令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その4~ 例年指摘している・・・
例年指摘していることが出来ない人は合格する気がないのか、と思う。
こんな風に思うのは、初歩的なミス過ぎるからである。
こんなミスをする人が実務家になることを考えただけで恐ろしい。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3もご覧ください。
⑶ その他
例年指摘している点でもあるが,用語の間違い(全体財産と個別財産等)がある答案や,文字が乱雑で判読しづらい答案,基本的用語の漢字に誤記がある答案が散見された。また,文章の補足・訂正に当たって,極めて細かい文字で挿入がなされる答案も相当数あった。時間的に余裕がないことは承知しているところであるが,採点者に読まれるものであることを意識して,大きめで読みやすい丁寧な文字で書くことが望まれる。
→用語の間違いは、基本的理解の不足。誤記は、注意力不足。文字が乱雑なのは(自分自身もそうだったので強くは言えないが)、大き目な文字・文字間の間隔を空けることに注意してもらいたい。
⑷ 答案の水準
(略)
4 法科大学院教育に求めるもの
刑法の学習においては,刑法の基本概念の理解を前提に,論点の所在を把握するとともに,各論点の位置付けや相互の関連性を十分に整理し,犯罪論の体系的処理の手法を身に付けることが重要である。
→「論点の所在の把握、各論点の位置付けや相互の関連性を十分に整理」出来るのは、犯罪論の体系的処理の手法を身につけているからである。闇雲な論点の暗記ではなく、初期段階で学ぶ刑法的思考の体系を意識して、一つ一つ「要件あてはめ」を積み重ねていく意識が大切である。
①一般的に重要と考えられる論点を学習するに当たっては,一つの見解のみならず,他の主要な見解についても,その根拠や難点等に踏み込んで理解することが要請される。論点をそのように多面的に考察することなどを通じて,当該論点の理解を一層深めることが望まれる。また,②刑法各論の分野においても,各罪を独立して学習するだけではなく,例えば,財産犯であれば,財産犯全体に共通する総論的,横断的事項を意識し,また,犯罪類型ごとの区別の基準を重視した学習が望まれる。(丸数字は筆者)
→①は、近年重視されている傾向である。各学説が何を言っているかも重要であるが、それ以上に、どのような視点で何を重視しているかを整理することが大切であると思う。それを学ぶことで「法的に考える力」が磨かれるからである。添削指導をしていると、受験生間に大きな知識量の差はないように思う。しかし、目の付け所や思考展開の上手さには、明確な差が感じられる。それも一種の知識によるものかもしれないが、「暗記の努力」ではなく、「学び方の工夫」を重視しないと、なかなか身につかないように思う。②は、条文相互の関連性に目を向けろと言うことであろう。刑法に限らず、どの法律においても重要な視点である。
さらに,これまでにも繰り返し指摘しているところであるが,判例を学習する際には,結論のみならず,当該判例の前提となっている具体的事実を意識し,結論に至るまでの理論構成を理解した上で,その判例が述べる規範の体系上の位置付けや,それが妥当する範囲や理論構成上の課題について検討し理解することが必要である。
→このような点が大事なのは、判例も「法」だからである。法は、その道具としての性質から、具体的な事実関係との間でのみその機能を発揮する。ゆえに、具体的事実関係との関連を踏まえ、どのように使うのかを意識しないと、法が道具として如何に機能するのか、その本質を理解することが出来ないのである。面倒くさいかもしれないが、理解が進んでこれば、「全てを読まなくても大体予測がつく」という状態になる。理解が深まっていくとは、こういう状態である。ちなみに、これは、上記の「感覚」にまつわる話である。
例年,取り上げるべき論点の把握が不十分なまま,論証パターンを無自覚に記述するため,取り上げなくてよい点についてまで長々と論じる答案が目に付く。事案の全体像を俯瞰して,事案に応じて必要な点について過不足なく論じるための法的思考能力を身に付けることが肝要である。このような観点から,法科大学院教育においては,まずは刑法の基本的知識及び体系的理解の修得に力点を置いた上,刑法上の諸論点に関する問題意識(なぜ問題となるのか)を喚起しつつ,その理解を深めさせ,さらに,判例の学習等を通じ具体的事案の検討を行うなどして,正解思考に陥らずに幅広く妥当な結論やそれを支える理論構成を導き出す能力を涵養するよう,より一層努めていただきたい。
→ABprojectでは、かねてより「法学の基礎基本」が大事であると繰り返し提唱している。これは、司法試験合格レベルでも変わらないようである。優秀層の言うことに必死にくらいつくのも大切であるが、一旦立ち止まって足元を見、「法学の基礎基本」を固める選択をしてもいいのではないか。基礎基本を固めるための方法は何も難しいものではない。要件効果を意識して、法的三段論法を繰り返せばいいのである。その過程で「法学の基礎基本」は、勝手に身につく。急がば回れである。
※当たり前のことを当たり前にできるようにするABprojectの徹底指導。
令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その3~ 見えないものを見えるようにするにする
「なぜできないのか?」を基礎基本から説明する。
基礎基本に立ち返らないと見えないことがあるのに、先を急ごうとするのはナンセンスです。
(赤字は筆者)
イ 設問2について
本設問では,出題の趣旨で記載した①ないし③の事実を挙げつつ,これを根拠に実行行為性又は実行の着手,因果関係及び故意を否定するための理論構成を記述することが求められていたが,多くの答案は,必要な記述を展開することができていた。
他方,理論構成に関する基本的理解が不足しているとの印象を受ける答案も目立った。例えば,因果関係を否定する場合には,被害者の特殊事情を判断資料に含めるべきかという視点が不可欠であるところ,このような視点を欠いたまま,諸般の事情の総合的判断によって因果関係を否定するなど,論理過程に疑義のある答案が散見された。また,甲が第2行為を止めたことに着目して,甲に中止犯が成立し,殺人未遂罪になるため,殺人既遂罪は成立しないと結論付ける答案も相当数あった。しかし,中止犯は,未遂犯の成立を前提とする以上,中止犯が成立することが殺人既遂罪の成立を否定する理由とならないことは明らかである。これらの答案は,いずれも総じて,論証パターンを無自覚に記述しているにすぎないとの印象を受けた。
→この辺りの知識は短答過去問でも触れられているはずである。短答過去問の学習は、同時に論文対策にもなる。予備試験・司法試験の過去問は、論文・短答問わず、十分に繰り返しておいて損することは絶対にない。刑法の基本的理解をサポートしてくれる再考の素材ばかりである(刑法に限ったことでないが)。
ウ 設問3について
