会社法改正!! 法制審議会の議事録読んでみた・・・。
株主提案権の濫用防止が主な目的でした・・・
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今回掲載する法制審議会の議事録(株主提案権の議論に関するものを抜粋)もサービス提供のご依頼をきっかけに読んでみたというものです(そのご依頼は、頓挫してしまいましたが・・・。ドタキャンは本当にやめてください!!)。
株主提案権の濫用を防止するために旧会社法303条~305条の内容が議論されています。
改正の経緯を知ると、単に文面を知っているだけよりも深く条文の意味を理解できます。
個人的な感覚としては「立体的に」見えるようになる気がします。
これは、大事なポイントです。
例えば、論証を張り付けているだけ(論点主義)の答案と問題の個別事情に合わせた具体的な検討ができている答案かは、「立体的に」見えているかどうかの差だと感じます。
「多角的に」見えているという表現もできるかもしれません。
いずれにしても、一度読んでみてください。
条文の一字一句に「こだわり」があることがわかると思います!!
・第一回法制審議会
(P1)
また,近年,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られるようになったことを受けて,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備を検討すべきではないかという指摘もあります。
(P5)
「2 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備」では,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置を整備することを検討してはどうかとさせていただいております。
近年,一人の株主により膨大な数の議案が提案されるなど,株主提案権が濫用的に行使され,これにより株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ,株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり,株式会社における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加することが弊害として指摘されているところでございます。このような濫用的な行使に対しては,一般条項である権利濫用の禁止では対処することが難しいという指摘もあるところです。株主が提案することができる議案の数を制限することや,株主による不適切な内容の議案の提案を制限することを検討するのがよいのではないかと思われます。
(P9:小林委員)
「株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置」ということでございますが,こちらについては基本的には賛成でございますが,いろいろな現実的な株主総会等での運営上,言わば他の一般的な株主から見まして,むしろ,建設的な対話が阻害されるような提案については,一定の制限が必要であると考えさせていただいております。そのほか,濫用的な場面とは必ずしも言えないかもしれませんけれども,単元株の考え方が大分変わってきているということもありますので,株主提案権の行使要件について,あるいは株主提案を行った方とのいわゆるコミュニケーションの問題というようなこともございますので,この行使期限の考え方等についても併せて検討していただけると,大変有り難いと考えているところでございます。⇒行使期限の話は、濫用のケースと区別する
(P16:古本委員)
2点目の「株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備」でございますけれども,株主提案権が濫用的に行使されますと,先ほど御紹介があったとおり,本来,株主総会で議論するのにふさわしくないような議案につきましても会社の負担で総会資料に掲載せざるを得なくなるという問題がございます。また,総会の場でも,そのための時間を確保しなければならなくなりますし,提案が多数なされた場合は,ほかの株主との対話の機会が阻害されるということにもなりかねません。以上のことから,株主提案権の濫用的な行使を制限するということに賛成でございます。
資料には,提案個数の制限と不適切な内容の提案の制限について書かれておりますが,提案権の行使要件と行使期限の前倒しについても御検討いただきたいと思っております。行使要件のうち,300個の議決権という絶対数基準が現行法ではございますけれども,これは会社の規模,発行株式数と関連しない基準でありまして,これを維持することには疑問を感じているということでございます。
(P23:柳澤委員)
2点目ですが,「株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備」ということについて簡単にコメントさせていただきます。こちらに関しましては,権利濫用になるのか否か,判断するのに容易でない面があるというように捉えておりますが,基本的に提案できる議案の数ですとか,内容について制限を導入することが望ましいと考えております。近年の行使事例におきましては,些末な内容を含む議案や,一人の株主が膨大な数の議案を提案するような状況が見受けられますけれども,実務上,会社側で株主提案権の濫用的な行使になるのか否か,判断するのは難しいのではないかと認識しています。そのため,こうした状況に何らかの歯止めがかからない限り,株主総会参考書類等の印刷や発送費用の増大といったコスト面での負荷はもとより,ほかの株主の実質的な議論の時間が少なくなるといった意思決定機能上の弊害というリスクも,生じ得る可能性があると思います。
仮に制限措置を検討するとした場合ですが,実現可能性が高いと考えられるものとしては部会資料にも記載がありますとおり,提案できる議案の数を制限することや,不適切な内容の提案を制限することが挙げられるかと思います。今後の個別議論に際しましては,具体的に議案数の制限を幾つまでとするのがよいのか,また,不適切な内容に対応するために,株主提案の拒絶事由を設けるべきか否か,設けるとした場合にどのような文言となるのか,こういった点も課題だと認識しております。
・第二回法制審議会
まず,第1の「株主提案権の濫用的な行使の制限の要否」におきましては,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置を整備するものとすることでどうかとしております。株主提案権の制度の趣旨は,株主の疎外感を払拭し,経営者と株主とのコミュニケーションを良くしようとするものですが,近時,株式会社を困惑させる目的で議案が提案されたり,一人の株主により膨大な数の議案が提案されるなど,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られます。株主提案権が濫用的に行使されることにより,株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ,株主総会の意思決定機関としての機能が害されることや,株式会社における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加することが弊害として指摘されております。
裁判例では,一定の場合には株主提案権の行使が権利濫用に該当することが認められておりますが,実務上株主提案権が行使された場合に,株式会社がその株主提案権の行使が権利濫用に該当すると判断することは難しいと指摘されております。
