令和2年民事系第一問の採点実感を読んでみた~その1~ 法学の基礎基本やっぱり大事。
こんなにたくさんの紙幅を費やして「やれて当たり前のこと」を教えてくれる優しさ
今日からは、司法試験民事系第一問の採点実感を読んでみたシリーズです。
(赤字は筆者)
令和2年司法試験の採点実感(民事系科目第1問)
1 出題の趣旨等
(略)
2 採点方針
採点は,従来と同様,受験者の能力を多面的に測ることを目標とした。具体的には,民法上の問題についての基礎的な理解を確認し,その応用を的確に行うことができるかどうかを問うこととし,当事者間の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,それに即して論旨を展開する能力などを試そうとするものである。
その際,単に知識を確認するにとどまらず,掘り下げた考察をしてそれを明確に表現する能力,論理的に一貫した考察を行う能力,及び具体的事実を注意深く分析し,法的な観点から適切に評価する能力を確かめることとした。これらを実現するために,一つの設問に複数の採点項目を設け,採点項目ごとに,必要な考察が行われているかどうか,その考察がどの程度適切なものかに応じて点を与えることとしたことも,従来と異ならない。
さらに,複数の論点に表面的に言及する答案よりも,特に深い考察が求められている問題点について緻密な検討をし,それらの問題点の相互関係に意を払う答案が,優れた法的思考能力を示していると考えられることが多い。そのため,採点項目ごとの評価に加えて,答案を全体として評価し,論述の緻密さの程度や構成の適切さの程度に応じても点を与えることとした。これらにより,ある設問について法的思考能力の高さが示されている答案には,別の設問について必要な検討の一部がなく,そのことにより知識や理解が一部不足することがうかがわれるときでも,そのことから直ちに答案の全体が低い評価を受けることにならないようにした。また,反対に,論理的に矛盾する論述や構成をするなど,法的思考能力に問題があることがうかがわれる答案は,低く評価することとした。また,全体として適切な得点分布が実現されるよう努めた。以上の点も,従来と同様である。
→民法という科目は、全ての法律において基本となる「法的なものの見方や考え方」を学びやすい科目だと思う。すなわち、「民法を制する者は司法試験を制する」のである(そんな格言もあるようなないような・・・)。採点実感でどのような採点方針が示されているかは、全く問題ではない。要は法学の基礎基本を身につけていると認められる者が勝つのである。民法も同様である。具体的な事実について検討できるか、「法的なものの見方や考え方」を身につけているか、法的三段論法をマスターしているかなど、法律を学ぶ者なら当然に意識すべきことを意識して日々の学習を積み重ねていけばよい。
3 採点実感
(略)
⑴ 設問1について
ア 設問1の全体的な採点実感
設問1において論ずべき事項は,大別して,①契約不適合責任の有無,②代金減額請求権の発生の有無とCへの対抗の可否,③追完に代わる損害賠償請求権と売買代金債権との相殺とCへの対抗の可否であり,②においては,民法第468条第1項の「譲渡人に対して生じた事由」の解釈,③においては,民法第469条第2項第1号又は第2号の解釈が含まれる。
→いずれも条文から導くことが肝要である。仮に適用条文を間違えたとするなら、その時点で終了と言ってもいい。それくらいの緊張感を持って、条文を引いてもらいたい。後述されている内容は、専ら要件効果の積み重ねの話であるが、それは正しい条文選択なくして成り立たないからである。
全体としては,二つの救済方法として,代金減額請求権と追完に代わる損害賠償請求権について検討している答案が相対的に多数ではあったものの,①各要件の検討や当てはめに関する論述の粗密や適否に差が見られ,これらが評価の分かれ目になっていたといえる。なお,②問題文においては,Bが乙建物に住み続けることを前提とした上で,Cへの支払額を少なくするためのBの契約責任に基づく主張について解答をするように求めているにもかかわらず,契約の解除,取消しといった契約関係を解消する主張や,不法行為などの契約に基づく主張ではないものを長々と論じる答案が散見されたが,当然ながら評価することはできない。これに対し,③二つの救済方法がどのような関係にあるのかについてまで言及している答案も少数だがあり,このような答案は非常に高く評価された。(下線及び丸数字は筆者)
→①については、法的三段論法が出来ていたか?という話である。決して難しいことは求められていない(なお、法的三段論法の習得が簡単だということではない。)。②については、問われていることに答えていないという話である。問題を解いているにもかかわらず、最初から問いに沿わない解答を展開するのは論外である。③が出来るなら、上位答案であろう。受験生は、民法をよくよく勉強されていた優秀な方である。
個別に見ると,①に関しては,契約不適合責任が問題となることについては多くの答案が触れていたが,契約不適合の認定判断において,性能が契約に適合しないという結論だけを述べているものや,買主であるBの目的のみをもって判断しているものが見られた。