本設問では,前述2のとおり,⑴ないし⑷の各行為の擬律判断が求められていたところ,これら各行為をまんべんなく検討している答案は少数であった。⑴の行為については,そもそも1項詐欺罪の成否が問題となることを把握できていない答案も多かったが,これを把握できている答案についても,甲が自己名義の預金口座から犯罪によって得た金員の払戻しを請求しているという事情を適切に評価している答案はごく一部にとどまった。
→「少数であった」という記述から推測するに、多くの受験生にとってこの部分は、難しかったのであろう。この点に言及しなかった答案は、「甲が自己名義の預金口座から」払戻を受けていることを評価した結果であろうか。しかし、「犯罪によって得た金員の払戻し」という特殊事情(=典型的なケースでは存在しないであろう事情)に注目して、要件検討をする姿勢は見せられたのではないか。「要件効果」という基本に立ち返って粘りを見せられた受験生は、知識の有無に左右されない正しい法的思考を身につけているものと思われる。
⑵の行為については,横領罪の成否が問われていることを把握できてはいても,その客体が500万円に限定されることや,検討対象となる行為と客体の特定を意識的に結び付けて論じることができている答案は必ずしも多くなかった。
→この点については、上記の通り。
⑶の行為については,早すぎた構成要件実現の処理が問われているところ,甲の計画に反し,第1行為によってAの死亡結果及び財産上の利益の移転が現実化しているため,2項強盗殺人罪の成立を認めるためには,同罪の実行行為及び故意が認められるかを具体的に論ずることが必要になるが,そもそも問題の所在を適切に指摘できている答案は少数にとどまった。例えば,多くの答案が,出題の趣旨で記載した最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁が示した判断要素を前提として,第1行為の段階で実行の着手が認められることから故意既遂犯の成立を導いていたが,実行の着手が認められることが,なぜ故意既遂犯の成立を認める論拠となるのかについて,十分な説明を欠いている答案が多数であった。
→判例をそのまま覚えているだけだから、説明できないのである。故意既遂犯が成立するためには何が必要なのか、を意識していれば、判例の内容を改めて整理してインプットし、それを答案上でも表現する必要があることに思い至るはずである。
強盗の実行行為性,すなわち第1行為自体,あるいは第1行為と一体的に評価された第2行為が,強盗罪にいう「暴行」に該当するか否かについて論じることができている答案は少数であった。
→ここは、多くの答案において、条文の文言に着目すること、実行行為性という構成要件に着目すること、という基本が出来ていないと指摘されたものである。これらは、いつも当たり前に意識すべきことである。なぜなら、犯罪成立を導く法的根拠であり、要件であるからである。
他方,強盗罪の実行行為性を認める立場からは,同罪の手段と評価し得る行為によりAが死亡した本事例では,強盗の機会性の有無について論じる必要はないはずであるのに,これを長々と論じる答案が散見された。関連する論点をとりあえず書いておこうとするのではなく,具体的な事案の解決において必要となる論点に絞り込んで検討することが肝要である。
→「何を書いていいかわからない」時にとりあえず何かを書いておくパターンで上手くいくことはほとんどない。大抵、墓穴を掘るだけである。「沈黙は金なり」である。司法試験で大事なことは、「間違えないこと」だからである。
少数ながら,甲が500万円の返還を免れたことが昏酔強盗罪の客体に当たるとして同罪の成立を認め,「2項昏酔強盗殺人」という犯罪が成立するとした答案もあった。しかし,条文上,昏酔強盗罪の客体が財物に限られていることは明らかであり,基本的知識の不足と条文を確認する姿勢の欠如が感じられた。
→昏睡強盗罪についてしっかり学んだことがなかったのかもしれない。それは、試験本番においては、もう仕方ない。しかし、試験本番において「条文を確認する姿勢の欠如」があったとすれば、これは、大きな問題である。条文を確認することは普段の学習から無意識的に出来ていなければならないことだからである。試験本番を迎えても条文の一字一句を全て暗記している受験生は、恐らくいない。だからこそ、全受験生は、試験本番でも条文をきちんと確認すべきである。法律家にとって大事なことは「間違えないこと」だからである。
⑷の行為については,腕時計の奪取時点で,Aが生存していたことは問題文上明らかであるのに,死亡していたとして,死者の占有が腕時計に及ぶか否かを論述する答案も散見された。例年指摘しているところであるが,問題文をよく読んで,何が問われているかを正確に把握して検討に取り掛かることが求められる。
→問題文を読んだものの、起案段階になって読んだ内容を正確に記憶していないということは起こり得る。その原因はの一つは、演習不足。もう一つは、刑法の基本的知識が定着しておらず、試験本番で頭の中が混乱してしまっていることである。いずれにしても、これらは、試験本番までの「事前準備」において解決しておくべき問題である。ちなみに、脳の機能不足を感じる受験生には、「脳トレ」をおススメする。現にそれをやって司法試験の成績が伸びた者もいるようである。
なお,本設問で殺人既遂罪の成否を論じず,自説の内容が不明の答案が散見された。このような答案は,設問2での記述を所与の前提としている印象を受けたが,これを前提にするのであれば,設問2に関する記述が自説であることを示しつつ,論じる必要があった。
→答案の書き方に迷う受験生は多いようである。確かに「経験不足」ゆえに、書き方がわからないこともあると思う。しかしながら、近時の出題傾向の変化に対応できないのは、経験不足でなく、法学の基礎不足だと思う。法的主張の構造をきちんと理解した上、問いに答える形で引き直せばいいだけだからである。憲法でも同様の傾向が見られるが、「猿真似」のような学習姿勢では、法の本質に近づくことは難しいだろう。
(続きは後日)
※見える化するならABproject。
令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その2~
あなたが知らない視点や考え方がここにある。
新たな「気付き」があったら嬉しく思います。
(赤字は、筆者)
3 採点実感等
各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,以下のとおりである。
⑴ 全体について
本問は,前述2のとおり,論じるべき点が多岐にわたるため,厚く論じるべきものと簡潔に論じるべきものとを選別し,手際よく論じる必要があったが,論じる必要のない論点を論じる答案や必ずしも重要とは思われない論点を長々と論じる答案が相当数見られた。
→論じるべきポイントがズレてしまうのは、各論点の理解度の問題もあるが、それ以上に「感覚のズレ」が大きいと思う。暗黙知や常識と言ってもいいと思う。いわゆる論点主義的な答案は、圧倒的にこの部分への意識が希薄なように思う。形式をなぞるだけでなく、場面場面で「その結論をどう思うか」「その理由付けに対してどう感じるか」という点を意識して学習を進めるといいと思う。法が目指す「正義」は、言ってしまえば価値観である。あまりそのような観念的な話をされることはないかもしれないが、法の世界にあるそういったものを学んでいくことも、法律を理解するためには大事なことだと思う。
