令和2年民事系第二問の採点実感を読んでみた~その3~ 法的三段論法をなめていないか?
出来てるつもりが一番怖い
今日で民事系第二問の採点実感は最終回。
「法的三段論法」の重要さと難しさを噛み締める一日にしてもらいたいと思います。
(赤字は筆者)
※その1、その2もご覧ください。
⑶ 設問2⑵について
ア 全体的な採点実感
設問2⑵は,会社が特定の種類の株式のみを対象として株式の併合をしようとする場合に,不利益を受けるおそれのある種類株式の株主の事前の法的救済方法としてどのようなものが考えられるかについての理解等を問うものである。
→またもや「条文を知っているか(引けるか)?」という問いである。「会社法上の手段」という設問中の文言を見た瞬間、反射的に頭の中の六法をめくった、あるいは実際に六法を開いた受験生が合格者となる資格のある者である。必ずしも下記の全ての条文を事前に知っている必要はない。ただし、現場で速やかに六法をめくれるような「事前準備」をしておく必要はある。
(ア) 設問2⑵においては,Pは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,会社法上の手段として,①反対株主の株式買取請求をすること(会社法第116条第1項第3号イ),②本件株式併合について,差止請求をすること(同法第182条の3),③本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合すること等について定める議案(本件議案3)に関する甲社の臨時株主総会(本件臨時総会)の決議(本件決議3)について,株主総会の決議の取消しの訴えを提起することなどが考えられる。
(イ) 第1に,Pは,種類株主総会の決議を要しない旨の会社法第322条第2項の定めがある本問においては,同法第116条第1項第3号イの規定により反対株主の株式買取請求をすることができる。Pが反対株主の株式買取請求をすることについて論ずるに当たっては,設問2⑴の解答及び本問におけるその他の事実関係を踏まえ,反対株主の株式買取請求の要件が満たされていること,例えば,本件優先株式の株主に損害を及ぼすおそれがある(同号柱書)と認められることや,事前の反対通知と株主総会での反対をしているので「反対株主」に該当する(同条第2項)と認められることなどにも具体的に言及することが求められる。
しかし,Pが会社法第116条第1項第3号イの規定により反対株主の株式買取請求をすることなどに言及している答案は少なかった。他方で,本件株式併合によって1株に満たない端数は生じないため,Pは同法第182条の4の規定により反対株主の株式買取請求をすることができないことに言及している答案が相当数見られた。
(ウ) 第2に,Pは,本件株式併合について,差止請求をすることが考えられる。Pが本件株式併合の差止請求をすることについて論ずるに当たっては,設問2⑴の解答及び本問におけるその他の事実関係を踏まえ,取り分け差止事由が認められるか否かについて検討することが求められる。
この点に関する解釈としては様々なものがあり得るところである。例えば,①甲社が本件優先株式を発行する前に発行していた株式(本件普通株式)の株主は本件株式併合によって他の株主と共通しない特別の利益を得るため,株主総会の決議について特別の利害関係を有する者に該当し,かつ,本件株式併合は専ら本件優先株式の株主の優先配当権を実質的に縮減することを目的とするため,本件決議3は著しく不当な決議に該当することから,本件決議3には,取消事由がある(会社法第831条第1項第3号)と認められ,これが(瑕疵のない株主総会の決議による決定を求める)同法第180条第2項に違反し,差止事由である法令違反(同法第182条の3)が認められるといった解釈が考えられる。また,②本件優先株式の株主の優先配当権の実質的な縮減を目的とする不当な株式の併合であって権利濫用の法令違反があるとして,差止事由である法令違反が認められるという解釈も考えられる。さらに,③取締役の善管注意義務を定める一般的な規定(同法第330条,民法第644条)も会社法第182条の3の「法令」に含まれるとする理解を前提に,取締役は善管注意義務の一内容として株主間の不当な利益移転を生じさせないようにする義務を負うところ,本問においては,このような義務の違反があるため,差止事由である法令違反が認められるとする解釈も考えられる。加えて,④本件株式併合は,実質的には,本件優先株式の権利内容を変更するための定款変更と等しいことから,同法第322条第1項第1号及び第3項ただし書が類推適用され,種類株主総会の決議が要求されるのに,それを経ていないことが法令違反に該当するとする解釈も考えられる。なお,⑤上記①から④までのように本件決議3に取消事由があるとしても,実際に本件決議3が取り消されない限りは,差止事由である法令違反があるとは認められないとする解釈も考えられる。
しかし,これらを十分に論じている答案は少なかった。他方で,本問においては,差止事由である法令違反が認められないため,Pは本件株式併合について差止請求をすることができないと論ずる答案が相当数見られた。
