2の(1の注)について,パブリックコメントにおいては,定款の変更に関する議案の数については,内容において関連する事項ごとに区分して数える旨の明文の規定を設けるものとすることに賛成する意見が多数であった。
他方で,パブリックコメントにおいては,このような明文の規定を設けた場合であっても,判断基準が不明確であるため,実務上の運用が困難であるという意見や,ガイドライン等によって判断基準を明確にすべきであるという意見もあった。これらの意見は,仮に,このような明文の規定を設けた場合であっても,複数の事項がその内容において関連するか否かについての判断には一定の解釈の余地があり得ることから,提案株主と株式会社との間で関連性の有無について意見が分かれる事態が想定され,そのようなときは,紛争に発展するおそれもあり,株式会社としては紛争を避けるために関連性を保守的に判断せざるを得なくなるなど,実務上の運用が難しいことを懸念するものと考えられる。
そこで,パブリックコメントの結果を踏まえ,定款の変更に関する議案の数については一定の関連性がある事項ごとに区分して数える旨の明文の規定を設けることが考えられるが,他方で,上記のような懸念を払拭するためには関連性の有無についての判断基準をより明確にすることも含めて具体的な判断基準についての考え方を改めて検討する必要があるものと考えられる。
具体的な判断基準についての考え方次第では,規定の文言を調整する必要が生ずることとなる可能性もあるため,本文1(1)①の(注)において,その旨を付記した上で,本文1(1)①において,定款の変更に関する議案の数の数え方について明文の規定を設けることについて,どのように考えるかを論点として掲げている。
定款の変更に関する議案の数の数え方についての具体的な判断基準としては,例えば,(ⅰ)いずれか一方の提案が他方の提案を論理的に前提とする関係にあり,分けて審議すべきでないと考えられる場合にのみ関連性があるものとして一の議案として数えるものとする考え方,(ⅱ)上記(ⅰ)の場合のみならず,株主が通知した提案の理由の内容も踏まえ,いずれか一方の提案が他方の提案と密接に関連すると合理的に認められる場合についても関連性があるものとして一の議案として数えるものとする考え方等が考えられる。
(ⅰ)の考え方による場合には,判断基準としては(ⅱ)の考え方に比べて明確であり,株式会社として客観的に判断しやすいと思われるが,他方で,例えば,仮に,事業目的に目的を複数個追加する旨の定款の変更に関する議案が提出された場合に,(いずれかの目的が他の目的を論理的に前提とする関係にあるような場合を除き,)それらの目的ごとに区分して複数の議案として数えることとなるなど,関連性があると判断される場合が限定され過ぎるのではないかという懸念があるものと考えられる。(ⅱ)の考え方による場合には,仮に,事業目的に目的を複数個追加する旨の定款の変更に関する議案が提出された場合であっても,株主が通知した提案の理由の内容も踏まえると,それぞれの目的が密接に関連していると合理的に認められるときは,関連性があるものとして一の議案として数えることとなる。もっとも,「密接に関連すると合理的に認められる」か否かの判断は一定の評価を伴うものであるため,(ⅰ)の考え方と比べて,株式会社として客観的に判断することが難しくなるという懸念があるものと考えられる。このように,上記のいずれの考え方についても長短があると考えられることから,株主提案権の行使の実態に即し,上記の考え方以外の考え方も含め,どのように考えることが適切かについて検討する必要がある。
(2) 本文1(1)②について
パブリックコメントにおいては,後記1(2)のように株主が提案することができる議案の数の制限を設けるものとすることを前提とした場合において,株主が提案しようとする定款の変更に関する議案に複数の事項が含まれていることが疑われるときは,株式会社において当該議案の数を幾つと数えるべきかを判断することとなり,その前提として提案株主の認識を知るために提案株主との間で何らかのコミュニケーションを取る必要が生じて手続が煩雑となるといった手続的な負担が生じ得る上,その議案の数について,提案株主との間で認識に齟齬が生じたときは,どのように数えるべきかをめぐって紛争に発展するおそれもあるという懸念が示された。
このような懸念は,定款の変更に関する議案の数について株式会社側が判断することが前提となっていることもその要因の一つであると考えられる。そうであるとすれば,定款の変更に関する議案について,株式会社側ではなく,提案株主側で自らの認識を前提として議案ごとに区分して提案しけなればならないものとし,株式会社としては,当該提案株主による区分に従って形式的に議案の数を数えることができるものとすることにより,株式会社が当該提案株主の認識を改めて確認する手順を不要とすることができれば,上記のような懸念は一定程度回避することができるものと考えられる。この場合には,株式会社としては,当該提案株主による区分に従って,それぞれを一の議案として株主総会に諮り,各議案について審議及び採決をすれば足りることとなる。なお,仮に,提案株主が複数の事項を含む定款の変更に関する議案を提案しようとする場合において,当該複数の事項について区分せずに提案したときは,株式会社としては,株主がそれらを一の議案として提案してきたものとして,当該議案を一の議案として取り扱うこともできるし,本文1(1)①のとおり,一定の関連性がある事項ごとに区分して取り扱うこともできるものと考えられる。
