他にはない短答式試験を論文的に考える指導法 知識に溺れてはいけません
ABprojectでは短答式試験も単なる暗記では終わらせません
法律系資格試験に臨む多くの受験生は短答式試験を知識の有無だけで処理しがちです。
短答対策といっても必要な知識があったかなかったかの確認で済ませてしまいがちです。
正直それはもったいないと思います。短答式試験から学ぶことは非常に多いです。
また、短答式試験をきちんと思考して処理できることは、結果的に点数の安定につながります。
以下は、平成19年司法試験短答式試験の公法系第35問について添削指導した例です。
ABprojectでは短答対策と論文対策を明確に区別していないことがよくわかります。
・小問ウ
本問に関しては、条文の規定から端的に答えを導くことができると考えます。その理由は、2つあります。まず、行訴法9条1項及び2項は、都市計画事業の事業地内に権利を有する者に限って原告適格を認めると規定してはいません。そのため、同事業地内に権利を有さない者に対しても文言上原告適格性を認める余地があります。次に9条2項では「当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。」と定められており、またその際には「害される態様及び程度をも勘案する」とされています。これにより、利益の内容性質によっては広く原告適格を認める余地を残します。したがって、「・・・原告適格が認められることがある。」という本肢は正解だと判断できます。判例まで詳しく知っているのがベストですが、多くの条文に加え判例まで正確に記憶しようとすれば膨大な量になります。とても常人が覚えきれるものではありません。従って、これくらい割り切って解答する術を身につけることも大事だと思います。それから、判例については、その射程の問題から有名判例であっても、問題によっては使えない場合があります。むしろ、有名判例の事情を微妙にいじってその射程が及ばないようにするのは、司法試験問題の常とう手段です。他方で条文は、あらゆる場面に適用できます。判例よりもはるかに汎用性が高いのです。従って、判例の知識を広げるより条文の知識だけで処理できる能力をいかに高めるかを追求した方がコスパが高いと思います。あくまで個人的見解ですが。というわけで、ひとまず、解答のヒントをお伝えしました。
次に本答案の内容について見ます。まず、規範の記憶が不正確です。その結果、解答を導く論述も不十分なものになってしまっています。「法律上の利益を有する者」(9条1項)の定義は、「①当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、②当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上の利益にあたる。」というものです。問題となる法益が単に個々人の個別的利益にあたるだけでは原告適格を認めるに足りません。また、個々人の個別的利益にあたるか否かは、当該処分の根拠法令の趣旨から判断されるものです。従って、本答案のように根拠法令の内容に触れないまま被害事実の重大さを主張するだけでは、法律上の利益を有する者にあたるとは言えません(原告適格を認めることはできません)。特に明文上保護されていることが明らかな法益以外の法益が問題となる場合は、上記①②を検討する必要があります。換言すれば、①の法律上保護された利益は、明文上定められた法益を指し、9条1項の「法律上の利益」とは、明文上定められた法益及び明文上明らかでない保護法益の両方を包含すると理解できます。条文及びその解釈から導かれる規範という構造が見えてきませんか。
余談ですが、利益の性質・内容やその侵害態様・程度については、上記①②のいずれの段階でも勘案できます。9条2項後段の「この場合において」とは同前段の「法律上の利益の有無を判断するにあたって」を指し、それは、「法律上の利益を有する者」にあたるか否かの要件を示す上記①②を判断することに他ならないからです。