令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その1~ 刑法が苦手はあり得ない
形式を重んじれば書ける
何事も型は大事です。
法律論も同じです。
刑法は、形式さえ崩れなければ、だいたい何とかなります。
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(刑事系科目第1問)
1 出題の趣旨,ねらい
既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2 採点方針
本問では,具体的事例について,甲の罪責や,その理論構成,一定の結論を導くために着目すべき事実を問うことにより,①刑法総論・各論の基本的な知識と問題点についての理解,②事実関係を的確に分析・評価し,③具体的事実に法規範を適用する能力,④対立する複数の立場から論点を検討する能力,⑤結論の妥当性や,その導出過程の論理性,論述力等を総合的に評価することを基本方針として採点に当たった。(丸数字は筆者)
→問われている能力や知識は、①~⑤とのことである。刑法の基礎基本を身につけておくこと(①)。それを前提に具体的な事実関係を法的に分析・評価できること(②)。①②から明らかになる事項(論点だけでなく、条文解釈の結果として明らかになる規範も)を前提として適切なあてはめができること(③)。①に関して複数の立場から見解を述べられること(④)。結論の妥当性を意識しつつ、論理的に一貫した論述が出来ること(⑤)。④は少々特殊性があるかもしれないが、それ以外は、ただ単に法律論を展開する際の基本を指摘しているにすぎない。これらは、刑法のみならず他の科目でも妥当するものである(刑法知識は別)。すなわち、ここで明らかにされている採点方針の中で評価されない答案を書いているとすると、他の科目でも成績が振るわない可能性が高い。法の基礎基本を押さえていないと、いわば全科目に共通する「基礎点」のようなものを落とすことになり、一つ二つの論点落としと比にならない失点となり得る。
いずれの設問の論述においても,各設問の内容に応じ,各事例の事実関係を法的に分析した上で,事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,問題文に現れた事実を具体的に摘示しつつ法規範に当てはめて妥当な結論や理論構成を導くこと,さらには,それらの結論や理論構成を導く法的思考過程が論理性を保って整理されたものであることが求められる。ただし,論じるべき点が多岐にわたることから,事実認定上又は法律解釈上争いが生じ得る事項など法的に重要な事項については手厚く論じ,そうでない事項については簡潔に済ませるなど,答案全体のバランスを考えた構成を工夫することも必要である。(下線は筆者)
→下線部が苦手な受験生は多いようである。不十分な論述で得点できないことを恐れるからであろうか。しかし、過剰な論述をしている答案も同様に失当である。「検討すべき事項は何か?」を具体的な事実関係と条文の規定を照らし合わせて的確に見定められること自体が実力である。それが出来なければ、適切な法律論の展開は不能であるからである。また、「検討すべき事項」に対していかなる論述(規範定立とあてはめ)が必要かを判断できる能力も実力である。この辺りのことが出来ていない受験生は、「法律問題を解決する」という法の本質を意識していないと言わざるを得ない。この意識がなければ、試験本番の論述が失当なものとなるだけでなく、日頃の学習もあまり実りのないものになってしまう。試験は試験のためにあるのではなく、受験生の成長を促す道標を与えてくれるものである。過去問を努めて学ぶ重要性もここにある。
出題の趣旨でも示したように,設問1では,事例1における甲の罪責について,甲に成立する1項恐喝罪又は2項恐喝罪いずれかの被害額が,①600万円になるとの立場及び②100万円になるとの立場双方からの説明に言及しつつ,最終的に自説としてどのような構成でいかなる結論を採るのかを根拠とともに論じる必要があった。したがって,上記①及び②を小問形式と捉えて,それぞれの理論構成を別個に示したにとどまり,いかなる結論がいかなる理由で妥当であるのか,自説を論じていない答案は,低い評価にとどまった。(下線は筆者)
→一つ目の下線部は、249条1項又は2項のいずれを適用すべきか(本罪の被害法益の区別)、条文適用の帰趨(あてはめの結果)等を問題としていると解される。いかなる事項も法的三段論法においてどう位置づけるべきかを意識することが大切である。
二つ目の下線部は、「設問をきちんと読んで答えなさい」という話である。問いに答えていない答案の評価が低いのは当然である。
①及び②への言及においては,出題の趣旨で記載した各立場からの説明が考えられるが,これを客観的構成要件要素に関する法解釈上の問題と位置付け,恐喝罪の保護法益の内容や同罪における「財産上の損害」の要否及びその内容に関する各見解を踏まえ,論理性を保って論述することができている答案は,高い評価であった。他方で,①及び②への言及で上記各見解に一切触れず,専ら違法性阻却の観点から,すなわち,犯行態様等の違法性阻却の判断要素に関わる事実関係の評価を変えることにより,違法性が阻却されない場合を①の立場,500万円の交付については違法性が阻却される場合を②の立場として説明するのみの答案は,低い評価にとどまった。
→犯罪の成否を検討する際、その成立要件として構成要件該当性・違法性・有責性について検討すべきことは、司法試験受験生なら知らないものはいないはずである。しかし、知っていることと出来ることは違う。仮に本件で参考になるような判例を知っていても、それを犯罪の成立要件に関連付けて整理していなければ、この問題は解けない。あるいは、「要件効果を一つ一つ積み重ねる」という形式を意識した論述をしていれば、本番で何とか対応出来たかもしれない。いずれにしても、本問について「論点を知らなかった」という一言で片づけてしまう受験生に成長はない。知らない論点もそれなりに書けるようになるための準備は法律家になるために必須であるし、そのために必要なことは、法学の基礎基本を追及することにあるからである。
設問2は,Aが睡眠薬を摂取して死亡したことについて,自説か否かに関わりなく,甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となり得る具体的事実として考えられるものを3つ挙げた上で,それらが当該結論を導く理由を記述させるものであった。
→この設問を読んで何を考えたか。「犯罪成立要件のいずれかを通じて犯罪の成立を否定できればいい!」という視点に直ちに至り、検討を開始することが出来ていたか。いわゆる「あたり」を付けて検討することが出来るか否かは、事務処理のスピードを上げ、かつ、ミスを減らすために重要である。
この3つの事実としては,出題の趣旨で記載した①,②及び③の各事実が考えられる。これに対し,当該結論を導く理由としては,様々な理論構成からの説明が考えられるところ,問題文で「事実ごと」の記述が求められている以上,出題の趣旨で記載したとおり,複数の事実を一括せず,①の事実に着目して実行行為性又は実行の着手を,②の事実に着目して因果関係を,③の事実に着目して故意を,それぞれ否定することが想定されていた。また,問題文で「簡潔」な記述が求められているのであるから,理論構成の根拠や他説への批判まで論じる必要はなかった。
→「『事実ごと』の記述が求められている」とは、すなわち、要件ごとの検討が求められているということである。具体的な事実が法的に意味を持つのは、要件との関係においてだからである。