→論述の不十分さが指摘されている。「結論だけ述べているもの」「買主であるBの目的のみをもって判断しているもの」は、当然不十分である。「引き渡された目的物が・・・契約の内容に適合しないものである」(562条1項)かどうかが大事なポイントであるはずだから、丁寧に書いてもよかったのではないか。仮にこれらで十分だと思っていたのであれば、要件該当性を検討する能力が不十分と言わざるを得ない。他の科目でも同じく不十分な論述が散見されるはずである。
②に関しては,まず,代金減額請求を基礎付ける要件や効果について,論述が不足しているものや,知識が不十分であるものが散見された。例えば,①買主に帰責事由がないという要件を充足していることについて触れていないものが比較的多く見られたが,このような基本的な要件の充足・不充足については簡潔でもよいから検討する必要がある。また,本問では,②追完の催告を不要とする特段の事情の存在を問題文から読み取ることができないにもかかわらず,Aによる応答のないことをもって,民法第563条第2項第4号の「履行の追完を受ける見込みがないことが明らか」に該当するとしていたものなども散見された。さらに,③代金減額請求について「相殺」を論じるものも少なからず見られた。このような答案は,代金減額請求権の法的性質は形成権であって,これを行使することにより代金減額の効果が生じるという基本的な点についての理解が不足していると考えられ,低い評価にとどまった。(下線及び丸数字は筆者)
→法律論の基本は、要件効果の積み重ね。①は、563条3項のチェック漏れが主な原因のように思う。適用条文を漏れなくチェックするというのは、基本中の基本であるし、チェック漏れによる失点は、毎年多くの科目で生じるものである。「条文を読めばわかる」レベルの漏れはゼロにしたい。①について、要件事実論的に検討した結果、同3項に触れなかった者はいなかったか。本問は「代金減額請求権の要件充足性」を検討している以上、これらの要件は漏れなく検討すべきである。「必要な要件を全て満たす=法効果の発生」が法律論の基本中の基本である。②については、「法効果からの視点」を持てていたか、気になった。563条2項4号の法効果は、「催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる」ことである。原則として催告が必要(同1項)であるところ、その例外を認めるということである(∵契約当事者間の衡平)。そして、下線部②の「履行の追完を受ける見込みがないことが明らか」は、その法効果に対応する要件である。とすると、単にAによる応答のないことのみをもって要件を満たすと考えることは、法効果とのバランスを欠く?と気付けなかったか。③については、「代金減額の効果が生じるという基本的な点についての理解が不足している」という話なのか疑問である。563条1項2項の文言から請求によって「代金減額の効果」が生じることは読み取れるはずであるし、相殺の要件(505条1項)を検討すれば「同種の目的を有する債務」か?と疑問に感じたはずである。「理解が不足している」というより、「条文から考える」という基本的な法的思考が疎かになっていないか。
次に,①民法第468条第1項の「譲渡人に対して生じた事由」の解釈については,同項の解釈として論じることができていない答案や,上記のように代金減額請求について「相殺」を論じたものはもとより,「相殺」を論じていないものであっても,②同項の問題ではなく,同法第469条の問題として論じている答案が見られ,特に後者については基本的な理解が不足していると考えられ,低い評価にとどまった。(下線及び丸数字は筆者)
→①について。「解釈」するのが苦手な受験生が多いようだ。添削していても論証を準備している論点については、解釈できるが、それ以外の論点は全く「形」になっていない答案が散見される。そもそも、「解釈の方法」を学んでいないことが原因と思われる。学習の仕方に問題がある。②について適用すべき条文を間違えたら、「低い評価」にとどまる。当然である。正しく適用条文を選択するのは、正しい法的思考の第一歩である。
③に関しては,まず,追完に代わる損害賠償請求を基礎付ける要件について,例えば売主に免責事由が存在しないことなど,基本的な要件についての論述が不足しているものが散見された。また,民法第469条第2項第1号又は第2号の解釈問題について示す必要があるが,同項第1号又は第2号のいずれが適用されるかという以前に同条第1項又は第2項のいずれが適用されるかについて分析ができていない答案が相当数あったほか,これを同法第468条の問題として論じる答案も散見され,特に後者については,上記と同様に低い評価にとどまった。
→ここでも「正しく条文を選択すること」、「正しく要件効果を検討すること」だけが求められている。例えば、短答の問題を解くとき、要件の一つ一つまで丁寧に検討しているか。解説に書いてある要件だけ(判例だけ)をチェックして勉強した気になっていないか。高度な法律論は、地道な要件効果の積み重ねの上にしか成り立たない。つまり、受験生がするべきことは、地道な要件効果の積み重ねという「当たり前」を「当たり前」に出来るようにすることである。
イ 答案の例
(略)
(続きが明日)
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