令和2年刑事系第ニ問の採点実感を読んでみた~その1~ 意外とムズイ刑訴法
求められているのは「当たり前のこと」だけですが・・・
本日から令和2年刑事系第二問の採点実感に入ります。
残り数回ですが、よろしくお願いします。
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(刑事系科目第2問)
1 採点方針等
本年の問題も,昨年までと同様,比較的長文の事例を設定し,その捜査及び公判の過程に現れた刑事手続上の問題点について,①問題の所在を的確に把握し,その法的解決に重要な具体的事実を抽出して分析した上,②これに的確な法解釈を経て導かれた法準則を適用して一定の結論を導き出すとともに,③その過程を筋道立てて説得的に論述することが求められている。これを通じて,法律実務家になるために必要な刑事訴訟法に関する基本的学識,事案分析能力,法解釈・適用能力,論理的思考力,論述能力等を試すものである。出題の趣旨は,既に公表したとおりである。(下線及び丸数字は筆者)
→①は刑訴法の基本的知識(条文や各制度の概要等)に基づいて具体的事実関係を法的に整理し、検討すべき事項を明確にすること、②は法の解釈適用、あてはめ、結論を導くこと、③は①②の過程を文章で正確にわかりやすく説明することを求めていると解される。他の科目と同様に基本的な法的思考をすることを求めるものにすぎず、何ら特別なものではない。日頃の学習から「言われなくてもやっている」という状態でなければならない。
〔設問1〕は,H市内で夜間に発生したV方における住居侵入窃盗事件(本件住居侵入窃盗事件)に関し,司法警察員P及びQが,その2日前の夜間に同市内で発生した,手口が類似するX方における住居侵入未遂事件(X方における事件)で目撃された甲をH警察署まで任意同行した上,約24時間という長時間にわたり,一睡もさせずに徹夜で取調べを行い,それまでの取調べにより疲労して言葉数が少なくなっていた甲に,更に偽計をも用いて取調べを実施していることから(下線部①の取調べ),それが,被疑者に対する任意取調べとして許容される限界を越え,違法と評価されないかを問うものである。
→この部分は、何気なく読んでしまっている人が多いかもしれないが、上記採点方針の①のお手本を示してくれている。事実関係を丁寧に示し、検討すべき事項を端的に指摘できている。ここに適切に条文を絡めれば、完璧である。
検討に当たっては,刑事訴訟法第198条に基づく任意捜査の一環としての被疑者の取調べの適法性に関する法的判断枠組みを的確に示した上で,事例に現れた具体的事実がその判断枠組みの適用上どのような意味を持つのかを意識しながら,下線部①の取調べの適法性を論じることが求められる。
→「本問が198条に関する問題だと気付く→下線部①の取調べの適法性を判断する基準が198条から明らかでないことに気付く→判例『法』を参考にしながら、適法性判断基準を示す→事例に表れた具体的事実がその判断基準の適用上どのような意味を持つのか評価しながらあてはめる」という検討過程を辿っていけばいいわけである。「事実の評価」が大事なのは、それがないと生の事実が要件に該当しているのか否か基本的にわからないからである。事実の評価の軽視は、法的思考の軽視であるし、読み手に自分の考えを伝えようとする努力の軽視である。
〔設問2〕は,甲の自白が,前記のとおり,長時間にわたり,徹夜で行われた取調べにおいて,偽計をも用いて獲得されているところ,まず,〔設問2-1〕において,自白法則及び違法収集証拠排除法則の自白への適用の在り方を一般的に問うた上,次いで,〔設問2-2〕において,〔設問2-1〕で論じた自己の見解に基づいて甲の前記自白の証拠能力が認められるかを問うものである。
→本設問は、非常に親切である。設問2-1と設問2-2は、甲の自白の証拠能力を検討する際、それぞれ自ら気付いて検討すべき事項とも言えるが、それをわざわざ検討するよう教えてくれているからである。なお、これは、法原理相互の関係性(条文相互の関連性の問題と同様)の問題であるから、単なる一論点の知識を問うものではなく、常に持つべき法的視点を意識できているかを問うものである。
具体的には,自白法則及び違法収集証拠排除法則という証拠法における基本原則が,自白という供述証拠にどのように適用されるのか(後者については適用の有無自体も含む。)について,自説の立場から両法則の適用関係を示した上で,各自の理解に即して,甲の自白の証拠能力の有無を判断するのに必要な証拠法則を,事例に現れた具体的事実に当てはめて,結論を導くことが求められる。
→この部分について、事前に知識を持っていた受験生は少ないと思われるが、この問題に対してそれなりの理由を付して答えられなかったとすると、刑訴法の基本的理解が不十分と言われても仕方がない。あとで教わって「言われたらわかる」と思った受験生も同様である。自白法則や違法収集証拠排除法則は、誰もが知ってはいるはずであるし、これらの関係性の整理は、基本的な法的思考ができる者なら現場思考で対応できたはずである。
〔設問3〕は,検察官が,本件住居侵入窃盗事件と手口の類似する,未だ起訴されていないX方における事件を目撃したWの証人尋問により,本件住居侵入窃盗事件についての甲の犯人性を証明しようとしている場合において,いわゆる類似事実による犯人性の証明が許されるのかを問うものである。こうした証明が許されないとすればその理論的根拠はどこにあるのか,許される場合があるとすればその判断基準及び根拠は何かを論じ,それを踏まえて,事例に現れた具体的事実を適切に摘示し,評価しながら,裁判所が検察官によるWの証人尋問請求を認めるべきか否かの結論を導くことが求められる。
→本問は、先の2つの設問に比し、難易度が高いと思われる。条文に手掛かりがないこと及び既知の法知識があってもそれを工夫して使わなければならないからである。これも論点として押さえておくべきというよりは、法的思考のポイントやその手法を学ぶ契機とすべき問題だと思う。
採点に当たっては,このような出題の趣旨に沿った論述が的確になされているかに留意した。前記各設問は,いずれも,捜査及び公判に関して刑事訴訟法が定める制度・手続及び関連する判例の基本的な理解に関わるものであり,法科大学院において刑事手続に関する科目を履修した者であれば,本事例において何を論じるべきかはおのずと把握できるはずである。
→出題者的には「何を論じるべきか」を外すような答案は、法科大学院において刑事手続に関する科目を履修した者とすらみなさないようである。特に恐れることはない。その通りだからである。
(続きは明日)
※難しい科目ほど基礎基本が大事。ABprojectです。