そこで,本文1(1)②においては,取締役会設置会社において,定款の変更に関する議案について会社法第305条第1項本文の請求を行う場合には,株主は,議案ごとに区分して当該請求をしなければならないことを明記することについて,どのように考えるかを論点として掲げている。
なお,株主が膨大な数の事項を一の定款の変更に関する議案として提案するような事態も生じ得るが,株式会社としては,本文1(1)①のとおり,一定の関連性がある事項ごとに区分して取り扱うことができる場合には,そのように取り扱えば足りるし,仮に,(本部会資料において提案している後記2②の内容の拒絶事由を設けるものとすることを前提とすれば,)それが濫用的な株主提案権の行使と評価されるような場合には,後記2②の拒絶事由に該当するものとして,株式会社は当該提案を拒絶することができるものと考えられる。
そして,関連性のない複数の事項を含む定款の変更に関する議案ではあるものの,後記2②の内容の拒絶事由には該当しない場合であっても,株式会社としては,当該議案を一の議案として扱った上で,一括して審議すれば足りること,提案株主による説明が不必要に長くなるような場合には,議長は議事整理権に基づいて提案株主による説明を制限することが可能であることなどを考慮すれば,当該議案について割かれる株主総会における審議時間が許容できない程に長くなることは余り想定されないものと考えられる。
2 株主が提案することができる議案の数(本文1(2))
試案第1部第2の1本文については,パブリックコメントにおいて,団体からの意見が分かれたが,提示した4案の中においては,A1案に賛成する意見とB2案に賛成する意見が比較的多かった。もっとも,そもそも株主が提案することができる議案の数の制限を設けること自体に反対する意見や,提案することができる議案の数を5未満(1ないし3)とすべきであるという意見もあった。なお,個人からの意見としては,株主が提案することができる議案の数の制限を設けること自体に反対する意見が圧倒的多数であった。
提案することができる議案の数を5未満(1ないし3)とすべきであるという意見やA1案に賛成する意見は,株主総会における限られた審議時間が特定の株主による提案に関する議論のみに費やされるべきでないこと,提案することができる議案の数を限定することにより提案の内容がより合理的なものとなると考えられること,米国においては株主が提案することができる議案の数が1とされていることなどを理由として挙げている。
他方で,そもそも株主が提案することができる議案の数の制限を設けること自体に反対する意見やB2案に賛成する意見は,株主提案権の濫用的な行使と評価される事例はごく例外的な事例であって提案することができる議案の数を制限する必要性を基礎付けるような立法事実が存在しないこと,株主提案権の重要性に鑑みれば,株主が提案することができる議案の数を制限するとしても必要最小限の制限とすべきであること,機関設計の変更や報酬体系等の株式会社の事業に関する根本的事項を変更するための株主提案を行う場合には,5以上の議案を提案する必要があり得ることなどを理由として挙げている。
そして,前記1のとおり,本文1(1)において,パブリックコメントの結果を踏まえ,定款の変更に関する議案の数の数え方について改めて問題提起するとともに,定款の変更に関する議案について会社法第305条第1項本文の請求を行う場合には,株主は,議案ごとに区分して当該請求をしなければならないことを明記することを新たに論点として掲げている。これらについてどのように考えるかによっては,株主が提案することができる議案の数の具体的な上限や役員等の選解任に関する議案の数の数え方についての考え方にも影響があり得る。
そこで,本文1(2)においては,本文1(1)に掲げた論点についての考え方及びパブリックコメントの結果を踏まえ,株主が提案することができる議案の数について,どのように考えるかを論点として掲げている。
3 株主が提案した議案の数が上限を超えている場合の取扱いについて
パブリックコメントにおいては,株主が提案した議案の数が上限を超えている場合の取扱いが不明確であるという意見があった。