規範定立部分については,論証パターンの書き写しに終始しているのではないかと思われるものが多く,中には,①本問を論じる上で必要のない点についてまで論証パターンの一環として記述を行うものもあったほか,②論述として,表面的にはそれらしい言葉を用いているものの,論点の正確な理解ができていないのではないかと不安を覚える答案が目に付いた。また,③規範定立と当てはめを明確に区別することなく,問題文に現れた事実を抜き出しただけで,その事実が持つ法的意味を特段論じずに結論を記載する答案も少なからず見られた。これは,論点の正確な理解とも関係するところであり,一定の事実がいかなる法的意味を有するかを意識しつつ,結論に至るまでの法的思考過程を論理的に的確に示すことが求められる。(丸数字と下線は筆者)
→他の科目でも言及したが「論証パターン」は必ずしも悪ではない。問題は使い方と使い手の能力のである。①は、検討すべき対象を正確に認識できているとは言えないから、法的思考力が乏しい。②は、規範等の理解が乏しい。論証を正確に書き写しても、あてはめで理解の浅さはすぐばれる。③は、時間がなかったからかもしれないが、法的三段論法としてふさわしいものとは言えない。部分的に簡略化することはやむを得ないかもしれないが、答案の全体を通して「法的三段論法くらい当然できます」というアピールは必要である。そうすれば、問題ない。
⑵ 各設問について
ア 設問1について
本設問では,Bの交付行為によってAに対する債務が消滅することを構成要件上,どのように評価するべきかという問題意識の下,出題の趣旨に記載した見解の対立構造を示しつつ,恐喝罪の構成要件該当性について正確な法的理解を示すことが求められるが,違法性阻却の問題とした上で,専ら事実関係の評価を変えることで損害額を論じる答案が目立ち,上記の点を的確に検討できている答案は比較的少数であった。
→論点を知らなかったことが直ちに「不良」との評価を招くわけではない。問題は、犯罪の成否を検討するにあたり、構成要件該当性の検討も求められることをどの程度意識できていたかである。問題文を読んだ瞬間「違法性阻却の問題だ!」と決めつけてしまっていなかったか。犯罪成立を認定するためには、全ての要件該当性を漏れなく検討する必要がある。その基本を忘れてはいけない。
甲に成立する財産犯について,1項恐喝罪を認める答案が多かったが,客体が財物に該当するか否かを意識して論じるものは少数であったほか,恐喝罪の構成要件要素を正確に摘示しないなど,同罪の構成要件要素全般に関する理解が十分示されていない答案が散見された。
→ここも「犯罪成立要件を漏れなく検討せよ」と言われているだけである。法学の基本である。
また,甲に詐欺既遂罪の成立を認める答案も散見されたが,Bは債権額については誤信しておらず,また,甲を暴力団組員と誤信した点は,畏怖の念を生じさせる一材料にとどまっているため,詐欺未遂罪はともかく,詐欺既遂罪の成立は認め難いところ,これを認める答案については構成要件要素の検討が不十分であるとの印象を受けた。
→詐欺既遂罪を検討したこと自体は悪くない。確かに甲は、債権額を偽っているからである。しかし、既遂を認めるためには、全ての構成要件の充足を認定する必要があるところ、その検討過程で要件不充足に気付けなかったことが問題である。要件を一つ一つ精緻に解釈しているのは、間違った法的結論に至らないためである(=正義の実現)。とするならば、要件充足性を検討した結果、通常認め難い結論に至ってしまうのは、法の趣旨を没却する重大なヒューマンエラーが原因である。法律家の卵たる司法試験合格者にふさわしいか否かは、言うまでもない。
なお,少数ながら,甲に強盗罪の成立を認める答案もあったが,行為態様からすれば,反抗抑圧に足りる程度の脅迫は認め難く,同罪の成立は一層困難といえ,具体的な事実の構成要件への当てはめができていないとの印象を受けた。
→当てはめについては、相場観がある。上記でも言及したが、「感覚」のようなものである。行為態様に照らして強盗罪で定める重い刑を科することが妥当と言えるか(比例原則的思考)?、判例に照らして妥当か(法の公平性等)?など、様々な角度から「結論の妥当性」を間違わずに判断できるように分析できる必要がある。
(続きは明日)
※他にはない気付きがここに。
令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その1~ 刑法が苦手はあり得ない
形式を重んじれば書ける
何事も型は大事です。
法律論も同じです。
刑法は、形式さえ崩れなければ、だいたい何とかなります。
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(刑事系科目第1問)
1 出題の趣旨,ねらい
既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2 採点方針
本問では,具体的事例について,甲の罪責や,その理論構成,一定の結論を導くために着目すべき事実を問うことにより,①刑法総論・各論の基本的な知識と問題点についての理解,②事実関係を的確に分析・評価し,③具体的事実に法規範を適用する能力,④対立する複数の立場から論点を検討する能力,⑤結論の妥当性や,その導出過程の論理性,論述力等を総合的に評価することを基本方針として採点に当たった。(丸数字は筆者)
→問われている能力や知識は、①~⑤とのことである。刑法の基礎基本を身につけておくこと(①)。それを前提に具体的な事実関係を法的に分析・評価できること(②)。①②から明らかになる事項(論点だけでなく、条文解釈の結果として明らかになる規範も)を前提として適切なあてはめができること(③)。①に関して複数の立場から見解を述べられること(④)。結論の妥当性を意識しつつ、論理的に一貫した論述が出来ること(⑤)。④は少々特殊性があるかもしれないが、それ以外は、ただ単に法律論を展開する際の基本を指摘しているにすぎない。これらは、刑法のみならず他の科目でも妥当するものである(刑法知識は別)。すなわち、ここで明らかにされている採点方針の中で評価されない答案を書いているとすると、他の科目でも成績が振るわない可能性が高い。法の基礎基本を押さえていないと、いわば全科目に共通する「基礎点」のようなものを落とすことになり、一つ二つの論点落としと比にならない失点となり得る。
いずれの設問の論述においても,各設問の内容に応じ,各事例の事実関係を法的に分析した上で,事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,問題文に現れた事実を具体的に摘示しつつ法規範に当てはめて妥当な結論や理論構成を導くこと,さらには,それらの結論や理論構成を導く法的思考過程が論理性を保って整理されたものであることが求められる。ただし,論じるべき点が多岐にわたることから,事実認定上又は法律解釈上争いが生じ得る事項など法的に重要な事項については手厚く論じ,そうでない事項については簡潔に済ませるなど,答案全体のバランスを考えた構成を工夫することも必要である。(下線は筆者)
