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多くの受験生がぶつかる物権の壁 結局大事なのは権利をイメージする力
今回も質問回答シリーズです。
ある受講生の方から「占有改定と指図による占有移転がどういうものかよくわからない」と悩み相談を受けました。
確かに多くの受験生が困るポイントです。ただ、そもそもなぜわからないのかと考えると、結局「権利をイメージする力」という法律家に必要不可欠な能力の欠如が一番大きな要因だと思います。
教科書の文字ばかり追っていてもわかりませんが、一度権利が動いていく様を脳内でイメージできるようになると驚くほどスムーズに理解が進みます。また、それまでホントに苦しんでいた暗記にも大きな苦労がなくなっていきます。
世間的にあまり受け入れられないアプローチかもしれませんが、ABprojectでは「感覚」というものを大事にしています。これは、潜在意識を重要視すると言い換えてもいいかもしれません。
「わかろう」とする意識から離れ、シンプルな思考法の下で潜在意識に理解してもらうように工夫する。基礎基本から考えるというABprojectの指導スタイルは、脳科学の知見にも支えられています。
以下は、添削例です。
・占有改定について
そもそも、占有権と所有権との区別はついていますか?占有権とは、物に対する事実上の支配権のことを言います。一方で所有権とは物に対する使用収益権(民法206条)を言います。事実上のものか否かが大きなポイントです。
その上で、占有改定について考えます。例えば、引越しをする際に不要になった冷蔵庫(物)を友人に売ることにした(売買契約)としましょう。もっとも、契約日よりも後に引っ越し日が到来することになっていたので、冷蔵庫そのものの引渡しは契約日よりも後にしてほしいという合意があったとします。この場合、売買契約の効果は、契約の合意とともに生じますから、冷蔵庫(物)の所有権移転の効果は、契約日から生じます。一方で物に対する事実上の支配権である占有権は、依然引渡しが行われていない時点ではまだ元の持ち主のもとにあることになります。現状、所有権は友人の下へ、占有権は元の持ち主(引越しをする本人)の下にあるという状態です。
この複雑な法律関係を解消するために占有改定があります。占有権を移転させるためには、原則として現実の引渡しが必要です(182条1項)が、上記の状況では直ちにそれをすることが不可能です。そこで元の持ち主は、以降友人のために冷蔵庫を占有する旨を表示することでその占有権を友人に譲渡することが出来るようにするのが占有改定のメリットです。事実関係は変わりませんが、法律関係(権利義務関係)に変更があります。
・指図による占有移転
これも占有権と所有権との関係が問題になります。
初期設定が占有改定の場合と違います。指図による占有移転が問題となるケースは、人に物を貸している場合です。例えば、友人に自転車を貸していたとしましょう。この場合、その自転車の所有権は貸主にあり、かつ自転車を貸しているだけなので自転車の事実上の支配権も貸主にあると考えます(この点は、「自転車の引渡し=182条1項(現実の引渡し)」と考えてしまう人が多いのですが、「借りる≠支配」と理解しておいてください)。
この前提で貸主が第三者にその自転車を売った(売買契約)と考えます。上記の通り、所有権は契約時に移転しますが、占有権は現実の引渡しがないと移転しないのが原則です。そこで、指図による占有移転を利用します。自転車の売主(自転車の貸主)が自転車の借主に以降、自転車の買主のために占有すること(占有しているだけで占有権を有しているわけではありません)を命じ、第三者である買主がそれを承諾すると売主から買主への占有権移転が完了します。
所有権移転の流れと占有権移転の流れの区別、単なる事実関係と法律関係の区別ができないと理解できないので非常にややこしいですが、分析的に事象を把握できる能力は法律と関わらない場面でもきっと役立つので粘り強く取り組んでみてください。
ちなみになぜ所有権に加えて占有権も欲しがるのか?と疑問に思うかもしれませんが、それは占有権を取得することのメリットがあるからです(188条以下)。