法的なものの見方・考え方(5) 不合格者は要件・効果の構成に鈍感
「要件・効果の話って当たり前すぎる」と思って油断すると落ちる!!
さて、今回は、要件・効果のお話です。
要件とは、一定の法律効果が発生するための条件のことです。
効果とは、法律効果のことで権利義務が発生することを指します。
法律(条文)を理解するには、要件・効果の理解がとても重要です。
というお話をこのブログの読者の皆様は、絶対にどこかで聞いたことがあるはずです。
それくらい当たり前の話なのですが、「知っていること」と「使えること」には大きな違いがあります。
予備試験・司法試験に合格していないという方にこそ、今一度かみしめてもらいたい今日のテーマです。
例えば、権利濫用(民法第1条第3項)に関する条文がありますね。
「権利の濫用は、これを許さない。」というシンプルな文言のため、一見簡単に使えそうな気がするのかもしれません。
すると、解答に困った受験生がとりあえず「・・・は、権利濫用に当たるから無効である。」とか書いてみたりするわけです。
ですが、こうしたシンプルな条文ほど扱い方が難しいと自覚すべきだと思います。
「権利の濫用」にいう「濫用」とは、何か?ということを自分の力できちんと解釈して要件を定立しないといけないからです。
超有名判例の一つである「宇奈月温泉事件判決」では、権利濫用について以下のように整理していると考えます。
まず、「権利の濫用」とは、社会観念上所有権(権利)の目的に違背し、その機能として許されるべき範囲を超脱する所有権(権利)の行使であることを指すと解釈します。
ここでは、「濫用」という言葉の文言解釈、当事者間の権利関係を調整するという法の趣旨、「これを許さない。」という法効果の見地から一定の解釈が導かれていると言えるでしょう(解釈や理由付けのお話は次回以降改めて詳解します)。
これが「権利の濫用」から導かれる要件となります。
そして、所有権に基づく妨害排除請求権(権利)の行使について、①所有権侵害による損失が軽微である②損失の除去に莫大な費用を要する③第三者が不当な利得を企図し、別段の必要がないのに侵害に関わる物件を買収して当該請求をしていることを理由にして、その権利濫用性を認定しています。
仮に予備試験・司法試験の答案の中で規範を立てるのであれば、最低限上記解釈部分だけでもいいかなと思います。
ただ、「社会観念」とか「許されるべき範囲を超脱」とかいう文言には、依然抽象性が残っていて、その該当性判断が難しいと感じませんか?
そんな時は、①~③で挙げたような事情を考慮すべき要素として規範の中に含めると規範の明確性がぐっと高まります。
不合格者の多くは、文言や規範の抽象度に鈍感な気がします。
要件・効果の構成を導くためには、その過程でいかに抽象度を排除していくか、ということに意識を向けなければなりません。
要件・効果という言葉を「知っている」としても、この意識・感覚がなければ、要件・効果を「使えている」とは言えないのです。
次回も引き続き要件・効果の話をしましょう!!