令和2年民事系第二問の採点実感を読んでみた~その1~ 連日のブログ投稿頑張っています!
今日のブログはかなり長いです。
連日、ひたすら手を変え品を変え「法学の基礎基本」をお伝えすることに苦心しております。
本日から民事系ぢ二問の採点実感を読んでみたシリーズです。
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(民事系科目第2問)
1 出題の趣旨等
(略)
2 採点方針及び採点実感
民事系科目第2問は,商法分野からの出題である。これは,事実関係を読み,分析し,会社法上の論点を的確に抽出して各設問に答えるという過程を通じ,事例解析能力,論理的思考力,会社法に関する基本的な理解並びに法令の解釈及び適用の能力等を確認するものであり,従来と同様である。その際に,論点について,過不足なく記述がある答案や,記述に多少の不足があっても,総じて記述が論理的である答案,制度の趣旨等に照らして条文を解釈している答案,事案に即して具体的な検討がされている答案には,一定の高い評価を与えた。これらも,従来と同様である。なお,例年言及しているが,文字を判読することができず,文章を理解することができない答案が見られる。そのような文章については,趣旨が不明であるものと判断した上で,採点せざるを得ない。
→具体的な事実関係を条文に沿って整理する能力(事例解析能力)、正しく法的思考を展開する能力(論理的思考力)、会社法の法令解釈・適用能力(条文上明らかでない法知識を含む)、読み手に文意を伝える能力(文章表現力)が求められている。これは、別に気にするところではない。なぜなら、日頃の法律学習の中で当然に強調されるべきところであり、言われるまでもないはずだからである。
⑴ 設問1について
ア 全体的な採点実感
設問1は,公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。)が募集株式の発行等をする場合にどのような手続が要求されるか,それらの手続に瑕疵があることが当該募集株式の発行等の効力にどのような影響を及ぼすか,及び募集株式の発行等の無効をどのような訴えにより主張すべきかについての理解等を問うものである。
→「・・・を問うものである。」と読んで分かった気になっていてはいけない。設問に何と書いてあったのかが重要である。
設問1には、本件株式発行の効力が発生したことを前提に、①「Bは、本件決議1及び本件決議2には瑕疵があり、そのことが本件株式発行の効力に影響を及ぼすと考えている。」、②「Bは、令和2年5月14日の時点で、どのような訴えを提起して、どのような主張をすることが考えられるかを検討した上で、その主張の当否について、論じなさい。」と書かれている。これらの指示を読んでどの程度明確に書くべき内容を構造的にイメージできたかがポイントである。①を読んで「本件株式発行の効力」が問題となること、すなわち、会社法上いかなる方法で効力を争うことが出来るか(要件効果の話)を考えなければならないことがわかる。②を読んで「具体的な主張」を述べなければならないこと、すなわち、要件にあてはまる事実等を論ずべきことがわかる。これらは、法的三段論法を意識していれば、当然思い至る話である。
①について、効力を争うときに使える条文は定められているか?、定められているとしてそれはどの条文なのか?、その条文にはどのようなことが定められているのか?を六法を頼りに確認する。それを前提に、必要な法律上・事実上の主張(②)を考える。なお、本件では非公開会社における問題であるという「特殊性」がある。事案の特殊性は、常に意識しておく必要があるが、優先順位は後である。まずは、上記の条文からの検討を整理してほしい。
(ア) 設問1においては,Bは,①議決権のある剰余金配当優先株式(本件優先株式)の発行(本件株式発行)を行う旨の議案(本件議案2)に関する甲社の定時株主総会(本件定時総会)の決議(本件決議2)には,取消事由があり,非公開会社において,募集事項を決定する株主総会の決議に取消事由があることは,本件株式発行の無効原因に該当すると主張すること,及び②本件優先株式の内容等の所要の事項を定める定款変更を行う旨の議案(本件議案1)に関する本件定時総会の決議(本件決議1)には,取消事由があるため,本件株式発行は定款の定めのない種類の株式の発行となり,これは本件株式発行の無効原因に該当すると主張することが考えられる。
→本問は「本件株式発行の効力」について問うていた。だから「本件株式発行の無効原因」を検討するべきなのである。そして、募集株式発行無効は訴えをもってのみ主張することが出来ると条文に書いてある(828条1項2号、同柱書)。だから、同無効の訴えに絡めて検討すべきなのである。