→下線部が苦手な受験生は多いようである。不十分な論述で得点できないことを恐れるからであろうか。しかし、過剰な論述をしている答案も同様に失当である。「検討すべき事項は何か?」を具体的な事実関係と条文の規定を照らし合わせて的確に見定められること自体が実力である。それが出来なければ、適切な法律論の展開は不能であるからである。また、「検討すべき事項」に対していかなる論述(規範定立とあてはめ)が必要かを判断できる能力も実力である。この辺りのことが出来ていない受験生は、「法律問題を解決する」という法の本質を意識していないと言わざるを得ない。この意識がなければ、試験本番の論述が失当なものとなるだけでなく、日頃の学習もあまり実りのないものになってしまう。試験は試験のためにあるのではなく、受験生の成長を促す道標を与えてくれるものである。過去問を努めて学ぶ重要性もここにある。
出題の趣旨でも示したように,設問1では,事例1における甲の罪責について,甲に成立する1項恐喝罪又は2項恐喝罪いずれかの被害額が,①600万円になるとの立場及び②100万円になるとの立場双方からの説明に言及しつつ,最終的に自説としてどのような構成でいかなる結論を採るのかを根拠とともに論じる必要があった。したがって,上記①及び②を小問形式と捉えて,それぞれの理論構成を別個に示したにとどまり,いかなる結論がいかなる理由で妥当であるのか,自説を論じていない答案は,低い評価にとどまった。(下線は筆者)
→一つ目の下線部は、249条1項又は2項のいずれを適用すべきか(本罪の被害法益の区別)、条文適用の帰趨(あてはめの結果)等を問題としていると解される。いかなる事項も法的三段論法においてどう位置づけるべきかを意識することが大切である。
二つ目の下線部は、「設問をきちんと読んで答えなさい」という話である。問いに答えていない答案の評価が低いのは当然である。
①及び②への言及においては,出題の趣旨で記載した各立場からの説明が考えられるが,これを客観的構成要件要素に関する法解釈上の問題と位置付け,恐喝罪の保護法益の内容や同罪における「財産上の損害」の要否及びその内容に関する各見解を踏まえ,論理性を保って論述することができている答案は,高い評価であった。他方で,①及び②への言及で上記各見解に一切触れず,専ら違法性阻却の観点から,すなわち,犯行態様等の違法性阻却の判断要素に関わる事実関係の評価を変えることにより,違法性が阻却されない場合を①の立場,500万円の交付については違法性が阻却される場合を②の立場として説明するのみの答案は,低い評価にとどまった。
→犯罪の成否を検討する際、その成立要件として構成要件該当性・違法性・有責性について検討すべきことは、司法試験受験生なら知らないものはいないはずである。しかし、知っていることと出来ることは違う。仮に本件で参考になるような判例を知っていても、それを犯罪の成立要件に関連付けて整理していなければ、この問題は解けない。あるいは、「要件効果を一つ一つ積み重ねる」という形式を意識した論述をしていれば、本番で何とか対応出来たかもしれない。いずれにしても、本問について「論点を知らなかった」という一言で片づけてしまう受験生に成長はない。知らない論点もそれなりに書けるようになるための準備は法律家になるために必須であるし、そのために必要なことは、法学の基礎基本を追及することにあるからである。
設問2は,Aが睡眠薬を摂取して死亡したことについて,自説か否かに関わりなく,甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となり得る具体的事実として考えられるものを3つ挙げた上で,それらが当該結論を導く理由を記述させるものであった。
→この設問を読んで何を考えたか。「犯罪成立要件のいずれかを通じて犯罪の成立を否定できればいい!」という視点に直ちに至り、検討を開始することが出来ていたか。いわゆる「あたり」を付けて検討することが出来るか否かは、事務処理のスピードを上げ、かつ、ミスを減らすために重要である。
この3つの事実としては,出題の趣旨で記載した①,②及び③の各事実が考えられる。これに対し,当該結論を導く理由としては,様々な理論構成からの説明が考えられるところ,問題文で「事実ごと」の記述が求められている以上,出題の趣旨で記載したとおり,複数の事実を一括せず,①の事実に着目して実行行為性又は実行の着手を,②の事実に着目して因果関係を,③の事実に着目して故意を,それぞれ否定することが想定されていた。また,問題文で「簡潔」な記述が求められているのであるから,理論構成の根拠や他説への批判まで論じる必要はなかった。
→「『事実ごと』の記述が求められている」とは、すなわち、要件ごとの検討が求められているということである。具体的な事実が法的に意味を持つのは、要件との関係においてだからである。
「『簡潔』な記述」が何かわからない受験生が多いようである。それがわからないのは、普段から論述の濃淡を意識できていないからである。「問いに答えるために最低限書かなければいけないことは何か」「必要十分な論述となるためには、どこまで書かなければいけないか」など、問いに合わせた適切な論述を展開するためには、法的主張の基本的な構造(要件効果等)の理解がなければならない。その先にこそ、文章の長短だけではなく質を保った「『簡潔』な記述」が成り立つのである。
設問3では,出題の趣旨で示したとおり,事例2における甲の罪責については,⑴甲が,銀行の窓口係員に対し,犯罪被害金であることを秘しつつ,甲名義の預金口座から600万円の払戻しを請求し,同額の払戻しを受けた行為について,1項詐欺罪の成否を論じる必要があったが,犯罪被害金の払戻請求とはいえ,甲が銀行に有効な預金債権を取得していることに着目して,「欺く」行為の有無に関し,設問1における結論との整合性も意識しつつ論じることが求められていた。
→犯罪の成否を検討すべき事実関係は、「具体的な行為と被害に遭った保護法益」を探せば見つけ出せる。上記で言うと甲の払戻行為と銀行が管理している600万円の金銭である。これを見つけた後にするのは、法の適用、今回で言うと、246条1項の適用である。これも甲の行為態様及び被害法益を基準にして導かれる。なお、この前提として246条1項等を含む刑法の基礎的理解が求められる(上記採点方針の通り)。その上で、「欺く」行為といえるか否かという要件を主に検討していく。甲が銀行に有効な預金債権を取得している事情等を考慮するのは、その要件該当性の範囲においてである。これが出来れば、自然と論理性を持った論述が出来るはずである。
⑵甲がCに対する借金返済のため前記600万円の払戻しを受け,これをCに渡して費消した行為については,横領罪の成否を論じる必要があったが,客体をAに交付すべき500万円に限定した上で,いかなる行為を「横領」行為と評価するかに対応させながら,甲名義口座の預金又は払い戻した現金が同罪の客体に該当するかを論じることが求められていた。