そこで,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置といたしまして,第2で御議論いただきますように,株主が提案することができる議案の数を制限することや,株主による不適切な内容の議案の提案を制限することを提案しております。
まず,第2の「1株主が提案することができる議案の数の制限」におきまして,「取締役会設置会社においては,会社法第305条第1項の議案(役員及び会計監査人の選任又は解任に関する議案を除く。)の数は,[10]を超えることはできないものとすることで,どうか。」としております。10にブラケットを付けている趣旨といたしましては,制限される議案の数につきましては仮のものとして現段階では提案させていただくものでございます。
本文では,役員等の選任又は解任に関する議案については,議案要領通知請求権に基づき,株主が同一の株主総会に提案することができる議案の数の制限の例外にすることを提案しております。役員等の選解任議案は1候補1議案と解されていることから,役員等の員数に応じて株主が提案することができるようにしておくことが合理的であり,議案の数の制限の例外とする必要があるのではないかと考えております。
また,本文では,株主が同一の株主総会に提案することができる議案の数は10を超えることができないことを提案しております。この提案は,近時,提案数が多いとされている電力会社に対する運動型株主の提案に係る議案の数も多くて10程度にとどまっていることや,株主が同一の株主総会に議案を何十も提案する必要があることがまれであることなどを踏まえたものでございます。
本文の(注1)は,株主が提案することができる議案の数を制限する場合におきましても,株主が関連性のない多数の条項を追加する定款変更議案を一つの議案として提案したときにおける定款変更議案の数え方についてどのように考えるかを問うものでございます。
定款変更議案の数え方につきましては,現在の株主総会の実務を前提といたしますと,関連性のない多数の条項を追加する定款変更議案であっても,株主が当該議案を分けて提案しなければ,形式的には議案の数は一つであると考えられるように思われます。しかし,株主がこのような定款変更議案を提案した場合には,定款変更の内容の固まりごとに複数の議案が存在すると考えることもでき,そのように考える場合におきましては,定款変更の内容の固まりごとに複数の議案に数の制限が及ぶとも考えられます。
ただし,そのような取扱いが会社提案に係る定款変更議案に及ぼす影響など,現在の株主総会の実務に与える影響を踏まえまして,定款変更議案の数の考え方につきましては御議論いただければと考えております。
続きまして,第2の「2不適切な内容の提案の制限」では,「会社法第304条及び第305条の規定は,次のいずれかに該当する場合には,適用しないものとすることで,どうか。」としております。
①といたしまして,「株主が専ら人の名誉を侵害し,又は人を侮辱する目的で同法第304条の規定による議案の提出及び同法第305条の規定による請求(以下第2の2において『株主提案』という。)を行ったとき。」,②といたしまして,「株主が専ら人を困惑させる目的で株主提案を行ったとき。」,③といたしまして,ここでは二つの案を提案させていただいておりますが,「[株主が株主総会の適切な運営を妨げ,株主の共同の利益を害する目的で株主提案を行ったとき。/株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が著しく害されるおそれがあるとき。]」としております。
なお,補足説明で記載いたしましたとおり,議案の数の制限と同様の理由によりまして,議題提案権については不適切な内容の制限をしないこととしております。
続きまして,本文の①から③までの事由についてそれぞれ御説明させていただきます。本文の①は,株主が専ら人の名誉を侵害し,又は人を侮辱する目的で株主提案を行った場合に,当該株主提案を行うことができないものとすることを提案しております。株主が専ら人の名誉を侵害し,又は人を侮辱する目的で株主提案を行った場合には,正当な権利行使とは言えませんので,このような株主提案を制限することが考えられます。
また,本文②は,専ら人を困惑させる目的で株主提案を行った場合に,当該株主提案を行うことはできないものとすることを提案しております。人の名誉侵害や侮辱に至らない場合でありましても,株主が人を専ら困惑させる目的で株主提案を行ったときは,株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の制度の趣旨に反するのみならず,第1で申し上げましたように,株主総会における審議の時間等が無駄に割かれることになることなどもありますので,嫌がらせ的に株主提案権制度を利用することを防止するために,このような株主提案を制限することが考えられます。
最後の本文③は,(注)に記載いたしましたとおり,株主が株主総会の適切な運営を妨げ,株主の共同の利益を害する目的で株主提案を行った場合に,当該株主提案を行うことができないものとすること,又は株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が著しく害されるおそれがある場合に,当該株主提案を行うことはできないものとすることのいずれかを択一的に提案するものでございます。
株主提案権は,株主総会において行使されるものとして,株主総会の適切な運営との関係において制約を受けると考えられますことから,株主が株主総会の適切な運営を妨げる目的で株主提案を行った場合や,株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられるおそれがある場合などにつきましては,先ほど申し上げた株主提案権の制度の趣旨に反するだけではなく,株主総会の審議時間が無駄に割かれるなどの弊害も生ずることとなり,結果として株主の共同の利益が害されることになりますので,このような株主提案を制限することが考えられます。
本文③におきまして,株主の共同の利益を害する目的を要求する場合と当該目的を要求しない場合というように二つの案を提案させていただいている趣旨でございますが,株主が株主総会の適切な運営を妨げ,株主の共同の利益を害する目的で株主提案を行ったときという要件とした場合につきましては,株式会社側において株主の主観的意図の有無を判断し,立証することが困難であるという御指摘等も考えられることも踏まえまして,株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が著しく害されるおそれがあるという要件も併せて提案するものでございます。
○古本委員
まず,第1点目の「株主提案権の濫用的な行使の制限の要否」でございますけれども,前回も申し上げましたが,これを制限するための措置を整備することに賛成でございます。こういった権利が濫用的に行使されますと,会社においては,提案についての対応の検討,それから招集通知の印刷,郵送,こういったところで,無用の手間とコスト負担を余儀なくされます。また,総会当日におきましては,株主提案に関する趣旨の説明,会社からの反対の意思表明など,必要以上に時間を取られまして,ほかの株主の発言の機会を制約することになってしまいます。会社と株主との建設的な対話の場の一つとしての株主総会の運営に悪影響を及ぼすことにもなりますので,株主提案権の濫用的な行使,これは制限すべきであると考えてございます。
