法的なものの見方・考え方(2) 権利関係不変の公理
権利が発生するのも法律効果、権利が消滅するのも法律効果
さて、今回は、「権利関係不変の公理」という考え方について触れたいと思います。
予備試験・司法試験の答案で権利関係不変の公理について書くことはまずないと思いますが、法律関係について論ずる場合、この公理を絶対に無視することはできません。
とっても大事な考え方ですし、この公理を意識しておくと法律関係の整理が簡単になります。
ぜひ知っておいてください。
権利関係不変の公理というのは、一度発生した法律関係(権利義務関係。「法律関係=権利義務関係」であることを知らない人が多いため、念のため付記しておきます。)は、新たにその法律関係を変動させる原因がない限り変わらないというルールのことを言います。
言われてみれば当たり前ですよね。
1時間前にした売買契約が「なぜかよくわからないうちにないものになっていた」ことが許されると世の中の法律関係は、ぐちゃぐちゃになってしまいます。
この公理を意識していると、予備試験・司法試験の答案を書くとき、次のようなことを考えるようになります。
まず、「権利発生原因を論じないと当事者間の法律関係は、発生しない」と考えるようになります。
言わずもがなですが、法律関係の発生も当事者間の関係性の変動に含まれます。
積極的に法律関係発生原因(権利発生原因=要件+事実(要件事実論))、例えば、売買契約や賃貸借契約などを論じるようになります。
間違っても法律関係が変動する原因を論じないまま、いきなり「○○の権利がある」という突拍子もない論述はなくなります。
次にその権利が消滅する原因にも目を向けられるようになります。
権利消滅原因がない限り、法律関係が消滅することはないということを理解できているからです。
例えば、消滅時効(民法第166条第1項・第2項。民法改正の対象ですね。旧法との違いに注意しましょう。)は、権利消滅原因の典型です。
ここまで意識して論述できると、請求原因と抗弁という構造を自然と形作れるようになります。
いわゆる要件事実論も結局は、こうした基本概念の上に自然と成立してくる話なので、特に予備試験組の皆さん、それほど恐れる必要はないですよ。
ついでに権利障害原因・権利阻止原因というものについても触れておきましょう。
権利障害原因は、権利の発生や権利の消滅を妨げる原因になるものです。
例えば、虚偽表示(民法第94条第1項)は、この典型です。
契約が無効(権利発生原因の不存在)であれば、権利は発生しないですよね(上記より)。
権利阻止原因は、権利の「行使」を阻止する原因になるものです。
権利が発生していても、その権利に瑕疵がある場合は、その権利行使を許さないという話になります。
この場合、権利を行使するためには、権利に付着した瑕疵を取り除く原因を別途論じる必要が出てきます。
例えば、同時履行の抗弁権(民法第533条)が典型です。
どうでしょうか?
法律関係を論ずる構造は、権利関係不変の公理の上に論理必然的に成り立つものだということが分かっていただけましたか?
漠然と教科書を読んでいると「何だか覚えることが多いなー」と憂鬱になりがちですが、その根底にある基本概念を理解しておけば別に覚えようとしなくてもわかることが多いのです。
これが「基礎基本から考える」ということであります。
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