(エ) 第3に,Pは,本件決議3について,株主総会の決議の取消しの訴えを提起することが考えられる。Pが本件決議3の取消しの訴えを提起することについて論ずるに当たっては,仮に本件決議3が取り消された場合には,これによって本件株式併合も無効となると解されるため,本件決議3の取消しの訴えを提起することは,本件株式併合の効力が発生した後に,本件株式併合の無効を主張する前提となることに言及するなど,まずは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,本件決議3の取消しの訴えを提起することの意義を明らかにすることが望ましい。その上で,本問における事実関係を踏まえ,本件決議3に取消事由が認められるか否か,例えば,上記①から④までの解釈と同様の解釈を採り,本件決議3には,取消事由がある(会社法第831条第1項第3号)と認められると論ずることなどが考えられる。
Pが本件決議3の取消しの訴えを提起することについて論ずる答案は一定数見られた。Pが本件株式の併合の差止請求をすること及び差止事由について論じている答案は,Pが本件決議3の取消しの訴えを提起すること及び取消事由についても論じていることが多かった。
なお,差止事由又は取消事由として,株主平等原則違反に言及する答案が相当数見られたが,株主平等原則を定める会社法第109条第1項の規定が特定の種類株式についてのみ株式の併合をする本件にも(類推)適用されるかどうかを適切に論じている答案は少なかった。
→上記の指摘は、いずれも条文解釈に関わる話であるから、条文の文言一つ一つを注意深く読みながら整理すべきである。会社法は、条文数が多い。それに対して苦手意識を持つ受験生もいるようだが、条文が多いということは、命綱が多いということである。「条文は命綱」である。命綱を見逃さない、命綱を掴んだら離さない。会社法のたくさんの条文に触れながら、試験本番まで徹底的に練習してほしい。会社法の細かい規定が苦にならなくなったら、他の法律は、ほぼ楽に読めるはずである。「法律学習の相乗効果」に期待してもらいたい。
イ 答案の例
(略)
3 法科大学院教育に求められるもの
設問1においては,新株発行の無効の訴えに言及しない答案や,それに言及しているものの,株主総会の決議の取消しの訴えとの関係について十分に言及しない答案が少なくなかった。会社の行為(本問においては新株発行)の効力が問題となる場合には,そのことをどのような訴えによって争うべきかについても,適切に理解することが求められる。
→上記で指摘した通り、条文に沿って検討できていればいいだけの話である。法科大学院では法学の基本すら教わらないのかと思われてしまう。
本件決議2に取消事由があることが本件株式発行の無効原因になるかどうかについて,非公開会社の事例であることを考慮して論ずることができている答案は,必ずしも多くなかった。会社法上,募集株式の発行等については,非公開会社と公開会社とで,株主にどのような保護を与えるべきかが異なるという考え方の下,異なる手続規制が用意されているため,このような会社法の基本的な規律を踏まえた検討が必要であることに強く留意してほしい。このような観点から検討する際には,会社法上の代表的な判例(本問についていえば前掲最判平成24年4月24日等)について,その判例の事案と問題文中の事実関係の異同を適切に拾い上げ,事実関係に即して柔軟かつ適切に,その判例についての理解を応用することができるようになれば,なお望ましい。
→公開会社と非公開会社を区別する実質的な利益は、実務を知らない受験生には理解しがたいかもしれない。しかし、条文を読んでいれば、これらを区別して定められる規定が一つや二つではないことに気付くはずである。それはつまり、これらの区別を前提に「異なる手続規制が用意されている」ということである。条文から読み取れる事柄は、多い。本当に条文を読むことは大事なのである。
本件決議1に取消事由があることを認定しつつも,そのことがどのような理由から本件株式発行の効力に影響するかについては十分に検討しない答案が多かった。本問において問われているのは,本件株式発行の効力であるため,何が法的論点であるかを常に意識しながら検討をする必要がある。
→「本問において問われているのは、本件株式発行の効力であるため」という指摘は、要するに、設問をちゃんと読んで理解してほしいということである。問われていることを理解した上、それに答えるための判断基準(要件)を条文等から導くことが法的思考の肝である。「何が法的論点であるか・・・」などと言われると、高尚な話のように思うかもしれないが、「問われたことに対して、基本に忠実に考え、答えろ」という当たり前のことを言われているだけである。
全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否かが問題となることに言及している答案も多くなかった。会社法上の基本的な制度や,条文,判例について理解していることが前提であるが,問題文中の事実関係から,会社法上重要な意味を有する事実を適切に拾い上げることができることが必要である。