第2の「株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置」のうちの議案の数の制限でございます。部会資料では役員選任議案等を除いて10個までとすることが提案されております。まず,この数としての10個についてですけれども,やはり実務の感覚からはいかにも多いということを申し上げざるを得ないと思います。
元々数の面のみで濫用か否かを判断するということは非常に難しいと考えてございまして,判例上も10個を超えれば濫用であるというふうになっているわけではないと理解してございます。つまり,10という数字が必ずしも濫用か否かのメルクマールになるというわけではないということからいたしますと,10という数字が座りが良いのかもしれませんが,ほかの数字を考えてもおかしくはないのではないかと思う次第でございます。
後で出てまいりますけれども,行使要件が現行法では非常に緩く設定されていると考えておるわけでございます。これとの絡みで,やはり一人10個までとなりますと,同じ株主グループでも二人,三人とこの要件を満たせば,別々の主張という形をとって20個,30個といった数の提案が可能になってしまうという問題がございます。取締役会という株主から信任を受けた機関,これが提案する議案の数が役員選任議案を除きますと,通常は,一つか二つということになっておりますので,これとの比較で見ましても1株主に必ず10個まで保障するというところまで本当に必要なのだろうかという思いがございます。
今申し上げましたように,濫用という観点からだけでは,数において上限設定をするのは難しいと思いますので,一人の株主が総会の時間を独占する,そういうことによる弊害の防止という視点も加味してこの上限の数を検討いただいてもよろしいのではないかと思います。
仮に10個の提案がなされたといたしまして,1議案当たり趣旨説明が5分,会社の反対意見表明,質疑で10分といたしますと,全部で150分掛かるということになります。総会実務では,総会の場では,できるだけ多くの株主に発言の機会を確保するという趣旨から,質問につきましても一人1問ですとか,3問までといったような制限を設ける会社が多いのではないかと思います。これと同じような考え方から,株主提案の上限個数につきましても一人につき1個ないし3個というような数にすることで十分ではないかと考えます。
次に,「役員選任議案を除いて」という部分ですけれども,部会資料に記載のとおりにいたしますと,仮に役員選任議案で10個提案したといたしましても,それは0個というふうにカウントされるということで,あと10個,結局,20個提案できるということになってしまいます。役員選任議案については,全くカウントしないというのはやはり妙な気がいたしますし,先ほど申し上げた総会時間の独占の回避という視点から見ますと,役員選任議案もほかの議案と同じことになりますので,合理的な制限が設けられてしかるべきではないかと思います。
それから,(注1)の記載になりますが,株主が関連性のない多数の条項を追加する定款変更議案を一つの議案として提案したとき,この定款変更議案の数え方でございますけれども,資料の3ページ目の(補足説明)の2にありますように,内容の固まりごとに判断するということにつきましては,異論はございません。ただ,会社側が定款変更を提案するといったときの議案の数え方との関連もございますので,この定款変更議案につきましては業務執行の範囲に属する事項については提案できないとすることも併せて御検討いただきたいと考えてございます。
それから,第2のうちのもう一つの「不適切な内容の提案の制限」でございますけれども,これは,記載されている御提案に賛成でございます。③につきましては,先ほど御説明いただいたとおり,やはり株主の主観に属する提案の目的を立証するということは困難を伴うと思われますので,後の方の文言の,「株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が著しく害されるおそれがあるとき」とする方が望ましいと考えます。
○梅野幹事 少し違う観点からと申しますか,むしろ反対の方向から,まずは論点等を明確にするために発言させていただきます。
濫用的と言えるような事例をどう評価するか。株主提案権の行使を制限する立法事実として十分なのかというところについては,いろいろな意見があり得るだろうと思います。部会資料3の8ページにございますとおり,平成27年7月から28年6月総会において,約3,500社と言われる上場会社のうち,50の会社で提案権行使がされたというように理解しております。それにつきましては,今日配布された『資料版商事法務』の資料においても同様の記載がされているところかと思います。
このうち何社かについては,支配権争いに伴う株主からの提案権の行使であり,何社かについては,電力会社における運動型株主によるものであり,あるいはこれらの中には,定款変更等で不適切な内容と思われるものも含まれていると思います。このような事実をどう評価するかという問題だと思います。
特に数・議案数の観点から制限すべきかについては,より慎重に検討する必要があるのではないかと思います。私が何か事実を見落としているのがあれば御教示いただきたいと思いますが,2013年以降の商事法務の『株主総会白書』というのを見てきたのですけれども,提案数は会社ごとに数個あるいは10個以内にとどまっているというのが多いというように認識しています。部会資料3の2ページにも,電力会社に関する運動型株主の提案に係る議案の数であっても,多くても10個程度にとどまっているという指摘がございます。もちろん,過去に一人の株主から極めて多くの株主提案がなされたことがあったということは認識しております。そういった提案に対しては会社側が真摯に努力をされ,交渉されて議案数を減らすといったような試みもされてきたところだと思いますけれども,そういうある意味ごく一部というか少数の例をもってして株主提案権の行使という重要な権利について数を制限しなければいけないのかどうかという点については,慎重に検討する必要があるのではないかというように考えています。
また,提案権の行使によってどれだけ総会が長時間化しているのかということは必ずしも明らかではないように思います。総会の適正な時間をどれぐらいに想定するかということにもよるかと思いますけれども,提案権が行使された場合,当然,先ほど御指摘があったように,ある程度時間は掛かることになります。ただし,その会社が置かれている状況,あるいはその総会における審議の必要性とか株主の利益といった観点から,本当に許容できないほどの長時間を要しているのかという点については,個別の事案ごとに見ていく必要があるのではないかと思います。仮に提案権行使がない場合であっても,例えば,事業報告に対する質問とか,役員選任議案に対する質問ということで,同程度の時間を要するような場合もあるのではないかと考えています。
私は,株主総会の運営の実務に携わっておりますが,最近の総会は相当運営が洗練されてきていて,提案権の行使に伴い当然時間は取られますけれども,それでも株主からの発言は広くお受けして,なるべく対話型の総会を試みているという努力もされているというように認識しております。
また,本当に数の制限でうまくいくのかという点も,若干疑問があると思っています。部会資料3の3ページには定款変更の内容の固まりごとに複数の議案が存在すると考えることができるとありますが,その議案の固まりをどう分類するかというのは大変難しい問題のように思え,そう簡単に結論を出せないのではないかなというのが1点目。次に,株主ごとに10個なり何個なりと制限したところで,何人かの株主が提案されると結局同じような事態になってしまうのではないかというような懸念もあるのではないかと思います。そういった意味で,議案の数による制限については,慎重に御検討いただければと思う次第です。
