令和2年公法系第二問の採点実感を読んでみた~その1~ 行政法は楽勝科目?
行政法が苦手な受験生は、「真の合格者」に慣れない
本日から令和2年公法系第二問の採点実感を素材に「法学の基礎基本」に迫っていきたいと思います。
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(公法系科目第2問)
1 出題の趣旨
(略)
2 採点方針
採点に当たり重視していることは,例年と同じく,①問題文及び会議録中の指示に従って基本的な事実関係や関係法令の趣旨・構造を正確に分析・検討し,②問いに対して的確に答えることができているか,③基本的な判例や概念等の正確な理解に基づいて,相応の言及をすることのできる応用能力を有しているか,④事案を解決するに当たっての論理的な思考過程を,端的に分かりやすく整理・構成し,本件の具体的事情を踏まえた多面的で説得力のある法律論を展開することができているか,という点である。決して知識の量に重点を置くものではない。(下線及び丸数字は筆者)
→①の「正確に分析・検討し」というのは、最低限間違ったことは書かないということである。もちろん、隅から隅まできちんと分析・検討できた方が望ましいが、実際問題現場でそこまでできるのか、疑問である。②は、問われたことにだけ答えろというメッセージ。これを勘違いして、より詳しくあれもこれも・・・としているうちに、余分な答えがいっぱいの答案が完成してしまう。問われたことだけに端的に答えている答案は、キラリと輝く。答案の読み手になるとよくわかる。③の「応用能力」にビビってしまう受験生が多くいるが、要は条文や判例法を目の前の事案に適用して結論を出せばいい。その過程で様々な論点にぶつかるかもしれないが、法的三段論法の形式を守って書いていければ、それで大丈夫。大事なことは、「間違いを書かないようにすること」である。「応用能力が問われる⇒知らないことでもしっかり書かないと!」と思って、墓穴を掘るのが最悪のパターン。④の「論理的な思考過程」「端的に分かりやすく整理・構成」「本件の具体的事情を踏まえた・・・」の部分は、法的三段論法を一貫して崩さなければ自然とクリアできる。
何も特別なことを言っていないことに気付いてもらえばと思う。むしろ「言われなくてもやってます」という受験生になってもらいたい。
3 答案に求められる水準
(略)
4 採点実感
以下は,考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
⑴ 全体的印象
(悪筆・誤字)
○ 毎年の採点実感で繰り返し指摘されてきたにもかかわらず,今年も書き殴った文字,極端に小さな文字,線が細く薄い文字,極めてくせの強い文字で書かれるなどしたため,何度か読解を試みても判読困難な答案が見られた。読めてこその採点であり,採点者が努力しても判読できなければ答案の評価は困難である。結局のところ受験者本人が不利益を被ることになるので,他の人が読むということを意識して,客観的に見て判読しやすい文字を書くよう普段から工夫し,丁寧な筆記を心掛けたい。字の大きさ,間隔等にも気を配ると良い。(下線部は筆者)
→下線部の点は、本当に気を付けてほしい。これだけでだいぶ違う。読める字をきちんと書くのは意外と難しいもの。どうしても判読不能文字を書いてしまう方は、字の大きさ、間隔に気を付けておけば、だいたい大丈夫。
○毎年のように指摘されているが,「画定」(確定),「市長村長」(市町村長),「機会」(機械)といったものは,誤字により,当該言葉の持つ意味自体が変わってしまうものであり,気を付けてほ
しい。
→誤字は、論外。誤字脱字に気付かない注意力のなさでは、精緻な法律論の組み立てはとてもおぼつかないであろう。
(法解釈・基礎的法概念等の理解)
○ 条文の読み込みや体系的理解が不十分な答案が多かった。行政法の分野では,要件がよく整理されて立法されており,条文をきちんと読めば論述のヒントが得られることが多いのに,条文に記載された要件をキーワードとして押さえることなく,何となく行政法の一般理論の勉強で得られた知識を展開してしまって,ポイントがずれてしまった答案も多かった。