「『簡潔』な記述」が何かわからない受験生が多いようである。それがわからないのは、普段から論述の濃淡を意識できていないからである。「問いに答えるために最低限書かなければいけないことは何か」「必要十分な論述となるためには、どこまで書かなければいけないか」など、問いに合わせた適切な論述を展開するためには、法的主張の基本的な構造(要件効果等)の理解がなければならない。その先にこそ、文章の長短だけではなく質を保った「『簡潔』な記述」が成り立つのである。
設問3では,出題の趣旨で示したとおり,事例2における甲の罪責については,⑴甲が,銀行の窓口係員に対し,犯罪被害金であることを秘しつつ,甲名義の預金口座から600万円の払戻しを請求し,同額の払戻しを受けた行為について,1項詐欺罪の成否を論じる必要があったが,犯罪被害金の払戻請求とはいえ,甲が銀行に有効な預金債権を取得していることに着目して,「欺く」行為の有無に関し,設問1における結論との整合性も意識しつつ論じることが求められていた。
→犯罪の成否を検討すべき事実関係は、「具体的な行為と被害に遭った保護法益」を探せば見つけ出せる。上記で言うと甲の払戻行為と銀行が管理している600万円の金銭である。これを見つけた後にするのは、法の適用、今回で言うと、246条1項の適用である。これも甲の行為態様及び被害法益を基準にして導かれる。なお、この前提として246条1項等を含む刑法の基礎的理解が求められる(上記採点方針の通り)。その上で、「欺く」行為といえるか否かという要件を主に検討していく。甲が銀行に有効な預金債権を取得している事情等を考慮するのは、その要件該当性の範囲においてである。これが出来れば、自然と論理性を持った論述が出来るはずである。
⑵甲がCに対する借金返済のため前記600万円の払戻しを受け,これをCに渡して費消した行為については,横領罪の成否を論じる必要があったが,客体をAに交付すべき500万円に限定した上で,いかなる行為を「横領」行為と評価するかに対応させながら,甲名義口座の預金又は払い戻した現金が同罪の客体に該当するかを論じることが求められていた。
→この部分も「要件該当性」に対する繊細な感覚なくして理解できないと思われる。難解に感じる法律論ほど、要件効果に立ち返って検討をする必要がある。ほとんどの問題は、大体それで解決する。しかし、多くの受験生が「要件効果」という基本に立ち返る方法を知らないがために、路頭に迷っているように思われる。
⑶甲がAに対する500万円の返還を免れるため睡眠薬を混入したワインをAに飲ませて眠り込ませ,その影響によりAの心臓疾患を悪化させ,Aを死亡させた行為については,2項強盗殺人罪の成否を論じる必要があったが,早すぎた構成要件実現の処理が問題になっているため,出題の趣旨でも記載したとおり,まずは実行行為をどのように構成するのか,すなわち第1行為(Aに睡眠薬を摂取させる行為)及び第2行為(Aに有毒ガスを吸引させる行為)を一体的に評価した上,これを実行行為として構成するのか,第1行為のみを実行行為として構成するのかを論じ,その上でそれぞれの立場から因果関係の有無や,故意の有無を論じることが求められていた。
→「早すぎる構成要件実現」は、刑法上の超有名論点の1つと言っていいだろう。これをどれだけの受験生が具体的な犯罪成立要件との関係で整理しているか。そこを見られていることを意識してもらいたい。「あ、あの論点だ!」「あの判例の規範を書いて・・・あてはめて・・・」という答案を読んでも、刑法総論の基本的な知識と問題点の理解(上記採点方針より)があると言えるか疑問が残る。「実行行為」「因果関係」「故意」等の構成要件に絡めて説明が出来ないと意味がない。やはり要件効果の形式が大事なのである。
また,強盗罪の実行行為である「暴行」が認められるか否かについて,その意義に遡って具体的に論じることが求められていたが,これを肯定した場合,甲が「財産上不法の利益を得」たといえるかについて,当該文言の意義を正確に示した上で,Aに相続人がいないこと等の具体的事実を摘示して当てはめを行う必要があった。なお,2項強盗殺人罪又は殺人罪の実行の着手を否定した場合,殺人予備罪,強盗予備罪の成否のほか,傷害(致死)罪,(重)過失傷害罪(又は同致死罪)などの成否も問題となり得る以上,それらの論述が必要であった。
→犯罪成立を肯定するためには、犯罪成立要件を漏れなく検討する必要がある。この点を意識するだけで刑法の点数は随分安定するだろう。「論点」に囚われすぎず、基本的な要件の積み重ねを意識してもらいたい。他の科目と同様に。
⑷甲が睡眠薬を混入したワインをAに飲ませた後,A方で発見した腕時計を奪取した行為について,窃盗罪等の財産犯の成否を論じる必要があった。
→意識すべきことは、上記と重複する。
設問3では,⑴ないし⑷の各行為ごとに事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,問題文に現れた事実を具体的に指摘しつつ法規範に当てはめることができている答案は高い評価であった。
→「具体的事実関係の分析(犯罪として検討すべき対象の特定)→条文の適用・法解釈論の展開(規範定立・要件定立)→あてはめ→結論」は、すなわち、法的三段論法をしなさいということである。それ以上でも以下でもない。論文攻略への第一歩は、刑法攻略と言ってもいいかもしれない。それくらい、刑法は、法的三段論法等、法律論の「形式」を重んじている。
※形式にこだわるABprojectはこちら。
予備試験・司法試験受験生が行政書士試験を受けるべき3つの理由
資格取得は登山と同じ。段階を踏んで、目標点を目指しましょう。
予備試験・司法試験受験生の方、そして、これからロースクールに進もうとしている方にも、ぜひ行政書士試験を受験して頂きたいと思っています。
もちろん、記念受験ではなく、「合格」を狙ってください。
その理由は、3つです。
①試験科目がかぶる
行政書士試験の法令科目は、基礎法学、憲法、行政法、民法、商法・会社法です。
基礎法学は、法学徒の常識問題としてさておき、「憲法、行政法、民法、商法・会社法」は、司法試験や予備試験でも避けては通れません。
予備試験・司法試験挑戦の手始めにもってこいの構成となっています。
②多角的に学ぶ機会になる
様々な法律系資格試験を見るとわかるのですが、同じ科目でも各試験によって問われる角度が違います。
それを「難易度の違い」と一括りに論じてしまうのは勿体ないと思います。
学んだ知識を異なる角度から見直すことは、深い理解を得るために不可欠です。
様々な資格試験に挑戦することは、その機会を得るまたとない機会になるのです。
そういった意味では、宅建や司法書士試験もいい題材になると思いますが、もっとも無駄がないのは、上記の通り、行政書士試験なのです。
③将来のリスクマネジメント
ここが最も重要だと思っています。
多くの司法試験・予備試験受験生は、「合格」することをイメージしてばかりで、自分が「不合格」になったときのシュミレーションが出来ていません。
しかし、現に「司法試験に五回落ちる」「予備試験にいつまでも受からない」というケースは、毎年発生しているのです。
予備校では、「合格できる!」と誘いつつ、ある程度不合格が続くと「志望先を変えた方がいい・・・」という案内に移行することが少なくないようです。
私の知人も司法制度改革の波に乗ろうとロースクールに進みましたが、結局司法試験に合格出来ず、「法律系の資格を何ら取得しないまま30代後半になってしまった」と嘆いていました。
