予備試験に合格した私だから伝えられる!法学の基礎基本!

予備試験・司法試験の合格を目指していた私が法学の基礎基本とは何か…ということに悩み苦しんだ結果、たどり着いた答えを書き綴っていきたいと思います!難しい論点を解説しようとはしていません。法律の資格試験に合格するのに必要なことは法学の基礎基本を見極め、理解することだけです!

令和2年刑事系第二問の採点実感を読んでみた~その4~ 間違いの原因

間違える原因はいつもその一歩前にある

法律学習でやりがちな間違いは、間違えた原因を認識しないまま学習を積み重ねてしまうことにあります。

「規範をおぼえていなかった」「あてはめでミスした」原因は、思っている以上に基礎的な部分に問題があることが多いです。

一事が万事です。

一つのミスの原因を正確に認識することは、飛躍へのきっかけになります。

(赤い字は筆者)

 

設問1〕においては任意同行後の被疑者の任意取調べの適法性が問われているのであるから刑事訴訟法198条に基づく任意捜査の一環としての被疑者の取調べがいかなる限度で許されるのかについてその法的判断の枠組みを示す必要がある多くの答案は昭和59判例第一に,「強制手段によることができ第二に強制手段を用いない場合でも,「事案の性質被疑者に対する容疑の程度被疑者の態度等諸般の事情を勘案して社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容されるという二段階の判断枠組みを意識しつつ事例に現れた具体的事情を拾い上げて上記判断枠組みに従い相応に当てはめて結論を導いていた

添削していて思うのはいわゆる書けている答案でも書けているから終わりではもったいないということである。「書けている答案でも異なる事実評価や異なる視点からの論述の可能性等を探ることによって更に論述の幅があることを知ることが出来る将棋で言う感想戦みたいなものだろうか。「合格答案と同じように書けただけで満足してしまうのはもったいないもう一歩踏み込んで深く検討する姿勢が真の実力につながると思う

 

しかしながら本件取調べが実定法上のいかなる規定との関係で問題になるのかをおよそ意識していない答案が散見されたほか昭和59判例の判断枠組みに全く言及することなく問題文の事情を漫然と羅列して結論を出している答案や最決昭和5116刑集30187以下昭和51判例という。)が判示する,「必要性緊急性なども考慮したうえ具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるとの判断基準を何の説明もなく用いる答案が少なからず見受けられた立場によっては昭和51判例の示す判断基準を用いるとの判断もあり得るであろうが昭和59判例任意同行後の被疑者に対する任意取調べの限界に関する事案であるのに対し昭和51判例警察官が任意同行した被疑者に対して呼気検査に応じるよう説得していた際に退室しようとした被疑者の左手首をつかんで引き止めるという有形力の行使が問題となった事案であって判例の判断基準を用いるに当たってはそれぞれの判例において判断の前提となっている事案が異なることや当該判断基準を任意取調べの場面において適用することの理論的根拠をも意識する必要がある

実定法上のいかなる規定との関係で問題になるのかおよそ意識していない答案は論外である条文から考えるのは法学の基本中の基本だからであるまた昭和59判例と昭和51判例との相互関係は条文におけるそれと同様に考えられる例えば逮捕について199条と212条を区別することなく適用しようとするだろうかしないはずであるそれぞれその適用対象を異にするからである判例も同様に考えるべきである。「判例具体的事実関係との関連を踏まえて学ばなければならないなどと言われるがそれは条文と同じように考えなければならないということである。「判例』」であることを意識すべきである

 

また下線部の取調べが強制処分に当たるのかを検討するに当たり,「相手方の明示又は黙示の意思ないし合理的に推認される意思に反して」「重要な権利・利益を実質的に制約する処分かどうかという有力な学説の示す定義を用いて検討しながら甲が取調べに応じる旨明示的に述べており取調べを拒否する申出をしていないので甲の意思に反しないと安易に結論付け甲の黙示の意思ないし合理的に推認される意思に全く言及しない答案や長時間にわたり徹夜で更に偽計をも用いて行われた本件取調べが甲のいかなる権利・利益を制約するのかあるいはしないのかについての検討が不十分な答案が少なからず見受けられた

検討が不十分であった点について自覚的であったか無自覚的であったかが問題である言うまでもなく刑訴法は書かなければいけない分量が多い意図的に不十分な論述にとどめ他の論点に紙幅を割くことも戦略である

 

さらに強制処分該当性の検討に際して下線部の取調べが実質逮捕に当たるかと問題提起し実質逮捕に当たり刑事訴訟法199条や令状主義に違反することのみを指摘して違法と結論付ける答案が相当数見受けられたが任意同行が実質的な逮捕であるとするとそのことと刑事訴訟法197条や取調べに対する規律である同法第198条との関係すなわち実質逮捕と取調べの適否との関連に言及せず本件の取調べのために用いられた具体的な方法に対する問題意識を欠いている答案が多く見られた

→「下線部の取調べの適法性について答えなければならない設問でその点を問われているからである知識がなかったというよりそもそも問いに答えるという意識が低いのではないか

 

本件取調べが社会通念上相当と認められるかを判断する場面については検討に際して長時間の取調べの適法性徹夜の取調べの適法性偽計を用いた取調べの適法性というように事例に現れた事情を分断した上でその事情ごとに個別に検討を加えるだけで総合的な分析・考慮のできていない答案が少なからず見受けられたが本問では通常は人が就寝している時間帯を含む約24時間という長時間にわたる取調べが徹夜で行われその中で疲労して言葉数が少なくなっていた甲に偽計が用いられているのであるからそうした具体的事情があいまって生じた状態について多角的・総合的に分析・考慮する視点が必要であろうまた昭和59判例が判示した取調べの適法性に関する,「事案の性質被疑者に対する容疑の程度被疑者の態度等諸般の事情を勘案して社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容されるとの基準やそこで考慮すべき要素を基礎付ける理論的な説明については学説上いわゆる比較衡量説や行為規範説などの見解が示されているがこの点について意識的かつ正確に論じている答案は少数であり比較衡量説に立っていると思われるのに取調べの必要性と比較衡量される甲の権利・利益等への言及が不十分・不正確な答案両説の発想が不正確に混在している答案などが見られた