定款変更議案等で不適切と思われる議案があるのは,確かであると思います。個人的には,これに対応するために法律上何らかの定めを設けることはあり得るだろうと思います。ただし,今回提案されている工夫されている三つの案,部会資料3の5頁に記載されている①から③までの案,そのうちの3番目の案については二通りの提案がされていますが,実際これが採用されたとしても,株主提案がなされた段階で,いずれにせよ会社としては,これらの要件に該当するか否かという非常に難しい判断を要求されることになるだろうと思います。
通常の会社としては取消事由にはならないとしても,損害賠償義務を負うということ自体避けたいという感覚だと思いますが,そういった状況において非常に難しい判断を強いられる。そうであったとしても,御提案いただいているような単なる一般条項ではない,何らかの形で具体化した条文があれば,それは実務上役に立つ面がある,取っ掛かりにできるというようにも思います。
○沖委員 ありがとうございます。
株主提案権の濫用的な行使の制限のための措置ですが,その必要性や要件の設定について立法事実の慎重な評価が必要なことは事実だと思います。そのための資料ですけれども,先ほど御指摘がありました,公益社団法人商事法務研究会の刊行する『資料版商事法務』,この毎年9月号に前年の7月から当年の6月総会までの具体的な株主提案権の事例が整理して毎年掲載されております。これを過去に遡って見ますと,正直,やはりその提案の中身は問題があるのではないかというものが多数見られます。そういったものをどのように評価するかということになってくると思います。
これを,株主総会の実質的な機能という観点から見てみますと,この企業法務の分野でも総会の運営というのはここ二,三十年で大きく変化した分野でありまして,私が弁護士登録した当時は株主の対応とか質問への回答というのは一種の有事対応であるかのような扱いでしたが,今では様変わりで,会社が株主の質問に対して丁寧に答えると。時間の許す限り答えると。そういった対応はされておりますので,本当に対話ということを考えるようになっているかと思います。
ただ,そうは言いましても,株主総会の審議時間というのは,おのずから合理的な制約はあるかと思うのですね。例えば,朝10時に始めますと,正午までが一つの勝負なわけです。そういった限られた中で公平に株主の質問を受けたり,株主総会の機能を全うするという観点も重要だと思いますので,そういった機能から問題になっている株主提案権の制限の必要性の有無というのを考える必要があるということであると理解しております。
この制限をする場合に,要件の設定については,部会資料では目的の観点と内容の観点からそれぞれ提案がされていると思います。そこで,株主名簿の閲覧請求等ですと,これは基本的に行為としては同じでありまして,目的の点から評価するほかはないわけです。ただ,株主提案権というのは正に提案の内容があるわけでして,その内容面からのやはり制限措置というのは検討する必要があると思います。
その際に,まず,総会の適切な運営を妨げ,株主共同の利益を著しく害するという要件が提案されていますが,この前半の総会の適切な運営を妨げるかどうか,これは株主総会の会議体としての目的との関係でどうかということだと思います。これと後半の株主共同の利益を著しく害するというのは,これは言わば,議案の内容そのものが問題になってくる。もし仮にその議案が可決されたときに会社にどういう影響を及ぼすかということだと思いますので,それぞれこの二つの要件は分けて,独自の要件として設定することが妥当ではないかと考えます。
あとは,『商事法務』の具体例を見ましても,問題と思われる議案のほとんど全てが定款を変更することによって代表取締役に特定の行為を義務付けるというそういう形態のものとなっておりますので,そういったものに問題が多いことは事実だと思います。ですから,この要件の設定に当たっては,そういった定款変更議案の濫用に対応できるものでないといけませんので,その意味でも株主共同の利益を著しく害するという要件は検討する必要があるのではないかと考えます。
○大竹委員
いろいろ議論を興味深く拝聴しておりましたが,裁判所の立場から少し観点を変えまして,株主提案権で苦労しているとすれば,株主提案権に基づく保全処分ということになりますので,少し私の部で担当させていただいた保全処分の実例を御紹介させていただきます。
事案は,株主である債権者が同社の代表執行役である債務者らに対して株主提案権に基づいて招集通知及び参考書類に議題,議案の要領及び提案の理由の記載を求める仮処分の申立てであります。当初は20個の議題,議案の要領及び理由の記載等,これは反対提案とか修正提案も含んでいたようですが,その20個の提案と,それから7個の理由の記載の補充を求めて申立てがされました。
申立ては4月30日でありました。株主総会の予定日は6月1日以降とされておりました。こういう保全処分の申立てを受けますと,裁判官としては,現行法の下では,審理の終期は印刷に付す日だなと,そうすると会社の方にいつ印刷に付しますかというのをお聞きして,それまでにできるだけ裁判所の方で判断をするようにしたいと考えるというのが多くの裁判官のマインドかと思います。
その事件でも,保全の決定は5月9日にされ,一部認容でしたので,保全異議の決定は5月15日にし,保全抗告がされまして,5月27日に,これはもう印刷に付された後ですけれども,高裁の方で抗告審の決定が出たということになります。一般論としては,この保全の審理,特に当初の審理では,掲載を求める議案が明らかに理由がないあるいは違法であるといったものは「もう取り下げたらどうですか」という勧告をする。それから,表現ぶりが不穏当ではあるが少し直せば掲載が認められそうなものは,申立人には「少し直したらどうですか」と言い,会社の方には「そう直すと言ってるから載せたらどうですか」というような和解のようなことをして,取下げをしてもらうというようなことをして,残ったものについては保全裁判所として判断をすることになりますが,時間との闘いということになり,裁判所としてはなかなか厳しい類型の事件ということになります。
その観点からは,提案できる議案の数に数の上で制限を設けていただくというのは,基本的には方向としては賛成であります。それが,10個がいいのかどうかというのはよくいろいろな御議論をいただいたらよろしいかと思います。
その点から裁判所からの質問ないし要望といたしましては,もう出ているところでありますけれども,1個の数の数え方ということになります。特に,実際問題としては株主が1個の議題あるいは議案の要領,提案理由の中に内容的に複数のものを盛り込んで1個の株主提案権の行使だと主張するというのは,容易に推察されるということになりますので,その点はよくこの場でいろいろ御議論いただいて,裁判所も勉強させていただきたいと思います。
それから,部会資料3の5頁に①,②,③と挙がっていることに関連して,二つほど質問ないし要望がございます。
一つ目は,この5ページの①の「株主が専ら人の名誉を侵害し」というこの類型においては,そういう目的で株主提案権を行使するという,①はそういう表記になっていますが,他方で,6ページの(補足説明)の2の第2段落の終わりのところは,「客観的にみて人の名誉を侵害し,又は人を侮辱する事実があるかどうかが考慮要素になる」という書き方になっています。この客観的にみて考慮要素になるというのがどういう御趣旨なのか。特に名誉毀損訴訟を担当している裁判官からは,これは真実性の証明を許すのか,真実だという主張が出てきたときにどう扱うことになるのかというのは疑問に感じるところですので,少し御議論をいただけましたら有り難いと存じます。