そして,令和2年5月14日の時点では,本件株式発行の効力が生じているため,Bは,例えば,新株発行の無効の訴え(会社法第828条第1項第2号)を提起し,本件株式発行の無効原因として,上記①及び②のとおり主張することが考えられる。
→「本件株式発行の無効原因として、上記①及び②のとおり主張することが考えられる。」とあるが、そもそも、条文に無効原因は定められていない。ここが非常に大きな問題である。「ある事柄が条文に定められていない」というのは、論点が生じる典型パターンの一つだからである。この点を大して意識もせず「本件株式発行が無効となるのは・・・」などと書き進めていく答案は、「条文から考える」という基本がわかっていない。出題趣旨や採点実感を読んで「これを書けばよかったんだー。」と膝を叩いているだけの受験生に成長はない。試験問題と出題趣旨・採点実感との「間隙」を埋められなければ、単なる暗記学習で終わる。大事なのは、「理解」である。
これらのことを論述する際には,本問においては,⒜新株発行の無効の訴えの提訴期間(非公開会社にあっては,株式の発行の効力が生じた日から1年以内。会社法第828条第1項第2号)が経過していないこと,さらに,⒝株式の発行の無効原因として,株主総会の決議の取消事由を主張する場合には,当該決議の取消しの訴えの提訴期間内(株主総会の決議の日から3か月以内。同法第831条第1項柱書前段)に,新株発行の無効の訴えを提起しなければならないとする見解に立つときは,その提訴期間も経過していないことにも言及することが求められる。
→「『・・・言及することが求められる。』と書いてあるから今度は書こう。」と考えている受験生は、二流である。条文に照らして検討した後、「法定の訴えをもって無効原因を主張していこう」と考えるからこそ書かなければいけないのである。条文に書いてある訴訟要件すら検討せず、訴えに基づく主張を展開することは、通常、あり得ない。訴訟要件は、本案の前提要件だからである(ただし、検討不要という問題設定となることがありうる)。
しかし,そもそも新株発行の無効の訴えに言及していない答案が決して少ないとは言えなかった。また,新株発行の無効の訴えと,株主総会の決議の取消しの訴え又は当該決議の取消事由との関係について,十分に理解しておらず,何ら言及していない答案や,当該決議の取消しの訴えを提起し,当該決議を取り消す旨の判決を得た上で,当該決議を欠くことを理由として,新株発行の無効の訴えを提起するとする答案(このような手順を踏むことは,新株発行の無効の訴えの提訴期間が経過してしまう危険が大きいため,実務的には考え難い。)もかなり存在した。
→「新株発行の無効の訴えに言及していない」「新株の無効の訴えと・・・取消事由との関係について、十分に理解しておらず、何ら言及していない」答案は、全く条文を使えていないから、その時点でレベルが低い。明らかに基本が出来ていないのである。無効原因は、訴えをもってのみ主張することが出来ると定められているし(828条1項柱書)、取消事由は株主総会決議取消の訴え(831条1項)の規定として定められている。無効原因の論述を展開するなら、避けて通れない条文や説明があるはずである。「正しい法的思考」を意識していないがゆえに、中身がスカスカな答案になってしまっている。このような答案を書く受験生は、知っている論点についてはある程度書けている風に見えるが、少しひねられると途端に崩れる。試験全体を通じて安定した成績を挙げるのは難しい。
(イ) Bの上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,本問において,甲社は取締役会設置会社であるから,株主総会の招集通知には,株主総会の日時及び場所のみならず,株主総会の目的である事項及び払込金額が募集株式の引受人に特に有利な金額である場合(いわゆる有利発行の場合)における募集株式を引き受ける者の募集に係る議案の概要を記載しなければならなかった(会社法第299条第2項第2号,第4項,第298条第1項,会社法施行規則第63条第7号ホ)。しかし,本件定時総会の招集通知(本件招集通知)には,株主総会の日時及び場所のみを記載していたため,本件決議2には,株主総会の招集の手続の法令違反という株主総会の決議の取消事由があること(同法第831条第1項第1号)を指摘することが求められる(なお,本問においては,「定款変更の件」及び「株式発行の件」という会議の目的事項について取締役会で決定しているため,同法第309条第5項の違反はないと考えられる。)。
しかし,会社法第299条第2項第2号及び第4項並びに第298条第1項の適用関係や内容を正しく理解しておらず,株主総会の招集通知に株主総会の目的である事項を記載しなければならないことに言及していなかったり,株主総会の目的である事項(議題)と議案を混同していたりする答案が多かった。