何が問われているのか問いに対する判断基準はどうしたのかを意識していない論述が上記のような答案だと思う。「下線部の取調べの適法性を問われているのになぜ論点的に事例を分断するのか比較衡量をすると規範を立てたのであればそれにそって論述を進めなければならない。「問いの把握」「規範の定立」「あてはめ等を何となくやってしまっている答案が目立つ気がするそれは知識の問題ではなく意識の問題が大きいと思う法的三段論法を丁寧に組み立てるところから始める必要があるしそれは試験が終わるまで続けなければならない

 

なお本問では立場によっては下線部の取調べが強制処分に当たり違法であるとする答案もあり得るところでありその場合には任意取調べとして社会通念上相当と認められるかについては具体的事実を検討することなく結論に至ることになるであろうがそのような立場による場合であっても任意同行後の被疑者の任意取調べの限界に関して判断したリーディングケースとして昭和59判例や平成元年判例があるのであるからその法的判断の枠組みを十分意識しつつ論じなければならない

判例判例だから大事なのではなく法的検討に不可欠な存在だから大事なのである

 

設問2〕では自白に対する自白法則及び違法収集証拠排除法則の適用の在り方が問われているのであるから自白法則の根拠及び証拠能力の判断基準と証拠物に対する違法収集証拠排除法則の根拠及び証拠能力の判断基準を併記しただけでは不十分であり両法則の自白への適用関係について自説の立場を論じなければならないがこの点に関する問題の所在や理論状況を的確に理解して論じられている答案は少数であった

→「的確に理解して論じることは難しいかもしれないしかし、「両法則の自白への適用関係について自説の立場を論じなければならないことは設問からわかったはずであるからそれに対する何らかの言及は必要であった。「間違いは禁物だが最低限問いには答えなければならない

 

自白法則については虚偽排除説人権擁護説違法排除説など自説の根拠及び証拠能力の判断基準について相応に論じることができている答案が大半であったものの違法収集証拠排除法則の自白への適用の在り方を示すことができている答案は多くなくそもそも両法則の自白に対する適用関係に関する問題意識を欠いている答案が少なからず見受けられたすなわち,〔設問2-1〕では自白法則と違法収集証拠排除法則の内容を漫然と並列的に述べるにとどまっているためその記述から後者が自白に適用されるのか否か自体が判然とせず,〔設問2-2〕では事例に現れた事情を羅列してそれぞれの法則を脈絡なく当てはめているにとどまる答案が少なくなかったまた自白とそれを録取した供述調書自白調書の関係についての理解を根本的に誤り甲の自白については違法収集証拠排除法則を適用して証拠能力を否定し自白調書についてはその派生証拠として証拠能力を否定するという誤解に基づく答案が散見された

本問は設問から解答すべき内容を把握できたか否かで差がついたように思うその差を生んだのは知識の差ではなく意識の差ではないか。「両法則の自白に対する適用関係に関する問題意識知っていないと書けないという話ではないはずであるなぜなら設問でそこを問われているからである甲の自白を巡る具体的事実関係について自白法則と違法収集証拠排除法則をどう適用するかは条文の使い方に対する理解と重なる問題である

 

設問2-2〕では下線部の取調べにより得られた甲の自白の証拠能力について,〔設問2-1〕で述べた判断基準を具体的事情に当てはめて結論を出すことが求められているが,〔設問1〕設問2〕における説明ないし論述の整合性が考慮されていない答案が少なからず見られたすなわち,〔設問1〕では取調べが適法だと結論付けておきながら,〔設問2-2〕では取調べに重大な違法があるので甲の自白に証拠能力がないとする答案や,〔設問1〕では取調べで偽計を用いることは刑事訴訟法上何ら制限されておらず問題がないと述べたのに,〔設問2-2〕では本問の偽計が虚偽の自白を誘発しあるいは甲の黙秘権等重要な権利を侵害するので甲の自白に証拠能力がないとする答案,〔設問1〕では24時間の徹夜にわたる取調べが甲の移動の自由や黙秘権等の侵害に当たり違法だと述べたのに,〔設問2-2〕では違法収集証拠排除法則を適用した上で偽計を用いた点にしか言及しない答案など,〔設問1〕設問2〕の関係についてどのように考えたのかが判然としない答案がこれに当たるまた,〔設問2-2〕で自白に対しても違法収集証拠排除法則を適用しその証拠能力を判断するに当たり,「令状主義の精神を没却するような重大な違法の有無を基準の一つとする答案が少なからず見られたが取調べが違法とされる根拠を偽計を用いたことに求めるのならば違法の程度は偽計が違法である理由と関連付けて評価される必要があり昭和53判例の表現を漫然と用いるだけでは説明が足りないと言わざるを得ないであろう

論理的に一貫した答案を書くことは意外と難しい普段から意識しておかないと出来るようになるものではないからであるし知識があるだけでは実現できないことだからである残念ながら特効薬はないがそのような事柄だからこそ司法試験で問われたのではないかと思う司法試験はあなたに地道な努力を求めている

 

本事例で用いられたのは本件住居侵入窃盗事件の当日の夜に甲が自宅から外出するのを見た人がいる旨の偽計であり犯行自体の目撃に関するものではないがその違いに的確に留意しつつ長時間にわたり一睡もさせずに徹夜で取調べが行われ言葉数が少なくなって疲労していた甲に対し本問のような偽計を用いればたとえそれが犯行自体の目撃に関するものではなかったとしても判断能力が低下して自白するしかないとの心理状態に陥りかねないことなどに言及し甲の心理に与えた影響を考慮することができている答案が少数ながら見られた

当該偽計が甲が自宅から外出する旨の内容に過ぎなかったことを正確に認識できていた受験生はどれだけいただろうか一事が万事であるほんの少し慎重になれば気付ける部分にちゃんと気付けることが安定して合格答案を書けるようになるための礎である