二つ目は,同じく5ページの①の類型に関連して,実際には取締役の解任事案などでこの手の取締役の不行状というのが出てきて,その中にいろいろ真実かどうか分からないけれども,その取締役の社会的評価を低下せしめるような事実が摘示されるということはままあるところかと思います。その場合のまとめ方は,そうであるので取締役の適格性には疑問がある。」という提案の理由になるわけなのでしょうけれども,そういう提案の理由になったときのこの種の取扱いと言いますか,それを「専ら人の名誉を侵害する目的」で株主提案権を行使したのか否かの中で判断するというのもなかなか厳しい感じがします。実際に審理を担当する者からはそのような疑問を持ちますので,またおいおい御議論いただけたらと存じます。
○前田委員 この濫用的な行使を制限するための措置として二つ挙がっているうち,重要なのは,後者の不適切な内容の提案の制限の方だと思います。ここは表現が非常に難しいところだとは思うのですけれども,今回せっかく明文規定を設けるのであれば,できることならもう権利濫用の一般規定に頼らずに会社法だけで完結できるように,濫用的な行使を全てカバーできるような形にするのが一番望ましいのではないかと思います。株主名簿の閲覧請求,会計帳簿の閲覧請求,あるいは説明義務の規定などは全てそのような自足的な規定になっているのだと思います。
今回の案は,③が広く使えそうな書き方になっており,これら①から③で権利濫用と考えられる場合を全てカバーできるのかもしれませんけれども,あるいはより一般的な包括規定になり得るようなもの,例えば,「株主であることと関連しない利益のために株主提案を行ったとき」というぐらいの,もう少し一般的,抽象的な場合を定めておくことも考えられるのではないかと思います。
○小林委員 どうもありがとうございます。
まず,株主が提案することができる議案の数の制限というところなのですが,先ほど実務的な感覚については古本委員の方からいろいろお話がありましたので,そちらと概ね同じなのですが,やはり株主総会の運営上,株主との対話,特に質疑等を一般的な意味で充実させるという意味では,余り議案の数が多過ぎると,その他の言わば,説明に時間が取りにくいということがあるのと,もう一つ,質疑はよろしいのですが,議案ということを考えますと,株主全体の利益に関わる熟度の高い提案であることが必要だと考えるとしますと,一般的に可決されるところまでいくかどうかは別としても,かなり多数の賛同が得られるような議案でないとおかしいのではないかなとそういう感覚がございます。
そうすると,一人の株主からそういう議案がたくさん幾つも出されるのかというと,ちょっとそういうレベルのものが10個も出てくるというのはどう考えてもそこまではいかないのではないかと。やはりそういう意味での熟度のレベルからいくと,よくて二,三個ぐらいではないかなという感じがしますので,先ほど古本委員から1個あるいはということなのですけれども,私どもの検討としては3個ぐらいが限界なのではないのだろうかという感覚を持っております。
それから,不適切な内容の提案の制限については,こういう文言を考えていただいて大変有り難いところでございますが,特に③の方はやはり客観的要素が盛り込まれている方がいいと思いますので,後段部分の方がいいのかなと思うのですが。
一つ,①,②につきまして,人の名誉を侵害し,人を侮辱すると書いてあるのですけれども,もう一つ人を困惑させるというところで,「専ら」という文言が付いているのです。これだと非常に厳しい基準かなと。そこをどういうふうに実際認定するのかということはあるのですけれども,やはり「主として」くらいの感じで,「専ら」ではなくて,もう少しレベル感を下げていただいてもいいのではないか。「主として人の名誉を侮辱し」とか,あるいは「主として人を困惑させる」というぐらいでもいいのではないか。この辺はちょっと技術的な問題はもちろんおありかもしれませんが,私どもの印象としてはそういう感じです。
もう一つ,③につきましても株主の共同の利益が著しく害されるおそれがあるというふうになっているのですけれども,これにつきましても「著しく」とまで言う必要があるのかどうか,ちょっとこの辺については検討いただきたい。私どもとしてはむしろ「著しく」はない方がいいと考えておりますが,御検討いただけると有り難いなというところでございます。
○加藤幹事 ありがとうございます。
2点意見を述べさせていただきます。
1点目は,株主が提案することができる議案の数の制限についてです。様々な御意見を伺
っておりまして,議案の数を制限する根拠を濫用の抑止という観点だけに求めるのか,それ
とも株主総会を通じて株主と会社の間で意味のある対話が行われることを確保及び促進する
という観点も考慮すべきとの立場が存在するように思います。
数の制限を,むしろ濫用というよりは,後者の言わば,株主総会で意味のある対話が行われることの確保及び促進という観点から位置付けるのであれば,10よりも少し下げてもいいかなという気がいたします。
それに対しまして,濫用のメルクマールとしての数ということになりますと,実は10個では少な過ぎるのではないかと思います。数のみに着目して株主提案権が濫用されているという状態は,もっと数が多い場合を指すように思います。
繰り返しになりますが,提案の数を制限する意味には二つあって,制度設計をする際に両者をどのように考慮するかによって,結論が異なる気がしております。
2点目は,不適切な内容の提案の制限に関してなのですが,具体的な提案として人の名誉であるとか人を困惑させるとかと非常に一般的な規定の仕方がなされています。これは会社を困惑させるとか,役員とかを困惑させるとかということだけでなくて,より一般的に会社とは一見関係がないような人を困惑させるような提案も拒否できるとか,そういう趣旨を含んでいるのかどうか確認させていただければと思います。
○竹林幹事 ここで専ら念頭に置いているのは会社,その関係者を困惑させるというようなことでございまして,具体的な提案が一般的に人を困惑させるようなものは会社も困惑させるのかどうか,ちょっとその辺り具体的なものをどのように念頭に置かれているのかにもよりますけれども,ここでは人と書いておりますが,会社,その関係者を困惑させるというようなことを念頭に置いて考えております。
○松井(智)幹事 手短になのですけれども。第2のところで,たくさんの株主が共同して提案をしてきたことが判別できないと結局減らないのではないかというお話があったのですけれども。会社の側から複数の株主に対して,あなたたちの議案は共同していますので,この点についてはまとめていただけないかという働きを行った上で,これをあえて拒否する場合には第3の権利がないという方に持っていくというやり方というのもあるのかなと思いました。
それとの関係なのですが,複数の株主が10個が10個重複しているわけではなくて,一部分が重複しているけれども,ほかの部分は独自であるというようなそういう提案の仕方をしてきたときに,併せて10個と数えるというこの数え方はどうするのだろうというのがちょっとよく分からなかったので,この点がもし御意見,想定があるようであれば伺いたいということであります。
○竹林幹事 松井幹事の今の御質問なのですが,一部重複というのは内容の一部重複でなくて,人の一部重複をおっしゃっているのでしょうか。
○松井(智)幹事 内容ですね。
