令和2年公法系第二問の採点実感を読んでみた~その3~ 「条文は命綱」と心得よ
当たり前のことしか書いていない採点実感を読む
読んでみたシリーズその1、その2も是非チェックしてくださいね。
以下、採点実感より。赤字は筆者。
⑶ 設問1⑵
(全体について)
○ 不作為の違法確認訴訟における訴訟要件や本案要件について,条文を引用し,問題文の事案を丁寧に拾って要件への当てはめをするという形式的なことができていない答案が多かった。理論的ないわゆる論点と言われるものの議論も重要であるが,実務においても,訴訟要件及び本案要件の当てはめは基本であり,普段の学習においてもないがしろにせず,注意するよう心掛けてほしいところである。
→当たり前の話過ぎるのである。こんなことすら出来ないで司法試験に合格することは、絶対にあり得ない。仮にあったとするならそんな試験は、実務家登用試験として失格である。条文の引用、要件へのあてはめは、法学の基本中の基本だからである。そして、論点は、その基本の上に初めて成り立つものであるからである。論点主義に対する批判も、基本を疎かにする姿勢に対する批判に他ならない。
○ 申請の不受理や申請書の返戻は正に行政手続法第7条違反になる場合であり,本問でも同条によりB市に審査義務が発生していることは,多くの答案が指摘することができていたと思う。だが,不作為の違法確認訴訟の訴訟要件との関係で,本件申出書の返却が法的にどのような意味を持つのかという点に言及することができている答案は少なかった。また,本件申出書の返却を申請拒否処分と捉えた答案もあった。
→論述が不十分だったということである。そのことに自覚的なら問題はそれほど大きくない。問題は、無自覚的に論述が不十分である答案であり、そういった答案は意外と多い。無自覚であるがゆえに直さないからである。
○ 行政手続法に即して,本件申出書の返送やその違法性を説明している答案は余り見られず,1年間が経過していた事実のみから,直ちに違法とする答案が少なくなかった。
→そもそも、行政手続法の問題であるということに対する意識が希薄な受験生が多かったのではないかと思う。検討すべき条文から離れてしまうとそれだけで点数を落としてしまうのである。逆に適切な条文選択をしていれば、条文の文言に沿って検討するだけでいい。「条文は命綱」である。
○ 抽象的に不作為の違法確認訴訟の訴訟要件が何であるか記載されていても,訴訟要件への本事例の当てはめがされていない答案もあり,本件で肝心な「相当な期間の経過」についても,検討が不十分な答案が多かった。一方で,申出書の返却と行政指導について厚く論じる答案もあり,バランスの悪い答案となっていた。
→「答案のバランス感覚」は、いわば常識的判断を求められているのである。司法試験の難しさはこういう暗黙知の多さにあると思う。言われなくてもわからないといけないし、言う方も説明が非常に難しいのである。数をこなすことでしか身につけられない「感覚」があること、それは受験生に対しても当然に求められていることを自覚してもらいたい。言われたことを覚えるだけが法律学習ではないのである。
○ 不作為の違法確認訴訟の訴訟要件・本案要件の充足の有無を検討するに当たり,行政事件訴訟法第3条第5項,第37条に基づく検討とは別に,いわゆる確認訴訟における確認の利益の有無(即時確定の利益,対象選択の適否,方法選択の適否など)を検討する答案が少なからず存在した。不作為の違法確認訴訟の「確認」に引きずられたのであろうか。それとも,不作為の違法確認訴訟においても確認の利益の有無を検討すべしといった教育を受けたのであろうか。非常に違和感が残った。
→不作為の違法確認訴訟の訴訟要件・本案要件について検討したことがある受験生は、あまり多くなかったのではないかと思う。「確認訴訟」という響きから確認の利益に言及したくなる気持ちはわからなくはない。ただ、司法試験の鉄則を思い出してほしい。「間違えないこと」が大事である。知らないことは長々と書かない。条文に書いてあることについてだけ淡々と論じていればいい。「守りの答案」を書くための秘訣である。
○ 不作為の違法確認の訴えにおいては,何も処分がされていないことが前提であるから,何らかの処分がされ,当該処分を争う訴えを起こすことが可能となる時点を特定することが前提となる出訴期間の定めが適用される余地はないはずであるのに,不作為の違法確認の訴えにも出訴期間の定めの適用があり,その要件を満たしている旨を論ずる答案が散見された。出訴期間の意義について理解が不足しているものと思われた。