→この部分も「要件該当性」に対する繊細な感覚なくして理解できないと思われる。難解に感じる法律論ほど、要件効果に立ち返って検討をする必要がある。ほとんどの問題は、大体それで解決する。しかし、多くの受験生が「要件効果」という基本に立ち返る方法を知らないがために、路頭に迷っているように思われる。
⑶甲がAに対する500万円の返還を免れるため睡眠薬を混入したワインをAに飲ませて眠り込ませ,その影響によりAの心臓疾患を悪化させ,Aを死亡させた行為については,2項強盗殺人罪の成否を論じる必要があったが,早すぎた構成要件実現の処理が問題になっているため,出題の趣旨でも記載したとおり,まずは実行行為をどのように構成するのか,すなわち第1行為(Aに睡眠薬を摂取させる行為)及び第2行為(Aに有毒ガスを吸引させる行為)を一体的に評価した上,これを実行行為として構成するのか,第1行為のみを実行行為として構成するのかを論じ,その上でそれぞれの立場から因果関係の有無や,故意の有無を論じることが求められていた。
→「早すぎる構成要件実現」は、刑法上の超有名論点の1つと言っていいだろう。これをどれだけの受験生が具体的な犯罪成立要件との関係で整理しているか。そこを見られていることを意識してもらいたい。「あ、あの論点だ!」「あの判例の規範を書いて・・・あてはめて・・・」という答案を読んでも、刑法総論の基本的な知識と問題点の理解(上記採点方針より)があると言えるか疑問が残る。「実行行為」「因果関係」「故意」等の構成要件に絡めて説明が出来ないと意味がない。やはり要件効果の形式が大事なのである。
また,強盗罪の実行行為である「暴行」が認められるか否かについて,その意義に遡って具体的に論じることが求められていたが,これを肯定した場合,甲が「財産上不法の利益を得」たといえるかについて,当該文言の意義を正確に示した上で,Aに相続人がいないこと等の具体的事実を摘示して当てはめを行う必要があった。なお,2項強盗殺人罪又は殺人罪の実行の着手を否定した場合,殺人予備罪,強盗予備罪の成否のほか,傷害(致死)罪,(重)過失傷害罪(又は同致死罪)などの成否も問題となり得る以上,それらの論述が必要であった。
→犯罪成立を肯定するためには、犯罪成立要件を漏れなく検討する必要がある。この点を意識するだけで刑法の点数は随分安定するだろう。「論点」に囚われすぎず、基本的な要件の積み重ねを意識してもらいたい。他の科目と同様に。
⑷甲が睡眠薬を混入したワインをAに飲ませた後,A方で発見した腕時計を奪取した行為について,窃盗罪等の財産犯の成否を論じる必要があった。
→意識すべきことは、上記と重複する。
設問3では,⑴ないし⑷の各行為ごとに事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,問題文に現れた事実を具体的に指摘しつつ法規範に当てはめることができている答案は高い評価であった。
→「具体的事実関係の分析(犯罪として検討すべき対象の特定)→条文の適用・法解釈論の展開(規範定立・要件定立)→あてはめ→結論」は、すなわち、法的三段論法をしなさいということである。それ以上でも以下でもない。論文攻略への第一歩は、刑法攻略と言ってもいいかもしれない。それくらい、刑法は、法的三段論法等、法律論の「形式」を重んじている。
※形式にこだわるABprojectはこちら。
予備試験・司法試験受験生が行政書士試験を受けるべき3つの理由
資格取得は登山と同じ。段階を踏んで、目標点を目指しましょう。
予備試験・司法試験受験生の方、そして、これからロースクールに進もうとしている方にも、ぜひ行政書士試験を受験して頂きたいと思っています。
もちろん、記念受験ではなく、「合格」を狙ってください。
その理由は、3つです。
①試験科目がかぶる
行政書士試験の法令科目は、基礎法学、憲法、行政法、民法、商法・会社法です。
基礎法学は、法学徒の常識問題としてさておき、「憲法、行政法、民法、商法・会社法」は、司法試験や予備試験でも避けては通れません。
予備試験・司法試験挑戦の手始めにもってこいの構成となっています。
②多角的に学ぶ機会になる
様々な法律系資格試験を見るとわかるのですが、同じ科目でも各試験によって問われる角度が違います。
それを「難易度の違い」と一括りに論じてしまうのは勿体ないと思います。
学んだ知識を異なる角度から見直すことは、深い理解を得るために不可欠です。
様々な資格試験に挑戦することは、その機会を得るまたとない機会になるのです。
そういった意味では、宅建や司法書士試験もいい題材になると思いますが、もっとも無駄がないのは、上記の通り、行政書士試験なのです。
③将来のリスクマネジメント
ここが最も重要だと思っています。
多くの司法試験・予備試験受験生は、「合格」することをイメージしてばかりで、自分が「不合格」になったときのシュミレーションが出来ていません。
しかし、現に「司法試験に五回落ちる」「予備試験にいつまでも受からない」というケースは、毎年発生しているのです。
予備校では、「合格できる!」と誘いつつ、ある程度不合格が続くと「志望先を変えた方がいい・・・」という案内に移行することが少なくないようです。
私の知人も司法制度改革の波に乗ろうとロースクールに進みましたが、結局司法試験に合格出来ず、「法律系の資格を何ら取得しないまま30代後半になってしまった」と嘆いていました。
言うまでもなく、予備試験・司法試験は超難関試験です。
難易度・合格率に変動があっても、「一生受からない人生」が発生する可能性は、常に存在しています。
そして、合格させるため、合格した後に手を差し伸べてくれる人は多くいても、「不合格になった後に手を差し伸べてくれる人」は、多くありません。
最悪の事態になった時に自分の身を守るのは自分しかいません。
余裕のあるうちに行政書士試験に合格しておくことを強くお勧めします。
もちろん、合格しているのことが将来の足かせになることは、全くありません。
かくいう私は、運よく学部時代に行政書士試験に合格していたので、その後の進路選択でも「最悪、行政書士(注:目標は、あくまで司法試験だったので)」という気持ちで、不安を持つことなくロー入試や予備試験・司法試験に挑戦していけました。
最後に。
行政書士試験に合格できないというレベルでは、正直なところ、予備試験・司法試験合格を現実的な目標としてとらえることは難しいでしょう。
そういった意味では、予備試験・司法試験挑戦への試金石とも言えるかもしれません。
行政書士試験を受験する理由は人それぞれだと思います。
でも、受験すること自体は、絶対的におススメです。
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その5~ 知ってほしい表裏一体の不思議
民訴法はおいしい科目
点数が安定してくると大崩れしなくなるのが民訴法の特徴だと思います。
非常にとっつきにくい科目ですが、どうか嫌いにならないでください。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3、その4もご覧ください。