○竹林幹事 内容の一部重複の問題は,恐らくそれはどこまでが独立した議案なのかということに関わってくるのだろうと思っております。どこまでが一つの議案かということを判断した上で重複があるということになってきた場合については,今でも同じ議案が重複しているようなときにどのように取り扱うのかということとの関係もありますが,その重複した議案を取り下げていただければ残りの議案の数で数えるということになってくるのだと思います。
関連ある議案についてどこまでを一つと見ていくのかということ自体に難しい問題があるのだろうとは思っております。
○藤田委員 私からは,一つ目の提案と二つ目の提案各々について簡単に申し上げたいと思います。
一つ目の提案で,議案の数の制限については,具体的な数字について,今日は意見は控えさせていただきたいと思います。ただ,具体的な数字はいくつにするにせよ,御指摘のありましたとおり,議案の数え方をある程度確立していかないと議案数の制限はおよそ機能しないルールになります。数え方を全部裁判所に丸投げするのも,ちょっと無責任かなという気もしますので,もし可能なら,何らかの形で議案の数え方に関する基本的な考え方を,最後条文になるかどうかはともかく,議論はしておいた方がいいとは思います。
余りいい例を思い付かないので突飛なことを言って申し訳ないのですが,国会法では憲法改正の発議の仕方について規定されていて,国会法68条の3では,「憲法改正原案の発議に当たつては,内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」とあります。バラバラに全部1条ずつ国民投票にかけたりしますと,およそ両立しないような条文が残ってしまったりしかねない,例えば,両院制廃止する憲法改正をしたのに両院制を前提とした特定の条文が残ったりすると困る,だから関連する事項ごとに区分して賛否を問うということでしょう。論理的に関係があって,切り離して判断することが望ましくないようなものは,少なくとも一つと考えなければいけないという発想が表れている条文だと思います。今の国会法と同じ条文で規定しただけで,裁判所にとって有益な指針になるかどうかは分からないのですが,何もない白紙で委ねるのもどうかと思いますので,少なくとも一定の関連性のある議案を一つと数えるという発想を示すための何らかの規定を置くことができないかを議論することが望ましいと思います。
2番目の内容の制限の方ですけれども,この三つでおよそ足りるかという,前田委員の言われた問題もあるのですが,それとは別に③の内容について確認させていただければと思います。先ほど沖委員からの御意見もあった点です。私は,この条文――前の方でも後の方でもいいのですが――の読み方として,株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,その結果株主の共同の利益が著しく害される,つまり,運営が妨げられることによって共同の利益が害される場合を規定しているものと読みました。したがって,とんでもない内容の提案で,万一これが可決されたら会社が大変なことになるから共同の利益に反するとして株主提案を取り上げないという扱いは,少なくともこの条項によってはできないと読みました。内容が悪い提案を否決するのは,総会において株主が行うべきことで,万一このような内容が可決されたら困るという理由で提案それ自体を拒絶することはできない。しかし,そのような提案を取り上げること自身が株主総会の運営にとって望ましくないと言えるような場合,愉快犯的な提案でほかの議案に使うことができたはずの株主総会の時間を割いて議論するのが時間の無駄としかいいようがなく,株主共同の利益に反するから取り上げないというような扱いを認めるものだと読ませていただきました。それが正しいのかというのが確認したい点です。
もう1点は,「株主総会の適切な運営」という言葉で表現されている内容ですが,総会当日における議場での議事の進行のみならず,株主総会の準備も含め適切な運営と書かれていると私は読んだのですけれども,それでよろしいでしょうか。例えば,膨大な提案を直前になって送りつけて,会社側としておよそ対処もできず,株主総会の準備に支障を来すということは,やはり「適切な運営が妨げられる」という文言の中に含まれていると理解したのですが,それで正しいでしょうか。最後の2点は事務局への質問です。
○竹林幹事 記載の趣旨はいずれも藤田委員から御指摘いただいたとおりでございまして,株主共同の利益と書かせていただいておりますのは,株主総会の運営に関わるような利益であると考えております。また,株主総会の適切な運営でございますが,これは議事そのもののみではなく,会社側の事前の準備等のコストといったものも株主の共同の利益に当たってくるということを念頭に置いて考えております。
・第三回法制審議会
まず,第3の「1株主提案権の行使要件の見直しの要否」では,取締役会設置会社における株主の株主提案権の行使要件のうち,300個以上の議決権という要件を引き上げるべきかどうかについて,どのように考えるかとしております。
近時の株主提案権の濫用的な行使事例や株主提案権が導入された昭和56年当時と比較して投資単位が減少していることを踏まえ,株主提案権を行使することができる株主の範囲が広くなり得ることが懸念されており,株主提案権の行使要件のうち300個以上の議決権という要件を引き上げるべきであるという指摘がされております。
しかし,300個以上の議決権という要件を引き上げることは,株主が多数存在する大規模な会社における個人株主による株主提案権の行使を過度に制限してしまうことになるおそれがあると考えられます。
また,300個以上の議決権という要件が,近時の株主提案権の濫用的な行使事例を生じさせた原因であるかは明らかでないことから,当該要件を引き上げるべきか否かについて,株主提案権の濫用的な行使を制限する観点から検討することは相当でないとも考えられます。
さらに,株主提案の数や内容についての措置を整備することとした場合には,近時の株主提案権の濫用的な行使事例の問題は相当程度解消するとも考えられます。
そもそも我が国においては,株主提案権の行使を受けた上場会社の数は50社程度にとどまっており,依然としてその数は少ないという指摘もございます。
したがって,これらの事情も踏まえて,取締役会設置会社における株主の株主提案権の行使要件のうち,300個以上の議決権という要件を引き上げることが適切か否かについては慎重に御議論いただければと存じます。
第3の「2株主提案権の行使期限の前倒しの要否」では,株主総会の日の8週間前までという株主提案権の行使期限を前倒しすべきかどうかについてどのように考えるかとしております。
招集通知を法定の期限より早期に発送している上場会社等においては,招集通知を印刷し封入することなどに要する期間のみならず,株主提案権の行使を受けた後に,その適法性を検討し,議案を作成することなどに要する期間も考慮すると,株主提案権の行使の期限である株主総会の日の8週間前から招集通知の発送までの期間が短くなるので,株主提案権の行使の期限を前倒しすべきであるという指摘がされております。
しかし,例えば定時株主総会を6月より後に開催する場合には,計算書類等の作成や監査に必要な期間に時間的な余裕が生ずる結果として,株主提案権の行使の適法性の検討等に要する期間にも時間的な余裕が生ずることとなると考えられます。
また,株主提案の数や内容についての措置を整備することとした場合には,株主が提案することができる議案の数が制限されることなどから,株主提案権の行使の適法性の検討等に要する期間も短縮することができることとなると考えられます。