→ここで問われていることは、「会社法の条文を知っているか(ちゃんと引けるか)?」ということである。短答でも聞かれるレベルの知識であるから、予備試験や司法試験の短答過去問をきちんと解いていれば、複数の条文を整理した上で、法令違反があることを指摘することくらいはできたはずである。短答式試験の問題は、条文操作を練習するのに最適の素材である。試験科目になっていないからといってやらないというのではいけない。少なくとも予備試験組は解いているはずである。予備試験組の司法試験合格率の高さは、短答を通じた訓練の賜物といっても過言ではない。
(ウ) その上で,本問においては,株主全員(A及びB)が本件定時総会に出席しているから,いわゆる全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否かについて,会社法が「株主総会を招集するためには招集権者による招集の手続を経ることが必要であるとしている趣旨は,全株主に対し,会議体としての機関である株主総会の開催と会議の目的たる事項を知らせることによつて,これに対する出席の機会を与えるとともにその議事及び議決に参加するための準備の機会を与えることを目的とするものであるから,招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であつても,株主全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において,株主総会の権限に属する事項につき決議をしたときには,右決議は有効に成立する」とする判例(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)や,全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるためには,株主が瑕疵を認識しつつ,株主総会の開催に同意していることが必要であるとする見解(大阪地判平成30年9月25日金判1553号59頁)等も踏まえ,検討することが求められる。
そして,本問においては,上記の判例を踏まえ,株主全員(A及びB)が異議を述べずに出席しているから,全員出席総会による瑕疵の治癒が認められると論ずることや,上記の見解を踏まえ,(ⅰ)招集通知に記載すべき議案の概要においては本件株式発行が有利発行である旨が示されている必要があると解した上で,Bは有利発行であることを認識していないため,瑕疵を認識して開催に同意したとは評価することができず,全員出席総会による瑕疵の治癒は認められないと論ずること,又は(ⅱ)招集通知に記載すべき議案の概要においては本件株式発行が有利発行である旨が示されている必要はなく,払込金額等の募集事項が記載されていれば足りると解した上で,Bは瑕疵を認識して開催に同意したとも評価することができるため,全員出席総会による瑕疵の治癒が認められると論ずることなどが考えられる。
しかし,全員出席総会による瑕疵の治癒について論じている答案は多くなく,さらに,これについて,株主が瑕疵を認識しつつ,株主総会の開催に同意していることの要否を問題とするなど,充実した論述をしている答案は少なかった。
→ここで問われている瑕疵の治癒について書けなかった受験生は、それほど悲観する必要はない。瑕疵の治癒については、条文に何も書かれていないからである。ただし、「結論の妥当性」という観点から形式的な検討の結果を修正するケースは、論点発生の典型パターンである。会社法においては、「法的安定」を重視する傾向があるから、あの手この手で行為の有効性を維持しようとすることが少なくないことをこれを機に覚えておけばいい。
(エ) また,本問においては,本件株式発行が有利発行に該当することは比較的明らかであると考えられるところ,有利発行の場合には,取締役は株主総会の決議に際して有利発行を必要とする理由を説明しなければならず(会社法第199条第3項),それを欠くことは,株主総会の決議の方法の法令違反という取消事由(同法第831条第1項第1号)に該当する。
本問においては,Cは,本件決議2に際し,2億円の資金調達が急務であり,そのためには,事実上,本件株式発行以外に選択肢がないことを説明する一方で,2万円という払込金額が公正な払込金額である旨の虚偽の説明をしており,Bは本件株式発行が有利発行であることを認識することができていないため,果たしてCは有利発行を必要とする理由を説明したものと評価することができるか,あるいは仮にそのような評価が可能であるとした場合であっても,株主の議決権行使に重要な影響を及ぼす事項について虚偽の説明をして,本件決議2を成立させているため,決議方法の著しい不公正という取消事由(同号)が認められないかといった点について,検討することが求められる。その際には,甲社の取締役は,有利発行を必要とする理由の説明(会社法第199条第3項)をしていないと評価することができるため,本件決議2には決議方法の法令違反という取消事由(同法第831条第1項第1号)が認められると論ずることが考えられる。他方で,Aは,2億円の資金調達が急務であること及びそのためには事実上,本件株式発行以外に選択肢がないことを説明しているから,有利発行を必要とする理由を説明したと評価することができると論ずることもあり得る。また,Aは,株主の議決権行使に重要な影響を及ぼす事項について虚偽の説明をして,本件決議2を成立させているため,本件決議2には,決議方法の著しい不公正という取消事由(同号)が認められると論ずることもあり得る。