ウ 設問3のまとめ
(略)
4 法科大学院に求めるもの
本年の問題に対しては,多くの答案において,一応の論述がされていたが,定型的な論証パターンをそのまま書き出したと思われる答案,出題の趣旨とは関係のない論述や解答に必要のない論述をする答案,事案に即した検討が不十分であり,抽象論に終始する答案なども,残念ながら散見された。
→「論証が悪」なのではない。論証と条文・判例等論証の元となる法源とのつながり、論証と問題文から導かれる具体的事実関係とのつながりに関する説明が不十分だから、「悪」になってしまうのである。つまり、論証を使う者の能力不足が原因である。予備校添削等では、論証が書けていれば多少あてはめが不十分でも○を付けられることが少なくない。これは、添削時間に限りがあるためだと思うが、非常に問題があると思う。受験生自身も自分の身を守るため、厳しくチェックしてもらいたい。
また,民事訴訟の極めて基礎的な事項への理解や基礎的な条文の理解が十分な水準に至っていないと思われる答案も一定数あった。これらの結果は,受験者が民事訴訟の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得のために体系書や条文を繰り返し精読するという地道な作業をおろそかにし,依然としていわゆる論点主義に陥っており,個別論点に対する解答の効率的な取得を重視しているのではないかとの強い懸念を生じさせる。この点は,設問1や設問2の採点実感中において指摘したとおりである。
→条文や制度趣旨等、「当たり前の事項」に関する理解が大事なのである。その上にしか、論点の理解は成立しない。にもかかわらず「論点主義」に陥っていると言われるのは、闇雲に暗記する学習に走っている受験生が多いからであろう。暗記も大事である。しかし、その前提の思考をきちんと学んでいないと「使える知識」は身につかない。そして、「法律は道具」であるから、「使えない知識」では意味がない。難しい法律論の中で学ぼうとするから気付かぬうちに暗記学習に傾倒してしまう。誰でも理解できる簡単な事項の中で法的思考を学んでほしい。やはり基礎基本が大事なのである。
また,設問3において,典型的な論点であると思われる課題1とそうではない課題2とで論証の充実度に大きな差異があったことからも,いわゆる論点主義の弊害がうかがわれよう。昨年も指摘したところであるが,条文の趣旨や判例,学説等の正確な理解を駆使して,日々生起する様々な事象や問題に対して,論理的に思考し,説得的な結論を提示する能力は,法律実務家に望まれるところであり,このような能力は,基本法制の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得,論理的な思考の日々の訓練という地道な作業によってこそ涵養され得るものと思われる。法科大学院においては,このことが法科大学院生にも広く共有されるよう指導いただきたい。以上は,例年指摘しているところであるが,本年も重ねて強調したい。
→「思考の訓練をせよ」と言われても、受験生の立場からすれば何をすればいいのかわからないはずである。だから、まずは思考の方法を学ぶ必要があると思う。しかし、これを丁寧に教え、訓練してくれる人が少ないように思う。予備校の基礎講座等でも初期段階で教えられるが、気付けば難解な法律論に脳内を支配される時間が多くなる。そのうち、法的思考がぐちゃぐちゃになる。でも、もう誰もそのことに気を留めない。論点の理解・暗記ばかりに気を取られるからである。3歩進んだら2歩下がるゆとりも大事だと思う。どんなに学習を重ねても常に「基礎基本」を振り返る時間を取ってほしし。「簡単すぎる」ことはない。基礎基本を大事にする「意識」が難解な法律論を理解するカギであると思う。
また,民事訴訟法の分野においては,理論と実務とは車の両輪であり,両者の理解を共に深めることが重要である。設問2においては,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題の検討が求められているが,多くの答案がその検討に当たり実務上の和解手続の姿をイメージしていたと評価することができる。これは,受験者や法科大学院等の関係者において実務の理解を深めることの重要性についての認識が共有されつつあることの現れであると受け止めたい。現実の民事訴訟手続についてのイメージがつかめないままに学習を進めることは難しいと思われる。法科大学院においては,今後とも,より一層,理論と実務を架橋することを意識した指導の工夫を積み重ねていただきたい。
→刑事訴訟法でも同様。実務の話に触れる機会があまりない受験生には、法律系雑誌を読んでみたり、実務家のブログを読んだりすることをおススメする。具体的な検討のためには、具体的な学びも必要であると思う。
※難しい問題こそ基礎基本から見直そう。
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その4~ 法律問題の本質は同じだ。
短答対策と論文対策は共通。
出題形式にとらわれず、「法律問題」を解く方法を身につけていれば、得点は安定します。
やるべきことは、ただそれだけ。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3もご覧ください。
⑶ 設問2について
ア 設問2の採点実感
設問2では,和解手続におけるY2の発言から本件契約の解約の合意の存在を認定することができない理由の検討が求められている。ここでは,争いのある事実の認定に当たり,法第247条において,裁判所が「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」をしん酌して心証を形成するものとされていることを指摘した上で,和解手続における当事者の発言がこれらに当たらないことを論証する必要がある。こうした論証は,多くの答案においてされていたが,特に検討が必要な「口頭弁論の全趣旨」の意義とその当てはめについては十分に意識されていないものが目立った。
→247条を指摘できるかどうかが、本問の分かれ道と言ってよい。そして、和解手続におけるY2の発言が検討対象とされているのであるから、「口頭弁論の全趣旨」(247条)が問題となるのであって、「証拠調べの結果」が問題となるのではない。「口頭弁論の全趣旨」の解釈が不十分なのも問題であるが、「証拠調べの結果」について長々と言及する答案も問題だと思う。問題の所在を把握できていないと解されるからである。目の前の検討事項を具体的事実関係から分析し、その判断に必要な規範を端的に示せる答案は、得てしていい答案である。長く書けばいいというものではない。「問いに答えること」が解答の最重要事項だからである。
また,設問2の出題の趣旨を弁論主義の問題と捉え,法第247条を指摘しつつ,あるいはその指摘すらなく,弁論主義について延々と論じて結論を導こうとする答案も少なからずあった。このような答案は,問題点自体の理解を根本的に誤るものであって,評価されない。この点もまた,いわゆる典型論点の定型的な論証パターンを暗記するだけという学習が中心となっていて,基礎的な条文や概念の基本的な理解がおろそかになっているのではないかと強く懸念される一例である。