 

これに対してこのような偽計の内容・程度に全く言及することなく偽計が用いられた点を漫然と指摘して甲の自白の証拠能力を否定する答案や反対に偽計が用いられる前に長時間にわたり徹夜で取調べが行われているという本事例の事情を度外視し犯行自体の目撃に関する偽計ではないとの理由のみで甲の自白の証拠能力を肯定する答案など事例に現れた具体的事情を多角的・総合的に考慮することができていない答案が少なくなかった偽計を用いて得られた自白の証拠能力に関して判断した最大判昭和451125刑集24121670頁は,「偽計によって被疑者が心理的強制を受けその結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合にはその自白はその任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきだと判示しておりその判断においても偽計が用いられれば直ちに自白の任意性に疑いがあるとされているわけではない検討に当たっては当該事案においていかなる偽計が用いられそれが捜査官の他の発言や被疑者の置かれた状況等ともあいまって被疑者の心理に果たしてまたいかなる影響を与えたか具体的に考慮することが必要であろう

→「事例に現れた具体的事情を多角的・総合的に考慮することができていない答案になってしまうのはどうしてであろうかこれはつまり、「あてはめが甘い答案だったということであるあてはめが上手くいかなかったと聞くと多くの受験生が演習不足を気にするがそもそも法知識の不足が原因だったのではないかあてはめは規範に対する理解がないと充実しないだからあてはめを充実させるためにはあてはめの練習とともに規範への理解を深めるインプットにも努めなければならない

 

※間違いを間違いで終わらせないABprojectの個別指導です。

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令和2年刑事系第二問の採点実感を読んでみた~その3~ 教祖を探していないか?

教祖は困ったとき助けてくれませんよ。

どの分野においても「教祖」的な存在がいるように思います。

司法試験・予備試験界にも少なからずいるでしょう。

「答え」を与えてくれる人は、ありがたい存在なのでしょうか。

「自分を伸ばしてくれる人」が必要ではないですか?

(赤い字は筆者)

※その1、その2もご覧ください。

 

まず,〔設問1〕については任意同行後の被疑者に対する任意取調べの適法性について判断した最決昭和5929刑集38479以下昭和59判例という。),最決平成元年刑集43581以下平成元年判例という。)など法科大学院の授業でも取り扱われる基本的な判例を正確に理解しその判断枠組みを意識しつつ事例中から抽出した具体的事実を分析・検討して論じれば説得的な論述が可能だと思われる

→「条文で不明な部分を判例で補うという判例法の基本的な機能を意識しながら上記判例を学んでほしいくれぐれも判例だから覚えよう!!」というような条文とのつながりを意識しない学習はしないようにそれでは使える知識として整理できないからである

 

設問2〕自白に対する違法収集証拠排除法則の適用の在り方についてはこの問題に対する判断を示した下級審の裁判例はあるものの最高裁判所判例はなく受験生にとって必ずしも十分な勉強が及んでいない論点だったかもしれないしかし自白法則及び違法収集証拠排除法則はいずれも証拠法における基本原則であり両法則に関する正しい知識や理解があれば自白と証拠物との異同や両法則の根拠・証拠能力の判断基準等に遡って考えることにより十分解答が可能であろうまた,〔設問2-2〕において甲の自白に違法収集証拠排除法則を適用する際には,〔設問1〕における下線部の取調べの適法性に関する論述内容との整合性に留意しながら論じる必要がある

→「『基本原則くらいは知っておくべきだと言われても仕方がない司法試験を受ける段階になってこれを知らなかったのであればもう合格は諦めた方がいいそして、「自白と証拠物との異同や両法則の根拠・証拠能力の判断基準等に遡って考えることにより十分解答が可能であろうとのことである既知の知識をどう使うか考えるためにはどうすればいいかは意識して学習しないと身につかないまた多くの人にとっては知らないと出来ないことでもあろう試験委員的には普通に勉強していればできるでしょ?」という感覚かもしれないが現実はそうでもないようである

 

設問3〕については類似事実による犯人性の証明に関して判断した最判平成24刑集66907以下平成24判例という。),最決平成2520刑集67以下平成25判例という。)といった基本的な判例があるただし本問はこれらの判例の事案とは異なり未だ起訴されていない余罪を類似事実として犯人性の証明に用いようとした事案でありその意味で判例に関する理解の具体的事案への応用力を試す側面を有するものである判例が示している判断基準だけでなくその理論的根拠を正確に理解していれば,X方における事件という類似事実が本件住居侵入窃盗事件についての犯人性の証明に用いられる場合の推認過程を意識して分析・検討し説得的に論述することが可能であろう

→「ある条文をこの事例に適用できるか?」という問題は多くの受験生が得意とすることのようである一方、「ある判例をこの事例に適用できるか?」という問題は多くの受験生が不得意とすることのようであるその原因としては判例自体知らないということだけでなく、「判例とは何なのかを知らないということもあると思う。「判例とは何なのかを知らないがために記憶が整理されず理解が進まないのではないかと思うあくまで私自身の経験上の話である

 

採点実感

各考査委員の意見を踏まえた感想を記す

おおむね出題の意図に沿った論述をしていると評価できる答案としては次のようなものがあ

った

まず,〔設問1〕では被疑者に対する任意取調べの限界に関して昭和59判例の示した,「強制手段によることができ任意捜査としても,「事案の性質被疑者に対する容疑の程度被疑者の態度等諸般の事情を勘案して社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容されるという二段階の判断枠組みについての正確な理解を示し自説の立場から強制処分の意義や任意取調べの適法性に関する判断基準を正確に提示した上で下線部の取調べによって制約される権利・利益の内容を意識しながら事例から必要な具体的事実を抽出し強制処分の意義に照らして本件取調べが強制処分に当たるのかを検討しこれに当たらないとした場合に本件取調べが社会通念上相当と認められる方法態様及び限度で行われたと評価できるのかについて判例の示す,「事案の性質被疑者に対する容疑の程度被疑者の態度等の判断要素に照らして事例に現れた具体的事情を的確に拾い上げながら論じ説得的に結論を導き出している答案が見受けられた

