令和2年民事系第一問の採点実感を読んでみた~その3~ 判例の機能を知っているか?
判例にも出現パターンがある。
今回は、民事系第一問の採点実感を読んでみた最終回です。
毎年判例に対する理解不足が指摘されますが、それは、そもそも「判例とは何か」をわかっていないことが原因のように思います。
(赤字は筆者)
※その1、その2もぜひご覧ください。
⑷ 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項
本年の問題も,昨年に引き続き,どのような法規範(判例により形成される規範を含む。)の適用を問題とすべきかという大きな検討課題の把握は比較的容易であり,実際にも,これを大きくは外さない答案が少なくなかった。それでも答案間で評価に差が付くのは,分析の深度や精度,更には論理的な展開力などによるところが大きいと感じられることも,昨年と同様である。(下線は筆者)
→条文を適切に使えるか、法的三段論法は身についているかなど、基本的な能力・技術の部分で差がつくということである。闇雲に知識を増やしても、理解は深まらない。理解を深めるためには、基礎基本をきちんと押さえることである。
すなわち,本年の各設問にも現れているように,ある一つの事案を解決するに当たっては,複数の制度や判例等にまたがった分析が必要となるが,当然ながら,そのためには,個々の制度等についての理解が必要であり,更には,制度相互間の体系的な理解が必要になる。その上で,これを一つの分析結果にまとめ上げるためには,その理解している内容を,示された事実関係を踏まえて論理的に展開していくことが重要である。
→この部分は、短答過去問をしっかり解くと馴染みやすいと思う。短答過去問の中には、いわばミニチュア論文問題のような問題がある。短答過去問も知識確認だけでなく、法的三段論法を意識して丁寧に解いてもらいたい。正しく学習していれば、いずれ上記の課題はクリアできるはずである。道は果てしないが、残念ながら近道はない。
このような法律の体系的理解とこれに基づく実践的な論理展開能力の重要性は例年指摘しているところであり,引き続き留意をしていただきたい。その上で,本年の答案を見て特に感じられたことについて,幾つか指摘しておきたい。
第1に,問題文をよく読まず,その指示や趣旨に従わずに論ずるものが散見されたことである。例えば,設問1において,Bが乙建物に住み続けることを前提として,Cへの支払額を少なくするためのBの契約責任に基づく主張について尋ねているにもかかわらず,契約の解除,取消しといった契約関係を解消する主張などを論じる答案が散見されたことや,設問2において,問題文で指示した解答の流れから外れた論じ方をする答案も散見されたことである。問題文において指示した内容に応じて解答する前提で採点はされるから,限られた時間内に必要十分な答案を作成するためには,問題文をよく読んで理解した上で答案を作成することが肝要である。
→その通り。すでに「演習不足」が原因だろうと指摘した。
第2に,特定の法律効果の発生の有無を検討することが求められているのに,その基本的な要件が満たされているかどうかを検討せず,自己が主要な論点と考える部分のみを論ずるものが散見されたことである。例えば,設問1において,契約不適合責任の有無について深く論ずること自体はよいとしても,それのみを検討し,代金減額請求や損害賠償請求の他の要件に触れないまま,安易に請求権の発生を認める答案が散見された。法律効果を発生させるためには法律要件が満たされていなければならないという当然の基本的原則を常に銘記する必要がある。
→「法律効果を発生させるためには法律要件が満たされていなければならないという当然の基本的原則を常に銘記する必要がある」のである。日頃からやるべきことは、これである。論点はその先にしかやってこない。採点実感で指摘されているからではなく、法の「基本的原則」であるからやらなければならないのである。
第3に,毎年のように指摘をしているにもかかわらず,本年も,文字が乱雑であったり,小さすぎたり,あるいは線が細すぎたりして,判読が困難なものが一定数存在したことである。特に,十分な答案構成をせずに書き始め,後から既述部分に多数の挿入をする答案は,必然的に文字が小さくなり,その判読が困難になる。これらの点についても,引き続き改善を望みたい。
→文字を大きく書く、間隔を広く開けることをしてほしい。文字が乱雑になってしまうのは、非常によくわかる。個人的な話で非常に恐縮だが、正直どうしようもできなかった。ただ、文字は大きく、間隔は広く。それだけで随分違う。
4 法科大学院における今後の学習において望まれる事項
本年は,民法(債権関係)改正の施行後初めての試験であり,同改正を踏まえた出題もされているが,おおむね改正内容を把握した上での解答がされており,法科大学院教育を通じて改正内容についての理解が進んでいることがうかがわれた。引き続き,改正内容を踏まえた法的知識の習得に取り組んでいただきたい。
→判例を明文化しただけの部分も多い。
また,本年においても,昨年ほどではないものの,設問の文字数を減らして受験者の事務処理の負担を軽減しつつ,財産法の分野における基本的知識・理解を横断的に問う問題が出題された。条文や判例に関する基本的な知識を踏まえ,問題文を注意深く読んだ上で,【事実】に顕れた事情を分析して設問の趣旨を適切に捉え,筋道を立てて論旨を展開すれば,相当程度の水準の解答ができるはずである(設問2の小問(2)は,多くの受験生にとってこれまでに検討したことがない問題であったと思われ,検討に時間を要するとは考えられるが,このような問題であっても,基本的な知識・理解が十分身に付いていれば,それを手掛かりとしながら検討することは可能であると考えられる。)。限られた時間内で答案を作成するためには,短時間で自己の見解を適切に文章化するのに必要な基本的知識・理解を身に付けることが肝要であり,引き続き,法的知識の体得に努めていただきたい。
→事務処理の負担が軽減したとは言いつつも、依然大変な事務処理量だと感じる受験生が多いのではないか。スムーズに答案構成し、スムーズに論述を進める必要がある。これは、「気合い」の問題ではなく「事前準備」の問題である。「条文(なければ判例)→要件効果」までの流れは、短答過去問等を通じて徹底的に練習し、考えなくても出来るようにする必要がある。これは、基本中の基本。ここが疎かになるから、本番でもミスが出る。多くの場合、あてはめや正確な規範に注力する前に勝負がついてしまっている。
さらに,本年も,昨年同様,判例を参考にすることで深い検討を行うことができる問題が出題されているが,法律実務における判例の理解・検討の重要性を再認識していただきたい(判例の採った論理や結論を墨守することを推奨してはいないが,判例と異なる見解を採るのであれば,判例を正確に指摘して批判することが必須である。)。例年指摘されているところであるが,判例を検討する際には,その前提となっている事実関係を基に,その価値判断や論理構造に注意を払いながらより具体的に検討することが重要であり,かつ,様々なケースを想定して判例の射程を考えることで,判例の内容をより的確に捉えることができるものである。このような作業を行うことで,個々の制度についての理解が深まるだけでなく,制度相互間の体系的な理解が定着することに改めて留意していただきたい。
→条文で定められていない部分を判例が埋めるという話は、先述した。このように判例には決まった「機能」がある。それを意識せず闇雲に暗記しようとしていないか。判例の「重要性」は知りつつも、なぜ重要なのかイマイチ理解していない受験生が多いように思う。それは、判例を学ぶ前段階のつまづきが原因であると思われる。
(民事系第二問はまた後日)
※判例の機能まで教えるABprojectの添削指導は、こちら。