さらに,株主は株主提案権の行使時に株主総会の日を正確には知らないのが通常であるので,8週間前を更に前倒しした場合には,株主側に及ぶことになる不利益にも配慮する必要があると考えられます。
したがって,これらの事情も踏まえて,株主総会の日の8週間前までという株主提案権の行使期限を前倒しすることが適切か否かについては慎重に御議論いただければと存じます。事務当局からの説明は以上です。
○古本委員 まず,1番目の株主提案権の行使要件の見直しの要否なのですけれども,この行使要件のうちの300個以上の議決権,慎重な検討を要するということになっておりますけれども,やはり現実的に考えますと,これは株主提案権の濫用を抑止するという意味ではかなり大きな影響のある部分ではないかと思いますので,廃止又は引上げですね,基準の引上げを御検討いただきたいなと思います。
規模の大きな会社について考えますと,議決権300個といいますと,恐らく1%の更に100分の1にも満たないというようなレベルの数字になることもあると思います。金額的にも,時価で言いましてせいぜい数千万円程度というところではないかと思います。数千万円といいましても,株式を保有していなければいけないのは基準日だけでありますので,実務の感覚からしますとこれは現実的なハードルは相当に低い状態になっているのではないかと思います。
我々の問題意識といたしましては,株主提案権に基づいて提案をする株主は,提案の内容について何の責任も問われないということです。そういうものが出てきても,会社としてはコストを掛けて検討し,それを書類の中に入れていかないといけないと,こういう問題がありまして,そういうことが許されるのは,やはりある程度コストが自分の痛みとしても返ってくると,ちょっと考え方はそれで正しいかどうか分かりませんけれども,1%というのであれば何となく理解できるような気がするのですけれども,300個というのが一体どこから出てきたのだろうかと。それが,今現実に妥当なのかどうかということはもう一度前向きに御検討いただきたいなということであります。
第1回目にも申し上げたと思いますけれども,この300個という,こういう数字の規定の仕方というのはここだけだと思いますので,この在り方が妥当なのかどうなのかというところにやはり疑問を感じているということでございます。
それから,もう一つの行使期限の前倒しの要否のところでありますけれども,ここについても是非前向きに御検討いただきたいなと思います。現実問題といたしまして,期限の直前,この8週間前直前になって提案権を行使されますと,会社といたしましては総会の準備,これはスケジュール的に大変厳しいものになります。ですので,これが前倒しされますと,招集通知の早期開示にも対応しやすくなるという利点もございますので,この点もよろしく御検討いただきたいということでございます。
部会資料最後のページの中ほどといいますか,「しかし」のところにありますけれども,6月より遅く総会を開催すれば対応に支障がないのではないかといった趣旨の記載がございますけれども,7月とか8月とかに総会を開催するということにいたしますと,年度が始まってから4か月,5か月たっても役員の選任が行われないと,実務の執行体制が固まらないという問題が生じてしまいますので,7月総会といったものを前提にした議論は現実に合っていないのではないかというふうに思います。
それから,部会資料で,その次に,株主は総会期日を知り得ないので提案権の行使が一層困難になる,これは期間が延びれば延びるほど困難になるという趣旨だと思いますけれども,現実には8週間前であるのと10週間前ないし12週間前であるのと,どれほどの差があるのかなという気がいたします。
ということで,この提案権の行使期限の前倒しにつきましても,これは総会資料の電子化における書面送付の期限の設定とも絡みますので,そうした関連でも御検討いただけないかと思います。
○野村委員 今の御発言の中で300個の話がございましたが,私は今回の改正の趣旨は,濫用的な株主の提案権を防止することであって,現在提案されていることの中で濫用的ではないものについて,その提案自体を抑制するということが立法の目的ではないと思いますので,濫用的な事柄が数と内容によって十分確保できるのであれば,現在極めて少額な出資者の人たちがある一定数集まって合理的な提案をされていることを妨げるようなことはしない方がいいんではないかなと思います。
○小林委員 小林でございます。
先ほどの古本委員の議論とほぼ,理由というか実態は同じところでございますが,やはりこの300個要件については廃止ないし引上げを求めるものでございます。
濫用的な問題というところをもちろん前提にした議論に近いところではあるのですけれども,現実,株主総会の実務というところで見ますと,やはり非常に限られた時間でたくさんの株主からの質疑を受けたり,あるいは現実の合理的な提案についてはもちろん審議するということはあるわけなのですが,先ほどの古本委員からの御指摘もありましたように非常に低い議決権の比率の方が提案するということになりますと,実際に私どもとして重要なのは,これが一定数,相当数の賛成票を集められるかどうかというところが事前に全くスクリーニングなしに出てくるのは本当に良いのかというところがございます。そういう意味では,1%というのは一つの目安ではないかなと思います。
例えにはなりませんけれども,別に国会でもやはり例えば衆議院の20人とか参議院で10人とかいう法案の提案権の縛りがあって,これってよくよく考えても5%くらいですし,余り例えにはならないかもしれませんけれども,マンションの管理組合みたいにこういう全体の合同の話をするときでも,標準規約では議決権の2割とか,そういうふうな,5分の1とかいうふうな基準が付けられております。どちらかというともう率だけで切っていただかないと,やはり非常にいろいろな規模の会社があるということを考えると,定型的な処理にとってやはり支障が出ることも現実にはあるというふうな認識からいいますと,そういう意味での基準があって本来しかるべきなのではないかなという気がしております。
もう一つの提案権の行使については,元々基準日から3か月というところで考えたときに,株主提案がされて,実際最後の総会というよりは,それより前に議案を決める取締役会というのは招集通知の発送スケジュールとか考えるとして1か月半ぐらいまでに普通やらなければいけない。これは決算とか何とか全然関係なくて,早くに株主総会をやろうとすればそれを前倒しするということになると,実際には提案を受けてから取締役会までは検討して,それを決めるまでの日程はほとんどないという現実がございます。そうすると,内容がかなり熟度の高い内容であれば別ですけれども,非常に熟度の低いもの,ないしは数が多いものというような現実があると,そこのコミュニケーションを提案された株主とさせていただく必要があるという観点から見れば,やはり一定の時間が必要だということと,先ほど申し上げた現実に議案として取り上げるかどうかという取締役会までのスケジュールを考えると,やはり今の全体の3か月という範囲の中では8週前というのは非常に短いという感じでございまして,やはり10週なり12週というようなところまでという期限を入れていただきたいなと思います。
これと直接関係ないですけれども,実際にそれに当たる事務局の苦労というのは大変なものだというのはもう現実に提案された会社の方皆さんおっしゃっていますので,働き方改革ではございませんが,一定のやはり時間が欲しいというところは実務的な要請としてはございますので,そういう意味での丁寧な対応をさせていただくという意味で,お時間を頂戴できるような検討をしていただきたいというところでございます。
