令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その4~ 法律問題の本質は同じだ。
短答対策と論文対策は共通。
出題形式にとらわれず、「法律問題」を解く方法を身につけていれば、得点は安定します。
やるべきことは、ただそれだけ。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3もご覧ください。
⑶ 設問2について
ア 設問2の採点実感
設問2では,和解手続におけるY2の発言から本件契約の解約の合意の存在を認定することができない理由の検討が求められている。ここでは,争いのある事実の認定に当たり,法第247条において,裁判所が「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」をしん酌して心証を形成するものとされていることを指摘した上で,和解手続における当事者の発言がこれらに当たらないことを論証する必要がある。こうした論証は,多くの答案においてされていたが,特に検討が必要な「口頭弁論の全趣旨」の意義とその当てはめについては十分に意識されていないものが目立った。
→247条を指摘できるかどうかが、本問の分かれ道と言ってよい。そして、和解手続におけるY2の発言が検討対象とされているのであるから、「口頭弁論の全趣旨」(247条)が問題となるのであって、「証拠調べの結果」が問題となるのではない。「口頭弁論の全趣旨」の解釈が不十分なのも問題であるが、「証拠調べの結果」について長々と言及する答案も問題だと思う。問題の所在を把握できていないと解されるからである。目の前の検討事項を具体的事実関係から分析し、その判断に必要な規範を端的に示せる答案は、得てしていい答案である。長く書けばいいというものではない。「問いに答えること」が解答の最重要事項だからである。
また,設問2の出題の趣旨を弁論主義の問題と捉え,法第247条を指摘しつつ,あるいはその指摘すらなく,弁論主義について延々と論じて結論を導こうとする答案も少なからずあった。このような答案は,問題点自体の理解を根本的に誤るものであって,評価されない。この点もまた,いわゆる典型論点の定型的な論証パターンを暗記するだけという学習が中心となっていて,基礎的な条文や概念の基本的な理解がおろそかになっているのではないかと強く懸念される一例である。
→本問で弁論主義に思い至ることは、決して悪いことではないと思う。判決の前提となる事実関係の整理に伴う問題だからである。しかし、「弁論主義とは何か?」ということを正確に把握していれば、弁論主義と自由心証主義との区別は出来たはずである。問いに対して正しく法的思考を展開出来ているか否かを測る指標として、「間違いを修正できるか?」というポイントがある。仮に本問で一旦取り上げた弁論主義の検討をやめた受験生がいたとすると、その受験生は、法的思考レベルが高いと思われる。
また,設問2では,争いのある事実の認定に当たって,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題についても検討することが求められている。ここでは,当事者の発言内容が裁判官の心証に影響し得るとすると,例えば,和解の成立に向けた当事者の自由な発言を阻害するおそれがあることや,本問のようにいわゆる交互面接方式により行われた和解手続では情報の共有や反論の機会の保障がないままに判決がされるおそれがあることなど,より実質的な観点から具体的に問題点を指摘することが期待される。多くの答案において,これらのうち少なくとも一方,特に当事者の自由な発言の阻害のおそれを指摘することができていたが,これらを多角的に論ずる答案は,多くはなかった。
→この辺りは、実務に対する理解がある程度必要なのではないだろうか。多角的な検討が出来た答案が多くなかったのも無理はないと思う。
イ 設問2のまとめ
(略)
⑷ 設問3について
ア 課題1の採点実感
設問3では,まず課題1として,本件訴訟において,XがY2に対する訴えのみを取り下げることができるかどうか(法第261条第1項)の検討が求められている。ここでは,その前提として,本件訴訟について訴訟共同の必要があるものかどうか,すなわち,本件訴訟が通常共同訴訟であるのか,固有必要的共同訴訟であるのかという点の検討が必要となる。本件訴訟が通常共同訴訟であると考える場合には,例えば,実体法的観点から,相続財産の共有が民法第249条以下の共有と性質を異にするものではないこと,建物明渡義務が不可分債務(同法第430条)に当たり義務者各自が全部につき除去義務を負うことなどを指摘して,共同訴訟人独立の原則(法第39条)が本件訴訟にも適用されること,その帰結として,XがY2に対する訴えの取下げをすることができることを示す必要がある。本件訴訟について,固有必要的共同訴訟であると解し,XはY2に対する訴えの取下げをすることはできないとする場合であっても,説得力のある理由が示されていれば評価に差異はないが,いずれにせよ,自説の根拠と結論との整合性が求められる。
→短答でも問われるレベルの知識である。短答学習においても、結論だけでなくその論理まで学習することを意識したい。「短答プロパー」などという表現が見られることもあるが、短答学習の充実度は、論文の成績に直結すると思う。どんな問題も軽視しないで、丁寧に積み重ねることが大切である。