→出訴期間の意義も何も条文を読めばわかる話である。出訴期間の理解も不足しているし、条文を読むという当たり前のことも出来ていない。このようなミスをする受験生が設問2のような個別法解釈に挑んでも玉砕することは目に見えている。
○ 申出書の返送後,Xと市職員とのやりとりを行政指導と捉えた答案が少なからず存在した。許認可の申請前後の行政と市民とのやりとりは,行政指導でよく扱われることは事実であるが,本件における職員の発言内容には,行政指導の要素は含まれていない。思い込みが先行してしまい,問題文の読み込みが不足しているように思われる。
→Xと市職員のやりとりを行政指導であると捉えた受験生は、行政指導の定義(行手法2条6号)を読んだのだろうか。「思い込みの先行」や「問題文の読み込みが不足」するのは、条文に基づいて具体的事実関係を正確に整理できていないからである。繰り返しになるが「条文は命綱」である。条文に従って考える習慣が身についていれば防げるミスは、思いの外多いはずである。
○ 少数ではあったが,被告をB市が所属するA県とすべきとする答案もあったところ,A県とB市は別個独立の公共団体であり,それぞれ独立の被告適格を有するという半ば常識によって判断し得る事項を理解できていなかったのは残念であった。
→常識のない法律家は、「常識がない」と批判される。法律による正義の実現は、常識なくしてあり得ないからである。なお、被告適格も条文を読めばわかるはずである。こういう部分で間違えを犯さない答案を「いい答案」だと思ってほしい。
(訴訟類型の選択)
○ 問題文中に抗告訴訟という指示があるなど,問題文がかなり解答の方向を限定していたため,訴訟の類型については,多くの答案が不作為の違法確認訴訟と解答することができていた。ただし,差止訴訟,無効確認訴訟とする答案も散見され,これらは,訴訟類型の理解が十分ではないか,あるいは,事案を誤解しているのではないかと思われた。
→訴訟類型を間違えるということは、適用すべき条文を間違えるということである。すでに述べた通り、これは看過できないミスである。日頃の学習段階から的確な条文を見つける訓練は、努めてするべきである。そこで鍛えられる能力は、精緻な法律論を組み立てる基礎となる。
○ ①申出拒絶の取消又は無効確認訴訟,②申出書の返送の取消訴訟,③申出拒絶処分の差止訴訟,④申出に対する応答を受ける地位を有することに係る確認訴訟(公法上の実質的当事者訴訟)を指摘する答案があった。①及び②は,会議録において,申出への拒否処分自体がされていないことを前提とするよう指示されている以上,取り消す又は無効を確認する対象となる処分が存在しないことを前提として検討すべきことと整合せず,③は,B市が申出書を返送して申出を受理しないとされる状態にしている以上,処分をする蓋然性自体がなく,④は,抗告訴訟には該当しないから,「Xが提起すべき抗告訴訟について…検討しなさい」という問題文とは整合しないものであることが明らかである。このように,これらの訴訟は,少し冷静に考えればいずれも提起し得ないものであることに容易に気付くことが可能なもの(現に,途中で気が付いて正しく修正できていた答案もあった。)であり,行政事件訴訟法に掲げられた訴訟類型の基本的な理解を定着させることが重要である。(下線部は筆者)
→どの訴訟類型に該当するのか、一つ一つ要件を検討するようにチェックしていけばよかったのである。下線部の答案は、答案構成段階で間違っていた点は残念であるが、それでも最終的に修正できたのは、正しく検討できていたからである。繰り返しになるが、司法試験では「間違えないこと」が大事である。間違えないためには、知識を増やすこと以上に正しく検討できるように訓練しておくことが大切である。法的に正しい検討方法は、間違いが発生しにくい。日頃の学習は、知識を増やすこと以上に正しく検討出来ているかを意識して進めてほしい。
○ ほとんどの答案は正しい訴訟類型を選択していたが,当該訴訟類型を選択したことの正当性を自覚的に論証した答案は必ずしも多くはなかった。普段から検討の機会が多くはない訴訟類型が問題として取り上げられたことが理由として考えられるほかに,問題文に書かれていた事案の事実状況が慎重に検討されていないことも関係しているのではないかとも思われる。
