令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その5~ 知ってほしい表裏一体の不思議
民訴法はおいしい科目
点数が安定してくると大崩れしなくなるのが民訴法の特徴だと思います。
非常にとっつきにくい科目ですが、どうか嫌いにならないでください。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3、その4もご覧ください。
ウ 設問3のまとめ
(略)
4 法科大学院に求めるもの
本年の問題に対しては,多くの答案において,一応の論述がされていたが,定型的な論証パターンをそのまま書き出したと思われる答案,出題の趣旨とは関係のない論述や解答に必要のない論述をする答案,事案に即した検討が不十分であり,抽象論に終始する答案なども,残念ながら散見された。
→「論証が悪」なのではない。論証と条文・判例等論証の元となる法源とのつながり、論証と問題文から導かれる具体的事実関係とのつながりに関する説明が不十分だから、「悪」になってしまうのである。つまり、論証を使う者の能力不足が原因である。予備校添削等では、論証が書けていれば多少あてはめが不十分でも○を付けられることが少なくない。これは、添削時間に限りがあるためだと思うが、非常に問題があると思う。受験生自身も自分の身を守るため、厳しくチェックしてもらいたい。
また,民事訴訟の極めて基礎的な事項への理解や基礎的な条文の理解が十分な水準に至っていないと思われる答案も一定数あった。これらの結果は,受験者が民事訴訟の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得のために体系書や条文を繰り返し精読するという地道な作業をおろそかにし,依然としていわゆる論点主義に陥っており,個別論点に対する解答の効率的な取得を重視しているのではないかとの強い懸念を生じさせる。この点は,設問1や設問2の採点実感中において指摘したとおりである。
→条文や制度趣旨等、「当たり前の事項」に関する理解が大事なのである。その上にしか、論点の理解は成立しない。にもかかわらず「論点主義」に陥っていると言われるのは、闇雲に暗記する学習に走っている受験生が多いからであろう。暗記も大事である。しかし、その前提の思考をきちんと学んでいないと「使える知識」は身につかない。そして、「法律は道具」であるから、「使えない知識」では意味がない。難しい法律論の中で学ぼうとするから気付かぬうちに暗記学習に傾倒してしまう。誰でも理解できる簡単な事項の中で法的思考を学んでほしい。やはり基礎基本が大事なのである。
また,設問3において,典型的な論点であると思われる課題1とそうではない課題2とで論証の充実度に大きな差異があったことからも,いわゆる論点主義の弊害がうかがわれよう。昨年も指摘したところであるが,条文の趣旨や判例,学説等の正確な理解を駆使して,日々生起する様々な事象や問題に対して,論理的に思考し,説得的な結論を提示する能力は,法律実務家に望まれるところであり,このような能力は,基本法制の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得,論理的な思考の日々の訓練という地道な作業によってこそ涵養され得るものと思われる。法科大学院においては,このことが法科大学院生にも広く共有されるよう指導いただきたい。以上は,例年指摘しているところであるが,本年も重ねて強調したい。
→「思考の訓練をせよ」と言われても、受験生の立場からすれば何をすればいいのかわからないはずである。だから、まずは思考の方法を学ぶ必要があると思う。しかし、これを丁寧に教え、訓練してくれる人が少ないように思う。予備校の基礎講座等でも初期段階で教えられるが、気付けば難解な法律論に脳内を支配される時間が多くなる。そのうち、法的思考がぐちゃぐちゃになる。でも、もう誰もそのことに気を留めない。論点の理解・暗記ばかりに気を取られるからである。3歩進んだら2歩下がるゆとりも大事だと思う。どんなに学習を重ねても常に「基礎基本」を振り返る時間を取ってほしし。「簡単すぎる」ことはない。基礎基本を大事にする「意識」が難解な法律論を理解するカギであると思う。
また,民事訴訟法の分野においては,理論と実務とは車の両輪であり,両者の理解を共に深めることが重要である。設問2においては,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題の検討が求められているが,多くの答案がその検討に当たり実務上の和解手続の姿をイメージしていたと評価することができる。これは,受験者や法科大学院等の関係者において実務の理解を深めることの重要性についての認識が共有されつつあることの現れであると受け止めたい。現実の民事訴訟手続についてのイメージがつかめないままに学習を進めることは難しいと思われる。法科大学院においては,今後とも,より一層,理論と実務を架橋することを意識した指導の工夫を積み重ねていただきたい。
→刑事訴訟法でも同様。実務の話に触れる機会があまりない受験生には、法律系雑誌を読んでみたり、実務家のブログを読んだりすることをおススメする。具体的な検討のためには、具体的な学びも必要であると思う。
※難しい問題こそ基礎基本から見直そう。