昭和59判例の知識等を基に法的三段論法の形で適切に論述を展開できたか比較的簡単な問題だと思われるがそれは、「手を抜いてもいい問題ということではないむしろここで得点しないと合格答案を作成することは厳しいものとなるしここで十分に得点できない者が残りの設問で挽回できる実力を有するとは考え難い

 

設問2-1〕では自白法則について自説の根拠及び証拠能力の判断基準を述べるとともに違法収集証拠排除法則については証拠物に関する最判昭和53刑集321672以下昭和53判例という。)に関する正確な理解を踏まえて自白に対する同法則の適用の有無及びその根拠を示し適用されるとした場合には証拠能力の判断基準及びその根拠を含めて自説の立場を論じ両法則の適用関係を明らかにした上で,〔設問2-2〕では,〔設問2-1〕で論じた自説の立場から,〔設問1〕における下線部の取調べの適法性についての論述内容との整合性に配慮しつつ事例に現れた具体的事情を的確に拾い上げ各自の理解に即して適用されるべき法則を適切に当てはめて結論を述べている答案が見受けられた

ポイントは上記の通り

 

設問3〕では平成24判例及び平成25判例に関する正確な理解を示しつつ類似事実による犯人性の証明が許容されないとされる場合の根拠や許容されるとすればその根拠及び判断基準を述べた上で事例に現れた具体的事情を的確に拾い上げて当てはめ,Wの証人尋問請求の可否の結論を説得的に導いている答案が見受けられたそのような答案の中には上記判例の示す判断基準を満たすことによって余人による犯行の可能性が著しく下がるために実証的根拠の乏しい人格評価を介することなく経験則により犯人の同一性を推認できることから類似事実による犯人性の証明が許されると指摘した上でその基準を事例に対し適切に当てはめているものが一定数あった

本問がWの証人尋問請求の可否の問題だということを意識して結論まで導いた受験生はどの程度いたのだろうか主に論ずべき点は類似事実による犯人性の証明の可否とその判断基準であるがそれでも設問で何を問われているのかという点は常に意識していなければならない試験本番で合格答案を作り上げるためだけではない論理的思考力の養成に不可欠だからである何となく問題を把握し何となく論点に言及し何となく答えを出していないか問いを正確に把握しそれに答えるために必要十分な論述をしようと努めてほしい

 

他方そもそも法原則・法概念の意義や関連する判例の判断基準等についての記述が不十分・不正確で当該項目についての理解が不足していると見ざるを得ない答案や法原則・法概念の意義や関連する判例の判断基準等として記述された内容自体には問題がないもののこれらを機械的に暗記して記述するのみでなぜ法原則・法概念がそのような意義を持つものとされまた判例においてそのような判断基準が採用されているのかを当該法原則・法概念の趣旨や当該判例の理論的根拠に遡って論述することができていない答案具体的事実に対してそれらの法原則・法概念や判断基準等を的確に適用することができていない答案具体的事実に対する洞察が表面的でその抽出が不十分であったりその事実の持つ意味の分析が不十分・不適切であったりする答案が見受けられた

この部分は受験生の知識不足・理解不足を指摘するものであるしかし推測するにこれは刑訴法分野だけの問題ではない十分な学習時間がなく刑訴法分野の学習が未了の者を除けばこのような状態に陥ってしまう受験生には法学習全体に関わる問題があると思われる見るべきものや考えるべきものをきちんと認識しないまま何となく学習しているのではないだろうか同じ教科書を使っていても身につくものは違うものとなりがちである意識や認識の違いがあるからであるせっかく努力するなら身につく努力をしてもらいたいそれはほんの少しのきっかけと心がけから始まるものである

 

※ABprojectは、宗教ではありません。

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令和2年刑事系第二問の採点実感を読んでみた~その2~ 知らないと気付けないこともある

「あーなるほど!」と思っても、実力が伸びていないことありませんか?

同じ文章を読んでも「伸び率」は人それぞれです。

その違いは、根本的な視点や考え方にあると思います。

早めに気付いたものがちですね。

(赤字は筆者) 

※その1もご覧下さい。

 

まず,〔設問1〕については任意同行後の被疑者に対する任意取調べの適法性について判断した最決昭和5929刑集38479以下昭和59判例という。),最決平成元年刑集43581以下平成元年判例という。)など法科大学院の授業でも取り扱われる基本的な判例を正確に理解しその判断枠組みを意識しつつ事例中から抽出した具体的事実を分析・検討して論じれば説得的な論述が可能だと思われる

→「条文で不明な部分を判例で補うという判例法の基本的な機能を意識しながら上記判例を学んでほしいくれぐれも判例だから覚えよう!!」というような条文とのつながりを意識しない学習はしないようにそれでは使える知識として整理できないからである

 

設問2〕自白に対する違法収集証拠排除法則の適用の在り方についてはこの問題に対する判断を示した下級審の裁判例はあるものの最高裁判所判例はなく受験生にとって必ずしも十分な勉強が及んでいない論点だったかもしれないしかし自白法則及び違法収集証拠排除法則はいずれも証拠法における基本原則であり両法則に関する正しい知識や理解があれば自白と証拠物との異同や両法則の根拠・証拠能力の判断基準等に遡って考えることにより十分解答が可能であろうまた,〔設問2-2〕において甲の自白に違法収集証拠排除法則を適用する際には,〔設問1〕における下線部の取調べの適法性に関する論述内容との整合性に留意しながら論じる必要がある

→「『基本原則くらいは知っておくべきだと言われても仕方がない司法試験を受ける段階になってこれを知らなかったのであればもう合格は諦めた方がいいそして、「自白と証拠物との異同や両法則の根拠・証拠能力の判断基準等に遡って考えることにより十分解答が可能であろうとのことである既知の知識をどう使うか考えるためにはどうすればいいかは意識して学習しないと身につかないまた多くの人にとっては知らないと出来ないことでもあろう試験委員的には普通に勉強していればできるでしょ?」という感覚かもしれないが現実はそうでもないようである