→「条文は命綱」なのである。「条文が多くて面倒」なのではなく、「条文が多くて助かる」と思うのが法律家の資質を持った者の感覚である。また、「条文をきちんと読めば論述のヒントが得られることが多い」にもかかわらず、条文を読まない(又は読めない)のは、命綱を自ら放棄する行為である。実際の本試験では初日から死に至る者も少なくない。行政法の問題は事務処理量が多いことからやむを得ない面もある。しかし、事務処理スピードが遅いのは、「何をすべきか」を事前に整理できていないからである。場当たり的な事務処理ではなく、「いつも通り」の処理を確立できれば、死ななない程度に条文(命綱)とつながることは可能なはずである。
○ 当然のことながら,法律論の基礎は,条文の解釈とそれへの当てはめである。適用されるべき具体の条文に即することなく,専ら抽象的あるいは一般的な「定式」のごときものに基づいて議論を展開するのは,適切な議論とはいえない。(下線部は筆者)
→ついに採点実感でもここまで丁寧に法学の基礎とは何かを教えてくれるようになったと感動している(下線部)。本当に「当然のこと」なのだが、事務処理量が多く平常心を失うと、当たり前のことが当たり前にできなくなってしまうのである。無論、それは、平時における訓練が足らないからである。緊張焦りは、法的三段論法が出来ないことの言い訳にはならない。それくらい、法的三段論法の徹底は、普段から意識してもらいたい。
○ 行政法上の基本的な概念や用語を知ってはいるもののその理解が十分ではない答案や,誤解しているのではないかと思われる答案が見られた。例えば,委任命令を行政規則とするものや,申請に基づく処分と届出を混同しているもの,申請を拒否する処分を不利益処分とする初歩的なミスが見られた。
→短答過去問で問われるような内容や条文を読めばわかるような内容のミスは、ゼロにしたい。それだけで、点数は相対的にアップするのである。「行政法上の基本的な概念が・・・」などと言われると、もっとちゃんと勉強しなきゃと肩肘を張ってしまう受験生がよくいるが、それは間違いである。当該概念や用語の定義や意義、条文の内容などは、頑張らなくてもチェックしてしまうもののはずである。そうなっていないのは、日頃の学習に対する姿勢に根本的な問題があるということである。
○ 都市計画法上の用途地域指定について,土地収用や換地処分を予定しているなどといった誤った記述が非常に多く見受けられるなど,法律や判例等に関する知識以前の基本的な用語について理解していない答案,不作為の違法確認訴訟の本案審理の内容が何かを理解していない答案,政省令を裁量基準(法的拘束力を有しない裁量基準)と誤解している答案,運用指針が法令であると誤解している答案などが多く見られた。これらは,司法試験を受験する上で最低限理解しておくべき行政法の常識的な知識ともいうべきものである。
→「間違ったことを書かない」のが大事であることは、上記の通りである。その上で、大事なことは、どう間違ったのかである。「わからんなー」と思いつつ、適当に書いたのであれば大問題である。過去の出題では裁量基準が必ず問われているから、今回も裁量基準だろうと考えていたのも大問題である。問題文で誘導されているからという理由でよく知らない知識を大展開してしまったのも大問題である。このまま突き進めばリスクがあると思ったときそこで立ち止まれるか。分からないなりに守りの答案(基本事項に沿って、最低限のことだけ書いておく答案)を書けるか。その辺りの「感覚」「センス」も試験を通じて見られていることを意識してもらいたい。よくわからないからといって間違った内容を適当に文章にしてしまうような者に法律家になる資格はないと思う。
(読解・分析・構成・表現力)
○ 例年のことではあるが,問題文中に書かれている指示に従って一つ一つ議論を積み重ねることのできた答案は極めて少なかった。このことは,型どおりの解答はできるが,それ以上に問題に即した事案を分析することを苦手とし,問われたことに柔軟に対応する力が欠けている受験生が多いことを示しているのではないかと考えられた。事案について,自由に各自の議論を展開し,自由な発想で何らかの結論を導けば良いわけではなく,設問はもちろん,会議録中の「指示に沿って」,一定の立場から,指示された検討事項を丹念に検討していくことが求められている。
