民法を制する者は司法試験・予備試験を制する 大事な基礎基本を見直そう
問題の根源は基礎基本の不理解にある 簡単なようで難しい基礎基本
今回も平成30年予備試験民法からです。設問1ではAのCに対する請求の根拠を説明することが求められています。
法律関係の成り立ちを説明させるという非常にいい問題だと思います。法律の基礎をきちんと理解できているかが如実に表れる簡単そうでとても難しい問題です。
以下の添削例は、法学の基礎基本というABprojectが一貫して大切にしているポイントに関わる問題だからこそとても熱を帯びた添削になってしまっています。
一言一句のほころびも逃さない丁寧な添削が目を引きます。
(1)アの最初の段落の記述は、基礎知識に疑いをかけられる危うい記述かなと思います。まず債権債務の発生は、契約に限られません。契約・事務管理・不法行為・不当利得が債権債務の発生原因として規定されています(第三編債権編)。「債務」(415条1項)のことを説明したかったのかもしれませんが、それならばそのことを明らかにするよう記述を工夫した方がベターだと思います。次に「明文上の規定がない・・・当事者の合理的意思を推測して・・・」という部分については、契約の解釈ならこれでいいと思います。ただ、契約関係もないのに、明文の規定もないのに、第三者が勝手に当事者の意思を推測してその権利義務関係を決めるのは、どうでしょうか?法的にどうかという問題以前に、自分がされたら気持ち悪くないですか?このような感覚的に違和感を感じさせる記述は、説得力を欠きますのであまりしない方がいいですね。そして、こういう記述に対して違和感を感じる感性は、法的思考を組み立てるうえで自分を助けてくれるので、これから育んでいってほしい力です。
(1)アの二段落目の記述は、自己流ですか?あるいは、どこかに出典がありますか?概ねいいと思いますが、「相互に」というところに多少引っかかります。もし自己流なら、少し考えた方がいいかもしれません。
第三段落目は、「雇用関係について見ると」とされていますが、本件は、AC間に雇用関係がないという点から始まっています。この書き方だと、雇用関係になければ安全配慮義務の存在を肯定できないように思えます。本件は、雇用関係にない当事者の間でいかなる場合に信義則上の安全配慮義務を認定できるかが問題ですので、この点を意識した記述をしてほしいと思います。
イのあてはめ部分についてみます。まずあてはめの記述で「・・・であろう」という推測はよくないです。要件に当たる事実があるか、ないかの二択です。それから、もう一つ考えてほしいことは、安全配慮義務違反の認定の仕方です。イを読むと何となく安全配慮義務違反を認定したように思えるかもしれませんが、不十分な記述です。この書き方だと、実質的にAを指揮監督していたCがAを危険な場所で危険な態様で働かせたことを認定したにとどまります(ちなみに、AC間の指揮監督関係は、単に「指示した」ことだけから導かれるものではないと思います。視野を広く問題文を眺めてみてください。答案に書くかどうかは別にして・・・)。安全配慮「義務」の存在を認定するには、その成立要件をきちんと立ててから事実をあてはめる必要があります(要件効果の話)。「義務違反」を認定するなら、いかなる場合に「義務違反」となるのか(あるいは、いかなる場合に「義務違反」とならないのか)規範を立ててから事実をあてはめる必要があります。アの部分で規範定立がきちんとされていなかった結果、イのあてはめも宙ぶらりん状態になったということになります。この論点は、短答でも問われる判例知識なので、一度チェックしてみてください。
(2)の中で入院治療費、働くことができなかった逸失利益とを損害としていますが、そのような事実はあったでしょうか?Aは重傷を負っているので、そのような可能性も高いとは思いますが、確実に認定できていない事実を根拠に要件充足性を認めることはできません。問題文の記載から確実に認定できる事実だけを挙げましょう。それから、損害の範囲については、416条を指摘できますね。
債務不履行の要件は、もれなく認定できていますか?請求が認められるためには、その要件をもれなく検討する必要があります(証明責任の存否は関係ありません)。今一度チェックをお願いします。