 

設問3〕については類似事実による犯人性の証明に関して判断した最判平成24刑集66907以下平成24判例という。),最決平成2520刑集67以下平成25判例という。)といった基本的な判例があるただし本問はこれらの判例の事案とは異なり未だ起訴されていない余罪を類似事実として犯人性の証明に用いようとした事案でありその意味で判例に関する理解の具体的事案への応用力を試す側面を有するものである判例が示している判断基準だけでなくその理論的根拠を正確に理解していれば,X方における事件という類似事実が本件住居侵入窃盗事件についての犯人性の証明に用いられる場合の推認過程を意識して分析・検討し説得的に論述することが可能であろう

→「ある条文をこの事例に適用できるか?」という問題は多くの受験生が得意とすることのようである一方、「ある判例をこの事例に適用できるか?」という問題は多くの受験生が不得意とすることのようであるその原因としては判例自体知らないということだけでなく、「判例とは何なのかを知らないということもあると思う。「判例とは何なのかを知らないがために記憶が整理されず理解が進まないのではないかと思うあくまで私自身の経験上の話である

 

(続きはあした)

 

※「気付き」を大事にする添削指導。ABprojectです。

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令和2年刑事系第ニ問の採点実感を読んでみた~その1~ 意外とムズイ刑訴法

求められているのは「当たり前のこと」だけですが・・・

本日から令和2年刑事系第二問の採点実感に入ります。

残り数回ですが、よろしくお願いします。

(赤字は筆者)

 

令和年司法試験の採点実感刑事系科目第

採点方針等

本年の問題も昨年までと同様比較的長文の事例を設定しその捜査及び公判の過程に現れた刑事手続上の問題点について問題の所在を的確に把握しその法的解決に重要な具体的事実を抽出して分析した上これに的確な法解釈を経て導かれた法準則を適用して一定の結論を導き出すとともにその過程を筋道立てて説得的に論述することが求められているこれを通じて法律実務家になるために必要な刑事訴訟法に関する基本的学識事案分析能力法解釈・適用能力論理的思考力論述能力等を試すものである出題の趣旨は既に公表したとおりである下線及び丸数字は筆者

→①は刑訴法の基本的知識条文や各制度の概要等に基づいて具体的事実関係を法的に整理し検討すべき事項を明確にすること、②は法の解釈適用あてはめ結論を導くこと、③①②の過程を文章で正確にわかりやすく説明することを求めていると解される他の科目と同様に基本的な法的思考をすることを求めるものにすぎず何ら特別なものではない日頃の学習から言われなくてもやっているという状態でなければならない

 

設問1〕,H市内で夜間に発生した方における住居侵入窃盗事件本件住居侵入窃盗事件に関し司法警察員及びその日前の夜間に同市内で発生した手口が類似する方における住居侵入未遂事件(X方における事件で目撃された甲を警察署まで任意同行した上24時間という長時間にわたり一睡もさせずに徹夜で取調べを行いそれまでの取調べにより疲労して言葉数が少なくなっていた甲に更に偽計をも用いて取調べを実施していることから下線部の取調べ),それが被疑者に対する任意取調べとして許容される限界を越え違法と評価されないかを問うものである

この部分は何気なく読んでしまっている人が多いかもしれないが上記採点方針ののお手本を示してくれている事実関係を丁寧に示し検討すべき事項を端的に指摘できているここに適切に条文を絡めれば完璧である

 

検討に当たっては刑事訴訟法198条に基づく任意捜査の一環としての被疑者の取調べの適法性に関する法的判断枠組みを的確に示した上で事例に現れた具体的事実がその判断枠組みの適用上どのような意味を持つのかを意識しながら下線部の取調べの適法性を論じることが求められる

→「本問が198条に関する問題だと気付く下線部の取調べの適法性を判断する基準が198条から明らかでないことに気付く判例を参考にしながら適法性判断基準を示す事例に表れた具体的事実がその判断基準の適用上どのような意味を持つのか評価しながらあてはめるという検討過程を辿っていけばいいわけである。「事実の評価が大事なのはそれがないと生の事実が要件に該当しているのか否か基本的にわからないからである事実の評価の軽視は法的思考の軽視であるし読み手に自分の考えを伝えようとする努力の軽視である

 

設問2〕甲の自白が前記のとおり長時間にわたり徹夜で行われた取調べにおいて偽計をも用いて獲得されているところまず,〔設問2-1〕において自白法則及び違法収集証拠排除法則の自白への適用の在り方を一般的に問うた上次いで,〔設問2-2〕において,〔設問2-1〕で論じた自己の見解に基づいて甲の前記自白の証拠能力が認められるかを問うものである

本設問は非常に親切である設問2-1と設問2-2甲の自白の証拠能力を検討する際それぞれ自ら気付いて検討すべき事項とも言えるがそれをわざわざ検討するよう教えてくれているからであるなおこれは法原理相互の関係性条文相互の関連性の問題と同様の問題であるから単なる一論点の知識を問うものではなく常に持つべき法的視点を意識できているかを問うものである

 

具体的には自白法則及び違法収集証拠排除法則という証拠法における基本原則が自白という供述証拠にどのように適用されるのか後者については適用の有無自体も含む。)について自説の立場から両法則の適用関係を示した上で各自の理解に即して甲の自白の証拠能力の有無を判断するのに必要な証拠法則を事例に現れた具体的事実に当てはめて結論を導くことが求められる

この部分について事前に知識を持っていた受験生は少ないと思われるがこの問題に対してそれなりの理由を付して答えられなかったとすると刑訴法の基本的理解が不十分と言われても仕方がないあとで教わって言われたらわかると思った受験生も同様である自白法則や違法収集証拠排除法則は誰もが知ってはいるはずであるしこれらの関係性の整理は基本的な法的思考ができる者なら現場思考で対応できたはずである

 