→行政法は会議録等の誘導に乗ることが大事と指導されることが多いと思う。しかし、誘導に載れるのは、基本的な法的理解を会得している者だけである。誘導があることにあぐらをかいて事前準備を怠っている受験生が多いのではないか。問われた論点を覚えるだけでなく、条文(要件効果)から得られる議論の構造を前提に誘導や事実関係の位置づけをきちんと整理する学習をしておく必要がある。行政法は特に過去問を通じた「練習」が求められていると思う。「練習」の際には、何となくではなく、きちんと整理できているか、第三者のチェックを受けておくことも肝要である。
○ 問題文や会議録には解答のヒントや誘導が盛り込まれており,これらを丁寧に読むことは,解答の必要条件である。それにもかかわらず,問題文の事実や指示を読んでいないか,あるいは事案等を正確に理解せず,問題文が何を要求しているかについての論理的な理解が甘いまま解答しているのではないかと思われる答案が多く見られた。問題文をきちんと読んで,何を論じ,解答すべきかを把握した上で答案を作成することは,試験対策ということを超えて法律家としての必須の素質でもあることを認識してほしい。
→解答のヒントや誘導の意味合いに気付けるのも、実力のうちである。実力がなければ、いくら問題文等を丁寧に読んだところでわからないはずである。また、時間がいくらあっても足らないという感覚にも陥るであろう。実力がない者からすると毎年の採点実感の要求は、「無理難題」だと感じるように思う。しかし、実力を伸ばしその「無理難題」に応える方法は、たった一つである。条文から要件効果を整理して事実を一つ一つそれに結び付けるという極めて基本的な練習を繰り返すことである。法的三段論法に沿った論述のスピードは、練習量や日頃の意識に比例すると思う。行政法を苦手とする受験生は、法学の基礎力に不安があると考えられる。そして、行政法が苦手な受験生は、他の科目でも必ずぼろを出しているはずである。
○ 次のように,問題文の事実や指示を読んでいないか,あるいは事案等を正確に理解せずに解答しているのではないかという答案が散見された。
・会議録で答案の方向性を示されているにもかかわらず,設問1⑴で,本件計画の設定が農地所有者の権利義務に及ぼす影響について整理されていない答案
・設問1⑵において,「処分はされていないものとし」との記載があるにもかかわらず,拒否処分取消訴訟を検討する答案や義務付け訴訟について検討する答案
・ 設問1⑵は,⑴とは異なり,計画変更及びその申出の拒絶が処分であることを前提とするものであるにもかかわらず,⑴については論述が不十分な一方で,⑵についての答案において申出の拒絶の処分性について長々と論述する答案
→試験では、「問いに答える」ことが受験生に求められている。その前提として、問題文等を読んで見落としなく理解することが求められるはずである。上記のいずれも「時間があれば」問題なく出来たことだろうと思う。なぜ時間が足りなくなってしまうのか。「事前準備」が足らないのである。具体的には、設問の内容や問題文から大枠となる法律関係や使うべき条文を速やかに整理できる能力と技術を身につけておかなければならない。それによって初めて生まれる試験中の「余裕」が上記の問題を解決することだろう。なお、その能力や技術は、特別なものではなく、日頃の学習の中で当然練習し鍛えておくべきものである。法的三段論法を毎日飽きるほどひたすらに繰り返しているかどうかがポイントである。
○ 挿入の多用,大幅な順序の入替えなど,非常に読みにくい答案がいくつかあった。答案の方針が定まらないまま書き始めている可能性があり,問題文等を丁寧に読みしっかりとした答案構を検討することが重要である。
→ここも「余裕」がないまま答案を書いてしまっているがために起きる問題と思われる。残念ながら一朝一夕に解決できるような秘策はない。しかし、合格者は日々の練習の積み重ねによって例外なくこの壁を乗り越えている。そこに特別な才能は必要ない。必要なのは、根気と基礎基本を徹底する姿勢である。
○ 自己が採る結論をなぜ導けるのかということを説得的に記載することが最も大切であるのに,問題文中の事実を指摘しただけで,さしたる根拠も論理もなく突如として結論が現れる答案が多く見られた。例えば,会議録に記載のある生の事実(「農地所有者等からの申出が不可欠」,「農地の生産性が向上するとは考えにくい」,「本件農地は高台にある」など。)を拾って記載するだけでそれが法的にどういう意味があるのかということについて検討されていないような答案である。規範を立て,それに具体的事実を当てはめることによって結論が得られるという過程をきちんと文章で示せるよう普段から学習しておくのが大切である。(下線部は筆者)