→要するに、199条3項違反があったかどうか(=決議方法の法令違反)が問われている。同項から導かれる要件を丁寧に検討し、事実をあてはめていれば、十分に合格答案になるはずである。ほとんどの受験生が事前知識を持っていない状態でこの問題に臨んでいるはずである。とすれば、合否を分けたのは、「条文を使いこなす力」である。とかく会社法の問題は、正確に条文を引用し、使いこなせるかが問われている。それさえできれば、何も怖くない。「知識がなかったから点数が取れなかった」は、会社法に限ってはほとんどありえないと思う。
本件株式発行が有利発行に該当するか否かについて言及している答案は多かった。その中では,有利発行を必要とする理由の説明をしていないと認定する答案が最も多かったが,そのような認定をした根拠を十分に述べない答案も少なくなかった。また,特に根拠を挙げることなく,有利発行を必要とする理由を説明したと認定する答案も散見された。なお,上記のとおり,本問においては,本件株式発行が有利発行に該当することは比較的明らかであると考えられるため,本件株式発行が有利発行に該当するか否かについては,さほど厚く論ずる必要はないと考えられるが,その点を長々と論ずる答案が少なからず見られた。
→知識がないから「根拠」を上手く述べることが出来なかったのだろう。それは仕方がない。知っているふりをして長々と論じてみても、墓穴を掘るリスクが高まるだけでさほど点数が上がるケースは多くない。「さほど厚く論ずる必要はないと考えられるが、その点を長々と論ずる答案」は、ただの悪あがきであるし、事例解析能力の低さを露呈するだけである。
(オ) そして,本件決議2に取消事由が認められると解する場合には,例えば,「非公開会社については,その性質上,会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益〔支配的利益〕の保護を重視し,その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するというのが会社法の趣旨と解されるのであり,非公開会社において,株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,その発行手続には重大な法令違反があり,この瑕疵は上記株式発行の無効原因になる」とする判例(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁)を踏まえ,本問のように,募集事項を決定する株主総会の決議を経ている場合であっても,本件決議2に上記のような取消事由があると解するときは,既存株主の意思に反してその支配的利益が害されていると言うことができるか否かについて,事案に即して検討した上で,本件株式発行に無効原因が認められると解すべきか否かを論ずることが求められる。
前掲最判平成24年4月24日の判示内容に照らすと,募集事項を決定する株主総会の決議の手続を経ていても,決議に取消事由がある場合には,株主は自らの支配的利益が損なわれていることに真に同意しているとは評価することができず,株主の意思に反して支配的利益が損なわれていると言うことができるため,株式の発行の無効原因が認められると解されると論ずることが考えられる。その上で,本問においては,上記のように,募集事項を決定する本件決議2について取消事由が認められると解されるため,本件株式発行には無効原因が認められ,Bの主張が認められると論ずることが考えられる。
他方で,株主総会の決議に取消事由がある場合であっても,それが既存株主の支配的利益に影響を及ぼさないときは,株式の発行の無効原因が認められないとする解釈もあり得る。そのような解釈を採る場合には,本問においては,支配的利益に影響を及ぼすと論ずること又は影響を及ぼさないと論ずることのいずれもがあり得る。また,Bには,有利発行である本件株式発行を差し止める機会が実質的に与えられなかったことも考慮して,本件株式発行に無効原因があると認められるか否かを論ずることも考えられる(最判平成9年1月28日民集51巻1号71頁を参照)。すなわち,会社法上,非公開会社において,原則として株主総会の決議が要求されるところ,株主総会の決議の手続が要求される場合には,株主はこのような手続を通じて募集事項を知ることができるといった理由から,募集事項の公示が要求されていない。ところが,本問においては,株主総会の決議の手続を経ているものの,Bに有利発行であることが秘匿されているため,Bには株式発行差止請求権を行使する機会が保障されていなかったと評価することもできる。そのことに着目して,本件株式発行には無効原因が認められ,したがって,上記のBの主張は認められると論ずることもあり得る。