→「当該訴訟類型を選択したことの正当性」は、言い換えれば、結論の妥当性の問題である。法律論を展開する場合、常に結論の妥当性は、チェックするべきである(答案に書くかどうかはまた別の話)。妥当性に欠ける結論は、「正義」を実現するものとは言えないからである。これも法学の基本である。
(申出が申請に該当すること)
○ 申出が行政手続法上の申請に該当し,それが行政庁に到達することによって行政庁の審査及び応答義務が生ずるにもかかわらず,応答がされていないことの問題点を論ずる必要があるという問題の基本的な構造は理解できている答案が比較的多かったものの,これを正確に文章で表現できている答案は少数にとどまった。
→文章表現力は、日頃の練習の成果がもろに表れてしまう部分である。文意が分かりやすい答案が文章表現力の高い答案だと思う。それだけで何となく「分かっている感じ」がする。何だかざっくりとした話に聞こえるかもしれないが、意外と「印象点」は大きいのである。それは、加点材料というより、ミスをしたときの傷の浅さにつながっているような気がする。
○ 会議録においては,Xの「置かれている状態やB市による対応の法的な意味を検討した上で」と記載されているにもかかわらず,申出書の到達により行政手続法第7条の定める審査義務が発生していること,到達後のB市による申出書の返却行為は法的には無意味であり申請である申出は応答されていない状態であること,申出書の返却が法的には無意味であることなどについて,丁寧に記載している答案は少なかった。多くの答案が,このような検討をしないままB市の対応が不作為である旨を端的に指摘するにとどまり,中には,B市の不作為があることを摘示することすらせず,不作為があることを当然の前提として,他の要件の検討のみを記載する答案も散見された。
→論述の丁寧さは、こだわりたいポイントではあるが、筆力には個人差があるのは、れっきとした事実である。この現実を受け入れた上で、「自分に書ける分量」の中で最善を尽くす必要がある。覚えておいてもらいたいのは、「たくさん書いてある答案=いい答案」ではないということである。4・5ページ以内の答案でもAは取れる。条文の引用や論述の正確性・論理性などを意識して、まずは「間違いのない答案」を目指してほしい。事実の適示や評価などを通じて、記述量を増やすのは、その先の話である。
○ 申請に対する応答義務があることを暗黙の前提として論ずるにとどまり,それを定めた行政手続法第7条を指摘することができていない答案がかなりの数に上った。申請に対する応答(処分)がないことが違法であることを指摘するためには,その前提として申請に対する応答義務が存在しなければならないという当然のことをきちんと文章化できるかどうかというところに普段の学習の程度や実力の差が現れたと思われる。
→「義務違反=義務の存在+その不履行=違法」という基本や条文の引用という基本を意識して論じていたか。その点が「普段の学習の程度や実力の差」だと言っているのである。漫然と教科書を読んでいるだけでは気付かないのではないだろうか。入門レベルの基礎基本が司法試験でも合否を分けるポイントになるのである。
(不作為の違法確認の訴訟要件)
○ 不作為の違法確認訴訟を挙げることはできているものの,不作為の違法確認訴訟の理解が不十分と思われる答案が多く見られた。例えば,義務付け訴訟と区別できていないのではないかと思われる答案が見られた。また,不作為の違法確認訴訟の訴訟要件の理解が不正確な答案も少なくなかった。
→「理解が不十分」だったのは、試験に臨むまでの学習に漏れがあったからである。これは仕方ない。残念ながら、試験当日までに試験範囲のすべてを完璧に押さえていくことは、凡人には不可能である。その上で大事なことは、何度も繰り返すように「間違えないこと」である。傷は出来るだけ浅く済ませたい。具体的には、間違った条文を引用しないこと、条文の文言から離れないことを意識してもらいたい。
○ 訴訟要件の充足性は,訴訟要件を定める法令のどの文言に対応するのかを理解することなくしてこれを正確に検討することは不可能なはずであり,事実に法律を正確に適用することが法律実務家にとって最も基本的なスキルであることを意識することが大切である。
→これまで繰り返してきた内容を明確に指摘してくれていることに感謝したいくらいである。大事なことは全てここに詰まっているといっていい。これが出来るようになれば、法律学習は勝手に深化していく。
(続きは明日)
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