言うまでもなく、予備試験・司法試験は超難関試験です。
難易度・合格率に変動があっても、「一生受からない人生」が発生する可能性は、常に存在しています。
そして、合格させるため、合格した後に手を差し伸べてくれる人は多くいても、「不合格になった後に手を差し伸べてくれる人」は、多くありません。
最悪の事態になった時に自分の身を守るのは自分しかいません。
余裕のあるうちに行政書士試験に合格しておくことを強くお勧めします。
もちろん、合格しているのことが将来の足かせになることは、全くありません。
かくいう私は、運よく学部時代に行政書士試験に合格していたので、その後の進路選択でも「最悪、行政書士(注:目標は、あくまで司法試験だったので)」という気持ちで、不安を持つことなくロー入試や予備試験・司法試験に挑戦していけました。
最後に。
行政書士試験に合格できないというレベルでは、正直なところ、予備試験・司法試験合格を現実的な目標としてとらえることは難しいでしょう。
そういった意味では、予備試験・司法試験挑戦への試金石とも言えるかもしれません。
行政書士試験を受験する理由は人それぞれだと思います。
でも、受験すること自体は、絶対的におススメです。
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その5~ 知ってほしい表裏一体の不思議
民訴法はおいしい科目
点数が安定してくると大崩れしなくなるのが民訴法の特徴だと思います。
非常にとっつきにくい科目ですが、どうか嫌いにならないでください。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3、その4もご覧ください。
ウ 設問3のまとめ
(略)
4 法科大学院に求めるもの
本年の問題に対しては,多くの答案において,一応の論述がされていたが,定型的な論証パターンをそのまま書き出したと思われる答案,出題の趣旨とは関係のない論述や解答に必要のない論述をする答案,事案に即した検討が不十分であり,抽象論に終始する答案なども,残念ながら散見された。
→「論証が悪」なのではない。論証と条文・判例等論証の元となる法源とのつながり、論証と問題文から導かれる具体的事実関係とのつながりに関する説明が不十分だから、「悪」になってしまうのである。つまり、論証を使う者の能力不足が原因である。予備校添削等では、論証が書けていれば多少あてはめが不十分でも○を付けられることが少なくない。これは、添削時間に限りがあるためだと思うが、非常に問題があると思う。受験生自身も自分の身を守るため、厳しくチェックしてもらいたい。
また,民事訴訟の極めて基礎的な事項への理解や基礎的な条文の理解が十分な水準に至っていないと思われる答案も一定数あった。これらの結果は,受験者が民事訴訟の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得のために体系書や条文を繰り返し精読するという地道な作業をおろそかにし,依然としていわゆる論点主義に陥っており,個別論点に対する解答の効率的な取得を重視しているのではないかとの強い懸念を生じさせる。この点は,設問1や設問2の採点実感中において指摘したとおりである。
→条文や制度趣旨等、「当たり前の事項」に関する理解が大事なのである。その上にしか、論点の理解は成立しない。にもかかわらず「論点主義」に陥っていると言われるのは、闇雲に暗記する学習に走っている受験生が多いからであろう。暗記も大事である。しかし、その前提の思考をきちんと学んでいないと「使える知識」は身につかない。そして、「法律は道具」であるから、「使えない知識」では意味がない。難しい法律論の中で学ぼうとするから気付かぬうちに暗記学習に傾倒してしまう。誰でも理解できる簡単な事項の中で法的思考を学んでほしい。やはり基礎基本が大事なのである。
また,設問3において,典型的な論点であると思われる課題1とそうではない課題2とで論証の充実度に大きな差異があったことからも,いわゆる論点主義の弊害がうかがわれよう。昨年も指摘したところであるが,条文の趣旨や判例,学説等の正確な理解を駆使して,日々生起する様々な事象や問題に対して,論理的に思考し,説得的な結論を提示する能力は,法律実務家に望まれるところであり,このような能力は,基本法制の体系的理解と基礎的な知識の正確な取得,論理的な思考の日々の訓練という地道な作業によってこそ涵養され得るものと思われる。法科大学院においては,このことが法科大学院生にも広く共有されるよう指導いただきたい。以上は,例年指摘しているところであるが,本年も重ねて強調したい。
→「思考の訓練をせよ」と言われても、受験生の立場からすれば何をすればいいのかわからないはずである。だから、まずは思考の方法を学ぶ必要があると思う。しかし、これを丁寧に教え、訓練してくれる人が少ないように思う。予備校の基礎講座等でも初期段階で教えられるが、気付けば難解な法律論に脳内を支配される時間が多くなる。そのうち、法的思考がぐちゃぐちゃになる。でも、もう誰もそのことに気を留めない。論点の理解・暗記ばかりに気を取られるからである。3歩進んだら2歩下がるゆとりも大事だと思う。どんなに学習を重ねても常に「基礎基本」を振り返る時間を取ってほしし。「簡単すぎる」ことはない。基礎基本を大事にする「意識」が難解な法律論を理解するカギであると思う。
また,民事訴訟法の分野においては,理論と実務とは車の両輪であり,両者の理解を共に深めることが重要である。設問2においては,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題の検討が求められているが,多くの答案がその検討に当たり実務上の和解手続の姿をイメージしていたと評価することができる。これは,受験者や法科大学院等の関係者において実務の理解を深めることの重要性についての認識が共有されつつあることの現れであると受け止めたい。現実の民事訴訟手続についてのイメージがつかめないままに学習を進めることは難しいと思われる。法科大学院においては,今後とも,より一層,理論と実務を架橋することを意識した指導の工夫を積み重ねていただきたい。
→刑事訴訟法でも同様。実務の話に触れる機会があまりない受験生には、法律系雑誌を読んでみたり、実務家のブログを読んだりすることをおススメする。具体的な検討のためには、具体的な学びも必要であると思う。
※難しい問題こそ基礎基本から見直そう。
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その4~ 法律問題の本質は同じだ。
短答対策と論文対策は共通。
出題形式にとらわれず、「法律問題」を解く方法を身につけていれば、得点は安定します。
やるべきことは、ただそれだけ。
(赤字は筆者)
※その1、その2、その3もご覧ください。
⑶ 設問2について
ア 設問2の採点実感
設問2では,和解手続におけるY2の発言から本件契約の解約の合意の存在を認定することができない理由の検討が求められている。ここでは,争いのある事実の認定に当たり,法第247条において,裁判所が「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」をしん酌して心証を形成するものとされていることを指摘した上で,和解手続における当事者の発言がこれらに当たらないことを論証する必要がある。こうした論証は,多くの答案においてされていたが,特に検討が必要な「口頭弁論の全趣旨」の意義とその当てはめについては十分に意識されていないものが目立った。