これについては,株主が提案した議案の数が上限を超えている場合には,株式会社は,当該上限を超える数に相当する数の議案を拒絶した上で,当該上限までの数の議案についてのみ内容の適法性を検討し,その中から適法な議案のみを採用すれば足りるものとし,当該上限を超える数に相当する数の議案についてのみ拒絶することができるものとすることが考えられる。この考え方によったとしても,株式会社としては,当該上限までの数の議案についてのみ内容の適法性を検討すれば足りることとなるため,現行法の下において株主が膨大な数の議案を提案した場合と比べて,議案の内容の適法性について検討する時間やコストについて大幅に削減することができることとなる。当該上限までの数の議案(内容の適法性を検討する対象となる議案)を選択する具体的な方法としては,株式会社がその判断で決定するものとすることが考えられる。株式会社による決定については,例えば,各議案についての賛否を記載する欄に記載がない議決権行使書面が提出された場合における各議案についての賛成,反対又は棄権のいずれかの意思の表示があったものとする取扱いの内容(会社法施行規則第63条第3号ニ,第66条第1項第2号)や,書面による議決権の行使又は電磁的方法による議決権の行使によって,一の株主が同一の議案につき重複して議決権を行使した場合において,当該同一の議案に対する議決権の行使の内容が異なるものであるときにおける当該株主の議決権の行使の取扱いに関する事項(会社法施行規則第63条第3号ヘ,同条第4号ロ)のように,合理的な方法であれば,株式会社がその取扱いを決定することができるものとすることが考えられる(実務上,当該取扱いについては株式取扱規則等で定めておくものとすることが考えられる。)。
この考え方に対しては,パブリックコメントにおいて,株主が提案した議案の数が上限を超えている場合において,上限を超える数に相当する数の議案についてのみ株式会社が拒絶することができるものとするときは,議案の選定作業は煩雑であること,提案株主とコミュニケーションを取ることは実務上困難を伴うことが多いこと,提案株主と株式会社との間に議案の選定方法をめぐって紛争が生ずる懸念もあることなどを理由として,上限を超える数の議案が提案された場合には,当該株主が提案した議案については全て不適法又は無効として拒絶することができるものとすべきであるという意見もあった。
もっとも,上限を超える数の議案が提案された場合に,当該上限を超える数に相当する数の議案についてのみならず,当該株主が提案した議案全てについて不適法又は無効として拒絶することができるものとすることは,株主提案権の重要性に鑑みれば,適切でないものと考えられる。また,上記のように,株式会社がその取扱いを決定することができるものとすれば,議案の選定作業は煩雑とまではいえないと考えられる。
2 内容による提案の制限
会社法第304条本文及び第305条第1項から第3項までの規定は,次のいずれかに該当する場合には,適用しないものとすることで,どうか。
① 会社法第304条本文の規定による議案の提出又は同法第305条第1項本文の規定による請求(以下「株主提案」という。)が専ら人の名誉を侵害し,人を侮辱し,若しくは困惑させ,又は当該株主若しくは第三者の不正な利益を図ることを目的とする場合
② 株主提案により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ,株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合
(補足説明)
1 本文2①について
本文2①の内容は,表現ぶりを若干変更したが,試案第1部第2の2①から③までと同様の内容である。試案第1部第2の2①から③までについて,パブリックコメントにおいては,明文の規定としてこれらの拒絶事由を設けることに賛成する意見が多数であった。
なお,「専ら」という要件については,厳格で立証が困難であるため,株式会社がこの拒絶事由を根拠に株主提案を拒絶するという判断にちゅうちょし,拒絶事由の実効性が失われるとして,削除し,又は「主として」という要件に変更すべきであるとする意見も寄せられた。しかし,株主提案権の重要性に鑑みれば,拒絶事由の要件を緩めることについては慎重に考えるべきであるとも考えられ,また,パブリックコメントにおいて,「主として」という要件ではやや不明確であり,濫用的でない株主提案権の行使をも制限してしまうおそれがあるという意見や,株主提案権を過度に制限することにならないよう,「専ら」という厳格な要件を用いることは望ましいという意見もあった。
そこで,パブリックコメントの結果も踏まえ,本文2①のような規律を設けることを提案している。
2 本文2②について
試案第1部第2の2④(「株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が著しく害されるおそれがあるとき」)についても,パブリックコメントにおいては,明文の規定としてこのような拒絶事由を設けることに賛成する意見が多数であった。他方で,具体的にどのような場合にこの拒絶事由に該当するかが不明確であり,株式会社による恣意的な解釈によって過度に株主提案権が制限されてしまうおそれがあるという懸念を指摘する意見もあった。