○沖委員 ありがとうございます。
株主提案権の行使期限の前倒しですけれども,私も1,2週間程度の行使期限の前倒しを検討する必要があるのではないかと考えております。まず,総会準備のスケジュールの観点から申しますと,招集通知が会日の2週間前という発送期限がありますが,これが1週間程度以上早期発送され,この期間は拡大している現状にあると思います。ほかに通知等の決定,印刷に必要な時間を考慮しますと,株主提案権の対応のための時間というのは相当に限られてくると思います。この間に,提案の適法性の法律的検討,取締役の対応,さらに,提案に問題がある場合の提案者との間での交渉等をこなすというのは非常に厳しいと考えます。
もし,会社が株主提案を不適法として拒絶した場合には,提案株主としては議案要領記載の仮処分命令等の申立てで対応することになりますが,過去の判例を見ますと,抗告審の判断が出る段階では招集通知の印刷が終了してしまっていると,そういう事例もありますので,司法審査の期間を十分に確保するという観点からも,可能であれば行使期限を前倒しすることが望ましいと考えます。
なお,部会資料の中で指摘されております7月総会の可能性ですが,これが実務上行われるようになったとしましても,監査法人の監査やこれに対応する社内の経理担当者の負担を軽減する効果はあるとは思いますが,総会担当者や役員の負担を果たしてどこまで軽減するのかという疑問は残ります。総会当月と前月の担当者の負担というのは相当のものですので,その中で株主提案に対し適切に対応するということはかなり厳しいので,その環境整備の必要性は高いと思います。
なお,株主総会資料の電子提供制度を採用した場合,アクセス通知としての招集通知の発送期限は1,2週間前倒しするということが検討されていると思います。これを実現する場合には,これに応じて株主総会の株主提案権の行使期限も1,2週間程度前倒しする必要があるのではないかと思います。
他方,提案株主の側から見ますと,定時総会の開催日というのは期末に固定された基準日や前年の総会日からある程度その時期の予測は可能ですので,1,2週間これが前倒しされたとしても対応は可能ではないかと思います。したがいまして,1,2週間程度の前倒しの方向で前向きに検討する必要があると思います。
○三瓶委員 議決権行使の実務の面から,行使する側からちょっとお話をします。
まず,この資料の中で年間50社程度にとどまっておりというのがあるのですが,確かに全体からすると数は少ないかもしれません。ただ,当該1社について議決権行使をするときに,時間配分的には株主提案の方に8割ぐらいの時間を掛けることになります。というのは,会社提案というのはある種毎年の繰り返しのものもあるし,大体予想の付く範囲なので,どういう方針で向き合うかというのは大体の方針があります。ただ,株主提案についてはどんなものが来るか分からないということと,根拠が余り定かではないというようなこともありますので,これは一つ一つかなりチェックするのに時間が掛かります。そういう意味で,たかが50件といっても,その50件に割く時間配分を皆さんが予想しているとすれば,実際のところは,意外に思われるところがあるのではないかなということ
です。
そして,そのとき何が起こるかというと,特に今,平均で外国人株主が30%ぐらいいるようですけれども,基本的に日本語ではなく英語で議決権行使をすることになります。発行会社側が英語で発信してくれていればまだいいのですけれども,そうではない場合に議決権行使助言会社等の英訳を待って,議決権行使の手続に入ります。そうするとスタートが1週間ぐらい遅れます。そこで,ただその議決権行使助言会社も大変ですから,株主提案について全訳はしません。非常に簡潔にエッセンスだけを訳します。
そうすると,真っ当な議決権行使助言会社が真っ当な英語でさらっとエッセンスだけ述べるととてもそれらしくなります。そうすると,それだけを見て判断するとなるほどなと株主提案に納得するのですけれども,原点に返ってどういう理由で提案しているのかを見ると,ここは判断が随分変わることがあります。というのは,そもそもほかの議案との関係で矛盾しているとか,又はその会社の機関設計上矛盾があるとかいうことがだんだん見えてきます。なので,現状では多くの株主提案を受けた会社に関しては,議決権行使は非常に危なっかしい状態で行われている可能性が否めないというのがあります。
だからといって,その制限をどういうふうにしたらいいかというのは非常に難しいのですけれども,結果的に十分に考慮していないような提案をしていることもよくあるので,そうした株主提案が300個という低いハードルでできてしまうのは適正なのだろうかとは思います。
あと,株主提案には定款変更議案というのが多いのですけれども,定款変更議案について,その中身が本来取締役会決議事項であるものとか,又は業務執行に関わる内容ではないかというような具体的で細かいことが随分あります。これを定款に全部入れるのかと。そうすると,経営判断が随分制限を加えられるので,ここについてはそもそも議案として適正かどうかという判断の根拠として,取締役会決定事項であるとか業務執行に関わることとかいうことは考慮する余地があるのではないかと思います。
○青委員 まず,提案権の行使要件の方でございますけれども,そちらに関しましては濫用防止という観点から別途数や内容の制限についての検討が進んでいるということからいけば,行使要件のところで個人の株主が建設的な提案を行う機会を減らすような方向性に進むことになってしまうというのは,基本的には避ける方が望ましいのではないかと思われます。
加えて,行使期限の前倒しという観点につきましても,こちらも濫用防止のための数の制限等々を考えていくということでいけば,現状との比較という意味でいけば,行使期限の前倒しというのは必ずしも行う必要はないのではないかと考える次第ではございます。
ただ一方で,招集通知あるいはアクセス通知をより早期に発送するということを求めていくということにして,招集通知の準備期間が必要だということであれば,むしろその情報を早く提供するという,そういうプラスの意味があるわけでございますので,そうしたことをセットでということであれば,一定の提案権の行使期限の前倒しは致し方ないというか,あり得る話かなというふうに思う次第であります。
○松井(智)幹事 すみません,今の点,ちょっと私,前回の資料を手元に持っておらず,どんなふうになっているのか,ちょっと事実関係の確認ができないのですけれども,Notice&Accessの制度を取り入れた場合に,招集通知が前倒しになるというところまでの御指摘は頂いたのですけれども,それと連動して取締役会における議案の確定の日程というのも1週間程度早まって,その検討の時間が1週間程度短縮されるということであれば確かに大変かなと思うのですけれども,その点がどうだったのかということがちょっと確認できなくて,すみません。
○沖委員 当然アクセス通知を発送するためには少なくとも議題を決めないといけないのですけれども,その際,株主提案が出されていれば,それを採用するかどうかで議題が追加になるわけですから,そのアクセス通知発送までには少なくとも当該株主提案の議題を受けるかどうかですね,これを決めないといけないということですので,その検討の期間がやはり1,2週間前倒し,余分に取る必要があるのではないかと,そういう意味で申し上げました。
○松井(智)幹事 すみません,役会の日程は変わらず,そこからの事務作業が短縮された結果,招集通知発送が早まるということであれば,恐らく議案確定までの時間のリードタイムというのは余り変わらないのかなというふうに思ったということです。
続きはあした!!