→247条を指摘できるかどうかが、本問の分かれ道と言ってよい。そして、和解手続におけるY2の発言が検討対象とされているのであるから、「口頭弁論の全趣旨」(247条)が問題となるのであって、「証拠調べの結果」が問題となるのではない。「口頭弁論の全趣旨」の解釈が不十分なのも問題であるが、「証拠調べの結果」について長々と言及する答案も問題だと思う。問題の所在を把握できていないと解されるからである。目の前の検討事項を具体的事実関係から分析し、その判断に必要な規範を端的に示せる答案は、得てしていい答案である。長く書けばいいというものではない。「問いに答えること」が解答の最重要事項だからである。
また,設問2の出題の趣旨を弁論主義の問題と捉え,法第247条を指摘しつつ,あるいはその指摘すらなく,弁論主義について延々と論じて結論を導こうとする答案も少なからずあった。このような答案は,問題点自体の理解を根本的に誤るものであって,評価されない。この点もまた,いわゆる典型論点の定型的な論証パターンを暗記するだけという学習が中心となっていて,基礎的な条文や概念の基本的な理解がおろそかになっているのではないかと強く懸念される一例である。
→本問で弁論主義に思い至ることは、決して悪いことではないと思う。判決の前提となる事実関係の整理に伴う問題だからである。しかし、「弁論主義とは何か?」ということを正確に把握していれば、弁論主義と自由心証主義との区別は出来たはずである。問いに対して正しく法的思考を展開出来ているか否かを測る指標として、「間違いを修正できるか?」というポイントがある。仮に本問で一旦取り上げた弁論主義の検討をやめた受験生がいたとすると、その受験生は、法的思考レベルが高いと思われる。
また,設問2では,争いのある事実の認定に当たって,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題についても検討することが求められている。ここでは,当事者の発言内容が裁判官の心証に影響し得るとすると,例えば,和解の成立に向けた当事者の自由な発言を阻害するおそれがあることや,本問のようにいわゆる交互面接方式により行われた和解手続では情報の共有や反論の機会の保障がないままに判決がされるおそれがあることなど,より実質的な観点から具体的に問題点を指摘することが期待される。多くの答案において,これらのうち少なくとも一方,特に当事者の自由な発言の阻害のおそれを指摘することができていたが,これらを多角的に論ずる答案は,多くはなかった。
→この辺りは、実務に対する理解がある程度必要なのではないだろうか。多角的な検討が出来た答案が多くなかったのも無理はないと思う。
イ 設問2のまとめ
(略)
⑷ 設問3について
ア 課題1の採点実感
設問3では,まず課題1として,本件訴訟において,XがY2に対する訴えのみを取り下げることができるかどうか(法第261条第1項)の検討が求められている。ここでは,その前提として,本件訴訟について訴訟共同の必要があるものかどうか,すなわち,本件訴訟が通常共同訴訟であるのか,固有必要的共同訴訟であるのかという点の検討が必要となる。本件訴訟が通常共同訴訟であると考える場合には,例えば,実体法的観点から,相続財産の共有が民法第249条以下の共有と性質を異にするものではないこと,建物明渡義務が不可分債務(同法第430条)に当たり義務者各自が全部につき除去義務を負うことなどを指摘して,共同訴訟人独立の原則(法第39条)が本件訴訟にも適用されること,その帰結として,XがY2に対する訴えの取下げをすることができることを示す必要がある。本件訴訟について,固有必要的共同訴訟であると解し,XはY2に対する訴えの取下げをすることはできないとする場合であっても,説得力のある理由が示されていれば評価に差異はないが,いずれにせよ,自説の根拠と結論との整合性が求められる。
→短答でも問われるレベルの知識である。短答学習においても、結論だけでなくその論理まで学習することを意識したい。「短答プロパー」などという表現が見られることもあるが、短答学習の充実度は、論文の成績に直結すると思う。どんな問題も軽視しないで、丁寧に積み重ねることが大切である。
課題1では,多くの答案において,本件訴訟が通常共同訴訟であるとの結論を採っており,その理由としても,上記の点を指摘することができていた。もっとも,その理由を十分に論じたものは少なく,例えば,単に本件建物の明渡義務が不可分債務であるということを指摘するだけのもの,共同訴訟人独立の原則やその根拠となる条文を指摘しないまま,本件訴訟が通常共同訴訟であることをもって直ちにXがY2に対する訴えの取下げをすることができるとするものなども散見された。
→ここでの指摘は、「規範にあてはめる」「法律効果の根拠となる条文を指摘する」という基本的なことが出来ていないという話である。このような答案を無意識に書いているようだと、かなりまずい。他の部分でも論述の甘いところが散見されるはずである。それはすなわち、民訴法だけでなく多くの科目で失点する可能性があるということである。
他方で,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る答案も少なくなかった。この結論であっても評価に差異はないことは上記のとおりであるが,その根拠を十分に論証する答案はほとんどなかったため,本件訴訟が通常共同訴訟であるとの結論を採る答案と比較すると,相対的に低い評価となった。本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る場合には,例えば,訴訟法的観点から,判例の結論とは差異があることを踏まえつつ,合一的確定の必要と訴訟共同の必要があることを説得的に論証することなどが必要となる。しかし,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る答案においては,単に「合一的な確定が必要である。」等の結論を示すだけのものが多かった。これでは説得的な論証とは言い難い。
→40条1項の「合一にのみ確定すべき場合」とはどういう意味なのか、同項は何を定めた規定なのか。今一度考えてもらいたい。条文の機能に関する一般論が見えてくるはずである。
また,実体法的観点からこれを基礎付けようとする答案も一定数あったが,このような答案は,総じて本件建物の明渡義務が不可分債務であることを根拠とするものであった。しかし,上記のとおり,本件建物の明渡義務が不可分債務であることは,本件訴訟が通常共同訴訟となることの根拠となるものであって,これにより本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を基礎付けることは困難である。「不可分」という語の語感に引きずられたのではないかと推測されるが,実体法の基礎的な知識の欠落があるのではないかとの危惧を禁じ得ない。また,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採る場合には,法第40条を指摘した上で,一部に対する訴えの取下げは全員の当事者適格を失わせることとなるため,その効力を生じないことを指摘する必要があるが,この点の論証を欠く答案も少なからず見られた。このような答案は,固有必要的共同訴訟という概念自体の理解が十分ではないのではないかと懸念される。
→この点の指摘を受ける答案は、規範定立あてはめに関する瑕疵若しくは判例の理解に関する瑕疵、又はその両方に問題がある。いずれにせよ大失点である。