課題1では,多くの答案において,本件訴訟が通常共同訴訟であるとの結論を採っており,その理由としても,上記の点を指摘することができていた。もっとも,その理由を十分に論じたものは少なく,例えば,単に本件建物の明渡義務が不可分債務であるということを指摘するだけのもの,共同訴訟人独立の原則やその根拠となる条文を指摘しないまま,本件訴訟が通常共同訴訟であることをもって直ちにXがY2に対する訴えの取下げをすることができるとするものなども散見された。
→ここでの指摘は、「規範にあてはめる」「法律効果の根拠となる条文を指摘する」という基本的なことが出来ていないという話である。このような答案を無意識に書いているようだと、かなりまずい。他の部分でも論述の甘いところが散見されるはずである。それはすなわち、民訴法だけでなく多くの科目で失点する可能性があるということである。
他方で,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る答案も少なくなかった。この結論であっても評価に差異はないことは上記のとおりであるが,その根拠を十分に論証する答案はほとんどなかったため,本件訴訟が通常共同訴訟であるとの結論を採る答案と比較すると,相対的に低い評価となった。本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る場合には,例えば,訴訟法的観点から,判例の結論とは差異があることを踏まえつつ,合一的確定の必要と訴訟共同の必要があることを説得的に論証することなどが必要となる。しかし,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る答案においては,単に「合一的な確定が必要である。」等の結論を示すだけのものが多かった。これでは説得的な論証とは言い難い。
→40条1項の「合一にのみ確定すべき場合」とはどういう意味なのか、同項は何を定めた規定なのか。今一度考えてもらいたい。条文の機能に関する一般論が見えてくるはずである。
また,実体法的観点からこれを基礎付けようとする答案も一定数あったが,このような答案は,総じて本件建物の明渡義務が不可分債務であることを根拠とするものであった。しかし,上記のとおり,本件建物の明渡義務が不可分債務であることは,本件訴訟が通常共同訴訟となることの根拠となるものであって,これにより本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を基礎付けることは困難である。「不可分」という語の語感に引きずられたのではないかと推測されるが,実体法の基礎的な知識の欠落があるのではないかとの危惧を禁じ得ない。また,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る場合には,法第40条を指摘した上で,一部に対する訴えの取下げは全員の当事者適格を失わせることとなるため,その効力を生じないことを指摘する必要があるが,この点の論証を欠く答案も少なからず見られた。このような答案は,固有必要的共同訴訟という概念自体の理解が十分ではないのではないかと懸念される。
→この点の指摘を受ける答案は、規範定立あてはめに関する瑕疵若しくは判例の理解に関する瑕疵、又はその両方に問題がある。いずれにせよ大失点である。
このほか,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採るにもかかわらず,Y2に対する訴えの取下げができるとするもの,固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の区別をすることなく「必要的共同訴訟」かどうかを論ずるもの,本件訴訟が類似必要的共同訴訟であるとするものなども少ないながらあった。これらの答案の評価は,低いものとなる。
→40条1項には「必要的共同訴訟」としか書かれていない。「固有」と「類似」の区別は理論上の区別である。つまり、条文の定めを前提に更に法理論を学ぶことで必要的共同訴訟制度に対する理解をより深めていくことが出来る。段階を踏んでいくことが体系的理解のコツである。
なお,本件訴訟が通常共同訴訟である(又は固有必要的共同訴訟である)という点を示すのみであり,XがY2に対する訴えの取下げができるかどうかについての結論を示さない答案も一定数あった。尋ねられたことに対して解答しなければ,評価されないことは当然である。
→「問いに答える」当然の話である。
イ 課題2について
設問3では,次に課題2として,Xが適法にY2に対する訴えのみを取り下げたという前提の下において,XとY1のみの訴訟において本案判決がされる場合に,取下げがされる前の期日においてY2が提出して取調べがされた本件日誌の証拠調べの結果を事実認定に用いてよいかどうかの検討が求められている。ここでは,「共同訴訟における証拠調べの効果」と「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という問題文中で示された二つの視点を踏まえつつ検討を進める必要がある。
→いずれも一定の訴訟行為の「効果」を検討するものである。法効果を考える時のポイントは、その存在、内容、範囲である。