→本問で弁論主義に思い至ることは、決して悪いことではないと思う。判決の前提となる事実関係の整理に伴う問題だからである。しかし、「弁論主義とは何か?」ということを正確に把握していれば、弁論主義と自由心証主義との区別は出来たはずである。問いに対して正しく法的思考を展開出来ているか否かを測る指標として、「間違いを修正できるか?」というポイントがある。仮に本問で一旦取り上げた弁論主義の検討をやめた受験生がいたとすると、その受験生は、法的思考レベルが高いと思われる。
また,設問2では,争いのある事実の認定に当たって,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題についても検討することが求められている。ここでは,当事者の発言内容が裁判官の心証に影響し得るとすると,例えば,和解の成立に向けた当事者の自由な発言を阻害するおそれがあることや,本問のようにいわゆる交互面接方式により行われた和解手続では情報の共有や反論の機会の保障がないままに判決がされるおそれがあることなど,より実質的な観点から具体的に問題点を指摘することが期待される。多くの答案において,これらのうち少なくとも一方,特に当事者の自由な発言の阻害のおそれを指摘することができていたが,これらを多角的に論ずる答案は,多くはなかった。
→この辺りは、実務に対する理解がある程度必要なのではないだろうか。多角的な検討が出来た答案が多くなかったのも無理はないと思う。
イ 設問2のまとめ
(略)
⑷ 設問3について
ア 課題1の採点実感
設問3では,まず課題1として,本件訴訟において,XがY2に対する訴えのみを取り下げることができるかどうか(法第261条第1項)の検討が求められている。ここでは,その前提として,本件訴訟について訴訟共同の必要があるものかどうか,すなわち,本件訴訟が通常共同訴訟であるのか,固有必要的共同訴訟であるのかという点の検討が必要となる。本件訴訟が通常共同訴訟であると考える場合には,例えば,実体法的観点から,相続財産の共有が民法第249条以下の共有と性質を異にするものではないこと,建物明渡義務が不可分債務(同法第430条)に当たり義務者各自が全部につき除去義務を負うことなどを指摘して,共同訴訟人独立の原則(法第39条)が本件訴訟にも適用されること,その帰結として,XがY2に対する訴えの取下げをすることができることを示す必要がある。本件訴訟について,固有必要的共同訴訟であると解し,XはY2に対する訴えの取下げをすることはできないとする場合であっても,説得力のある理由が示されていれば評価に差異はないが,いずれにせよ,自説の根拠と結論との整合性が求められる。
→短答でも問われるレベルの知識である。短答学習においても、結論だけでなくその論理まで学習することを意識したい。「短答プロパー」などという表現が見られることもあるが、短答学習の充実度は、論文の成績に直結すると思う。どんな問題も軽視しないで、丁寧に積み重ねることが大切である。
課題1では,多くの答案において,本件訴訟が通常共同訴訟であるとの結論を採っており,その理由としても,上記の点を指摘することができていた。もっとも,その理由を十分に論じたものは少なく,例えば,単に本件建物の明渡義務が不可分債務であるということを指摘するだけのもの,共同訴訟人独立の原則やその根拠となる条文を指摘しないまま,本件訴訟が通常共同訴訟であることをもって直ちにXがY2に対する訴えの取下げをすることができるとするものなども散見された。
→ここでの指摘は、「規範にあてはめる」「法律効果の根拠となる条文を指摘する」という基本的なことが出来ていないという話である。このような答案を無意識に書いているようだと、かなりまずい。他の部分でも論述の甘いところが散見されるはずである。それはすなわち、民訴法だけでなく多くの科目で失点する可能性があるということである。
他方で,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る答案も少なくなかった。この結論であっても評価に差異はないことは上記のとおりであるが,その根拠を十分に論証する答案はほとんどなかったため,本件訴訟が通常共同訴訟であるとの結論を採る答案と比較すると,相対的に低い評価となった。本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る場合には,例えば,訴訟法的観点から,判例の結論とは差異があることを踏まえつつ,合一的確定の必要と訴訟共同の必要があることを説得的に論証することなどが必要となる。しかし,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る答案においては,単に「合一的な確定が必要である。」等の結論を示すだけのものが多かった。これでは説得的な論証とは言い難い。
→40条1項の「合一にのみ確定すべき場合」とはどういう意味なのか、同項は何を定めた規定なのか。今一度考えてもらいたい。条文の機能に関する一般論が見えてくるはずである。
また,実体法的観点からこれを基礎付けようとする答案も一定数あったが,このような答案は,総じて本件建物の明渡義務が不可分債務であることを根拠とするものであった。しかし,上記のとおり,本件建物の明渡義務が不可分債務であることは,本件訴訟が通常共同訴訟となることの根拠となるものであって,これにより本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を基礎付けることは困難である。「不可分」という語の語感に引きずられたのではないかと推測されるが,実体法の基礎的な知識の欠落があるのではないかとの危惧を禁じ得ない。また,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る場合には,法第40条を指摘した上で,一部に対する訴えの取下げは全員の当事者適格を失わせることとなるため,その効力を生じないことを指摘する必要があるが,この点の論証を欠く答案も少なからず見られた。このような答案は,固有必要的共同訴訟という概念自体の理解が十分ではないのではないかと懸念される。
→この点の指摘を受ける答案は、規範定立あてはめに関する瑕疵若しくは判例の理解に関する瑕疵、又はその両方に問題がある。いずれにせよ大失点である。
このほか,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採るにもかかわらず,Y2に対する訴えの取下げができるとするもの,固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の区別をすることなく「必要的共同訴訟」かどうかを論ずるもの,本件訴訟が類似必要的共同訴訟であるとするものなども少ないながらあった。これらの答案の評価は,低いものとなる。