このほか,本件訴訟が固有必要的共同訴訟であるとの結論を採るにもかかわらず,Y2に対する訴えの取下げができるとするもの,固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟の区別をすることなく「必要的共同訴訟」かどうかを論ずるもの,本件訴訟が類似必要的共同訴訟であるとするものなども少ないながらあった。これらの答案の評価は,低いものとなる。
→40条1項には「必要的共同訴訟」としか書かれていない。「固有」と「類似」の区別は理論上の区別である。つまり、条文の定めを前提に更に法理論を学ぶことで必要的共同訴訟制度に対する理解をより深めていくことが出来る。段階を踏んでいくことが体系的理解のコツである。
なお,本件訴訟が通常共同訴訟である(又は固有必要的共同訴訟である)という点を示すのみであり,XがY2に対する訴えの取下げができるかどうかについての結論を示さない答案も一定数あった。尋ねられたことに対して解答しなければ,評価されないことは当然である。
→「問いに答える」当然の話である。
イ 課題2について
設問3では,次に課題2として,Xが適法にY2に対する訴えのみを取り下げたという前提の下において,XとY1のみの訴訟において本案判決がされる場合に,取下げがされる前の期日においてY2が提出して取調べがされた本件日誌の証拠調べの結果を事実認定に用いてよいかどうかの検討が求められている。ここでは,「共同訴訟における証拠調べの効果」と「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という問題文中で示された二つの視点を踏まえつつ検討を進める必要がある。
→いずれも一定の訴訟行為の「効果」を検討するものである。法効果を考える時のポイントは、その存在、内容、範囲である。
このうち,一つ目の視点,すなわち「共同訴訟における証拠調べの効果」については,まず通常共同訴訟においては共同訴訟人独立の原則により共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさないことを述べた上で,その例外として,共同訴訟人の一人が提出した証拠から得られる証拠資料はその援用がなくとも他の共同訴訟人に関する事実認定にも用いることができるという証拠共通の原則の意義やこれが認められる根拠を説明することが求められる。相当数の答案において,共同訴訟人独立の原則やその例外としての証拠共通の原則について指摘することができていたが,証拠共通の原則の意義を論ずるに当たり,誰と誰との間の規律であるのかという視点が明確に示されていない答案も一定数あった。また,証拠共通の原則が認められる根拠については,例えば,歴史的に一つしかない事実については,その認定判断も一つしかあり得ないことから,これを認めなければ,裁判所に対して矛盾した判断をさせることとなり,自由心証主義の不当な制約となること,共同訴訟人の一部が提出した証拠であっても,他の共同訴訟人がその証拠調べの手続に関わる機会があることから,他の共同訴訟人の手続保障も図られていることなどを指摘して論ずる必要がある。もっとも,これらを過不足なく論じた答案は僅かであり,多くの答案は,前者のみを指摘するものであった。また,そのような答案においては,単に「歴史的に事実は一つ」,「自由心証主義から」などとのみ述べる答案も少なくなかった。時間の不足に起因するものであるとも考えられるが,このような答案は,論証としては十分なものとは言い難いことに留意が必要である。
→原則と例外の視点、例外の理由付けの方法(必要性と許容性)など、基本的な法的視点は、「法学のコンパス1」で学んでほしい。証拠共通が「誰と誰との間の規律であるのか」という問題は、法効果の範囲の問題。
次に,二つ目の視点,すなわち「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という点については,訴えの取下げがあった部分は初めから係属していなかったものとみなされる(法第262条第1項)という訴えの取下げの効果を指摘することが必要となるが,これを条文とともに的確に指摘することができた答案は,多くはなかった。この点は,課題2が検討を求める問題意識の前提となるものであり,この理解を欠く答案の評価は,低いものとならざるを得ない。
→262条1項を当たり前に指摘できるかどうか。意識しなくても出来る受験生は、難易度の高い問題に挑戦する実力のある受験生である。実力の有無は、だいたい「当たり前が出来るかどうか」を見ればわかる。
そして,以上の二つの視点からの論証を通じ,XのY2に対する訴えの取下げがY2の申出により取調べがされた本件日誌についての証拠共通に影響を与えるのではないかという問題意識が導かれることとなる。
→論点自体知らなくても、「訴え取下げの効果→提出された証拠は?」という問題意識を持つことはできるのではないか。訴え取下げの法効果をどれだけ具体的にイメージできているかが分かれ目になっているように思う。知らない論点でも気付けるかどうかは、法的思考力を測る一つのポイントである。
これが課題2における主要な検討事項となる。本件日誌を証拠として用いることができるとの結論を採る場合には,その根拠として,例えば,判例(最高裁判所昭和32年6月25日第三小法廷判決・民集11巻6号1143頁)によれば,証拠申出の撤回は,証拠調べの終了後においては許されないとされており,その結論は相手方に有利な証拠資料が得られている可能性があることを考慮すると是認されることや,Y2の申出によりされた証拠調べの結果は,証拠共通の原則によりXとY1との関係においても心証を形成する資料となっているところ,それは,係属が消滅した訴訟における訴訟行為に基づく訴訟法律関係とは別個の訴訟法律関係が生じていると言い得ることから,訴えの取下げによってもその効果は維持されるべきであることなどを指摘することが考えられる。これに対し,本件日誌を証拠として用いることができないとする結論を採る場合には,その根拠として,例えば,訴えの取下げの結果,当事者の訴訟行為によって形成された法律効果は全て消滅することを前提とし,証拠申出の撤回は,弁論主義に照らし,相手方の同意があれば許されるとした上で,XがY2に対する訴えの取下げをしたことにより,実質的にはY2の証拠申出とこれに基づく証拠調べの結果の消滅に同意をしているものとみることができることなどを指摘することが考えられよう。課題2については,いずれの結論であっても,評価に差異はないが,論理的かつ説得的な論証が求められる。もっとも,以上を適切に論ずる答案は,どちらの結論であってもほとんどなかった。多くの答案においては,上記のとおり,前提となる訴えの取下げの効果を指摘することができていないため,そもそも課題2が求める問題意識自体を正しく把握することができておらず,訴えの取下げの効果を指摘することができているものであっても,かろうじて「一度形成された心証は消せない。」といった理由を述べて,本件日誌を証拠として用いることができるとの結論を採るものが一定数あったほかは,結論のみを述べるもの,根拠となり得ないものを述べるものなどであった。
→要件効果の積み重ねから論点は生じるものである。本問はそれを理解させる良問である。未知の論点であり、論証自体は難しいかもしれないが、奇問難問の類だとは思われない。解けなかった受験生は、「なぜ解けなかったのか」を見直すことをおススメする。他の問題でも活かせる法的思考のヒントを得られるはずである。
ウ 設問3のまとめ
(略)