このように,①本件決議2に上記のような取消事由があることと本件株式発行の無効原因との関係について十分な論述がされている答案は必ずしも多くなかったが,②非公開会社における株主の支配的利益を厚く保護すべきであるという前掲最判平成24年4月24日の実質的根拠等に言及した上で,本件株式発行の効力を論ずる答案は一定数見られた。また,特に理由を述べることなく,③本件決議2に取消事由があることが直ちに本件株式発行の無効原因に該当するかのように論ずる答案が相当数見られた(株式の発行の無効原因は,判例及び学説上,限定的に解されている一方で,株主総会の決議の取消事由は,株主総会の決議の瑕疵の中でも比較的軽微な事由であるとされていることとの平仄が検討されておらず,株式の発行の無効という結論に合わせた強引な論述であると言わざるを得ない。)。なお,株主総会の決議の取消しの訴えを提起し,当該決議を取り消す旨の判決を得た上で,新株発行の無効の訴えを提起することを前提として,前掲最判平成24年4月24日の判示内容をそのまま当てはめる答案も一定数見られた。(下線及び丸数字は筆者)
→①について。参考判例の知識を前提に十分な論述をするのは、実際のところ、非常に難しい。これが出来るのは、かなりの上位答案だということになる。②について。非公開会社の特殊性を踏まえるべき問題は、過去にも出題されていることから株主の支配的利益に言及することが出来たのだろう。真に判例を理解できていたかどうかは疑わしいが、仮に判例を読んだことがなくても問題演習等を通じて「判例関連知識」を蓄えているのだろう。問題演習とその解説を通じて判例関連知識を増やしていく方法は、「判例百選」をダラダラ読む方法よりおススメである。シンプルに退屈しにくいからである。③について。カッコ書きで実質的な問題点を指摘してくれているが、そもそも、決議取消しの訴えの本案要件と株式発行無効の訴えの本案要件は、別物のはずである。条文から要件を定立し、それにあてはめるという法的三段論法に精通している者なら、③のような指摘を受ける答案の違和感に気付けるはずである。気付けないのは、基本が出来ていない証左である。
なお、「無効事由=重大な法令違反」程度の知識は持っていてほしい。
(カ) Bの上記②の主張の当否を論ずるに当たっても,上記と同様に,本件決議1には,株主総会の目的である事項及び定款の変更に係る議案の概要の記載がないという株主総会の招集の手続の法令違反があり,そのことが株主総会の決議の取消事由に該当すること(会社法第831条第1項第1号)を指摘した上で,全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否かについて,判例(前掲最判昭和60年12月20日)等も踏まえ,検討することが求められる。
→既に述べた通り。
(キ) そして,本件決議1に取消事由が認められると解する場合には,本件株式発行が定款の定めのない種類の株式の発行に該当し,これが本件株式発行の無効原因に該当すると認められるか否かについて,検討することが求められる。
他方で,全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるためには,株主が瑕疵を認識しつつ,株主総会の開催に同意していることが必要であるとする見解に立った上で,Bが瑕疵を認識していたかどうかを問題にする答案の場合には,本件決議1については瑕疵の認識があるため治癒が認められるとする答案もあり得る。
これについては,本件決議2と本件決議1を区別しないで,いずれも決議に取消事由が認められるため,本件株式発行には無効原因が認められると論ずる答案が多かった。もっとも,本件決議1については,決議に取消事由が認められるため,本件株式発行が定款の定めのない種類の株式の発行に該当し,これが本件株式発行の無効原因に該当すると論ずる答案も,少数ではあるが,見られた。
→この点に解答するためには、かなり高度な事例解析能力と条文知識が求められる。上手く解答できたのが「少数で」あったこともうなずける。司法試験には、解答出来なくてもいい論点があることを知っておいてほしい。
イ 答案の例
(略)
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