→40条1項には「必要的共同訴訟」としか書かれていない。「固有」と「類似」の区別は理論上の区別である。つまり、条文の定めを前提に更に法理論を学ぶことで必要的共同訴訟制度に対する理解をより深めていくことが出来る。段階を踏んでいくことが体系的理解のコツである。
なお,本件訴訟が通常共同訴訟である(又は固有必要的共同訴訟である)という点を示すのみであり,XがY2に対する訴えの取下げができるかどうかについての結論を示さない答案も一定数あった。尋ねられたことに対して解答しなければ,評価されないことは当然である。
→「問いに答える」当然の話である。
イ 課題2について
設問3では,次に課題2として,Xが適法にY2に対する訴えのみを取り下げたという前提の下において,XとY1のみの訴訟において本案判決がされる場合に,取下げがされる前の期日においてY2が提出して取調べがされた本件日誌の証拠調べの結果を事実認定に用いてよいかどうかの検討が求められている。ここでは,「共同訴訟における証拠調べの効果」と「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という問題文中で示された二つの視点を踏まえつつ検討を進める必要がある。
→いずれも一定の訴訟行為の「効果」を検討するものである。法効果を考える時のポイントは、その存在、内容、範囲である。
このうち,一つ目の視点,すなわち「共同訴訟における証拠調べの効果」については,まず通常共同訴訟においては共同訴訟人独立の原則により共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさないことを述べた上で,その例外として,共同訴訟人の一人が提出した証拠から得られる証拠資料はその援用がなくとも他の共同訴訟人に関する事実認定にも用いることができるという証拠共通の原則の意義やこれが認められる根拠を説明することが求められる。相当数の答案において,共同訴訟人独立の原則やその例外としての証拠共通の原則について指摘することができていたが,証拠共通の原則の意義を論ずるに当たり,誰と誰との間の規律であるのかという視点が明確に示されていない答案も一定数あった。また,証拠共通の原則が認められる根拠については,例えば,歴史的に一つしかない事実については,その認定判断も一つしかあり得ないことから,これを認めなければ,裁判所に対して矛盾した判断をさせることとなり,自由心証主義の不当な制約となること,共同訴訟人の一部が提出した証拠であっても,他の共同訴訟人がその証拠調べの手続に関わる機会があることから,他の共同訴訟人の手続保障も図られていることなどを指摘して論ずる必要がある。もっとも,これらを過不足なく論じた答案は僅かであり,多くの答案は,前者のみを指摘するものであった。また,そのような答案においては,単に「歴史的に事実は一つ」,「自由心証主義から」などとのみ述べる答案も少なくなかった。時間の不足に起因するものであるとも考えられるが,このような答案は,論証としては十分なものとは言い難いことに留意が必要である。
→原則と例外の視点、例外の理由付けの方法(必要性と許容性)など、基本的な法的視点は、「法学のコンパス1」で学んでほしい。証拠共通が「誰と誰との間の規律であるのか」という問題は、法効果の範囲の問題。
次に,二つ目の視点,すなわち「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という点については,訴えの取下げがあった部分は初めから係属していなかったものとみなされる(法第262条第1項)という訴えの取下げの効果を指摘することが必要となるが,これを条文とともに的確に指摘することができた答案は,多くはなかった。この点は,課題2が検討を求める問題意識の前提となるものであり,この理解を欠く答案の評価は,低いものとならざるを得ない。
→262条1項を当たり前に指摘できるかどうか。意識しなくても出来る受験生は、難易度の高い問題に挑戦する実力のある受験生である。実力の有無は、だいたい「当たり前が出来るかどうか」を見ればわかる。
そして,以上の二つの視点からの論証を通じ,XのY2に対する訴えの取下げがY2の申出により取調べがされた本件日誌についての証拠共通に影響を与えるのではないかという問題意識が導かれることとなる。
→論点自体知らなくても、「訴え取下げの効果→提出された証拠は?」という問題意識を持つことはできるのではないか。訴え取下げの法効果をどれだけ具体的にイメージできているかが分かれ目になっているように思う。知らない論点でも気付けるかどうかは、法的思考力を測る一つのポイントである。
これが課題2における主要な検討事項となる。本件日誌を証拠として用いることができるとの結論を採る場合には,その根拠として,例えば,判例(最高裁判所昭和32年6月25日第三小法廷判決・民集11巻6号1143頁)によれば,証拠申出の撤回は,証拠調べの終了後においては許されないとされており,その結論は相手方に有利な証拠資料が得られている可能性があることを考慮すると是認されることや,Y2の申出によりされた証拠調べの結果は,証拠共通の原則によりXとY1との関係においても心証を形成する資料となっているところ,それは,係属が消滅した訴訟における訴訟行為に基づく訴訟法律関係とは別個の訴訟法律関係が生じていると言い得ることから,訴えの取下げによってもその効果は維持されるべきであることなどを指摘することが考えられる。これに対し,本件日誌を証拠として用いることができないとする結論を採る場合には,その根拠として,例えば,訴えの取下げの結果,当事者の訴訟行為によって形成された法律効果は全て消滅することを前提とし,証拠申出の撤回は,弁論主義に照らし,相手方の同意があれば許されるとした上で,XがY2に対する訴えの取下げをしたことにより,実質的にはY2の証拠申出とこれに基づく証拠調べの結果の消滅に同意をしているものとみることができることなどを指摘することが考えられよう。課題2については,いずれの結論であっても,評価に差異はないが,論理的かつ説得的な論証が求められる。もっとも,以上を適切に論ずる答案は,どちらの結論であってもほとんどなかった。多くの答案においては,上記のとおり,前提となる訴えの取下げの効果を指摘することができていないため,そもそも課題2が求める問題意識自体を正しく把握することができておらず,訴えの取下げの効果を指摘することができているものであっても,かろうじて「一度形成された心証は消せない。」といった理由を述べて,本件日誌を証拠として用いることができるとの結論を採るものが一定数あったほかは,結論のみを述べるもの,根拠となり得ないものを述べるものなどであった。
→要件効果の積み重ねから論点は生じるものである。本問はそれを理解させる良問である。未知の論点であり、論証自体は難しいかもしれないが、奇問難問の類だとは思われない。解けなかった受験生は、「なぜ解けなかったのか」を見直すことをおススメする。他の問題でも活かせる法的思考のヒントを得られるはずである。
ウ 設問3のまとめ
(略)
※法律問題の解き方を意識するのはABprojectだけ。