設問3〕検察官が本件住居侵入窃盗事件と手口の類似する未だ起訴されていない方における事件を目撃したの証人尋問により本件住居侵入窃盗事件についての甲の犯人性を証明しようとしている場合においていわゆる類似事実による犯人性の証明が許されるのかを問うものであるこうした証明が許されないとすればその理論的根拠はどこにあるのか許される場合があるとすればその判断基準及び根拠は何かを論じそれを踏まえて事例に現れた具体的事実を適切に摘示し評価しながら裁判所が検察官によるの証人尋問請求を認めるべきか否かの結論を導くことが求められる

本問は先の2つの設問に比し難易度が高いと思われる条文に手掛かりがないこと及び既知の法知識があってもそれを工夫して使わなければならないからであるこれも論点として押さえておくべきというよりは法的思考のポイントやその手法を学ぶ契機とすべき問題だと思う

 

採点に当たってはこのような出題の趣旨に沿った論述が的確になされているかに留意した前記各設問はいずれも捜査及び公判に関して刑事訴訟法が定める制度・手続及び関連する判例の基本的な理解に関わるものであり法科大学院において刑事手続に関する科目を履修した者であれば本事例において何を論じるべきかはおのずと把握できるはずである

出題者的には何を論じるべきかを外すような答案は法科大学院において刑事手続に関する科目を履修した者とすらみなさないようである特に恐れることはないその通りだからである

 

(続きは明日)

 

※難しい科目ほど基礎基本が大事。ABprojectです。

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令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その4~ 例年指摘している・・・

例年指摘していることが出来ない人は合格する気がないのか、と思う。

こんな風に思うのは、初歩的なミス過ぎるからである。

こんなミスをする人が実務家になることを考えただけで恐ろしい。

(赤字は筆者)

※その1、その2、その3もご覧ください。

 

 

その他

例年指摘している点でもあるが用語の間違い全体財産と個別財産等がある答案や文字が乱雑で判読しづらい答案基本的用語の漢字に誤記がある答案が散見されたまた文章の補足・訂正に当たって極めて細かい文字で挿入がなされる答案も相当数あった時間的に余裕がないことは承知しているところであるが採点者に読まれるものであることを意識して大きめで読みやすい丁寧な文字で書くことが望まれる

用語の間違いは基本的理解の不足誤記は注意力不足文字が乱雑なのは自分自身もそうだったので強くは言えないが)、大き目な文字・文字間の間隔を空けることに注意してもらいたい

 

答案の水準

 

法科大学院教育に求めるもの

刑法の学習においては刑法の基本概念の理解を前提に論点の所在を把握するとともに各論点の位置付けや相互の関連性を十分に整理し犯罪論の体系的処理の手法を身に付けることが重要である

→「論点の所在の把握各論点の位置付けや相互の関連性を十分に整理出来るのは犯罪論の体系的処理の手法を身につけているからである闇雲な論点の暗記ではなく初期段階で学ぶ刑法的思考の体系を意識して一つ一つ要件あてはめを積み重ねていく意識が大切である

 

一般的に重要と考えられる論点を学習するに当たっては一つの見解のみならず他の主要な見解についてもその根拠や難点等に踏み込んで理解することが要請される論点をそのように多面的に考察することなどを通じて当該論点の理解を一層深めることが望まれるまた刑法各論の分野においても各罪を独立して学習するだけではなく例えば財産犯であれば財産犯全体に共通する総論的横断的事項を意識しまた犯罪類型ごとの区別の基準を重視した学習が望まれる丸数字は筆者

→①近年重視されている傾向である各学説が何を言っているかも重要であるがそれ以上にどのような視点で何を重視しているかを整理することが大切であると思うそれを学ぶことで法的に考える力が磨かれるからである添削指導をしていると受験生間に大きな知識量の差はないように思うしかし目の付け所や思考展開の上手さには明確な差が感じられるそれも一種の知識によるものかもしれないが、「暗記の努力ではなく、「学び方の工夫を重視しないとなかなか身につかないように思う。②条文相互の関連性に目を向けろと言うことであろう刑法に限らずどの法律においても重要な視点である

 

さらにこれまでにも繰り返し指摘しているところであるが判例を学習する際には結論のみならず当該判例の前提となっている具体的事実を意識し結論に至るまでの理論構成を理解した上でその判例が述べる規範の体系上の位置付けやそれが妥当する範囲や理論構成上の課題について検討し理解することが必要である

このような点が大事なのは判例だからである法はその道具としての性質から具体的な事実関係との間でのみその機能を発揮するゆえに具体的事実関係との関連を踏まえどのように使うのかを意識しないと法が道具として如何に機能するのかその本質を理解することが出来ないのである面倒くさいかもしれないが理解が進んでこれば、「全てを読まなくても大体予測がつくという状態になる理解が深まっていくとはこういう状態であるちなみにこれは上記の感覚にまつわる話である

 

例年取り上げるべき論点の把握が不十分なまま論証パターンを無自覚に記述するため取り上げなくてよい点についてまで長と論じる答案が目に付く事案の全体像を俯瞰して事案に応じて必要な点について過不足なく論じるための法的思考能力を身に付けることが肝要であるこのような観点から法科大学院教育においてはまずは刑法の基本的知識及び体系的理解の修得に力点を置いた上刑法上の諸論点に関する問題意識なぜ問題となるのかを喚起しつつその理解を深めさせさらに判例の学習等を通じ具体的事案の検討を行うなどして正解思考に陥らずに幅広く妥当な結論やそれを支える理論構成を導き出す能力を涵養するようより一層努めていただきたい

→ABprojectではかねてより法学の基礎基本が大事であると繰り返し提唱しているこれは司法試験合格レベルでも変わらないようである優秀層の言うことに必死にくらいつくのも大切であるが一旦立ち止まって足元を見、「法学の基礎基本を固める選択をしてもいいのではないか基礎基本を固めるための方法は何も難しいものではない要件効果を意識して法的三段論法を繰り返せばいいのであるその過程で法学の基礎基本勝手に身につく急がば回れである

 

※当たり前のことを当たり前にできるようにするABprojectの徹底指導。

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令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その3~ 見えないものを見えるようにするにする