→きちんと法的三段論法に沿って書きなさい、とここまで丁寧に言及されることは珍しい。こんなことは、当たり前すぎるからである。逆に言えば、そんな当たり前のことが出来ただけで相対的に大幅な点数アップが期待できるということを採点実感は、教えてくれている。ABprojectでも、とにかく基礎基本を徹底するように指導している。これは、当たり前のことを言っているに過ぎないと思っているのだが、現に司法試験の必勝法となってしまっているのである。
なお、時間がなくやむを得ず法的三段論法を崩すという場合もありうる。答案戦略としてそのような選択もなしではないが、それを当たり前としないことである。添削指導をしていると、戦略的な省略と雑な記述の区別がついていない答案をよく見る。無論、解答者本人は、雑な記述であることに無自覚なことが多い。
(途中答案・時間配分)
○ 本年度は,解答が終了していないいわゆる途中答案がかなり見られ,特に,設問2については,ほとんど解答がされていないものや,全く解答がないものが少なくなかった。本年度の問題の分量については,例年と比べて,特に増加しているとは考えられないことから,設問2のように問題文に示された事実に沿って個別法を解釈し,実体的な違法事由を検討するタイプの問題に不慣れな受験生が多いのではないかと思われる。(下線部は筆者)
→「途中答案が多かった=書ききった答案はそれだけで高評価」だった可能性が高い。時間内に答案を書ききる能力も大事であると心得てほしい。実務家になれば日々時間に追われることとなる。その中で最善を尽くすのが努めである。個別法解釈を制限時間内ですることは簡単ではないかもしれない。しかし、法解釈は、基本中の基本のはずで、「不慣れ」であってはいけない。「不慣れ」なのは、日頃から条文を読むという基本的な姿勢が保たれていないからに他ならない。それを指摘してもらえない環境にいるなら、今すぐその環境を見直してほしい。合格者になりたければ、教科書や参考書ではなく、まず六法を開く回数を増やすことである。
○ 設問1⑴は相当の分量をもって解答している一方で,設問2の解答が数行にとどまる答案があった。設問2について十分な解答を書くだけの時間がなかったのだろうが,試験時間が限られている以上,時間配分にも注意すべきである。特に,本問の事案の検討から離れて一般論を長々と書いていることが,時間が足りなくなる一つの要因になっているのではないかと感じた。(下線部は筆者)
→目の前の問題と関係ない一般論を書きすぎているという指摘は、他の科目でも散見される。このような指摘を受けてしまう答案は、目の前の具体的事実関係を分析するという姿勢が欠けている。問題文を読んで何となく「あの論点だ!」と思考を展開してしまっている。思考に飛躍があるのである。本来は、条文等を手がかかりにしながら目の前の具体的事実関係を分析することから法律問題の検討を始めなければいけない(短答でも論文でも同じである)。法律問題は、目の前の具体的事実関係の中に宿るものだからである。しかし、多くの受験生がこの過程を軽視している。ちゃんと教わっていないからかもしれない。まじめに教科書を読んでいてもそこに書いていない法学の基礎基本までは身につかない。
○ 設問1⑴よりも⑵が比較的よくできていた。他方,設問2は,これに充てる時間に限りがあったためか,非常に出来が悪かった。条文構造が複雑で,資料から法の仕組みを読み解き,それをアウトプットすることが難しかったのであろうと推測するが,時間配分に注意する必要があると同時に,複雑な法制度を短時間で読み解くことができるように,判例の学習に際して関係する法制度の理解に時間を割くことが求められる。
→「複雑な法制度を短時間で読み解くことができるように」なるためには、まず簡単な条文を読み解けるようにならなければならない。これは、日頃の学習の中で当然にやっておくべきことである。しかし、実際にはやっていない受験生が多い。「条文を読む」ということがどういうことか知らないまま、とりあえず試験で使いそうな論証等を暗記しているだけで済ませてしまっている。「法律は道具である」から、その使い方を知っておくのは当然であり、その使い方を知っていれば闇雲な暗記学習に陥ることもないはずである。本年度の設問2が難しかったのではなく、学習の仕方が間違っているのである。
(続きは明日!!)
※添削指導を受けたいならABproject