※法律問題の解き方を意識するのはABprojectだけ。
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その3~ 採点実感が繰り返し伝えていること
採点実感の読み方を伝え、意識すべきポイントを共有したい。
採点実感・出題趣旨は、多くの受験生が読んでいると思います。
しかし、それが身になっている受験生は、多くないのでしょう。
一緒に読みましょう。
(赤字は筆者)
※その1、その2もぜひご覧下さい。
イ 課題2の採点実感
設問1では,次に課題2として,敷金に関する確認の訴えにおける確認の利益の検討が求められている。ここでは,本件建物の明渡し前における敷金関係の確認の訴えにつき,確認の利益の一般的指標とされる確認訴訟という方法を選択することの適切性,確認対象の適切性,即時確定の必要性に従って,あるいは確認訴訟における権利保護の資格と利益に沿って,Y2の立場から確認の利益が肯定されるように,説得的な立論をすることが求められる。
→ここまでは多くの受験生が書けるはず。ただし、確認の利益の一般的指標は、決して条文に定められた事項ではないことに注する必要がある。つまり、この指標は、あくまで一般的なものであって絶対的なものではない。「確認訴訟のときはいつもこれだから、今回も書こう!!」程度にしか認識していない受験生は、一旦立ち止まり、確認の利益を判断する3要件の理解を確認してもらいたい。こういう部分の見直しが、論点主義を脱するためのポイントである。
特に,敷金返還請求権が設問1の課題1では将来の給付訴訟の対象と性質付けられていることとの関係をも踏まえつつ,どのような確認対象又は権利保護の資格であれば即時確定の必要性又は権利保護の利益が肯定され,基準時に確定する必要が認められることとなるのかについて,理解を示す必要がある。その際には,賃貸借契約継続中における敷金返還請求権の確認の利益を肯定した判例(最高裁判所平成11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号1頁)のように確認対象を現在の権利又は法律関係と位置付ける立場のほか,将来の権利又は法律関係と位置付けた上で確認対象となり得ると解する立場もある。どちらを採るかにより評価に差が生ずるわけではないが,前者については,敷金返還請求権を単に条件付債権と位置付けるにとどまらず,将来と性質付けた給付訴訟との違いを示し,本件の紛争状況から見て確認の利益が肯定される対象を具体的に検討することが期待される。また,後者については,XがAの支払った金銭は敷金でないと争っているなどといった具体的な事情をできるだけ挙げた上で,将来具体化する対象であっても即時確定の利益又は権利保護の利益が現在認められることを本件に即して説得的に論ずることが求められる。
→ここは、確認の利益の3要件を軸にしつつ、その要件該当性の検討を問題とするところである。上記判例は、要件該当性判断において参考にできる。先の将来の給付の訴えに関する判例に関しては、特に規範定立の重要性を指摘したが、要件該当性も同じく重要である。判例を学ぶ際には、規範定立について学んでいる?要件該当性について学んでいる?など法的思考の構造を「意識」しながら、情報を整理することが必要である。こうすることで「判例を覚える」だけでなく、「法的思考力を鍛える」ことが出来る。「意識」の持ち方次第で、学習の密度は大きく変わる。そして、「本件に即して説得的に論ずること」が出来るのは、高い学習密度を保ってきた受験生だけである。論点主義の暗記学習と真の法律学習の違いに気付いてもらいたい。
まず,確認の利益の一般的指標については,大半の答案が確認訴訟という方法を選択することの適切性,確認対象の適切性,即時確定の必要性の三つの指標を指摘していた。
もっとも,その具体的な当てはめにおいては,十分ではないものや不適切なものが散見された。課題2の中心的な検討事項となる確認対象の適切性を論ずるに当たって,判例のように現在の条件付きの権利である敷金返還請求権と捉える答案は一定数あったところであり,これらは相応の評価に値するものではあるが,更に進んで将来の請求と性質付けた給付訴訟との違いを意識的に論じたものはほとんどなかった。他方で,そもそも敷金に関するどのような法律関係を確認対象と考えているのかがあやふやなまま検討を進める答案や,「敷金を差し入れたこと」,「敷金契約が成立したこと」など過去の事実や過去の法律関係を無留保で確認対象とするものも少なくなかった。このうち,過去の法律関係を確認対象とすることについては,それが常に不適切であるというものではなく,基礎的な法律関係であって判決において端的に確認対象とすることにより確認訴訟が有する紛争の直接かつ抜本的な解決の機能が果たされることなどを併せて論ずるものである限り一定の評価の対象となり得るが,ほとんどのものにおいて,このような検討はされておらず,その多くにおいては,自身が過去の事実や過去の法律関係を確認対象として論じていることについての自覚がないままに論述しているものと推測された。以上のような答案の評価は,低いものとならざるを得ない。
→「もっとも、その具体的な当てはめにおいては、十分でないものや不適切なものが散見された」「ほとんどのものにおいて、このような検討はされておらず、その多くにおいては、自身が過去の事実や過去の法律関係を確認対象として論じていることについての自覚がないままに論述しているものと推測された」そうである。言われなくてもそうだろうと思う。先述した学習の密度の問題を振り返ってもらいたい。兎角民訴法の理論は、難解なものが多く1回読んだくらいではとても理解できないものが多い。だからといって、2回3回読んだらわかるのかと言うとそうでもない。難解な理論を吸収するためには、その下準備が必要である。法的三段論法を身につけていることや正しく法的思考を組み立てられることなど、行き詰った時には、一度基礎基本を見直してもらいたい。理解できない原因は、そもそも見るべきポイントが「見えていない」可能性が高い。
また,確認対象の適切性を検討するに当たっては,即時確定の必要性との関係にも留意する必要がある。ここでは,原告が保護を求める法的な地位,すなわち確認対象の適切性において検討した権利又は法律関係が十分に具体化,現実化されているかということを指摘しつつ,被告の態度や行為の態様が原告の法的地位に危険や不安を生じさせているか,その危険や不安を除去するために,確認判決が必要かつ適切であることを論ずる必要がある。そして,多くの答案において,被告の態度や行為の態様が原告の法的地位に危険や不安を生じさせているかという点に言及することができていたが,確認対象となる権利又は法律関係との関係や確認判決の必要性なども含めて多角的に論証していた答案は少なかった。また,過去の事実や過去の法律関係を確認対象とする場合には,上記のような論証から直ちに即時確定の利益が肯定されるとは言い難いにもかかわらず,この点の意識がされたものはほとんどなかった。
→確認の利益を認める要件として即時確定の利益を指摘する答案は多いが、その意味するところが何かという点まで理解できている答案は、多くない。この辺りが採点の分かれ目である。要件を立てたら、その意味するところを確認するのは、法律学習において当然である。そうでなければ、正しくあてはめられないからである。上記で指摘されているあてはめの不十分さは、基本的な法知識の理解不足に起因するものと思われる。
課題2の結果からも,受験者が定型的な論証パターンを暗記するだけという学習をしているのではないかと懸念された。