「なぜできないのか?」を基礎基本から説明する。

 

基礎基本に立ち返らないと見えないことがあるのに、先を急ごうとするのはナンセンスです。

(赤字は筆者)

 

イ 設問について

本設問では出題の趣旨で記載したないしの事実を挙げつつこれを根拠に実行行為性又は実行の着手因果関係及び故意を否定するための理論構成を記述することが求められていたが多くの答案は必要な記述を展開することができていた

他方理論構成に関する基本的理解が不足しているとの印象を受ける答案も目立った例えば因果関係を否定する場合には被害者の特殊事情を判断資料に含めるべきかという視点が不可欠であるところこのような視点を欠いたまま諸般の事情の総合的判断によって因果関係を否定するなど論理過程に疑義のある答案が散見されたまた甲が第行為を止めたことに着目して甲に中止犯が成立し殺人未遂罪になるため殺人既遂罪は成立しないと結論付ける答案も相当数あったしかし中止犯は未遂犯の成立を前提とする以上中止犯が成立することが殺人既遂罪の成立を否定する理由とならないことは明らかであるこれらの答案はいずれも総じて論証パターンを無自覚に記述しているにすぎないとの印象を受けた

この辺りの知識は短答過去問でも触れられているはずである短答過去問の学習は同時に論文対策にもなる予備試験・司法試験の過去問は論文・短答問わず十分に繰り返しておいて損することは絶対にない刑法の基本的理解をサポートしてくれる再考の素材ばかりである刑法に限ったことでないが)。

 

ウ 設問について

本設問では前述のとおり,⑴ないしの各行為の擬律判断が求められていたところこれら各行為をまんべんなく検討している答案は少数であった。⑴の行為についてはそもそも項詐欺罪の成否が問題となることを把握できていない答案も多かったがこれを把握できている答案についても甲が自己名義の預金口座から犯罪によって得た金員の払戻しを請求しているという事情を適切に評価している答案はごく一部にとどまった

→「少数であったという記述から推測するに多くの受験生にとってこの部分は難しかったのであろうこの点に言及しなかった答案は、「甲が自己名義の預金口座から払戻を受けていることを評価した結果であろうかしかし、「犯罪によって得た金員の払戻しという特殊事情(=典型的なケースでは存在しないであろう事情に注目して要件検討をする姿勢は見せられたのではないか。「要件効果という基本に立ち返って粘りを見せられた受験生は知識の有無に左右されない正しい法的思考を身につけているものと思われる

 

の行為については横領罪の成否が問われていることを把握できてはいてもその客体が500万円に限定されることや検討対象となる行為と客体の特定を意識的に結び付けて論じることができている答案は必ずしも多くなかった

この点については上記の通り

の行為については早すぎた構成要件実現の処理が問われているところ甲の計画に反し行為によっての死亡結果及び財産上の利益の移転が現実化しているため,2項強盗殺人罪の成立を認めるためには同罪の実行行為及び故意が認められるかを具体的に論ずることが必要になるがそもそも問題の所在を適切に指摘できている答案は少数にとどまった例えば多くの答案が出題の趣旨で記載した最決平成1622刑集58187頁が示した判断要素を前提として行為の段階で実行の着手が認められることから故意既遂犯の成立を導いていたが実行の着手が認められることがなぜ故意既遂犯の成立を認める論拠となるのかについて十分な説明を欠いている答案が多数であった

判例をそのまま覚えているだけだから説明できないのである故意既遂犯が成立するためには何が必要なのかを意識していれば判例の内容を改めて整理してインプットしそれを答案上でも表現する必要があることに思い至るはずである

 

強盗の実行行為性すなわち第行為自体あるいは第行為と一体的に評価された第行為が強盗罪にいう暴行に該当するか否かについて論じることができている答案は少数であった

ここは多くの答案において条文の文言に着目すること実行行為性という構成要件に着目することという基本が出来ていないと指摘されたものであるこれらはいつも当たり前に意識すべきことであるなぜなら犯罪成立を導く法的根拠であり要件であるからである

 

他方強盗罪の実行行為性を認める立場からは同罪の手段と評価し得る行為によりが死亡した本事例では強盗の機会性の有無について論じる必要はないはずであるのにこれを長と論じる答案が散見された関連する論点をとりあえず書いておこうとするのではなく具体的な事案の解決において必要となる論点に絞り込んで検討することが肝要である

→「何を書いていいかわからない時にとりあえず何かを書いておくパターンで上手くいくことはほとんどない大抵墓穴を掘るだけである。「沈黙は金なりである司法試験で大事なことは、「間違えないことだからである

 

少数ながら甲が500万円の返還を免れたことが昏酔強盗罪の客体に当たるとして同罪の成立を認め,「2項昏酔強盗殺人という犯罪が成立するとした答案もあったしかし条文上昏酔強盗罪の客体が財物に限られていることは明らかであり基本的知識の不足と条文を確認する姿勢の欠如が感じられた

昏睡強盗罪についてしっかり学んだことがなかったのかもしれないそれは試験本番においてはもう仕方ないしかし試験本番において条文を確認する姿勢の欠如があったとすればこれは大きな問題である条文を確認することは普段の学習から無意識的に出来ていなければならないことだからである試験本番を迎えても条文の一字一句を全て暗記している受験生は恐らくいないだからこそ全受験生は試験本番でも条文をきちんと確認すべきである法律家にとって大事なことは間違えないことだからである

 

の行為については腕時計の奪取時点で,Aが生存していたことは問題文上明らかであるのに死亡していたとして死者の占有が腕時計に及ぶか否かを論述する答案も散見された例年指摘しているところであるが問題文をよく読んで何が問われているかを正確に把握して検討に取り掛かることが求められる

問題文を読んだものの起案段階になって読んだ内容を正確に記憶していないということは起こり得るその原因はの一つは演習不足もう一つは刑法の基本的知識が定着しておらず試験本番で頭の中が混乱してしまっていることであるいずれにしてもこれらは試験本番までの事前準備において解決しておくべき問題であるちなみに脳の機能不足を感じる受験生には、「脳トレをおススメする現にそれをやって司法試験の成績が伸びた者もいるようである