試案第1部第2の2④は,単に株主総会の適切な運営が妨げられるのみでは足りず,その結果として,株主の共同の利益が「著しく」害されるおそれがある場合にのみ株主提案を拒絶することができるものとしていたため,株式会社による恣意的な解釈がされないように一定の限定が加えられていたものと考えられる。もっとも,「株主総会の適切な運営が妨げられ」るか否かの方が「株主の共同の利益が害される」か否かよりも客観的な判断に馴染むとも思われるため,「株主総会の適切な運営が妨げられ」るか否かに限定を加えた方が株式会社による恣意的な解釈の余地は狭くなると考えられる。他方で,株主提案によって株主の共同の利益が「著しく」害されるおそれまではない場合であっても,株主総会の適切な運営が「著しく」妨げられ,その結果として,株主の共同の利益が害されるおそれがあるときは,株式会社は当該提案を拒絶することができるものとして差し支えないとも考えられる。そして,株主総会の適切な運営が著しく妨げられることに加え,その結果として,「株主の共同の利益」が害されるおそれがあることも要件として明示することにより,単に株式会社側の都合上望ましくないような提案を拒絶することはできないことがより明確となり,株式会社による恣意的な解釈がされる余地がより限定的となるものと考えられる。
そこで,本文2②においては,試案第1部第2の2④の拒絶事由を「株主提案により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ,株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合」に変更して提案している。なお,「株主総会の適切な運営」には,株主総会の当日の運営のみならず,株主総会の準備も含まれることを前提としている。そして,株主総会の準備には,株式会社による株主総会の準備のみならず,当該株式会社の株主による株主総会の準備(議案の検討等)も含まれるものと考えられる。すなわち,この拒絶事由に該当し得ると思われる具体例としては,不必要に多数又は長大な内容の条項を含む定款の変更に関する議案が提案されたことにより,株主総会の当日において当該議案の検討に多大な時間が掛かり,他の株主による株主総会の場における質問時間や他の議案の審議時間が大幅に削られるような場合のみならず,株式会社に通常の株主総会の準備においては生じないような規模の膨大な時間的又は人的コストが生ずるような場合や,提案株主以外の株主が当該定款の変更に関する議案を検討するために通常の株主総会の準備においては生じないような時間を割く必要等が生じ,他の議案の検討時間が削られる可能性等があるような場合が考えられる。このような場合には,株主総会の当日の運営や,株式会社による株主総会の準備,当該株式会社の株主による株主総会の準備(議案の検討等)が著しく妨げられると評価することができ,ひいては株主全体に不利益が生ずると考えられるため,「株主の共同の利益が害されるおそれ」があると評価されることとなると考えられる。
3 株主提案権の行使要件
(1) 持株要件の見直し
300個以上の議決権という持株要件の見直しはしないものとすることで,どうか。
(補足説明)
試案第1部(第2の後注)の株主提案権の行使要件のうち300個以上の議決権という持株要件について,パブリックコメントにおいては,削除又は引上げといった見直しはすべきでないという意見が多数であった。これらの意見は,300個以上の議決権という持株要件の削除又は引上げは,300個以上の議決権という絶対的な基準が設けられた趣旨に反し,個人株主による株主提案権の行使を過度に制限してしまうおそれがあること,提案することができる議案の数の制限や内容による提案の制限の導入によって株主提案権の濫用的な行使は一定程度排除することができると考えられるため,重ねて持株要件を見直す必要性は乏しいこと,持株要件の見直しを基礎付けるだけの立法事実が存在しないことなどを理由として挙げている。
なお,300個以上の議決権という持株要件の削除又は引上げをすべきであるという意見もあった。これらの意見は,300個の議決権と100分の1の議決権の価値が著しくかい離していること,1%を大きく下回る議決権しか有しない株主からの提案に対する賛成割合は低いにもかかわらず,そのような提案のために株主総会の審議時間の相当割合を占めることにより,株主総会の適切な運営が妨げられていることなどを理由として挙げている。
そこで,パブリックコメントの結果を踏まえ,本文3(1)においては,300個以上の議決権という持株要件の見直しはしないものとすることを提案している。
(2) 行使期限の見直し
行使期限の見直しはしないものとすることで,どうか。
(補足説明)