→基本的に問題文に無駄な事実はないと思って答案構成していい。ただし、事実を追いすぎると、事実に踊らされて収拾がつかなくなるので注意が必要である。上記で指摘されている通り、事実を適切に拾い上げることが出来るのは、「会社法上の基本的な制度や、条文、判例について理解していることが前提である」。とすると、日頃の学習は、事実を適切に拾い上げるための準備として位置付けるべきである。覚えるだけの学習は、不十分であるということである。
設問2⑴は,比較的良くできていたが,Pの持株比率が低下することを挙げるにとどまる答案など,本件株式併合によって株主に生じ得る不利益を抽象的かつ一般的に論ずるにすぎない答案も少なからず見られた。また,問題文において「どのような不利益が生じ,又は生じるおそれがあると考えられるかについて,説明しなさい。」と問われているにもかかわらず,例えば,単に「持株数(比率)が減少する」という事実のみに言及するにとどまり,生じ,又は生じるおそれがある不利益についての具体的な説明を欠くと評価せざるを得ないような答案も見られた。会社がある行為をする場合に,そのことが利害関係人(本問においては株主)にどのような影響を及ぼし得るかについては,できる限り具体的にイメージし論述することができる力を養うことが求められる。そのことは,事前の手続規制や事後的な救済手段など,会社法上の制度について深く理解するために必要なことであると考えられる。
→上記で述べた通り、事実と評価が大事と指摘されている。目の前にある事実(生の事実)を示し、適切にその評価をすれば、自然と具体的な論述になる。具体的な論述が出来ない受験生は、事実と評価の区別を徹底すればいい。なお、事実の評価は、基本的な法の理解が前提となることも忘れてはいけない。
設問2⑵においては,会社が特定の種類の株式のみを対象として株式の併合をしようとする場合に,不利益を受けるおそれのある種類株式の株主の事前の法的救済方法として,会社法第116条第1項第3号イの規定により反対株主の株式買取請求をすることに言及している答案は少なかった。また,本問の事例は,同法第182条の4の規定により反対株主の株式買取請求をすることができる場面であると誤解している答案が少なくなかった。必ずしも確認する機会が多くない条文であっても,種類株式が発行されている場合における異なる種類株主間の利益調整の必要性とその1つの調整方法である反対株主の株式買取請求等が認められるための要件といった会社法上の基本的な制度についての理解を前提として,問題文中の事実関係に即して適用されるであろう条文を探し出し,その内容を正確に理解することができることが必要である。
→勉強したことがない条文でも「間違えてはいけない」のである。日頃の学習の中で条文を学ぶことも大切であるが、読めるようになっておくことも大切である。これは試験対策としてだけではない。条文を読めない受験生の学びは、どこまでも浅いのである。
Pが本件株式の併合の差止請求をすること又は本件決議3の取消しの訴えを提起することについて論ずるに当たっては,差止事由又は取消事由である法令違反をどのように構成するかが難しかったようであるが,会社法上の基本的かつ重要な制度について学習する上で,例えば,株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって当該決議が取り消されることとなるかどうかについて検討することとなる機会は少なくないのであるから,そのような機会を通じて身に付けた基本的な理解を前提として,問題文中の事実関係に即して柔軟かつ適切に,その理解を応用することができることが期待される。
→「法令違反をどのように構成するかが難しかったようである」と思われるのは、法令違反とは何か整理できていなかったからではないか。法令違反を認定するためには、少なくとも、①特定の法令の存在②その違反(要件の話)の段階をクリアする必要がある。この理解を前提に、あとは死に物狂いで該当する事実を探すのである。ここまで理解していて、本番で見つからないのは仕方がない。知らない知識ゼロで試験に臨める受験生は、ほぼ皆無のはずである。
従来と同様に,会社法上の基本的な制度や,条文,判例についての理解を確実なものとするとともに,問題文中の事実関係から重要な意味を有する事実を適切に拾い上げ,これを評価し,条文を的確に解釈及び適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められる。
→法的三段論法を極めなさいという話である。法的三段論法という言葉を知らない受験生はいないと思うが、実際に極めている受験生も少ないのが現実である。知識の問題ではなく、訓練の問題である。量も大切だが、適切な指導の下、質を高めないと身につかない。
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