令和2年刑事系第二問の採点実感を読んでみた~その5~ コメントお願いします
採点実感を読んでみたシリーズ、これにて終了。
採点実感を通じて「司法試験でも基礎基本が大事」をお伝えするために始めた当シリーズですが、一人でも多くの方に伝わっていれば嬉しいです。
難解な知識を嚙み砕いてくれる人を探すのではなく、難解な知識を噛み砕ける人になってもらえたらと願っています。
そのためには、「法学の基礎基本」。
ABprojectは、今日も地道に活動しています。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3、その4もご覧ください。
〔設問3〕では,平成24年判例及び平成25年判例が,前科事実や併合審理されている類似事実を犯人性の証明に用いることが許容される場合について示した,類似する犯罪事実が「顕著な特徴」を有し,かつ,その特徴が起訴に係る犯罪事実と「相当程度類似」している必要がある旨の判断基準については,おおむね適切に論じている答案が相当数見受けられた一方で,上記判断基準自体に関する記述が不十分・不正確な答案も少なくなかった上,類似事実による犯人性の証明が許容されないとされる理論的根拠や,上記判断基準を満たす場合には類似事実による犯人性の証明が何故許容されるのかについての理解が不十分・不正確な答案が少なくなかった。
→判例の知識が不十分なまま本番でしっかり書ききることは、難しかっただろう。上記のような指摘を受けてしまう答案が少なくなかったのはやむを得ないと思う。司法試験では、少々「手が出ない問題」もあると知るべきである。ただし、平成24年判例や平成25年判例を読んだことがある程度には、学習を進めておくべきだったのではないか。
また,本事例が,上記判例の各事案とは異なり,起訴されていない余罪に関する類似事実を犯人性の証明に用いようとしている場合であるという違いに留意しつつ,判断基準を具体的事実に当てはめることができている答案が少数ながら見られた一方で,多くの答案が,判例の事案との相違を意識できておらず,X方における事件に関するWの目撃供述を「前科証拠」などと誤解して記述する答案も少なくなかった。
→Wの目撃供述を「前科証拠」などとしてしまう答案は、ダメな答案である。必要な知識がなかったことは仕方がない。しかし、「前科証拠」か否かは、問題文を慎重に読めばわかったはずである。それを見落としてしまうのは、やってはいけない「間違い」である。
さらに,〔設問3〕ではWの証人尋問請求の可否を問われているにもかかわらず,出題の趣旨を把握できずに,伝聞法則について大々的に論述する答案や,Wの証人尋問の必要性を主に論ずる答案が散見されたのは残念である。
→「伝聞法則について大々的に論述する答案」は論外である。なぜ伝聞法則があるのか全く分かっていないからである。また、Wの証人尋問の必要性について検討することは必ずしも間違いとは言えないが、これが主に論ずべき点でないことは、問題文から読み取ってもらいたかった。これは、一種のバランス感覚だろう。
検察官によるWの証人尋問請求に対して,弁護人の証拠意見を踏まえて裁判所がこれを認めるべきかを問われているのであるから,Wの証人尋問請求を認容すべきであるのか,却下すべきであるのかの結論まで的確に述べる必要があるが,この点が不十分・不正確な答案も少なからず見受けられた。
→問いには答えなければならない。以上。
3 答案の評価
(略)
4 法科大学院教育に求めるもの
本問において求められていた法曹になるための基本的な知識・能力は,昭和59年判例,平成元年判例,昭和53年判例,平成24年判例,平成25年判例などの最高裁の基本的な判例に対する正確な理解や,自白法則及び違法収集証拠排除法則といった,証拠法において基本的で重要な原則に対する正確な理解であり,法科大学院教育を受け,原理原則に遡って理解を深めた者であれば,理論的に決して難解な問題ではないはずである。今後の法科大学院教育においても,刑事手続を構成する各制度の趣旨・目的について,最高裁の基本的な判例を踏まえて,原理原則に遡り,基本から深くかつ正確に理解すること,それを踏まえて,関係条文や判例法理を具体的事例に当てはめて適用する能力を身に付けること,自説の立場から論述の整合性に配慮しつつ論理立てて分かりやすい文章で表現できる能力を培うことが強く求められる。
→「基礎基本を徹底せよ」というメッセージである。これは、刑訴法だけの問題ではない。あらゆる科目で指摘されていることである。しかし、あらゆる科目でこのような指摘がされているのは、法科大学院生等がいかに基礎基本を疎かにして法律学習を進めているかを示すものでもある。自分は違うと思わず、見直すことを強くおススメする。
また,刑事訴訟法においては,刑事実務における手続の立体的な理解が不可欠であり,通常の捜査・公判の過程を具体的に想起できるように,実務教育との有機的連携を意識し,刑事手続の各局面において,裁判所,検察官,弁護人の法曹三者が具体的にどのような立場からどのような活動を行い,それがどのように関連して手続が進んでいくのかなど,刑事手続が法曹三者それぞれの立場から動態として積み重ねられていくことについて理解を深めていくことが重要である。
→一連の手続の流れや当事者の関わり方を多面的に学ぶことは、訴訟法において必須である。その際には、ただただ知識を眺めるのではなく、当事者の立場に立ち、「その心」を想像するような学習の仕方が必要ではないだろうか。
※「法学の基礎基本」を徹底的に学べるのはABprojectの添削指導だけ。