→すでに指摘した通りである。
ウ 設問1のまとめ
(略)
※大事なことは繰り返し伝えるABprojectの添削指導
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その2~ 知識不足は基本的に責めない
「知らなくても解ける問題」を如何に増やすかがABprojectのテーマ。
実務家になれば「知らない問題」に直面し、自分の力で道を切り開かなければならないこともあるでしょう。
先を見据えた勉強の工夫も必要です。
(赤字は筆者)
※その1もご覧ください。
⑵ 設問1について
ア 課題1の採点実感
設問1では,まず,課題1として,Xが本件契約の締結時にAから交付された120万円について敷金であることを否定し,Y1がXとAとの間の本件契約の解約の合意を争って本件建物の明渡しを拒んでいるという事実関係の下において,敷金の返還を求めるY2の立場から,本件建物の明渡しをしないままの状態でこれを求める将来の給付の訴えの適法性についての検討が求められている。
→何気なく「Xが・・・Aから・・・、Y1が・・・」などと書かれているが、これはまさに具体的検討である。生の事実を的確に指摘し、それについて検討をしようという「手間」を惜しんではいけない。時間制限等の関係で簡略化する必要性がある場合も否定できないが、「何が具体的検討かを知っていて、何を簡略化しているかを認識している」状態で答案作成をすることは大切である。その「意識」を欠く答案は、単に雑なだけである。
ここでは,敷金返還請求権が目的物の明渡しを条件として,それまでに生じた敷金の被担保債権一切を控除した残額につき発生するため,本件建物の明渡し前には請求権の成否及び額が明確に定まらないこと,そのため,本件訴訟はその事実審の口頭弁論終結時(基準時)には訴訟物である請求権の成否及び額が具体化しない将来の給付の訴えであることを踏まえ,民事訴訟法(以下「法」という。)第135条の将来の給付の訴えの利益に言及した上で,将来の給付の訴えの適法性につき検討する必要がある。そして,法第135条については,ほとんどの答案において,指摘することができていた。(下線部は筆者)
→下線部を説明し、135条の問題であることを指摘できる答案は、いい答案である。問題を読めば、135条を適用すべきことは、多くの受験生が気付くはずである。その中で「なぜ135条なのか?」を説明できるか否か(そもそも説明しようとするか否か)という点に、「意識」の違いがある。これは、正しい法的思考を身につけ、それを意識できているかという問題に他ならない。
また,既判力の基準時までにその成否及び額が定まらない請求権を行使する将来の給付の訴えの適法性については,例えば,いわゆる権利保護の資格(請求の適格)と狭義の権利保護の利益とを分けて前者の問題として論ずる考え方や,将来の権利発生の蓋然性と現在これを行使する必要性とを総合的に判断するとの観点から論ずる考え方など判断の枠組みとそのような権利の性質の位置付けに関していくつかの考え方が成り立ち得る。いずれの考え方であっても評価に差異はないが,設問において敷金返還請求権の特質のほか,当事者間の衡平の観点から将来の給付の訴えの適法性が認められた場合における被告の負担を考慮することが求められているとおり,今後の賃料の滞納の可能性や明渡しの時の原状回復の必要性によってその額はもちろん成否さえも不明であるという敷金返還請求権の特質や,敷金返還請求権の発生要件である本件建物の明渡しは,債務者(X)ではなく,債権者(特に本件では主としてY1)に依存していることなど本件における当事者間の争いの状況を踏まえ,将来における権利発生の蓋然性や,将来の強制執行に対する防御のために請求異議の訴えを提起しなければならなくなるかもしれない被告の負担につき論ずる必要がある。また,その際には,判例(最高裁判所昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁(大阪国際空港事件),最高裁判所昭和63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号627頁等)が示した将来の給付の訴えの適法性についての判断基準(①請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されるとともに,②請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ,③これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても格別不当とはいえない場合。以下「3要件」という。)を用いることが適当かどうかも意識して検討することが期待される。(下線は筆者)
→上記判例は135条を学ぶ際には、必ず目にするはずの判例である。これらは、135条の適用にあたり必要不可欠な「規範」を示したものである。「規範」の重要性は今更言うまでもないが、それにもかかわらずきちんと覚えていないというのであれば、「意識」が低いと言わざるを得ない。「なぜその判例を学ぶのか?」という点を意識できていれば、その内容を覚えておくべき必要性の高さに思い至るはずである。
判例の知識等から導かれた「要件」を前提に、下線部の情報を整理する必要がある。問題文による誘導も法的思考の大枠が整っているからこそ、論理的に一貫した形で整理できるのである。「要件」を具体的に明らかにしないまま、敷金返還請求権の性質や当事者間の衡平等を書き連ねても、あまり意味のない論述に終わる。また、整理すべき具体的状況も、検討すべき要件があるからこそ、その整理の方向性を見定められる。正しい法的思考の順序を身につけてほしい。
もっとも,以上を適切に論ずる答案は,ほとんどなかった。多くの答案においては,請求の適格と狭義の権利保護の利益とを分けて前者の問題として論ずるという考え方を採った上で,3要件を用いて検討をしていたが,そのうち,①大半の答案においては,3要件が本問のような敷金返還請求においても同様に当てはまるかどうかという点についての意識を有していないことがうかがわれた。また,②3要件を用いて検討する答案であっても,具体的な事案の当てはめにおいて,敷金返還請求権の特質が適切に意識されたものは多くはなく,敷金返還請求権の特質への言及がされているものの,それが結論を導き出すに当たってどのように考慮されているのかが不明なものや,そもそも敷金返還請求権の特質が意識されていないもの,何らの具体的な根拠を示すことなくXが請求異議の訴えの負担を負うことが不当である(又はない)という結論だけを示すものなど,当てはめにおける検討が十分ではないものが多かった。また,③当てはめの内容が不適切であって自身が用いた3要件の意義を正しく理解しておらず,その表面的な文言を暗記して記述しているだけであると判断される答案も散見された。このほか,④3要件とは内容や表現が若干異なっており,3要件を提示したいという趣旨であれば不正確であるもの(さらには,3要件の意味合いが異なるものとなってしまっていると考えられるもの),法第135条の「あらかじめその請求をする必要」と請求の適格の関係が曖昧であるものなども一定数あった。これらの答案からは,受験者が定型的な論証パターンを暗記するだけという学習をしているのではないかと懸念される。このほか,⑤何らの基準も示すことなく,漫然と問題文中の事実を摘示しただけで結論を導く答案も少数ながらあった。このような答案は,論理を示したものとはいえず,評価されない。