試案第1部(第2の後注)の株主提案権の行使期限について,パブリックコメントにおいては,前倒しに反対する意見(後ろ倒しすべきであるという意見も含む。)が相対的に多かった。これらの意見は,現行法における株主提案権の行使期限を前提としても株式会社の準備期間が必ずしも短過ぎるとはいえず,行使期限の見直しを基礎付けるような立法事実が認められないこと,行使期限の前倒しによって株主が株主提案権を行使するか否か及びその内容の検討についての十分な検討期間を確保することができなくなること,さらに,今回の会社法改正により株主総会資料の電子提供制度が活用されれば印刷及び郵送の作業の時間が短縮されるため,前倒しは不要であることなどを理由として挙げている。
これに対し,株主提案権の行使期限を前倒しすべきであるという意見は,株主総会の招集通知の早期発送や発送前開示に取り組む上場企業が増加している中で,現行法における行使期限を前提とすると,提案株主が株主提案権の行使要件を満たしているか否かについての確認,提案内容の検討及び取締役会としての意見の作成等の各種準備作業のための十分な期間を確保することができないこと,株主提案権が行使期限直前に行使され得ることが株主総会の招集通知の早期発送を妨げる要因の一つとなっていることなどを理由として挙げている。
また,今回の会社法改正により株主総会資料の電子提供措置の開始時期や株主総会の招集通知の発送期限が前倒しされる場合には,その前倒しの期間に応じて株主提案権の行使期限も前倒し(についての検討を)すべきであるという意見もあった。もっとも,仮に,株主総会資料の電子提供制度が導入され,株主総会の招集通知の発送期限が1週間ないし2週間前倒しされた場合であっても,それは,電子提供制度の導入によって,実務上1週間ないし2週間掛かるとされている株主総会資料の印刷や郵送の期間が短縮されることを前提としたものである。このように考えると,仮に,株主総会資料の電子提供制度が導入され,株主総会の招集通知の発送期限が1週間ないし2週間前倒しされた場合であっても,実際に株主提案がされた後,株式会社において提案株主が株主提案権の行使要件を満たしているかについての確認,提案内容の検討及び取締役会としての意見の作成等の各種準備作業を完了しなければならない時点までの準備期間は,現在と実質的に変わらないものともいえるため,株主総会資料の電子提供措置の開始時期や株主総会の招集通知の発送期限が前倒しされることと株主提案権の行使期限を前倒しすることとは論理必然の関係にないものと考えられる。
そこで,パブリックコメントの結果を踏まえ,本文3(2)においては,株主提案権の行使期限の見直しはしないものとすることを提案している。
・要綱案
1 株主が提案することができる議案の数の制限
取締役会設置会社の株主が第305条第1項の規定による請求をする場合において,当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは,同項から第3項までの規定は,10を超える数に相当することとなる数の議案については,適用しないものとする。この場合において,当該株主が提出しようとする次に掲げる議案の数については,①から④までに定めるところによるものとする。
① 取締役,会計参与,監査役又は会計監査人(以下1において「役員等」という。)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず,これを一の議案とみなす。
② 役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず,これを一の議案とみなす。
③ 会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず,これを一の議案とみなす。
④定款の変更に関する二以上の議案 当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には,これらを一の議案とみなす。
(注)取締役会設置会社の株主が第305条第1項の規定による請求をする場合において,当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときにおける10を超える数に相当することとなる数の議案は,取締役がこれを定めるものとする。ただし,当該株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には,取締役は,当該優先順位に従い,これを定めるものとする。
2 目的等による議案の提案の制限
第304条及び第305条第1項から第3項までの規定は,次のいずれかに該当する場合には,適用しないものとする。
① 株主が,専ら人の名誉を侵害し,人を侮辱し,若しくは困惑させ,又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で,第304条の規定による議案の提出又は第305条第1項の規定による請求をする場合
② 第304条の規定による議案の提出又は第305条第1項の規定による請求により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ,株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合