 

なお本設問で殺人既遂罪の成否を論じず自説の内容が不明の答案が散見されたこのような答案は設問での記述を所与の前提としている印象を受けたがこれを前提にするのであれば設問に関する記述が自説であることを示しつつ論じる必要があった

答案の書き方に迷う受験生は多いようである確かに経験不足ゆえに書き方がわからないこともあると思うしかしながら近時の出題傾向の変化に対応できないのは経験不足でなく法学の基礎不足だと思う法的主張の構造をきちんと理解した上問いに答える形で引き直せばいいだけだからである憲法でも同様の傾向が見られるが、「猿真似のような学習姿勢では法の本質に近づくことは難しいだろう

 

(続きは後日)

 

見える化するならABproject。

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令和2年刑事系第一問の採点実感を読んでみた~その2~ 

あなたが知らない視点や考え方がここにある。

 

新たな「気付き」があったら嬉しく思います。

(赤字は、筆者)

 

採点実感等

各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると以下のとおりである

全体について

本問は前述のとおり論じるべき点が多岐にわたるため厚く論じるべきものと簡潔に論じるべきものとを選別し手際よく論じる必要があったが論じる必要のない論点を論じる答案や必ずしも重要とは思われない論点を長と論じる答案が相当数見られた

論じるべきポイントがズレてしまうのは各論点の理解度の問題もあるがそれ以上に感覚のズレが大きいと思う暗黙知や常識と言ってもいいと思ういわゆる論点主義的な答案は圧倒的にこの部分への意識が希薄なように思う形式をなぞるだけでなく場面場面でその結論をどう思うか」「その理由付けに対してどう感じるかという点を意識して学習を進めるといいと思う法が目指す正義言ってしまえば価値観であるあまりそのような観念的な話をされることはないかもしれないが法の世界にあるそういったものを学んでいくことも法律を理解するためには大事なことだと思う

 

規範定立部分については論証パターンの書き写しに終始しているのではないかと思われるものが多く中には本問を論じる上で必要のない点についてまで論証パターンの一環として記述を行うものもあったほか論述として表面的にはそれらしい言葉を用いているものの論点の正確な理解ができていないのではないかと不安を覚える答案が目に付いたまた規範定立と当てはめを明確に区別することなく問題文に現れた事実を抜き出しただけでその事実が持つ法的意味を特段論じずに結論を記載する答案も少なからず見られたこれは論点の正確な理解とも関係するところであり一定の事実がいかなる法的意味を有するかを意識しつつ結論に至るまでの法的思考過程を論理的に的確に示すことが求められる。(丸数字と下線は筆者

他の科目でも言及したが論証パターンは必ずしも悪ではない問題は使い方と使い手の能力のである。①検討すべき対象を正確に認識できているとは言えないから法的思考力が乏しい。②規範等の理解が乏しい論証を正確に書き写してもあてはめで理解の浅さはすぐばれる。③時間がなかったからかもしれないが法的三段論法としてふさわしいものとは言えない部分的に簡略化することはやむを得ないかもしれないが答案の全体を通して法的三段論法くらい当然できますというアピールは必要であるそうすれば問題ない

 

各設問について

ア 設問について

本設問では,Bの交付行為によってに対する債務が消滅することを構成要件上どのように評価するべきかという問題意識の下出題の趣旨に記載した見解の対立構造を示しつつ恐喝罪の構成要件該当性について正確な法的理解を示すことが求められるが違法性阻却の問題とした上で専ら事実関係の評価を変えることで損害額を論じる答案が目立ち上記の点を的確に検討できている答案は比較的少数であった

論点を知らなかったことが直ちに不良との評価を招くわけではない問題は犯罪の成否を検討するにあたり構成要件該当性の検討も求められることをどの程度意識できていたかである問題文を読んだ瞬間違法性阻却の問題だ!」と決めつけてしまっていなかったか犯罪成立を認定するためには全ての要件該当性を漏れなく検討する必要があるその基本を忘れてはいけない

 

甲に成立する財産犯について,1項恐喝罪を認める答案が多かったが客体が財物に該当するか否かを意識して論じるものは少数であったほか恐喝罪の構成要件要素を正確に摘示しないなど同罪の構成要件要素全般に関する理解が十分示されていない答案が散見された

ここも犯罪成立要件を漏れなく検討せよと言われているだけである法学の基本である

 

また甲に詐欺既遂罪の成立を認める答案も散見されたが,Bは債権額については誤信しておらずまた甲を暴力団組員と誤信した点は畏怖の念を生じさせる一材料にとどまっているため詐欺未遂罪はともかく詐欺既遂罪の成立は認め難いところこれを認める答案については構成要件要素の検討が不十分であるとの印象を受けた

詐欺既遂罪を検討したこと自体は悪くない確かに甲は債権額を偽っているからであるしかし既遂を認めるためには全ての構成要件の充足を認定する必要があるところその検討過程で要件不充足に気付けなかったことが問題である要件を一つ一つ精緻に解釈しているのは間違った法的結論に至らないためである(=正義の実現)。とするならば要件充足性を検討した結果通常認め難い結論に至ってしまうのは法の趣旨を没却する重大なヒューマンエラーが原因である法律家の卵たる司法試験合格者にふさわしいか否かは言うまでもない

 

なお少数ながら甲に強盗罪の成立を認める答案もあったが行為態様からすれば反抗抑圧に足りる程度の脅迫は認め難く同罪の成立は一層困難といえ具体的な事実の構成要件への当てはめができていないとの印象を受けた

当てはめについては相場観がある上記でも言及したが、「感覚のようなものである行為態様に照らして強盗罪で定める重い刑を科することが妥当と言えるか比例原則的思考)?、判例に照らして妥当か法の公平性等)?などな角度から結論の妥当性を間違わずに判断できるように分析できる必要がある

 

(続きは明日)

 

※他にはない気付きがここに。

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