令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その3~ 採点実感が繰り返し伝えていること
採点実感の読み方を伝え、意識すべきポイントを共有したい。
採点実感・出題趣旨は、多くの受験生が読んでいると思います。
しかし、それが身になっている受験生は、多くないのでしょう。
一緒に読みましょう。
(赤字は筆者)
※その1、その2もぜひご覧下さい。
イ 課題2の採点実感
設問1では,次に課題2として,敷金に関する確認の訴えにおける確認の利益の検討が求められている。ここでは,本件建物の明渡し前における敷金関係の確認の訴えにつき,確認の利益の一般的指標とされる確認訴訟という方法を選択することの適切性,確認対象の適切性,即時確定の必要性に従って,あるいは確認訴訟における権利保護の資格と利益に沿って,Y2の立場から確認の利益が肯定されるように,説得的な立論をすることが求められる。
→ここまでは多くの受験生が書けるはず。ただし、確認の利益の一般的指標は、決して条文に定められた事項ではないことに注する必要がある。つまり、この指標は、あくまで一般的なものであって絶対的なものではない。「確認訴訟のときはいつもこれだから、今回も書こう!!」程度にしか認識していない受験生は、一旦立ち止まり、確認の利益を判断する3要件の理解を確認してもらいたい。こういう部分の見直しが、論点主義を脱するためのポイントである。
特に,敷金返還請求権が設問1の課題1では将来の給付訴訟の対象と性質付けられていることとの関係をも踏まえつつ,どのような確認対象又は権利保護の資格であれば即時確定の必要性又は権利保護の利益が肯定され,基準時に確定する必要が認められることとなるのかについて,理解を示す必要がある。その際には,賃貸借契約継続中における敷金返還請求権の確認の利益を肯定した判例(最高裁判所平成11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号1頁)のように確認対象を現在の権利又は法律関係と位置付ける立場のほか,将来の権利又は法律関係と位置付けた上で確認対象となり得ると解する立場もある。どちらを採るかにより評価に差が生ずるわけではないが,前者については,敷金返還請求権を単に条件付債権と位置付けるにとどまらず,将来と性質付けた給付訴訟との違いを示し,本件の紛争状況から見て確認の利益が肯定される対象を具体的に検討することが期待される。また,後者については,XがAの支払った金銭は敷金でないと争っているなどといった具体的な事情をできるだけ挙げた上で,将来具体化する対象であっても即時確定の利益又は権利保護の利益が現在認められることを本件に即して説得的に論ずることが求められる。
→ここは、確認の利益の3要件を軸にしつつ、その要件該当性の検討を問題とするところである。上記判例は、要件該当性判断において参考にできる。先の将来の給付の訴えに関する判例に関しては、特に規範定立の重要性を指摘したが、要件該当性も同じく重要である。判例を学ぶ際には、規範定立について学んでいる?要件該当性について学んでいる?など法的思考の構造を「意識」しながら、情報を整理することが必要である。こうすることで「判例を覚える」だけでなく、「法的思考力を鍛える」ことが出来る。「意識」の持ち方次第で、学習の密度は大きく変わる。そして、「本件に即して説得的に論ずること」が出来るのは、高い学習密度を保ってきた受験生だけである。論点主義の暗記学習と真の法律学習の違いに気付いてもらいたい。
まず,確認の利益の一般的指標については,大半の答案が確認訴訟という方法を選択することの適切性,確認対象の適切性,即時確定の必要性の三つの指標を指摘していた。
もっとも,その具体的な当てはめにおいては,十分ではないものや不適切なものが散見された。課題2の中心的な検討事項となる確認対象の適切性を論ずるに当たって,判例のように現在の条件付きの権利である敷金返還請求権と捉える答案は一定数あったところであり,これらは相応の評価に値するものではあるが,更に進んで将来の請求と性質付けた給付訴訟との違いを意識的に論じたものはほとんどなかった。他方で,そもそも敷金に関するどのような法律関係を確認対象と考えているのかがあやふやなまま検討を進める答案や,「敷金を差し入れたこと」,「敷金契約が成立したこと」など過去の事実や過去の法律関係を無留保で確認対象とするものも少なくなかった。このうち,過去の法律関係を確認対象とすることについては,それが常に不適切であるというものではなく,基礎的な法律関係であって判決において端的に確認対象とすることにより確認訴訟が有する紛争の直接かつ抜本的な解決の機能が果たされることなどを併せて論ずるものである限り一定の評価の対象となり得るが,ほとんどのものにおいて,このような検討はされておらず,その多くにおいては,自身が過去の事実や過去の法律関係を確認対象として論じていることについての自覚がないままに論述しているものと推測された。以上のような答案の評価は,低いものとならざるを得ない。
→「もっとも、その具体的な当てはめにおいては、十分でないものや不適切なものが散見された」「ほとんどのものにおいて、このような検討はされておらず、その多くにおいては、自身が過去の事実や過去の法律関係を確認対象として論じていることについての自覚がないままに論述しているものと推測された」そうである。言われなくてもそうだろうと思う。先述した学習の密度の問題を振り返ってもらいたい。兎角民訴法の理論は、難解なものが多く1回読んだくらいではとても理解できないものが多い。だからといって、2回3回読んだらわかるのかと言うとそうでもない。難解な理論を吸収するためには、その下準備が必要である。法的三段論法を身につけていることや正しく法的思考を組み立てられることなど、行き詰った時には、一度基礎基本を見直してもらいたい。理解できない原因は、そもそも見るべきポイントが「見えていない」可能性が高い。
また,確認対象の適切性を検討するに当たっては,即時確定の必要性との関係にも留意する必要がある。ここでは,原告が保護を求める法的な地位,すなわち確認対象の適切性において検討した権利又は法律関係が十分に具体化,現実化されているかということを指摘しつつ,被告の態度や行為の態様が原告の法的地位に危険や不安を生じさせているか,その危険や不安を除去するために,確認判決が必要かつ適切であることを論ずる必要がある。そして,多くの答案において,被告の態度や行為の態様が原告の法的地位に危険や不安を生じさせているかという点に言及することができていたが,確認対象となる権利又は法律関係との関係や確認判決の必要性なども含めて多角的に論証していた答案は少なかった。また,過去の事実や過去の法律関係を確認対象とする場合には,上記のような論証から直ちに即時確定の利益が肯定されるとは言い難いにもかかわらず,この点の意識がされたものはほとんどなかった。
→確認の利益を認める要件として即時確定の利益を指摘する答案は多いが、その意味するところが何かという点まで理解できている答案は、多くない。この辺りが採点の分かれ目である。要件を立てたら、その意味するところを確認するのは、法律学習において当然である。そうでなければ、正しくあてはめられないからである。上記で指摘されているあてはめの不十分さは、基本的な法知識の理解不足に起因するものと思われる。
課題2の結果からも,受験者が定型的な論証パターンを暗記するだけという学習をしているのではないかと懸念された。
→すでに指摘した通りである。
ウ 設問1のまとめ
(略)
※大事なことは繰り返し伝えるABprojectの添削指導