→①は「判例の射程」の問題と理解できようか。もっとも、根本的には「本問がなぜ135条の問題なのか?」という説明が必要だという話(上述)と同じである。本問と135条(要件定立の根拠)とのつながりも、敷金返還請求権を問題とする本問と判例(3要件の根拠)とのつながりも、その説明が必要な間隙がある。この辺りは、説明する「意識」がないと、説明できるようにならない。説明すらするようにならない。
②は、敷金返還請求権を巡る事例と将来の給付の訴えの論点を考えたことがない受験生には難しい問題かもしれない。しかし、要件を把握できているならば、あてはめの巧拙は、日頃の演習の成果が試されるところである。「あてはめの検討が不十分」な原因は、要件に関する理解が不足しているか、あてはめにおいてきちんと説明する意識が希薄であるかのいずれかである。闇雲にあてはめの練習をしないことが大切である。点数が伸びないのは原因がある。
③④は、インプットのし直しが必要な例である。覚え直せば、あてはめもグッとよくなるケースが少なくない。
⑤は、知識不足だったのだろうか。それなら、仕方ない。もう一度勉強のし直しである。一方で、「これでいい」と思っている受験生がたまにいる。条文の文言を書き写し、問題文の事実を書き写すだけのような答案は、原則として論外である。条文の解釈や事実の評価等があって初めて、隙間のない精緻な法的検討が成立しうる。法的思考の基本に関わるポイントである。
※脱暗記、法的思考重視の添削指導はABproject。
令和2年民事系第三問の採点実感を読んでみた~その1~ 論理に盲目な人は落ちる。
「科学的なエビデンス」で安心する人は、本質を見誤る。
今日から民事系第三問の採点実感を読んでみたシリーズに入ります。
タイトル等の言葉は、最近気になっていることです。
この世の中に絶対的なものなんてないはずです。
「法学の基礎基本」を除いては・・・(笑)
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(民事系科目第3問)
1 出題の趣旨等
民事系科目第3問は,民事訴訟法分野からの出題であり,出題の趣旨は,既に公表されている「令和2年司法試験論文式試験出題の趣旨【民事系科目】〔第3問〕」のとおりである。本問においては,例年と同様,受験者が,①民事訴訟の基礎的な原理,原則や概念を正しく理解し,基礎的な知識を習得しているか,②それらを前提として,設問で問われていることを的確に把握し,それに正面から答えているか,③抽象論に終始せず,設問の事案に即して具体的に掘り下げた考察をしているかといった点を評価することを狙いとしている。
→上記①の基礎的な原理原則は、主に短答過去問でその範囲を特定できる。短答過去問演習は必須。②は、①を前提として問題の意図を把握できるかがポイント。問題を解くためだけでなく、問題を正確に把握するためにも①が大事。③は、質の高い論文添削を受けて「具体的に」検討するとはどういうことか理解することが必要。合格答案や参考答案等で「わかった気になる」のではなく、自分自身の答案を使って「具体的に」答えるイメージを育てよう。
2 採点方針
答案の採点に当たっては,基本的に,上記①から③までの点を重視するものとしている。本年においても,問題文中の登場人物の発言等において,受験者が検討し,解答すべき事項が具体的に示されている。そのため,答案の作成に当たっては,問題文において示されている検討すべき事項を適切に吟味し,そこに含まれている論点を論理的に整理した上で,論述すべき順序や相互の関係も考慮することが必要である。そして,事前に準備していた論証パターンをそのまま答案用紙に書き出したり,理由を述べることなく結論のみを記載したりするのではなく,提示された問題意識や事案の具体的な内容を踏まえつつ,論理的に一貫した思考の下で端的に検討結果を表現しなければならない。採点に当たっては,受験者がこのような意識を持っているかどうかという点についても留意している。(下線部は筆者)
→上記①~③はいわば法的思考を展開するにあたって基本となる「当たり前」の話。採点実感で書かれているから大事だ、という話ではない。また、各下線部は、答案作成において注意すべき点。正しい法的思考につながるポイントである。そして、「意識を持っているかどうかという点も留意している」との指摘には特に注目してもらいたい。その「意識」の違いは、日頃の学習への取り組み方の違いを如実に表すものだからである。日頃の「意識」の違いは、「無意識」にも影響する。「無意識」に書いている部分にも、当然その解答者の実力が反映されている。
3 採点実感等
⑴ 全体を通じて
本年の問題では,例年同様,具体的な事案を提示し,登場人物の発言等において受験者が検討すべき事項を明らかにした上で,訴えの利益,心証形成の資料,共同訴訟の類型,訴えの取下げの効果等の民事訴訟の基礎的な概念や仕組みに対する受験者の理解を問うとともに,事案への当てはめを適切に行うことができるかどうかを試している。
→問われた事項について、全く知らないという受験生はいないはずである。誰もが一度は学んだことがある事項について、その理解の深さを問う問題だと思う。もちろん、使うべき規範(判例等)を覚えておくことが前提である。本年度問われた知識は、民訴法上の問題としてよく問われるものばかりである。知識が足りなかったと感じるのであれば、そもそも、知識に対する「意識」が足りなかったというべきだろう。
設問3について,時間が不足していたことに起因すると推測される大雑把な内容の答案が一定数見られたものの,全体としては,時間内に論述が完成していない答案は少数にとどまった。しかし,検討すべき事項の理解を誤り,検討すべき事項とは関係ない,又は不要な論述を展開する答案や,検討すべき事項自体には気が付いているものの,問題文で示されている事案への当てはめによる検討が不十分であって,抽象論に終始する答案も散見された。また,基礎的な部分の理解の不足をうかがわせる答案も少なくなかった。
→時間不足になったのは、おそらく知識や理解の不足が原因だろう。何を書いていいかわからないまま、時間だけが過ぎてしまうのも実力不足である。何を書いていいかわからないときでも、具体的事実関係を改めて整理しなおす、条文を読み直すなどして、論点をあぶりだせることは少なくない。その練習を日頃からしておくことが必要であるし、そもそも、どういう時に論点になるのかをパターン的に整理しておくことも有益である。この辺りの準備の差は、「法律問題を解くためにはどうすればよいか?」という意識の持ち様と関わっている。
なお,条文の引用が当然求められる箇所であるにもかかわらず,その条文を引用していない答案や,引用条文の条番号が誤っている答案も一定数見られた。法律解釈における実定法の条文の重要性は,改めて指摘するまでもない。また,判読が困難な乱雑な文字や略字を用いるなど,第三者が読むことに対する意識が十分ではない答案や,特に刑事訴訟法との用語の混同など法令上の用語を誤っている答案,日本語として違和感を抱かせる表現のある答案も一定数見られた。これらについては,例年,指摘されているところであるが,本年においても,改めて注意を促したい。(下線部は筆者)
→下線部はいずれも「意識」次第で改善できるはずであるし、合格答案を作成するために改善しなければならない基本的な問題である。当たり前のこと過ぎてあえて指摘されていないこともあるのかもしれないが、改善できることを改善することは、その時点ですぐに改善できないことを改善する礎になる。一事が万事である。添削指導でも特に注意している。
※全ての添削に根拠を示す添削指導はABproject。