このうち,一つ目の視点,すなわち「共同訴訟における証拠調べの効果」については,まず通常共同訴訟においては共同訴訟人独立の原則により共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさないことを述べた上で,その例外として,共同訴訟人の一人が提出した証拠から得られる証拠資料はその援用がなくとも他の共同訴訟人に関する事実認定にも用いることができるという証拠共通の原則の意義やこれが認められる根拠を説明することが求められる。相当数の答案において,共同訴訟人独立の原則やその例外としての証拠共通の原則について指摘することができていたが,証拠共通の原則の意義を論ずるに当たり,誰と誰との間の規律であるのかという視点が明確に示されていない答案も一定数あった。また,証拠共通の原則が認められる根拠については,例えば,歴史的に一つしかない事実については,その認定判断も一つしかあり得ないことから,これを認めなければ,裁判所に対して矛盾した判断をさせることとなり,自由心証主義の不当な制約となること,共同訴訟人の一部が提出した証拠であっても,他の共同訴訟人がその証拠調べの手続に関わる機会があることから,他の共同訴訟人の手続保障も図られていることなどを指摘して論ずる必要がある。もっとも,これらを過不足なく論じた答案は僅かであり,多くの答案は,前者のみを指摘するものであった。また,そのような答案においては,単に「歴史的に事実は一つ」,「自由心証主義から」などとのみ述べる答案も少なくなかった。時間の不足に起因するものであるとも考えられるが,このような答案は,論証としては十分なものとは言い難いことに留意が必要である。
→原則と例外の視点、例外の理由付けの方法(必要性と許容性)など、基本的な法的視点は、「法学のコンパス1」で学んでほしい。証拠共通が「誰と誰との間の規律であるのか」という問題は、法効果の範囲の問題。
次に,二つ目の視点,すなわち「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という点については,訴えの取下げがあった部分は初めから係属していなかったものとみなされる(法第262条第1項)という訴えの取下げの効果を指摘することが必要となるが,これを条文とともに的確に指摘することができた答案は,多くはなかった。この点は,課題2が検討を求める問題意識の前提となるものであり,この理解を欠く答案の評価は,低いものとならざるを得ない。
→262条1項を当たり前に指摘できるかどうか。意識しなくても出来る受験生は、難易度の高い問題に挑戦する実力のある受験生である。実力の有無は、だいたい「当たり前が出来るかどうか」を見ればわかる。
そして,以上の二つの視点からの論証を通じ,XのY2に対する訴えの取下げがY2の申出により取調べがされた本件日誌についての証拠共通に影響を与えるのではないかという問題意識が導かれることとなる。
→論点自体知らなくても、「訴え取下げの効果→提出された証拠は?」という問題意識を持つことはできるのではないか。訴え取下げの法効果をどれだけ具体的にイメージできているかが分かれ目になっているように思う。知らない論点でも気付けるかどうかは、法的思考力を測る一つのポイントである。
これが課題2における主要な検討事項となる。本件日誌を証拠として用いることができるとの結論を採る場合には,その根拠として,例えば,判例(最高裁判所昭和32年6月25日第三小法廷判決・民集11巻6号1143頁)によれば,証拠申出の撤回は,証拠調べの終了後においては許されないとされており,その結論は相手方に有利な証拠資料が得られている可能性があることを考慮すると是認されることや,Y2の申出によりされた証拠調べの結果は,証拠共通の原則によりXとY1との関係においても心証を形成する資料となっているところ,それは,係属が消滅した訴訟における訴訟行為に基づく訴訟法律関係とは別個の訴訟法律関係が生じていると言い得ることから,訴えの取下げによってもその効果は維持されるべきであることなどを指摘することが考えられる。これに対し,本件日誌を証拠として用いることができないとする結論を採る場合には,その根拠として,例えば,訴えの取下げの結果,当事者の訴訟行為によって形成された法律効果は全て消滅することを前提とし,証拠申出の撤回は,弁論主義に照らし,相手方の同意があれば許されるとした上で,XがY2に対する訴えの取下げをしたことにより,実質的にはY2の証拠申出とこれに基づく証拠調べの結果の消滅に同意をしているものとみることができることなどを指摘することが考えられよう。課題2については,いずれの結論であっても,評価に差異はないが,論理的かつ説得的な論証が求められる。もっとも,以上を適切に論ずる答案は,どちらの結論であってもほとんどなかった。多くの答案においては,上記のとおり,前提となる訴えの取下げの効果を指摘することができていないため,そもそも課題2が求める問題意識自体を正しく把握することができておらず,訴えの取下げの効果を指摘することができているものであっても,かろうじて「一度形成された心証は消せない。」といった理由を述べて,本件日誌を証拠として用いることができるとの結論を採るものが一定数あったほかは,結論のみを述べるもの,根拠となり得ないものを述べるものなどであった。
→要件効果の積み重ねから論点は生じるものである。本問はそれを理解させる良問である。未知の論点であり、論証自体は難しいかもしれないが、奇問難問の類だとは思われない。解けなかった受験生は、「なぜ解けなかったのか」を見直すことをおススメする。他の問題でも活かせる法的思考のヒントを得られるはずである。
ウ 設問3のまとめ
(略)
※法律問題の解き方を意識するのはABprojectだけ。